EVENT | 2018/10/30

その一言・行動に要注意!実は幅広い、職場で「パワハラ」に該当する条件【連載】FINDERSビジネス法律相談所(5)

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日々仕事を続ける中で、疑問や矛盾を感じる出来事は意外に多い。そこで、ビジネスまわりのお悩みを解決するべく、ワールド法律会計事務所 弁護士の渡邉祐介さんに、ビジネス上の身近な問題の解決策について教えていただいた。

渡邉祐介

ワールド法律会計事務所 弁護士

システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚等の家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。

(今回のテーマ)
Q.先日、会社の役員がパワハラで訴えられました。私自身、職場でモチベーションを上げるために部下に喝を入れることもあるので、今一度どんなことがパワーハラスメントにあたるのか、知っておきたいです。

それも実はパワハラです!

「〇〇君、今月中に100件、新規契約とって来て!(笑)」「課長、それ、パワハラですよぉ~!(苦笑)」

上記のように冗談交じりで言い合うような場合も含めて、「パワハラ」というワードが日常的にオフィスで使われているようです。同時に、近年多くの会社でコンプライアンス(法令遵守)が広まりつつあります。そうした中で、上司の部下に対する接し方も見直されてきています。

上司の部下に対する接し方が度を越えてしまうと、いわゆるパワハラによって訴えられてしまうというケースも最近では多く見られます。上司としても、部下から冗談で「パワハラですよ」と言われるくらいならよいとしても、悪気はなかったにも関わらず、パワハラで部下から本当に訴えられてしまってはたまりません。では、どこからがいわゆるパワハラにあたるのでしょうか?

パワハラとは?

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為をいいます(厚労省「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」より。※以下、「WG報告」)。

つまり、パワハラにあたるかどうかは、1.職場の地位・優越性を利用していること、2.業務の適正な範囲を超えた指示・命令であること、3.相手に著しい精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を害したりする行為であること、という3つの基準により判断されます。

1.職場の地位・優越性の利用

「パワー」に基づくハラスメントであることから、まさしくパワー(地位・優位性)を利用して行われたものであるかどうかが問われます。

「優位性」というと、上司から部下の場合に限られると思われがちです。パワハラの多くのケースではそうですが、必ずしもそうとは限りません。職務上の地位や人間関係で職場内での優位性さえ認められる関係であれば該当し、部下から上司に対する場合、同僚間、先輩・後輩間においても認められるケースもあるので注意が必要です。

たとえば、技術革新が速い業界などでは、若手の部下が年配の上司より最新技術や知識を多く持っていることもあるでしょう。その点を背景に、部下が上司に対して嫌がらせをする場合でも、この要件を充たす可能性はあるのです。

2.適正な業務の範囲を超えた指示・命令

パワハラは、指示・命令が業務の適正の範囲を超えていると言える場合に認められます。つまり、業務とは関係ない個人的なことを要求することは、パワハラに当たる可能性があるのです。

たとえば、上司が部下に対して業務とまったく無関係であるのに、「10万円貸してくれ」などと要求するような場合などは、業務とは関係ない個人的な要求なので、この要件を充たすと言えるでしょう。

3.著しい身体的苦痛または職場環境の悪化

「著しい」という文言からも分かるように、程度が問題となります。ですから、線引きが難しいところではあります。

たとえば、部下の些細なミスを取り上げて「お前なんか死ね!」「さっさと会社を辞めちまえ!」などと言い放つような行為は、言われた相手からすればひどく尊厳を毀損される発言です。さらに、これを周囲の人たちが見ている前で言い放っているとすれば、職場環境としても非常に働きにくいものとなっていることが想定できますので、この要件を充たすと言えるでしょう。

また、程度問題が焦点になることから、1回だけでなく、継続的な行為であるとより認められやすくなります。他方で、表現、回数、態度などからみて、相当性を欠くとはいえない範囲で行われるものについては、相手方がどのように受け止めようと、パワハラにはあたりません。

パワハラの具体的な6つのNG行為

前述のWG報告では、「職場のパワーハラスメント」の行為類型を次の6つに整理しています。

1.身体的な攻撃、2.精神的な攻撃、3.人間関係からの切り離し、4.過大な要求、5.過小な要求、6.個の侵害の6つです。これらをひとつずつ見ていきましょう。

1.身体的な攻撃

暴行・傷害などがこれにあたります。WG報告では、業務の遂行に関係するものであっても、暴行や傷害については、「業務の適正な範囲」に含まれるとすることはできないとしています。

2.精神的な攻撃

脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言などがこれにあたります。結果的に精神障害を患ってしまうようなケースも多くあります。WG報告では、これらの行為は、そもそも業務遂行に必要な行為であるとは通常想定できないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるとしています。

3.人間関係からの切り離し

隔離・仲間外れ・無視などが典型例です。たとえば、仕事を教えない、席を1人だけ隔離する、必要書類を1人だけ配布しない、忘年会や送別会に1人だけ声をかけない、などがこれに当たる可能性があります。WG報告では、これらの行為も、そもそも業務遂行に必要な行為であるとは通常想定できないことから、原則として「業務の適正な範囲」を超えるとしています。

4.過大な要求

業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害などが典型例です。4から以下6までは、業務上の適正な範囲と言えるかどうかの線引きが容易ではないケースも多くありますが、たとえば、1日では到底終わらないような量の書類作成を命じ、徹夜を強いたり、完了しなければ叱責したりするようなケースでは、過大な要求にあたると言えるでしょう。

5.過小な要求

業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないなどが典型例です。これも線引きは容易ではありませんが、たとえば、それまでの従業員の担当していた職務の程度や従業員の能力からして、明らかに程度の低い作業・単調な作業のみを1日中させるようなケースでは、これに充たるでしょう。

6.個の侵害

私的なことに過度に立ち入ることをいいます。不必要にプライベートに踏み込んだ質問をしたり、過剰にプライベートな情報を提出させたりするような場合も個の侵害といえます。なお、これを異性に対して行えば、「セクハラ」という別の問題を引き起こす可能性もあります。

パワハラの裁判例

コスチューム着用を強要されたことで、精神的苦痛を受けたなどとして、上司らおよび会社に慰謝料の支払いが認められた事例として、カネボウ化粧品販売事件(大分地裁平成25年2月20日判決)があります。この事案では、特定の商品販売目標を達成できなかった60代の原告女性が、罰ゲームとして、研修会で易者姿のコスチュームやウサギの耳型のカチューシャの着用を求められています。着用が嫌ならしなくてもよいという趣旨の発言もなく、上司らは原告が同コスチュームを着用したままの姿を撮影。それを無断で公表した事実が認定され、原告が撮影・投影のいずれの時点においてもこれを拒否する明確な態度は見せていなかったことも認定した上で、上司や会社の違法性を認めています。

また、同僚の女性社員へのいじめ・嫌がらせが、その陰湿さや執拗さの程度において常軌を逸したものだと認められた事案として、国・京都下労基署長(富士通)事件(大阪地裁平成22年6月23日判決)があります。この事案は、会社に勤務していた女性が、精神障害の発症が会社での同僚からのいじめがあり、それに対する適切な措置を会社側がとらなかったことに起因するものであるとして、労働基準監査署が下した療養補償給付不支給処分の取消しを求めたものでした。

裁判所は、女性が同僚女性社員7名より女性に聞こえるような態様で非難され、悪口を言われるなどのいじめを受けていたこと、女性が男性課長から跳び蹴りのまねや顔すれすれに殴るまねを複数回されたこと、また、それらの行為が上司の部長の前でされることがあったにも関わらず、部長が課長に注意を与えることもありませんでした。

女性が同僚の女性社員からPC操作について質問を受けて教えた際、お礼としてケーキをもらったことがあったが、その女性社員4名から、「あほちゃう」「ケーキ食べたから手伝ったんやで」などと執拗な陰口を受けたこと、女性が同僚女性社員4名から勤務時間中にIPメッセンジャーを使用して毎日のように悪口を送信されたこと、女性に対するいじめの中心人物だった者の席が異動で女性の席の近くになった際に、同僚女性社員ら3名から「これから本格的にいじめてやる」と言われたことがあったなどの事実を認定。その上で、女性に対するいじめや嫌がらせはその陰湿さや執拗さの程度において、常軌を逸したものであると判断。

また、こうした嫌がらせについて、会社の上司らが相談を受けつつも何らかの対応をしなかったことを認め、女性に発症した「不安障害、抑うつ状態」は同僚の女性社員によるいじめやいやがらせとともに、会社が何らの防止措置もとらなかったことから発症したもの(業務に内在する危険が顕在化したもの)であると認定しています。

会社はパワハラの違法性を把握し社員に周知しよう

WG報告が定義するパワハラに該当したからといって、必ずしも司法上、違法性となるというものではありません。また逆に言えば、パワハラに該当しない行為であれば当然に違法ではないという意味でもありません。もっとも、WG報告におけるパワハラの概念や行為類型は、行為の違法性を判断する際の評価判断で参考とされる可能性は否定できないものであり、今後の裁判の動向が注目されます。

パワハラによって職場環境を悪化させないためにも、以上の行為類型にあてはまるような行動は避けるように、社内であらかじめパワハラについての理解や周知を行い、行為指針などを定めておくことは大切です。

パワハラの6つの行為類型のような「負」を回避する組織づくりはもちろん、社員それぞれがいかにモチベーションを向上させながら、日々成長を感じ、社員間で円滑なコミュニケーションができる環境を作ることが大切だと思います。毎日の仕事を楽しく行っていけるような環境を作っていけるか、という「正」の発想で組織作っていくことで、パワハラとは無縁の社員が働きやすい職場環境が実現するのではないでしょうか。


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