EVENT | 2018/04/19

多様な進化を遂げるフードテック注目企業14社【前編】

フードテックという言葉をご存知だろうか。2014年から16年にかけてちょっとしたトレンドワードとなっていたキーワードであ...

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フードテックという言葉をご存知だろうか。2014年から16年にかけてちょっとしたトレンドワードとなっていたキーワードである。

今は下火になったかのような印象を受けるが、人類と食の関係に終わりがないように、フードテックも新たな進化を遂げている。改めて今のフードテックを見直してみる。

高見沢徳明

株式会社フレンバシーCTO

大学卒業後金融SEとして9年間勤めたあと、2005年にサイバーエージェントに入社。アメーバ事業部でエンジニアとして複数の案件に従事した後、ウエディングパークへ出向。システム部門のリーダとなりサイトリニューアル、海外ウエディングサイトの立ち上げ、Yahoo!などのアライアンスを担当。その後2012年SXSWに個人で参加。また複数のスタートアップ立ち上げにも参画し、2016年よりフリーランスとなる。現在は株式会社フレンバシーにてベジフードレストランガイドVegewel(ベジウェル)の開発担当。

食とテクノロジーが交差して進化を遂げるフードテック

まず、「フードテック」という言葉は何を指すのか。

DegitalMeUpという技術系ブログによれば、フードテックに正確な定義はないとしつつ「食とテクノロジーの交差するところ」と表現している。サンフランシスコのベンチャーキャピタル、Khosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)が多くの投資をしてきたことで盛り上がってきた分野だ。以下で紹介するImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)やHamptonCreek(ハンプトン・クリーク)、生鮮食品デリバリーサービスのInstacart(インスタカート)などが代表的な投資先である。

現状、フードテックは多岐にわたる分野に拡大しているが、今回は注目すべき14社を前後編にわたって紹介していく。

人口爆発時代に対応する「食の代替品」市場

2050年には世界の人口は現在の70億から90億人に達するという統計がある。だがこれだけの人間が生きていくために必要な食糧は、現在の生産技術ではまかないきれないこともわかっている。そこで注目されたのが「代用食」である。例えば牛や豚の代わりに「大豆ミート」を食べるといったイメージだ。

サステナビリティをキーワードに従来の肉魚を取らなくても人類が地球上で生存し続けられる代替品を開発している会社などを以下に紹介する。

食糧危機の対抗策にもなる代替肉(BeyondMeat・HamptonCreek・Impossible Foods・GoodDot)

これら4社は植物由来の成分で作られた代替肉を開発している会社である。このうちBeyond Meat(ビヨンド・ミート)Hampton Creek(ハンプトン・クリーク)は三井物産が出資している。ハンプトン・クリークは植物卵を用いたマヨネーズ(えんどう豆の植物性タンパク質から作られている)が有名で、米国のセブンイレブンのサンドイッチにも使われているという。そしてこの会社、動物の細胞から作る鶏肉を製造しているとのこと。

かたやビヨンド・ミートも凄い。会長のセス・ゴールドマン氏は「世の中のベジバーガーが美味しくない」としてタンパク質や脂質などが分子レベルでどのように構成されているかを分析。そしてその結果を基に、植物性タンパク質や植物由来の油など、より自然で健康な代替物を用いたハンバーガーを開発したとのこと。ちなみにこうした食品の分子を解析して新たな食品や料理の開発を研究することは「分子ガストロノミー」と呼ばれ注目を集めている。

ビヨンド・ミートの対抗馬として出てきた西海岸の会社Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)も登場した。同様に植物肉のハンバーガーを販売しており、これら2社のハンバーガーは今年日本に上陸するのではという噂もある。

ビヨンド・ミート、インポッシブル・フーズのハンバーガーは2016年〜17年にかけてさまざまなメディアで取り上げられていたのでご存知の人も多いだろう。

そこでフードテック大国インドから登場した代替肉のニュートレンドをご紹介したい。Good Dot(グッド・ドット)である。

インドでは15歳以上の人口のうち、30%がベジタリアンであるものの、逆に考えれば残りの70%は肉を食べるので代替肉の需要は確実にある。しかも肉を食べる人口は年々増してきているとのこと。13億人もいる人口での食肉のニーズに応えつつ、動物愛護の観点から植物由来の代替肉を開発したとのこと。鶏肉とマトンの味・食感を再現した代替肉は250gあたり1.75ドルで実際の肉の価格より安い。これがウケて3カ月で50万個も売れるヒットとなった。

Youtubeにはグッド・ドットの代替肉で作ったレシピもいくつか上がっている。その中には本物の肉は食べたことはないが美味しかったとコメントしている人もいる。今後に注目である。

実は栄養満点、昆虫食(Hargol FoodTech, EXO)

昆虫食というとイナゴや蜂の幼虫などを想像するかもしれないが、そのまま食べるのではなく代用食に近い話だ。イスラエルのスタートアップ、Hargol FoodTech(ハーゴル・フードテック)はバッタを使ったプロテインパウダーを開発した。CEOのドロア・タミルは 2014年ごろから肥満防止のための研究をしており、低カロリー・高タンパクな昆虫に着目したという。

同社はTLV Start-Up Challengeという大きなコンペティションやWeWorkクリエイターアワードなど10のスタートアップコンテストで優勝したとのこと。米国だけでなく、イスラエル、シンガポールからも投資を受けている。

同じようなベンチャーとしてはEXO(エクソ)も有名だ。こちらはコオロギを原料にしたプロテインバーである。大学の同級生だったファウンダーのルイスとソウィッツがネットで注文したコオロギを粉末にしてバーにしたことが始まりだったという。やがてKickStarterで5万ドルを調達し、急成長した。

この昆虫食もサステナビリティの観点から投資額がどんどん増えている。

栄養補給をこれだけで!完全食(Soylent、COMP、ベースパスタ)

Soylent(ソイレント)はいわゆる「完全食」。つまりこれだけで1日に必要な栄養素を全て摂取できる食品だ。2012年にサンフランシスコでYCombinator(Yコンビネータ)からの出資を受けたロブ・ラインハートが別の事業を起こそうとしたものの失敗し、が、生活費を切り詰めるために食に関するコストを減らそうと思いついたのがこのソイレントだ。

その試作品は、人間が生存するために必要な35種類の栄養素のサプリをブレンドして水を加えたものである。まずはラインハート自身が「これだけを食べて生きていけるか」という壮大な実験を始めたのである。結果は成功で、わずか1カ月で健康面の改善が見られたという。こういった過程と調合レシピをオープンソース化することで人々の関心を集めて事業プランにしたようだ。いまやGoogle Ventureなどから5000万ドルを調達するまでに成長。2017年からは米セブンイレブンでも買えるほどにまでなった。

この完全食というコンセプトは日本でも取り組んでいる企業がある。一つはCOMP(コンプ)である。「エンジニアが寝食を忘れて没頭する時間を確保するための栄養食品」ということで粉末とグミがある。またベースフードではベースパスタという高栄養素のパスタを開発している。10種類以上の栄養が含まれており、糖質を抑えながら1食で1日に必要な栄養の1/3が摂取できるという。

こういった完全食のニーズは、食事そのものを楽しむグルメ文化とは真逆に行っているようにも見える。だが、ほとんどの人が完全食だからといってそれしか食べないわけではないだろう。「こうした風変わりな食べ物もある」という多様性を楽しむ考え方もあるのではないだろうか。

ちなみに、東京・立川と神戸・三宮にある「BoraBora」というレストランでは、筆者の所属するフレンバシーが運営する、食の制限に対応できるレストランを集めた情報サイト「ベジウェル」がプロデュースしたソイミートのからあげ入りのビーガンカレーが味わえる。また、東京駅にある「T'sたんたん」ではソイミートの担々麺が食べられる。ぜひ一度、代替肉の食感を試してみていただきたい。

後編へ続く)