みなさんは中国といえばどのようなイメージをお持ちだろうか。世界最大の人口を擁し、“世界の工場”と言われるほどの高い生産力を誇る一方、公害と粗悪品まみれで、著作権を無視したパクリ品の数々といった文化後進国のような世界を思い浮かべる人もいるだろう。 私もどこまでが真実なのかはよくわからない。
しかし、日本ではまだ実用化されていない世界最高速の磁気浮上式リニアモーターカーが上海にはあるし、西安といえばアジアのIT聖地としてはインドのバンガロールと並び非常に有名である。
その中でも“ハードウェアのシリコンバレー”と言われる深センは最近ますますアツい場所だという話を耳にして、どのくらいスゴイのかを見てみたくなった。たまたまであるが、2017年11月に世界各地で開催されている『MakerFaire』というものづくりのイベントが深センで行われ、この分野に関心の高い日本人同士で視察に行くという話があったので便乗することにした。
高見沢徳明
株式会社フレンバシーCTO
大学卒業後金融SEとして9年間勤めたあと、2005年にサイバーエージェントに入社。アメーバ事業部でエンジニアとして複数の案件に従事した後、ウエディングパークへ出向。システム部門のリーダとなりサイトリニューアル、海外ウエディングサイトの立ち上げ、Yahoo!などのアライアンスを担当。その後2012年SXSWに個人で参加。また複数のスタートアップ立ち上げにも参画し、2016年よりフリーランスとなる。現在は株式会社フレンバシーにてベジフードレストランガイドVegewel(ベジウェル)の開発担当。
中国のシェアサイクルの発展ぶり
この街に来てまず驚いたのが、おびただしい数の自転車が散乱していることである。これらはすべてシェアサイクルだ。30分/1元という破格の金額でどこでも乗り放題だし、どこへ乗り捨ててもOK。だからそこらじゅうに自転車が置いてある。
日本だったらこれは放置自転車として社会問題扱いになってしまうだろう。だが、ここでは“そんなことは瑣末な問題だ”と言わんばかりにあちらこちらに自転車が並び、人々が日々利用している。
シェアサイクルの使い方はこうだ。
1.アプリをスマートフォンにダウンロードする
2.会員登録時にSMSで本人認証が行われる
現在、中国では『小黄車(Ofo)』と『摩拜单車(Mobike)』という2つの大手サービスがしのぎを削っている。だが、Ofoでは日本の電話のSMS認証ではサービスが使えない。登録はできるがサービス開始時にエラー表示が出て使えないのだ。
一方、Mobikeは2017年6月に日本法人が設立されたことも関係しているのか、日本のSMSやカードで普通に利用できた。
なので、以下ではMobikeでの仕組みを紹介する。
3.デポジット3,000円を支払う
デポジットはサービス開始後はいつでも返金可能で、利用代金は次に説明するチケットから利用した分だけ引かれるので、これはあくまで保証金の意味合いでしかない。
4.チケットを購入
チケットは500円、1000円、3000円、5000円といった単位で購入できる。
5.自転車を選ぶ
利用できる自転車は上の写真のようにマップ上に表示されており、簡単に探せる。
6.乗車開始
自転車にはそれぞれQRコードがついており、これをアプリで読み取るとカギが解錠される。
7.停車
乗り終わったらカギをかけるだけでOK。アプリ上で精算処理が行われる。
…とまあこんな感じでひたすら便利である。電車やタクシーを利用するまでもない、ちょっとした場所への交通手段として立派に成立する。
ところで、乗り心地はどうか。ここだけが残念なところで、タイヤはパンクしないようなゴムの塊なので弾力性に欠けるし、サドルも硬いので長時間乗るとちょっとつらい。また、皆が乱暴に扱うのでサドルやハンドルが曲がっているものが多く、まともな自転車を探さなければならないのも面倒だ。
シェアサイクルは他社サービスも含め日本でもすでに存在するが、ほとんどが特定の場所にしか停車できない“ステーション型”である。Mobikeは日本では札幌でもサービスが開始されているが、やはり乗り捨てはできない。
また、シェアサイクル、レンタサイクル事業は通常、行政の関与なしに行うことはできないが、行政がゴーサインを出せる、近隣住民に迷惑をかけない仕組みを整備するためには膨大な時間やコストがかかってしまう。では、なぜ中国では乗り捨て型が可能になっているのだろうか。
中国のMobikeは、大量のGPS情報を活用し効率的な回収ルートを自前で作成しており、その回収ルートから外れる場所はユーザーが移動させるとポイントが付与され、利用料金に充当できるといったインセンティブ設計がなされている。なので、そこら中に放置されているようできちんと必要とされる量が適切な場所に並べられているのだ。非常によくできた設計になっている。
Mobike登録完了してこれから電気街・華強北へ
モバイルペイメントの覇者、ウィーチャットペイ
中国で有名なSNSといえば微信(WeChat)、QQ、新浪微博(Weibo)あたりとなるが、WeChatの勢いが凄い。利用者数はいずれも億人単位だ。
・Wechatの利用者数9.63億人
・QQ の利用者数8.61億人
・Weiboの利用者数3.4億人
WeChatは単なるSNSの枠を超えて、もはや生活の一部になっている。
その最たるものがWeChatPayだ。
日本でこれに近いサービスといえばLINEだが、単なるメッセージ交換だけでなく、WeChatPayではあらゆる料金の支払いができる。
利用の流れは、
1.店舗でモノを購入する
2.支払いの際にWeChatPayアプリで店先にあるバーコードを読み取る
3.支払金額を入力してOKボタンを押す
4.決済完了画面を店舗側に見せる
たったこれだけである。決済に関してはユーザー側のバーコードを店舗側に読み取ってもらうパターンもある。
これは実際にやってみるとビックリするほど簡単だ。ちなみにWeChatPayにはあらかじめ銀行口座にお金をプールしておく必要があり、今回筆者は在中の日本人から間接的に送金してもらうことで手元の金額を確保した。
送金が簡単なので、中国に口座のない人はアカウントある人から入金してもらうと良い
もちろん、“キャッシュレス”というコンセプト自体は特に目新しくはない。日本でもSuicaやPASMOといったモバイルペイメントが普及している。
しかし筆者が何よりも驚いたのは、屋台の点心1個に至るまであらゆるものがこれ一つで決済できることである。むしろ現金払いのほうが不思議な顔をされてしまうほどだ。それほどまでにWeChatPayはこの国の人々の間に浸透している。
ある調査によれば40歳以下の中国人の80%がWeChatPayのアカウントを持っているらしい。ここまでくると、外国人旅行者は中国の通貨にどんな種類があるのかを覚える必要すらなくなってしまう。
こんなものまでWeChatPayで買える
なぜWeChatPayはここまで浸透しているのか。世界的なスマートフォン普及率の高まりも挙げられるだろうが、クレジットカードよりも低い決済手数料も大きなファクターだろう。
クレジットカードの決済手数料は3.0〜3.5%あたりが相場だが、中国のクレジットカード、デビットカードの決済手数料率は1%以下とものすごく安い。これがWeChatPayやAliPayはその規模からほぼゼロなんだとか。
しかもQRコードを読み取って決済する仕組みも高度なセキュリティが施されており、1分間で変わるワンタイムパスワードとなっているということでハッキングを受けるリスクも少ないという。
余談だが、日本で手数料を低く抑えたモバイルペイメントといえば、メルカリによるフリマの売上金で他の出品者の商品を購入できるという制度が挙げられる。売上金は1年間プールしておくことができ、現金化の際に生じてしまう手数料が、電子マネー(売上金)のままであればゼロで買い物を続けられるのだ。
だが一方、この制度が資金決済法に抵触していることが同社の上場を妨げていた要因の一つだったため、2017年11月末からこの期間を90日に短縮することで法的リスクを回避することとなった。
単純な比較はできないが、ここでメルカリが実現しようとしている世界観は、WeChatPayなどのそれと近しいものがあるのではないだろうか。日本でも早く電子マネーによる個人間決済が一般化してほしいと思う。