BUSINESS | 2026/05/15

巨大産業へ拡大するデータセンター市場
AI前提社会における「ワット・ビット連携」とは

Interop Tokyo 2026 主催者企画「Data Center Summit」が今年も開催
江崎浩氏×大嶋康彰氏 特別対談

文:カトウワタル(FINDERS編集部)

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2026年6月10日(水)から12日(金)まで、千葉・幕張メッセで、国内最大級のインターネットテクノロジーイベント「Interop Tokyo 2026」が開催される。

FINDERSでは先日、Interop Tokyoを運営する株式会社ナノオプト・メディア 代表取締役社長であり、プロデューサーを務める大嶋康彰氏へのインタビューをもとに、今年の見どころを紹介した。

その中でも注目企画として挙げられていたのが、昨年初開催された「Data Center Summit」だ。AIの普及に伴い、計算資源、電力、冷却、通信、セキュリティといったデータセンターを取り巻く要素の重要性は一段と高まっている。今年は昨年以上の広がりを見せており、参加企業は昨年の約2倍規模に達する見込みだという。

本記事では、日本データセンター協会(JDCC) 副理事長兼運営委員長であり、東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授江崎浩氏と、大嶋氏による対談の様子をお伝えする。AI時代におけるデータセンターの拡大、エネルギー問題、冷却技術、ソブリンAI、そして「ワット・ビット連携」まで、データセンターを社会基盤として捉えるための論点が幅広く語られた。

「90%のデータはまだAIが食べていない」

大嶋:先日の3月に開催された「Data Center Japan」での江崎先生の基調講演を改めて拝見して、非常にヒントになる話が多いと感じました。特に印象的だったのが、「90%のデータはまだAIが食べていない」というお話です。

企業側から見れば、その90%のデータをAIに食べさせる方向へ進んでいくと思います。そのとき、データセンター業界や通信を含めたインフラ業界には、どのようなインパクトがあると見ていますか。

江崎:
90%のデータというのは、企業がこれまで大切にしてきた、セキュリティ的にもクリティカルな情報です。それをAIでどう使うかが、これからの競争力に大きく関係してきます。

すでに、「AIに頼むとプログラムが書けてしまう」ことが分かってきています。そう考えると、企業のDXも、ある意味では従来ほど大量のプログラマーを必要とせず進められる、というところが見え始めています。

その90%のデータを使って、本当に新しいビジネスを皆さん目指し始めているわけです。これは、いわゆる生成AIとは少し違う使い方として出てくると思っています。ただ、AIを使わないわけではありません。裏側ではAIが稼働していて、それと会話しながら使っていく。

今起きているのは、インターネットがWebからWebサービスへ進化した時と似ています。裏側でさまざまなシステムが協調しながら動く形になっていく。AIも、AIエージェントと組み合わさる方向へ進んでいます。

大嶋:
便利になる一方で、セキュリティ上の懸念も大きくなりますよね。

江崎:
そうです。今のエージェンティックAIは、使えることは分かっている一方で、セキュリティ上の問題を皆さんすごく怖がっている。そこの攻防戦が、今年から本格化しているという感じではないでしょうか。

大嶋:
その結果として、データがデータセンターや通信インフラに大きな負荷をかけていく。そうすると、データセンター側としては、さらに拠点を増やしていく必要が出てくるわけですよね。

江崎:
半導体もどんどん進歩していますが、それと同時にデータを使う人たちの量も増えています。そうした状況を踏まえると、データセンターは増えざるを得ないし、分散化せざるを得ません。

そのとき、今みんなが問題にしているのはエネルギー、つまり電力です。

東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授の江崎浩氏

データセンターは、もはやナショナルセキュリティの問題

大嶋:日本は資源がない国ですし、エネルギー問題はかなりシビアです。データセンター需要の増加とエネルギー供給は、両立していけるのでしょうか。

江崎:
まさにナショナルセキュリティの話になっています。データセンターは、アルミニウム工場や半導体工場と似ていて、電力消費量が損益に占める割合が非常に大きい。エネルギー価格が大きく変動した瞬間に、経営的に厳しくなる。だから石油依存ではないエネルギーに持っていきたい、という流れが強くなっています。再生可能エネルギーと原子力をちゃんと使わざるを得ない。これは経営的なセキュリティの話でもあるし、国もそれを認識しています。

さらに、富士山噴火や南海トラフの問題もあるので、データセンターは分散せざるを得ません。単純なエンジニアリングの話ではなく、国外との接続インフラや海底ケーブルまで含めた議論になっています。

大嶋:
再生可能エネルギーというと、データセンターの屋根に太陽光を載せるようなイメージを持つ人も多いと思います。

江崎:
屋根につけても、大した量にはならないんです。ちゃんとした大規模な場所が必要です。でも、その場所は都会には確保できない。風力も太陽光も原子力も、結局は都会ではない場所に行かざるを得ません。

送電線のコストと時間も非常に大きい。そうすると、再生可能エネルギーや非化石燃料の発電所の近くに、データセンターを持っていくしかない。これはアメリカでも中国でも起こっていることなので、日本でも同じようになるでしょう。

大嶋:
熱の問題もありますよね。データセンターの稼働が増えると、冷却の問題も大きくなると思います。

江崎:
まさに今、その戦いの真っ最中です。ここ1〜2年で、皆さん水冷化へ移行せざるを得ない状況になってきました。

これまでは空冷システムの最適化が中心でしたが、AIの影響でエネルギー密度と熱密度がものすごく上がった。そうすると、空気では無理になって、水に行かざるを得なくなっています。さらに、熱の問題も含めて直流化の流れもあります。2026年は、直流化と水冷がハイエンドなデータセンターへ本格導入されていく年になると思います。

大嶋:
今年のShowNetにも、液冷サーバー、水冷系の企業が7社ほど入ってきます。以前は1社くらいでしたから、かなり増えていますね。

江崎:
それだけ現実の課題になっているということです。

昨年度の「Data Center Summit」展示エリアの様子

空調、電源、ロボットまでTCP/IP化していく

大嶋:先生の講演では、ファシリティのスマート化の話もありました。

江崎:
まさにInteropがやってきたことが、これからデータセンターで起こると思えばいい。もともと空調は、空調ベンダーが持つ秘密のソフトウェアで制御されていました。それをオープンインターフェースにする。これはインターネットがやってきたことそのものです。

今までプロプライエタリな組み込みOSで動いていた空調や電源、ロボットも、TCP/IPベースへ移行していく。サーバーのホワイトボックス化が起きたように、今度は高圧電源、空調、水冷、ロボットオペレーション監視・管理へ広がっていく。そうなると、サイバーセキュリティをきちんとやらないと危なくなる。施設系エンジニアの領域にも、インターネットエンジニアが深く関わらないと、安心して設計・開発することも、運用することもできません。

今年のShowNetでは800G/1.6T時代の分散・セキュアAIデータセンター、ShowNet初、水冷スイッチと水冷サーバーが示す新しい冷却のかたち、そして"高密度化/自動化への挑戦"と"繋がる当たり前"の共存"などDC事業者には興味深い取り組みも実施される予定だ。

ワット・ビット連携で、電力と通信を一体で考える

大嶋:基調講演では、今回「ワット・ビット連携」をテーマに、さくらインターネットの田中さん、東京電力ホールディングスの岡本さんとお話しされます。今回のお話ともかなりつながっていますよね。

江崎:
そうです。岡本さんは、ずっと一緒にワット・ビット連携を仕込んできた人です。彼は電力を全部分かっている。こちらはビットのデータセンターとネットワークを見てきた。だから、「これを一緒にしたいよね」という話をずっとやってきました。

それから、日本のソブリンクラウド、ソブリンデータセンターを作るというのが、さくらインターネットの田中さんのミッション・ライフワークでもあります。そうすると、データセンター、通信、電力を一体で進めよう、というのが今回の基調講演そのものですね。

大嶋:「ワット・ビット連携」の構想自体を簡単に解説していただいてもよろしいですか。

江崎:
もともとは、「データセンター需要が増えることに対して、電力システムがどう対応するか」という話でした。

データセンターは大きな電力が必要なので、電力インフラと組めるかが勝負になる。電力容量が増えれば送電線が問題になります。でも送電線は、お金も時間もかかる。そうすると、電力会社からすると巨大な需要家が来るわけだから、需要家と連携した方がいい。それがワット・ビットの考え方です。

さらに、電力インフラと通信インフラではコストが大きく違います。送電線より通信回線の方が圧倒的に安い。だったら、電線を引くより通信線を引いた方がいい。エネルギー源の近くにデータセンターなどの需要設備を配置すればいい。GoogleやAmazonのグローバルインフラを見ると、ほぼ同じ構造になっています。つまり、すでに成功しているモデルだった。だから、「日本でもちゃんとやりましょう」というのが、ワット・ビット連携です。

大嶋:
一方、AI活用では「ソブリンAI」という話もあります。そうすると、やはりデータセンターは国内に置くべきだ、という方向にもなるのでしょうか。

江崎:
ソブリンの定義は、「データ統治が自分でできるか」です。結局は「どこなら信用できるか」という話になります。

日本は個人情報保護法のおかげで、「プライベート情報をきちんと守る国」として、海外からかなり高く評価されています。ASEANの政治家や企業幹部、ファンド関係者と話していても、「自国に置くと危ないから、データを日本で守ってほしい」という話はよく出ます。

その接続を海底ケーブルでやれば、インフラ投資としては相対的に安い。この感覚が、だいぶ広がってきたのが今だと思います。

データセンター市場は、社会全体の巨大産業へ

大嶋:データセンター市場の規模感というのは、今後どのくらいまで拡大すると見ていますか。

江崎:
単純に電力消費量で見ると、最初は1%以下だったんです。それが、もう数%になってきている。予測では、20%くらいになるのではないかと言われています。

そうすると、今の10倍以上のマーケットです。投資額もかなり大きい。どこまで含めるかによって数字は変わりますが、社会全体に占める存在感はかなり大きくなると思います。

大嶋:
周辺産業もかなり広がっていきますよね。

江崎:
そうです。バイオエンジニアリングやニューロサイエンスの分野でも、研究開発が完全にデータドリブンになっています。ちゃんとしたデータベースとAIを持っていない会社は厳しくなる。

さらに、工場やラボはロボットオペレーション化されています。同じことが半導体工場でも起きています。そうした先端産業では、データセンター、AI、通信、サイバーセキュリティが一体になっていくと思います。

大嶋:
AI時代のデータセンターは、もはやIT業界だけの話ではなく、社会全体を支える基盤になってきていることがよく分かりました。ぜひ来場者の皆さんにもInterop Tokyo 2026の「Data Center Summit」で、その最前線を感じていただければと思います。本日はありがとうございました。

Interop Tokyo 2026主催者企画「Data Center Summit」では、こうしたAI時代の社会基盤を巡る議論が、展示や講演を通じて多角的に展開される。AI活用の広がりによって、データセンターは単なるITインフラではなく、電力、通信、セキュリティ、産業政策までを含めた巨大な社会基盤へと変化しつつあることが、今回の対談からも見えてきた。

また、展示会場だけでなく、有料プログラムとして開催される「Interop Conference」でも、データセンター関連のセッションが複数予定されている。江崎氏が登壇する「ワット・ビット連携」のセッションをはじめ、さくらインターネット 代表取締役社長 田中邦裕氏によるAI戦略、データセンター運用、電力インフラ、AI時代のクラウド基盤に関する講演なども行われる予定だ。

Interop Tokyo Conference タイムテーブル
https://f2ff.jp/conf/2026/06/session


Interop Tokyo 2026
会期:2026年6月10日(水)~12日(金)
会場:幕張メッセ (国際展示場 展示ホール3~8 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア
参加費:無料(展示会・講演) WEBからの登録制・会期3日間有効

公式ホームページ
https://www.interop.jp/