CULTURE | 2019/03/07

定住ではなく移住。好きな場所に、好きな時に、暮らしを移す「ライトな移住」のススメ

Photo By Shtterstock
今、私にとって「移住」は、公私ともに最大の関心事です。パブリックな話からはじ...

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今、私にとって「移住」は、公私ともに最大の関心事です。

パブリックな話からはじめるなら、2018年に移住事業をスタートしました。移住したい人と、人を呼び込みたい地域とのマッチングサービス「SMOUT(スマウト)」です。

プライベートの方はと言うと、家族で海外移住をするために継続活動中です。

朝から晩まで移住のことを考えていると言っても過言ではない日々を送っている私から見た、日本における「移住の今とこれから」を考えてみたいと思います。

松原佳代 

カヤックLiving代表取締役

お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、編集職を経て、2005年面白法人カヤックに入社。広報およびウェブ事業推進を担当。2015年に独立しスタートアップの広報支援を事業とする(株)ハモニア(現 みずたまラボ)を設立。2017年より現職を兼任し、2018年に移住スカウトサービス「SMOUT」を立ち上げる。
Twitter @kayom

2013年には、移住という言葉は市民権を得ていたか?

いったん2013年に遡ってみます。私が「移住」を決めたのはこの頃で、きっかけは妊娠。子どもには多様なカルチャーに触れて育って欲しい、海外にも暮らして欲しいと思ったのがはじまりでした。

「私も一生に1回ぐらいは海外生活したい。子どもと一緒に行きたい」と思い、試しに夫に「家族で海外で暮らしてみない?」と言ったら「いいね」と即答を得られました。その日から「海外で暮らす」が我が家のひとつのマイルストーンとなりました。

時同じくして、2つの事象が起こります。

(1)尊敬するエンジニアが「海外で子育てをしたい」という理由で会社を退職した。

(2)敬愛する編集者がいきなり神楽坂の高層マンションから長野のトレーラーハウスに母娘2人で引っ越した(1カ月ほどで決めてきた)。

彼らは「移住」という言葉をその時に使わなかったと記憶していますが、仕事以外の目的で、暮らす場所を決めて、移すという行為を決意した。引越しも「場所を選び、暮らしを移す」行為です。それとの違いは“必要に迫られているわけではないのに、自らの意志で”移す行為とでも言いましょうか。必ずしも遠方や田舎に行くことを「移住」とは呼びません。

それまでも時折、何かを引き金として(代表的なのは東日本大震災)「移住」が話題になることはありました。2013年から14年にかけて、ライフスタイルや家族の暮らしのために住む場所を移す、という流れは確実に起こりはじめ、2017年あたりから、「移住」という行為が日常に入り込んできたように思います。

Googleトレンドで検索したところこんな感じ。

(この上昇の背景には安倍内閣による「地域おこし協力隊」をはじめとする、都市部の一極集中緩和や地方創生の政策の影響もあると思います)

2014年以降、徐々に市民権を獲得してきたように見える「移住」というキーワード。おそらく2019年の今、「何かきっかけがあれば移住してみたい」という人が、オフィスの同じ島にもチラホラ現れるようになっているはずです。

ポジショントークのように聞こえるところもあるでしょうから(笑)、ここでパブリックなデータをひとつ紹介。「平成29年度国土交通白書」によると、『三大都市圏に住む各世代のうち特に20代(4人に1人)が、特に地方移住に関心があること(実際に、地方移住を推進する「認定NPO法人ふるさと回帰支援センター」における利用者の年代の推移を見ると、20代の利用者数は10年前の約5倍に増加)』という発表がなされています。

移住のハードルは何によって軽減されるのか?

さて、2018年になり、私は移住事業を立ちあげることになったわけですが、前述の長野に移住した彼女の言葉「3家族知り合いができた場所に移住しようと決めていました」が、ずっと記憶に残っていました。そして自分が移住先を決めようとした時に、最初にとった行動はやはり、その街に知り合いをつくることでした。リアルな話はやはり「人」を通してしかわからない。そして、現地で暮らす人を通してしか、その街の暮らしを知ることはできません。

そんな想いから「人とのつながり」を移住のハードルでいちばん最初に軽減すべきものと仮定し、地域の人と地域に行きたい人とをマッチングする、いわば出会い系のような、移住スカウトサービス「SMOUT」は生まれています。

立ち上げから約半年が経過し、「人の力が人を動かす」ということは証明され、毎週のように日本各地に足を運ぶ人が現れ、結果、移住する人も出てきているのが現状です。

海外という移住のスタイル

次に、海外を視野に入れてみることにしましょう。海外と日本のローカルでは、移住の趣味嗜好はちょっと異なるのでは…?と思っていたわけですが、ビザ問題さえ解消すれば(あるいは働かないと決めれば)、海外も近くなっているのだなぁと思った出来事をひとつ紹介します。

知人が保育園を落ちて、ローカルに移住しようとした結果、旦那様の希望でベルリンに移住することに!えー、そんなに簡単なスイッチ?と思ったわけですが、彼らにとっての移住は、新しいワクワクと挑戦をするためのもので、それはローカルであっても海外であっても一緒なのかもしれません。

ちなみに私が海外移住したとしたら、どのような暮らしになるのかを妄想しています。家族とは、海外で暮らしたとしても、鎌倉には会社もあるし、たくさんの仲間がいるからひとつの拠点になるだろうね、と話したり。鎌倉を国内の拠点としながらも、時にはローカルに数カ月滞在する(関わりたい場所はたくさんあるから年によって異なりそう)、私自身もきっとそういう暮らしをしていくように思うのです。

移住と暮らしはどこへ向かう?

今の移住の流れの背景には「個人」「つながり」「共有」この3つのキーワードがあるのではないでしょうか。

所属する何かに依存することなく「個人」が自ら選択し、行動して社会や環境に変化を起こすことも可能な時代になりつつあります。会社や仕事があったとしても、個人として家族としてこうありたい、という選択し追求した結果、移住につながるケースはよくあります。

そして2つ目の「つながり」は、1所に所属したり、誰かがつくったネットワークを活かすことよりも、個である自分がつくり出した「つながり」を好み、価値を見い出す人が増えていること。このことが、「旅人のように暮らす」「多拠点居住」「二拠点居住」といった暮らし方を生んでいるように思います。

3つ目の「共有」。SNSや、スマホでいつでもどこでもオンラインでつながっていることが当たり前となったことがベースにあるのでしょうが、自分が所有することよりも、つながった誰かと共有・共感したり、時には同じ空間に身をおくことを幸せと感じる価値観が若い人を中心に増えているように感じます。

まとめると個の価値観で選択することが可能になりつつあること、所属や所有よりも、つながりや共有が、暮らしの中に信頼感と安心感を醸成していること、これらが、地域への移住への関心の高まりと関連していると考えています。

好きな場所に。好きな時に暮らしを移す。そんな移住の時代に。

移住と定住は異なります。税収を考えると、住民票を移すか否かは一大事。しかしながら日本の人口が減っていく中、ふるさと納税により都市部の納税額の減少が問題になるように、プラスとマイナスのバランスの話になります。

定住せずとも、数カ月に1度街を訪れたり、1年に数カ月だけ滞在したり、そんなライトな移住。多拠点居住のようなスタイルが、きっと地域と街の活性化の一助にもなるはずです。

SMOUTで移住した女性に先日連絡をとったところ…「長野寒くて! 今、宮古島にいまーす。3月になったら長野に帰ります」。

好きな場所に。好きな時に。暮らしを移す。

多拠点居住、多拠点ワーク、そんな暮らし方が今後は増えていく予感がしています。


SMOUT