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ヴィーガンという言葉を耳にすると、人のリアクションは2つに分けられる。1つはひどく嫌がり、面倒くさそうな顔をする。もう1つは、聞いたことはあるが、よくわからない顔をする。日本では、ヴィーガンとしての食生活を実践する人、考え方に理解がある人は少数派だろう。
文:関口雄太
ヴィーガンは病気のリスクを下げるとされている。
ヴィーガンとは、動物性の食品を口にしない食生活のことをいう。肉はもちろん、乳製品なども一切口にせず、野菜や豆を中心にした食事をすることから「絶対菜食主義」と訳される。非常にストイックなベジタリアンと考えると理解しやすい。2017年12月には、フィンランドとスウェーデンのマクドナルドで、「マックヴィーガン」という肉や卵を使わないハンバーガーの販売が、試験的に開始された。
ベジタリアンというと思想や宗教を理由に実践するものだと連想しがちだが、ヴィーガンは食生活の改善を目的としている人が少なくない。アメリカの生物医学・生命科学に関する論文をオンラインでアーカイブしているPMCでは、ヴィーガンの食生活に関する論文も公開されている。論文の中では、よく計画されたヴィーガンとしての食生活は、心臓病や慢性疾患のリスクを軽減するということが記載されている。食生活と健康について不安を持つ人が多いアメリカでは、ヴィーガンの考え方が広まりつつある。イギリスの調査会社グローバルデータが公開した調査結果によると、2018年にはアメリカのヴィーガン人口は600%も増加したという。
日本でヴィーガンという言葉が浸透し始めたのは、2006年に『カフェエイトのヴェジブック』が出版されたあたりから始まるだろう。この書籍ではヴィーガンという生き方、レシピ・食材などが紹介されている。カフェエイトは2000年に南青山にオープンした。ヴェジブックという名前から、ベジタリアンのことを連想してしまうが、内容はヴィーガンの特集である。書籍の出版を機に、ヴィーガンという名前が日本でも徐々に広まってきたのではないか。
ヴィーガンの食生活を続ける苦労
ライフスタイル作家のオリビア・ペター氏は、ヴィーガンを始めてから自身に起こったポジティブな変化について、英インディペンデント紙に語った。
1. 体の調子がよく、今までになかったエネルギーを感じる。
2. 肌の調子がよくなった。
3. 選べる食品が限られているので、スナック菓子など不必要な消費が減った。
メリットが大きいヴィーガンの生活だが、継続することが大変であるという意見もある。『カフェエイトのヴェジブック』の編集を担当した菅付雅信氏は、この書籍を制作した1年間は徹底してヴィーガン生活を実践したが、会食がまったくできなくなったという。1年を経て、ヴィーガンのライフスタイルは徹底しなくなったそうだ。
その徹底した食生活から、ヴィーガンを激しく嫌う人もいる。ホリエモンこと堀江貴文氏が、ツイッターでヴィーガンを「徹底的に潰します」という発言をして炎上したことがあった。
ヴィーガンに対する批判は日本だけではなく、海外でも起こっている。アイルランドのダブリンにある「White Moose Cafe」は、「ヴィーガンを今後一切、店舗から締め出す」という宣言をしている。詳しい経緯は省略されているが、投稿者のカフェオーナーの高圧的な態度からすると、ヴィーガンの来店者と何かトラブルがあったのだろう。
批判が出るということは、今まで存在に気づかれることすらなかったヴィーガンが、社会に認知されてきたということでもある。堀江氏のTwitterアカウントのフォロワー数は、日本でトップクラス。White Moose Cafeのフォロワー数は30万以上(各SNSアカウントを合計した数)なので、影響力は大きい。
未来の食生活という選択肢になるか
ヴィーガンの歴史は浅い。賛否両論あることからわかるように、この食生活が人類にとって正しいのか、今はわからない。しかし、未来志向の食生活の1つとして考えることはできるだろう。ヴィーガンの利点は、動物を殺さないことから配給源に困りづらいこと、動物福祉を考慮している、などが挙げられる。ただし、生活のエネルギーとなる新しい食事は、ヴィーガンに限られたことではない。
たとえば、昆虫食がある。人口増加に伴い、人類が食糧危機に直面する未来は遠くない。国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、世界の人口は2050年になると、90億人に達すると予測されている。現在の世界人口は約76億人。わずか30年で世界全体の人口が10億人以上増えるということだ。食糧不足の対策として、FAOは昆虫食を提案している。
北欧家具店IKEAが運営している研究所「SPACE10」では、珪藻類を原料としたホットドッグや昆虫と野菜で作られたミートボールを製造している。現時点では、IKEAのレストランメニューに並んではいないが、近い将来に導入されるかもしれない。
やや奇抜な内容だが、女優のニコール・キッドマンは、米雑誌『Vanity Fair』の企画で、昆虫を食べる特技を動画で披露した。彼女が披露した得意も、昆虫食が認知されるための1つの方法だったのかもしれない。
ヴィーガンはあくまでも選択肢の1つ
肉を中心に食事をすると元気が出る、野菜を中心にしていると調子がいい、どちらの意見も存在している。統計的なデータを用いて、ヴィーガンで病気が予防できると示す人もいる。しかし、健康にいいという理由だけで、すべての人が実践できるとは限らない。好きなものを食べられないというストレスで続かない人や、卵や乳製品と野菜を中心に食べるオボ・ラクト・ベジタリアンがちょうどいいという人もいるだろう。ヴィーガンだけが健康にいいと言い切る根拠はないはずだ。野菜中心の食事をしたとき、肉中心の食事をしたとき、体の調子を比べて、ちょうどいいバランスを探すのがいいのだろう。