CULTURE | 2018/12/14

「意識高い系」とバカにする時代は終わった。ヨーロッパで「ビーガンファッション」が台頭する理由【連載】オランダ発スロージャーナリズム(8)

大混雑のパリのユニクロ
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ユニクロ、ZARA、H&Mなど、グローバルに展開するファストファ...

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大混雑のパリのユニクロ

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ユニクロ、ZARA、H&Mなど、グローバルに展開するファストファッション。シーズンごとにお洒落で機能的なアイテムが安価に買えるということで、こうしたブランドが久しく世界中を席巻しています。筆者を始め、こうしたブランドを愛用している人も多いのではないでしょうか。

そういえばアムステルダムにも、つい数カ月前、オランダ初のユニクロ店舗がオープンしたばかり。アムステルダムやパリでも、機能的で高品質なユニクロ製品は大人気です。

こうした現状を裏付けるように、今年2018年6月の経済産業省製造産業局生活製品課のレポート「繊維産業の課題と経済産業省の取組」によると、世界の繊維市場は拡大を続けており、1990年と比べると、2016年には2.3倍にもなっており、一人当たりの需用量も1.6倍に増えているそうです。内訳を見ると、天然繊維の伸び率は横ばいにもかかわらず、化学繊維は年平均で5.8%の伸びを示しています。このレポートの中では、世界のアパレル市場は2025年まで、年平均3.6%の伸びが予想されています。

国内のアパレル市場を見てみても、衣料品の購入単価や輸入単価は、バブル期に比べると、6割程度に減少しているものの、供給量は20億点から約40億点とほぼ倍増しています。

こうしたファストファッションの興隆や、志向の多様化、またトレンドの移り変わりの早さなどもあり、世界では大量の服が供給される一方で、「服あまり」の現状もあるようです。

1年間で、新品の服が売れずそのまま破棄されるのが10億点、国内では、年間に破棄される量はトータルで33億着とも言われています。

中古の服は、パキスタンやアフリカ諸国などに大量に集められており、リサイクルされるものももちろんあるけれど、焼却処分される量も相当数にのぼる。こうした実態はあまり知られていないものの、破棄された服がリサイクルされていないという現状や、洋服で使用される化学繊維の生産、服の焼却処理など環境に対しての負荷が莫大であることなどから、実は環境に対しての負荷が非常に高いと言われています。

ということで、今回は現在、アムステルダムで注目されているビーガンファッションをご紹介します。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

ビーガンファッションとは?

さて、何やら聞きなれない「ビーガンファッション」とは何をさすのでしょうか? ここでアムステルダムにある、ファションブランド“goat”をご紹介します。

“goat”は2014年に双子の姉妹Abigailと、Lavinia Bakkerによってスタートしたファッションブランド。“持続可能性に配慮したファッションであっても、その商品を誰もが簡単に手にいれることができなければ、それは持続可能性があるとは言わない”というモットーのもと、服自体がファッショナブルで魅力的であり、その製造過程や原料などの情報を誠実にオープンにすることで消費者に安心感を与え、かつ誰でも買えるような安価なものでなくてはならない、という方針で全てのアイテムを作っています。なので、例えば一般的なオーガニックコットンの白Tシャツが44.95€くらいするところ、“goat”の場合、それが17.95€で販売されています。

“goat”の商品はバングラディッシュで製造しています。実は世界の大手アパレルメーカーでもバングラディッシュで製造をしているところは多いのですが、それは原料の調達費用や、労働力が安いから。しかし、“goat”の場合は、現地の従業員に法定最低労働賃金の150%~200%の賃金が支払われ、残業は禁止、労働環境は安全で清潔に保れており、子どもの不法労働などは禁止しています。ちょうど、フェアトレードを標榜し生産されているチョコレートをイメージすると分かりやすいかもしれません。

一方、アムステルダムの元刑務所を改装した“goat”のオフィスでは、シリアやレバノン、パレスチナなどからの非常に才能のある難民を雇っています。この雇用自体が、難民もオランダで自立して社会生活を始められるような、社会プロジェクトの一貫を担っています。

また“goat”の中には、REcycle Collectionという95%をリサイクルされたデニムで作っているブランドラインもあり、環境への配慮もしています。

環境への配慮という点で見ると、“goat”の製品は少なくとも95%以上は、オーガニックコットンなどのオーガニック繊維が使用されており、その繊維を作るための植物も、食品でも時折話題になる遺伝子組み替え植物は一切使用していない、化学製品を使用しない、製造の際に工場で使用する水の量も基準以下に抑えるなど徹底しています。

そして、これもあまり知られておらず、しかも重要な事実なのですが、世界中のファッションメーカーが製造する服のために、1年間に1億もの動物が犠牲になっているというのです。良く動物愛護のために毛皮に反対するメーカーやブランドがありますが、実はこれは毛皮だけの話ではありません。例えば、羽毛、皮革などを考慮すると多くの動物が犠牲になっているというのです。

“goat”は完全にこうしたサプライチェーンから独立しており、こうしたことを総称して自ら“ビーガンファッション”と称しているのです。

ファッション業界でもサステイナブルは大きな流れ

実は、オランダでは企業のサステイナブル経営は大きなトレンドになっています。特に近年ではサステイナブルでなければ、企業が存続できない、存続する価値がないと考えられているほどです。

スタートアップでも、こうした流れに配慮したものでなければ生き残れず、また、こうした分脈からの課題解決に取り組むものこそが、スタートアップだと考えられています。

冒頭に取り上げた、2018年6月の経済産業省製造産業局生活製品課のレポートにも、ファッション業界におけるサステイナブルな取り組みは、大きな課題として取り上げられています。

このレポートの中でも、ファッション業界では、児童労働 、セクハラとジェンダーに起因する暴力、強制労働、労働時間、労働安全衛生、労働組合の団体交渉、賃金、有害化学物質・汚水・温室効果ガスの排出、贈収賄と汚職、在宅労働者からの搾取、などがサステイナブルな環境を阻害する要因として捉えられおり、早急な解決が求められる最も重大なリスクであると指摘されているのです。

自社のサプライチェーン内においても、こうしたことは把握しにくい現状があると言われているために、“goat”のように徹底しているファションブランドは珍しいのかもしれません。

しかし、アムステルダムにおいてはアムステルダム市がパートナーとなって開発している、吐き捨てられたガムから作られた“Gumshoe” なるプロジェクトで製造した、スニーカーが200€でもあっという間に売り切れてしまったり、Denim Cityなる世界初となるデニムの総合インキュベーション施設が、積極的に世界のデニム産業のサステイナブル化に取り組んでいたりしています。

こうしたプロジェクトやファッションブランドが生み出す商品が、いずれもファッション性に溢れ、しかも老若男女問わず広いターゲット層に受け入れられているという傾向も、アムステルダムの特徴かもしれません。

実際、オランダで生活している筆者も日常生活で物を買うときに、こうした企業姿勢を考慮することが当たり前の感覚になってきており、普段の買い物を通して、サステイナブルな地球環境の維持に貢献しているという、ちょっとした満足感を得ることもできます。

そして“goat”の商品に関しては、オーガニックコットンを使用しているからか、どれも非常に着心地が良いとも感じます。

アムステルダムでは、こうしたファッションブランドが次々と創業されていますが、概して創業者が若い、という特徴もあります。実際に、ミレニアム世代の感覚を上手に捉えているブランドが多いように思えます。

日本でもエシカルファッションという言葉で表現されるような、環境に配慮しているファッションブランドが存在していますが、ファッションを通して地球環境に貢献することができるのは、ちょっとした自己満足を得ることもでき、かつ周りの環境のことを考えるきっかけにもなるかもしれません。こうした身近なところから、サステイナブルな地球環境のためのアクションを始めてみても良いかもしれません。

今回はファッションブランドを通して、オランダのサステイナブルに関するトレンドをお届けしました。


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