東京オリンピックが開かれる2020年、AR/VRの市場規模は403億米ドル(1ドル100円として4.3兆円)になると言われ、年々その存在感を増している。オリンピックといえば先日の平昌オリンピックが開催された際、eスポーツをオリンピック公認種目とすべく、国際オリンピック委員会(IOC)公認のeスポーツ大会も同時に開催されている。
eスポーツの市場規模は2020年には14.9億米ドルになると予想され、AR/VRとeスポーツは両方とも、世界が注目する成長分野だ。ただ任天堂やソニーなどの名だたる大手をかかえ、ソーシャルゲームも成長中のゲーム大国日本では、未だ両分野ともにその存在感は大きくない。
そんな中、AR×eスポーツの分野で世界から注目集めている日本のスタートアップが「HADO」だ。
文:納富隼平 写真:神保勇揮
福田浩士
株式会社meleap CEO
株式会社リクルートを経て、2014年に株式会社meleapを設立。“かめはめ波”を撃ちたいという想いから「HADO(ハドー)」を作りだす。AR・ウェアラブル技術により憧れの“技”を放ち、戦いあう「HADO」は、 新しいスポーツの形として注目を集めている。2016年より、AR/VR初の大会「HADO WORLD CUP」も開催。ヒザがガクガク震えるほど世界を面白くする!をテーマに掲げ、活動を行う。
日本発、ARを使ったテクノスポーツ
HADOは2015年からスタートした、ウェアラブルデバイスとARを用いた対戦型テクノスポーツ。頭にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)、腕にウェアラブルデバイスを装着し、腕を突き出す動作をすると光の球(エナジーボール)が放たれ、相手にその球を当てた数を競い合う。子供のころに憧れたかめはめ波や波動拳のような「魔法」が打てるようになる、というわけだ。
HADO WORLD CUP 2017のプロモーションビデオ
HADOの試合は3対3・1試合80秒で行われる。エナジーボールを相手にぶつけ、獲得したポイント数を争う。エナジーボールは避けたりシールドを張って耐えることも可能だ。またプレイヤーはそれぞれボールの速さや大きさ、装填スピードやシールドの耐久力を数値の割り振りによってカスタマイズでき、アタッカーやディフェンダーなどチーム内の役割分担も重要になる仕組みだ。
VRゲームやコンテンツは日々増加しているが、ほとんどのコンテンツは「新しいことが体験できた」という感想だけで終わってしまい、ぜひ次もプレイしたいと思えるコンテンツが未だ少ないのが実情ではないだろうか。
しかしHADOはチーム戦であることの戦略性、能力値のカスタマイズ性、そしてなにより身体を動かして自らが「魔法」を打つ高揚感などがあり、2回目もプレイしたくなるし、人のプレイを観ているだけでも楽しい。何回もやりたいと思えるからこそ、他のゲームに抜きん出て日本でも、そして世界でも人気を博しているのだ。
「試合に勝つと抱き合うほど喜ぶ」HADOの世界大会
HADOは2016年から世界大会を開催している。年々参加者は増え、18年には8カ国が参加し、報酬総額は12万ドルに及ぶ。HADOの開発・運営を行うmeleap(メリープ)のCEOの福田浩士氏によれば、この世界大会は我々が想像するよりはるかに熱狂度が高いようだ。
試合で勝っても負けてもプレイヤーは感動して泣くし、勝てばチームで抱き合って喜ぶ。e「スポーツ」なので競技性が高く、やればやるほどうまくなる。選手たちは週に何日も各地にある施設で練習を重ねているようだ。HADOをやっていて仲間ができ「HADOのおかげで人生が変わった」という人までいるらしい。
HADOのマレーシア大会の様子。プレイヤーが雄叫びをあげて歓喜している。
さまざまな業種と組みながら、HADOができる店舗を増やす
世界大会に参加するほど、熱狂するプレイヤーが大勢いるHADO。東京近辺では渋谷や横浜などでプレイすることができ、当初は男子大学生がメイン層になると想定していたが、現在のメイン層は仕事終わりのサラリーマンが多いという。年齢層は20〜40代と、eスポーツにしては幅広いように感じる。
HADOが設置されているのはハウステンボス(長崎)、レオマワールド(香川)などのテーマパークや、THE 3RD PLANET(横浜本店のみ)などゲームセンターもあるものの、ARとはまったく関係のない会社の新事業として展開しているケースもある。
たとえば渋谷にある、VRゲームが楽しめるカフェバー「VREX 渋谷宮益坂店」は、書店やネットカフェ、ゲームセンターなどを展開するフタバ図書の新業態だ。meleapには「HADOを導入したい」というリクエストが、国内外のさまざまな業種・業態から寄せられているという。
これにはHADOの「導入しやすさ」も起因していると言えるかもしれない。各種エンタメのリッチコンテンツ化が進むにつれて、施設側の導入コストも高騰しているが、HADO導入にあたって必要なのはプレイヤーが身につける小型デバイスとノートパソコンのみ。あとはゲームコートの簡単な装飾が必要になるぐらいだ。具体的な価格は非公表(レベニューシェア制)なものの、高いもので数百万円にも上るゲーム機器・筐体の導入コストに比べれば明らかに安い。
meleap CEO 福田浩士氏
海外サイトに掲載されて問い合わせが殺到
前述の通り、HADOは現在、8カ国が参加する世界大会を開催している。日本では認知が上がっているとはいえ、海外へのリーチはどのようにしているのだろうか。
「最近はおかげさまで、定期的にテレビなどのメディアに出演しています。ただテレビは番組的には盛り上がってくれるのですが、視聴者がHADOの直接のターゲット層ではないケースも多く、認知拡大に役立っているというイメージです。プレイヤーや問い合わせ数が増えるのは、ウェブメディアやSNSの口コミでの方が圧倒的に多いですね」(福田氏)
テレビなどのマスメディアに順調に出演していたHADOだが、ある日アメリカのVRウェブメディア「VR SCOUT」のFacebookページでHADOが紹介される。決してARやVRの先進国ではない日本のサービスが海外サイトに掲載されるのは珍しい。VR SCOUTにはAR/VRのコアなファンが集っており、HADOの「魔法のようにかめはめ波や波動拳が放てる」というコンセプトは、海外でも驚きをもって迎えられたようだ。
HADO関連の動画は世界中で累計1800万再生、35万シェアされており、こうしたネット上での動画拡散が、プレイ人口や問い合わせ増に最も効いている。
Facebookページでも多数のシェアを獲得
HADOはSNS映えする要素も多く、各種SNSで検索してみると実に多くのプレイヤーがHADOをプレイした、という感想を掲載している。とくに世界大会ではおそろいのユニフォームをアップしているプレイヤーが目立つ。
コンシューマーバージョンが登場すれば、HADOはもっと楽しくなる
meleapはスポーツとしてのHADOを盛り立てていくだけではなく、開発で培った技術を横展開し、AR/VRゲームのプレイ人口をさらに増やしていきたい考えだ。
例えば対人戦ではなく、プレイヤー同士が協力しドラゴンやゴーレムといった敵を倒していく「HADOリアルモンスターバトル」や、カートを運転してフィールドのコインを集める「HADOカート」など、別のゲームタイトルをどんどん開発し、進化している。
また本家HADOについても、さらなるアップデート計画が既に進行しているようだ。
「HADOは野球やサッカーなどのリアル競技と違って、“球に回転をかけてカーブさせる”といった動きがまだできません。でも、そうした人の努力や工夫の余地をもっと入れられるようになればそれだけ戦略性も上がり、より楽しんでもらえるようになると思うので、積極的に開発を進めていきます。また今後、対戦戦績を管理するアプリをリリースする予定もありますし、プレイヤー同士のコミュニケーションを活発化させるような取り組みも平行して進めていきたいですね」(同氏)
さらに、今後はHADOのコンシューマー版の開発も検討していくという。前述の通り、HADOは極論すればヘッドセットと腕のデバイス、対戦用の空間があればどこでもプレイできる。ゲームセンターなど特定の施設に行かずともできるようになれば、さらなる盛り上がりも見えてくるだろう。
AR×ウェアラブルデバイスで新しいテクノスポーツという分野を切り開いているHADO。ぜひ一度プレイしたり、世界大会を覗いてみてほしい。