(前編より続く)
メディア上でのブームは少し落ち着いたきらいもあるが、まだまだ進化が続いている「フードテック」。
前回の記事では植物肉や完全食など「代替食」の進化ぶりを中心にお伝えしたが、今回はフードデリバリー、マーケティングツール、調理ロボットなど、業務効率化関連のフードテック最新事情を紹介する。
高見沢徳明
株式会社フレンバシーCTO
大学卒業後金融SEとして9年間勤めたあと、2005年にサイバーエージェントに入社。アメーバ事業部でエンジニアとして複数の案件に従事した後、ウエディングパークへ出向。システム部門のリーダとなりサイトリニューアル、海外ウエディングサイトの立ち上げ、Yahoo!などのアライアンスを担当。その後2012年SXSWに個人で参加。また複数のスタートアップ立ち上げにも参画し、2016年よりフリーランスとなる。現在は株式会社フレンバシーにてベジフードレストランガイドVegewel(ベジウェル)の開発担当。
インド盛り上がるフードデリバリー市場
さて、今フードテックがアツい国といえばインドである。2015年頃に大きな盛り上がりを見せたが、多くのフードテックスタートアップが淘汰されてしまった。しかしここに来て再び盛り返してきたようだ。その中でフードデリバリーサービスもインドではホットなジャンルである。幾つか紹介しよう。
フードデリバリーサービスの覇権争い(Swiggy、Zomato、GoogleAreo)
Swiggy(スウィージー)はインドのフードデリバリーサービス大手。インドではレストラン検索アプリを展開するZomato(ゾマト)もデリバリーに力を入れており2強状態となっている。この2社を合併させようという動きもあるようだが、両社のバリュエーションの違いもあって簡単に進まないらしい。
またバンガロールとムンバイではGoogleインドがAero(アエロ)というデリバリーサービスを行っている。フードデリバリーだけでなく美容師、水道工事や塗装業者など家庭向けサービスもスマートフォンから依頼できるというものだ。
「Googleがデリバリーサービス?」と驚かれる人もいるかもしれないが、すでにアメリカではCostcoやWallmartと提携したGoogle Expressというサービスを展開している。
インドの調査会社、RedSeer(レッドシーア)によると、フードデリバリーを頼む人の数が2016年から2017年にかけて150%も伸びており、頼む人の数が増えればお店側も受け皿として対応せざるを得ないという健全なサイクルが出来つつある。
「客席のない料理店」ことクラウドキッチンの流行(FreshMenu、Box8)
今インドで流行の兆しをみせている「クラウドキッチン」という業態をご存知だろうか。店舗とキッチンはあるが、飲食スペースはなく注文受付は電話かネットのみという、日本で言うところの宅配ピザのようなものだ。
サイバーエージェント系のネット広告会社のマイクロアド・インディア元代表(現パートナービジネス部部長)の佐々木誠氏によると、インド人は自炊するよりも外食する人の方が多いうえ、ホームパーティも頻繁に開かれるため、デリバリーサービスの需要が高いという。
また日本と同様に飲食店が店舗賃料とスタッフ人件費による利益圧迫に悩まされていたことから、クラウドキッチンに転向する店舗が次々表れているという。加えて前述のレストラン検索サービスのゾマトなどがクラウドキッチンの出店支援も手がけており、閉店した店舗から各種機器・什器を安く買い取り、新規店舗に提供するといった動きもあるそうだ。
クラウドキッチンは単なる料理デリバリーサービスに留まることなく、さまざまな進化も遂げている。注文が自社HPだけでなく、Uber EATS的な外部サービスからのオーダーにも対応するのは当たり前。シェフによる本格的な料理がウリのFreshMenu、持ち運びも便利な「Box(弁当)」スタイルで料理を届けてくれるBox8などが人気を博している。
IT化の本命、業務効率化ツール
外食産業はどの国でも慢性的に人手不足。新規参入の容易さに起因する激しい競争環境などもあり、製造・配膳からゴミの廃棄などすべての工程で効率化と低コスト化を図らないと生き残れない。日本でも以前牛丼チェーンがワンオペ(店内に店員が一人しかない状態)が問題になった。当然ここもハイテクが解決すべき領域である。
Posの進化とマーケティングツール化(E la Carte、Upserve)
最近のファミレスや居酒屋ではテーブルに置かれた端末から注文できるお店が増えてきたが、アメリカのE la Carte(Eアラカルト)はこれをさらに進化させたサービスを提供している。
同社はApplebee’s(アップルビーズ)というファミレスを国内に展開しており、テーブルに備え付けられたタブレットは注文だけでなく会計もワンストップで完了できる。クレジットカードを刺して暗証番号を入力すれば、あとは注文するだけ。レジでお会計で並ぶこともないのはとても便利だ。レストラン側としても会計・注文に人を割かずに済むため効率的だ。同社はこのタブレットやシステムを同業他社にも販売している。
こちらはサンフランシスコのRedwoodCityという場所にあるシリコンバレーベンチャーである。
Upserve(アップサーブ)はマーケティング機能が強化されたPosシステム「Breadcrumb(ブレッドクラム)」を提供している。かつてSwipely(スワイプリー)という会社名だったが2016年にリブランドして名称変更し、そのタイミングでBreadcrumb POSを買収した。
ブレッドクラムはタブレット端末になっており、新規メニュー追加、オーダーエントリ端末や在庫管理、従業員管理、トレーニングなどがこれ一つでできる。加えてこれらの情報からの顧客インサイトなどを出したりしてくれるという、飲食店の痒いところに手が届くシステムだ。
飲食店向け予約/顧客台帳管理サービスを提供する日系スタートアップ、トレタの進藤学氏(事業推進部 部長)は、Upserveに非常に注目しているという。「予約台帳は顧客情報と来店実績が取れるので、今後はone to oneマーケティングや実績管理といった、ECサービスで主に展開されてきた施策が多くのリアル店舗で実現できる世界が訪れると思ってます」。 「データが取れることで、飲食店は知らず知らずのうちにマーケティングの領域に入ってい く」(同氏)というところがいかにもフードテックなポイントではないだろうか。
無人サラダショップ(eatsa)
中国で店員のいない無人コンビニが話題になっているが、こちらは店員のいないサラダショップ「eatsa」である。こちらのビデオを参照してほしい。
スマホアプリから自分の好きな具材をカスタマイズして注文。店舗に行くとロッカールームのようなところから受取をするだけというシンプルなスタイルだ。店舗のメンテナンス要員は最低限に抑えられるため、こちらも外食最適化の新しいロールモデルになるかもしれない。
店舗無人化や店舗オペレーションのマーケデータ化による効率化は、今後より重要性を増す分野ではないだろうか。人間による血の通ったサービスを求める層は、将来的には高級店に行くことになるだろうと筆者は考えている。
調理ロボット(Moley)
我々が近未来をイメージする時に必ずロボットが登場する。身の回りの世話をするメイドロボットや、レストランの調理ロボットという世界観はかつてSFでしか見られないものであった。しかしこれらはもはや夢物語ではなくなったかもしれない。ロボット技術の発達とコストの低価格化が進むと人件費の高騰化と交わる日がいつか来るだろう。なぜなら飲食業界において人材の定着化は恒久的な課題であり、宿泊業、飲食サービス業の1年以内離職率は20%(日本の場合)。3年以内の離職率はなんと53%という厚労省の調査結果もある。教育コストがとにかくかかるのである。またエンターテイメントとしてもロボットが作る料理はどんなものなのか興味深い。
今回紹介するのは、ロンドン発のMoley Robotics(モリー・ロボティクス)である。
まずは公式のサイトのトップに表示される映像を見てほしい。キッチン上にある2本のロボットアームが調理から片付けまですべて自動で行ってくれる。
同社は2014年にこのアイデアを発表した。その後数年のプロトタイプ構築、マーケティングリサーチを経ていよいよ18年にプロダクトローンチするとのこと。CEOのマーク・オレニクは肥満・糖尿病の増加といった社会問題から人々の暮らしを改善するのがミッションだとか。実際にどのようなものがリリースされるのか楽しみだ。
3Dフードプリンター(3D Systems、natural machines、XYZprinting)
一時期流行した3Dプリンターは「設計図となる造形データを読み込ませてシリコンを入れれば、その形のものを作ってくれる」ということが評判でウケていた。これを食の世界に転用したのが3Dフードプリンターだ。
しかも、それは例えば「クッキーに絵を描き込む」といった程度のものではなく、材料と造形データさえあれば花でも星でも好きな形の立体的なクッキーを作ってくれる、というものだ。この映像を御覧いただきたい。
3Dフードプリンターで有名な会社といえば米3D Systems(3Dシステムズ)や台湾のXYZprinting(XYZプリンティング)などがあるが、今回はNatural Machines(ナチュラル・マシーンズ)の「FOODINI(フーディニ)」を紹介する。2018年1月時点でまだローンチしていないが、ペースト状にした食品を専用カプセルに入れ、風味・甘さなどを調整して調理できる本格的なフードプリンターだそうだ。
近い将来、電子レンジやオーブン等と同じようにキッチンにこういった3Dフードプリンターが並ぶ日が来るのだろうか。
以上、多くの事例を上げてきたが海外のものも日本でブレークする可能性はあり、AI、IoTなどのテクノロジーの進化に伴って新しい産業を作っていく可能性は大いにある。ぜひ今後も注目していきたい。