2026年6月10日(水)から12日(金)まで、千葉・幕張メッセで国内最大級のインターネットテクノロジーイベント「Interop
Tokyo 2026」が開催される。
通信、クラウド、AI、セキュリティ、データセンターなど、インターネットを支える幅広い分野の最新技術が集まる同イベント。今年は「AIとインターネットの次章。」を大きなテーマに掲げ、AI活用そのものだけでなく、それを支えるネットワーク、計算資源、冷却設備、セキュリティ、運用基盤といった領域にも焦点が当てられる。
FINDERSでは先日、Interop Tokyo 2026のプロデューサーを務める、株式会社ナノオプト・メディア代表取締役社長の大嶋康彰氏へのインタビューをもとに、今年の見どころを紹介した。「AI NATIVE EXPO」、「Data Center Summit」、「Network × Media Summit」、「Internet × Space
Summit」など、複数の主催者企画を通じて、AI時代の社会インフラを多角的に捉えようとしている点が、今年の大きな見どころだ。
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今回はその中から、放送インフラのIP化をテーマにした主催者企画「Network × Media Summit」と、Interop Tokyoの軸ともいえるライブデモネットワーク「ShowNet」と連携して展開される「Media over IP」特別企画について詳しく紹介していきたい。
話を聞いたのは、ShowNet NOCチームのメンバーとしてネットワークの設計、構築、運用を取りまとめる遠峰隆史氏(国立天文台、北陸先端科学技術大学院大学)と、「Media over IP」特別企画プロデューサーを務める長谷川幹人氏(Zabbix
Japan LLC 新規事業開発チーム シニアマネージャー)だ。
放送インフラのIP化は「やるかどうか」から「どう実装するか」へ
ShowNetは、Interop Tokyoに出展する企業から提供された最新の製品やサービスを用い、会場内に実際のネットワークを構築するプロジェクトだ。遠峰氏はこれを「5年後、10年後のネットワークをデモンストレーションする場」と表現する。
その中で、4年ほど前から取り組まれてきたのが、メディアとIPネットワークの融合だ。
放送業界では長年、局舎内伝送メディアとして同軸ケーブルを用いたSDI(Serial Digital Interface)が主流で、フルハイビジョン対応、フレームレート増加などに対応してきた。しかし4K・8K時代を迎えるにあたり、高周波特性の限界に達しつつあり、大量のケーブルを敷設する従来型の仕組みから、光ファイバーやIPネットワークを活用する方向へと関心が高まっている。
ただ実際には、この放送インフラのIP化の流れは、単に帯域を太くすることではないようだ。長谷川氏によれば、いま放送局にとってより大きな意味を持つのは、システムの組み替えやすさだという。
従来のSDIの仕組みでは、番組制作や収録のために設備を組み替える際、数時間単位の作業が必要になることもあった。一方、IP化が進めば、設定ファイルを読み込むことで、システム全体の切り替えや再構成を効率化できる。運用面での柔軟性が、放送局にとって現実的なメリットとして受け止められ始めている。
一方で、課題も残る。導入コスト、既存設備との接続、技術者の育成、そして放送局ごとに異なる運用体制。長谷川氏は、少なくとも一つ以上のIPベースのシステムを導入している放送局は「おおよそ2割程度」としつつ、その比率は今まさに上がっている途中だと話す。
なぜInterop TokyoでMedia over IPを取り上げるのか?
放送技術のイベントといえば、Inter BEEなどを思い浮かべる人も多いだろう。では、なぜインターネットテクノロジーの展示会であるInterop Tokyoで、Media over IPを扱うのか。
長谷川氏は、放送業界だけの閉じた議論では、次の段階に進みにくいと語る。放送局がIP化に取り組む以上、ネットワーク、クラウド、データセンター、セキュリティといった領域との接点は避けて通れない。
実際、「Media over IP」特別企画では、放送局がShowNetを実験用ネットワークインフラとして使い、系列内外の局と連携した実証実験を行っている。これまで局内でクローズドに行われてきた検証が、Interop Tokyoという公開の場に出てきたことは大きい。
長谷川氏は「どこに相談すればよいか分からなかった人たちに対して、“まずはこちらへどうぞ”という入口を作っている感覚」と語る。
放送局の技術者にとっても、ShowNetは単なる展示ではない。実際の機材を触り、ネットワークエンジニアとやり取りしながら検証できる場だ。長谷川氏は、これを「家庭教師がつくような感覚」と表現する。昨年参加した放送局からは、局内の技術レベルが大きく上がったという声もあったという。
放送局の参加は4局から12局、そして14局へ
Media over IP」特別企画が本格的に動き出したのは2024年。初年度は国内4局が参加し、局間での素材のやり取りを中心に実証実験を行った。
翌年には参加局が12局に拡大。系列内、系列外を問わず、6つほどの企画が並行して進められた。そして2026年は、合計14の放送局が参加する見込みだ。単独局、系列局、地域ごとの連携などを含め、8つの企画が検討されている。
昨年の取り組みでは、テレビ北海道を中心に、テレビ大阪、宮城テレビなどが系列を超えて設備や素材の共有を試みた「4局リソースシェアPoC」が行われた。NHKは、従来は有線接続が前提だったお天気カメラを5Gで運用できないかを検証。中京テレビは、5Gを束ねた中継系の実証を行い、リアルタイム映像伝送規格「ST 2110」の実証実験にも取り組んだ。
また、在阪局による共同検証では、各局が設備や素材を持ち寄り、Media over IPに関する知見を共有した。TBSとMBSの同系列局による企画では、公衆回線を通じて高精度時刻同期プロトコルであるPTPを遠隔地に届け、同期を取る検証も行われた。
そして2026年は、これらの取り組みがさらに発展する。
大きな目玉の一つが、NNN系列6局による共同企画だ。北海道、仙台、名古屋、大阪、静岡、福岡など、各地の放送局が参加し、一般回線を使いながら、リーズナブルな伝送技術でどこまでリソース共有が可能かを検証する。災害対策の観点から、札幌のデータセンターに各局が接続し、オンプレミスの制作設備を共有する構想もある。さらに、クラウド上に置いた制作機材も併用し、プライベートクラウドとパブリッククラウドの双方を活用する。
一方、在阪局5局による企画では、帯域保証型の専用線を使い、Media over IPの冗長化技術を検証する。外部回線をA系、B系で二重化し、二重化した構成でどこまで安定運用できるかを確認する狙いだ。大阪のデータセンターに機材や素材を集め、各局が共用するプライベートクラウド的な仕組みも検討されている。
ネットワーク側から見たMedia over IPの意味
遠峰氏は、Media over IPの取り組みについて、放送業界だけの話ではなく、ネットワーク側にとっても重要な意味を持つと語る。
放送制作の現場がIP化されると、従来のメディア専用ネットワークと、企業ネットワークやインターネット基盤との境界は徐々に変わっていく。これまで別々に扱われてきたものを、どこまで同じインフラ上で扱えるのか。その検証には、実際に混ぜてみる場が必要になる。
もちろん、すべてが簡単につながるわけではない。リアルタイム性、時刻同期、冗長化、品質保証など、放送ならではの要求は多い。遠峰氏は、メディア側からの要望をShowNetのバックボーン設計に取り込む過程で、毎年のように難しい調整があるとしつつ、それでも相互に学び合う関係が生まれていると話す。
メディア伝送に対応するために、ネットワーク側は何を備えるべきなのか。逆に、放送側はIPネットワークを前提にどのような運用へ変わっていけるのか。ShowNetは、その接点を可視化する場になっている。
「Network × Media Summit」は誰に向けた場なのか
今回の「Network × Media Summit」は、放送局の技術者だけに向けたものではない。
むしろ、IT業界や通信業界の来場者にとって、放送業界がいまどのように変わろうとしているのかを知る貴重な機会にもなる。局内で閉じていた検証が、実際の回線、データセンター、クラウド、ネットワーク機器とつながり始めている。その現場を、Interop Tokyoの会場で見ることができる。
会期中は、各企画を推進する放送局やチームごとに、展示会場内セミナーも行われる予定だ。ShowNetのMedia over IP担当者によるネットワーク側の工夫に関するセッションも予定されている。
放送業界にとっては、IP化をどう進めるかを具体的に考える場になる。通信・IT業界にとっては、放送という高い品質要求を持つ領域に、どのような技術やサービスを提供できるのかを考える機会になる。
「放送インフラのIP化」というテーマは、一見すると専門的に見える。しかしその先にあるのは、映像制作、災害報道、地域局の連携、クラウド活用、設備共有、そしてネットワーク運用の未来だ。Interop Tokyo 2026のShowNetで行われる「Media over IP」特別企画は、その変化が現実のものになりつつあることを示す場になりそうだ。
FINDERSでは今後も、Interop Tokyo 2026の主催者企画や注目セッション、キーパーソンへの取材を通じて、今年の見どころを紹介していく予定だ。
今年も重要なテーマの一つとして扱われる宇宙関連企画「Internet × Space Summit」については、長年にわたりInterop Tokyo実行委員長を務め、特にこの分野に注力している慶應義塾大学の村井純教授へのインタビュー取材を予定している。
また、AIの普及が進むにつれ、計算資源、電力、冷却設備、通信といったデータセンター周辺の重要性は一段と高まっている。データセンターに関する主催者企画「Data Center Summit」については、日本データセンター協会(JDCC)の副理事長兼運営委員長を務める、東京大学大学院
情報理工学系研究科の江崎浩教授に話を聞く予定だ。
AI時代のインターネットを支える社会インフラは、いままさに変わろうとしている。Interop Tokyo 2026の会場で、ぜひ直に確かめていただきたい。
Interop Tokyo 2026
会期:2026年6月10日(水)~12日(金)
会場:幕張メッセ (国際展示場 展示ホール3~8 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効
公式ホームページ
https://www.interop.jp/