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大手の新聞記者でさえ「一人で何十カ国もカバー」というアフリカの情報発信を変える、20代が立ち上げたメディア|長谷川将士(THE GATEWAY)
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  • 2018.11.26
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大手の新聞記者でさえ「一人で何十カ国もカバー」というアフリカの情報発信を変える、20代が立ち上げたメディア|長谷川将士(THE GATEWAY)

ここ数年、日本企業の海外進出の話になると、決まり文句のように「アジアの次はアフリカでしょ!」と言う人があなたの身の回りにもいるだろう。日本からは闇のベールに包まれたようにもみえる最後のフロンティア・アフリカ。その中で最近もっとも強い関心が寄せられていると言われるケニアで20歳から8年間フィールドワークをし、今年ケニアに特化したウェブメディア「THE GATEWAY」を立ち上げたのが長谷川将士氏だ。

長谷川氏によると、ケニアを含むアフリカに関する日本語情報はまだまだ絶対数が少ないという。アフリカにおいては、ビジネス成功者が現れるのが先か、メディアの情報発信によってブームが起こるのが先か、まさに「鶏が先か、卵が先か」というジレンマに陥っているようだが、まずは誰かが行動しなければ始まらない。使命感と情熱で溢れる長谷川氏から、最近のケニアについて幅広い分野の話を聞かせていただいた。

聞き手:米田智彦 文・構成:立石愛香 

長谷川将士(はせがわ まさし)

株式会社グラスルーツウォーカーズ
CEO

二十歳からケニアでフィールドワークを続け、大学院時代に行った調査が共著論文として書籍に掲載。専門はアフリカ政治経済学(特に紛争及び市民暴力)。最近は中間層論と経済成長論の研究を進める。日本のアフリカ報道と学術研究やフィールドワークから見えるアフリカ像が大きく異なることに疑問を抱き、エビデンスに基づいた現場発信型メディアを立ち上げるべく、ケニアで奮闘している。

企業のアフリカ進出意欲は高まる一方なのに、情報の数も質も足りていない

―― 2年前、ナイロビで開催されたTICAD(アフリカ開発会議)で長谷川さんに会って、その時から「メディアを立ち上げたい」と話していましたが、そもそもケニアとの出会いは何だったのですか?

長谷川:元々はアフリカ政治のガバナンスを研究していて、フィールドワーク先としてケニアに訪れたのがきっかけです。

JETROが日本企業に対して「アフリカのどの国が関心が高いか」という調査をしたら、トップは3年連続でケニアなんですよ。実際に企業なり組織がアフリカに進出してくる際、アフリカの中で今一番入りやすい国がケニアだと思っています。それでも日本語で書かれたニュース記事や書籍はまだまだ絶対量が少なく、そしてかなり偏りがあるとも感じます。なのでもっと一般の人たちが触れられるような生の情報を増やしていきたいと思っています。

―― スタッフは全員ケニア人ですか? 何人いるのですか?

長谷川:僕以外は全部ケニア人で、アルバイトも含めて9人体制でやっています。記事はスタッフが英語で作成して、僕が日本語に翻訳しています。もちろん僕も現場を歩き、スラムから大企業、注目スタートアップのオフィスに至るまで足を使って取材し、記事を書いています。

―― 記事はどんな内容が中心なのでしょうか?

長谷川:現地企業やスタートアップの話と、あとは研究者が欲しがるような学術系の話題、展示会の情報などを中心にしようと考えています。もちろん読者の反応次第で取り扱う分野は随時見直していきます。

―― 「まずはこれを読んで欲しい」というような名刺代わりの記事はありますか?

長谷川:基本的に全部思い入れはありますが、特に印象に残っているものとしては、指導教官の高橋基樹教授の記事はかなり反響がありましたね。ケニアに住んでいる人たちの中でも援助関係者とかビジネス関係者が多く読んでくれたそうです。

―― それはどういう内容ですか?

長谷川:アフリカ、ケニアの経済成長や社会構造がどうなっているかという話です。これまで2000年代の経済が好調にブーストしていた時代について語られることが多かったのですが、研究者はそれ以前のアフリカも知っていて、何とか成長させようと悪戦苦闘しても全然成長しなかった、暗黒時代の記憶も鮮明なんです。この差はなぜ生じているのか、さらに今のアフリカはどういった視点で見なきゃいけないのかというところを包括的に議論しています。

――  ビジネスモデルとしてはどういうマネタイズを考えていらっしゃいますか?

長谷川:まずは月額900円の定期購読者500人を何とか獲得したいと考えています。一方でサブの事業として現在もやっているフィールドワーカーとしての調査も引き受けていきます。最近ではJICAの事業評価調査にも関わっており、今ケニアで一番現場に強い会社はウチじゃないかなという気持ちもありますね。

現地でしかわからない、ケニアの政治経済事情

―― 次にケニアが今どんな環境にあるかを聞きたいと思います。まず経済についてはどうなっているんでしょうか?

長谷川:経済はいまだ拡大基調にありますが、その恩恵がなかなか一般の市民に配分されていませんし、徐々にダウントレンドが近づいているようにも感じます。所得データを見ると中間層のレベルが上がっているように見えますが、庶民の可処分所得はインフレと相殺されて横ばいになってしまっているんです。なのでケニアに対して「これからガンガン成長するアツい地域」というイメージを持ったまま日本企業が進出すると、恐らく相当厳しい展開になっていくと思います。

ケニアに限らずですが、アフリカ諸国はまだまだ外国からの投資とか一次資源価格の維持または上昇といった外部要因に左右されがちなものに頼らなければ、アフリカの成長は難しい状態が続いています。自分たちでテクノロジーを発展させ、人的資本を上げて発展していった東アジアとは全然違うんです。持続可能な成長が起こり得る根拠はまだないということを多くの経済学者が指摘しています。

―― 難しいですね。政治はいかがですか?

長谷川:今はかなり安定していますが、5年おきの大統領選挙のたびに国全体が荒れる、消費が落ち込む、あとは生産者のコストがかなり拡大してしまうといったところが周期的、定期的に見られています。

―― 観光はどうですか?

長谷川:観光分野で面白いのは、去年の選挙で情勢が荒れたにも関わらず、GDPベースで史上最高額ぐらいお金を稼いでいるんです。観光分野に関しては、かなり順調だと思います。

―― ケニアの今の一番の問題点はどういったところだとお考えですか?

長谷川:いろいろありますが、まずは民族問題ですね。歴史的に、政治・経済の部分でかなり偏りがあるように配分されてきたので。あとは汚職が国を殺していて、政府が信頼できないところだと思います。規制を利権化してしまうのはもちろん、税金をくすねてしまうことも多々あります。

さらに、政治家が自分の支持基盤だけににお金を投入していって、ほかの地域や民族はどうなるの? といったところは独立以来の課題で、これをどうやって解決しようかということはケニア人すらも答えが見つけられていない状況だと思います。

―― 問題が多く挙げられましたが、一方で長谷川さんが考えるケニアのポジティブな側面はありますか?

長谷川:ここまで否定的なことも言いましたが、経済に勢いがあることは間違いありません。どんどん外国から投資家が入ってきていて、起業も数多く生まれている。スタートアップでは面白いデータがあって、調査会社(Partech Ventures)の報告によれば、2017年に南アで1億7000万ドル、ケニアで1億4000万ドル、ナイジェリアで1億1000万ドルが投資されています。その他アフリカへのスタートアップ投資を集計しても、8000~9000万ドル程度、それだけケニアを含めた三カ国に集中しているということであり、これらの国のスタートアップ市場の盛り上がりを表す数字になっています。それが原動力となって経済が成長している側面もあるので、短期的にはすごく順調だと思います。大統領選は去年に終わっているので、少なくともこれから5年間は比較的安定していると思います。

あと、若者の失業問題は重大な問題ですが、新しいテクノロジーがどんどん入ってきていて、スラムでプログラミングの勉強するような子どもたちも出てきています。まだまだ解決すべき悪い面が多数ある一方、発展の伸びしろも大きいという、この二面性は調査対象としてはかなり面白いです。

―― ケニアの国民性はどんな感じですか?

長谷川:アフリカの中でも、かなりレベルの高い人材が多いという評価は得られています。役所のレベルも、手続きがうまく進まなかったり汚職の問題があるにもかかわらず、それでもほかの国と比較するとかなりレベルが高くスムーズだと言われているんです。

一人の記者が広大なアフリカ諸国を何十カ国もカバー!?

―― ところで、メディアが軌道に乗るまではどうやって収入を得ていこうと考えていますか? 

長谷川:基本的には無収入で、調査の依頼があった時に少しお金を稼いでいるという感じです。

―― 生活は大変ですね。ずっと20代をアフリカに捧げているような人生ですが、そこまで魅入られた理由は、どういったところにあるんでしょうか?

長谷川:僕は北海道出身なんですけど、本当はメディアじゃなくて農業をやってのんびりしていたかったんですよ(笑)。なんでこんなことをやってしまっているのかというと、結局やる人がほかにいないんです。白戸圭一さんという元毎日新聞の方で、今は立命館大学国際関係学部の教授をされている方が「日本のアフリカ情報は大手の新聞記者が一人で何十カ国もカバーしている状況で、それでもなんとか時間を作って、死ぬ気で現場取材に行っている」とおっしゃっていますが、そんな状況が今もまだ続いているんです。JETROみたいな公共団体からの情報発信にも期待したいんですが、やはり予算や人員が限られていて現実的には難しいんですよね。

僕は対象国のマクロとミクロのどっちもかなり理解している自信があって、フィールドワーカーであり、かつ論文も読み込んでいます。だからそんな状況を改善する一助になれると思いますし、なりたいんです。僕が危惧しているのは1970~80年代には日本企業のアフリカ撤退が顕著になり、そこでアフリカとの関係性が断絶した会社も多いという歴史があります。実態を反映しない情報を基にアフリカに進出する企業や日本人が増えてしまったら、同じ歴史を繰り返す可能性が高まるだけです。たぶん僕がやらなかったら、本当に誰もやらないビジネスだと思います。

ケニアでも農作物の直販がブームに

―― 長谷川さんはまだ20代と若いですが、会社を立ち上げられて、経営者としての目標はありますか? 

長谷川:僕たちはビジネスの情報を得たり、現場の家計調査や顧客の情報を得ることが得意なので、もしTHE GATEWAYの事業で余剰資金を集めることができたら、自分たちで他の新しい事業を展開していくことも可能だと考えています。

―― どんな事業を考えているんですか?

長谷川:今注目しているのは農業と牧畜業です。人口が増えているので、その需要が減ることはあり得ません。貿易条件が変わって国内市場に輸入品が流れることも考えられますが、現地生産への移行というのはこれからも続くアフリカのトレンドだと考えています。

―― 農業のフィールドでどんなビジネスを展開する考えですか?

長谷川:ケニアの農作物は、卸売業者のところでものすごく高いマージンが取られていて、マーケットの店頭に並ぶ価格にかなり反映されてしまっています。それで今トレンドになっているのが「直販」です。生産者から直接マーケットに持っていこうと、すでに多くの企業が参入しています。僕がやりたいのは、生産者になって作物を作る方です。それが、恐らく一番手堅い商売になると思いますし、最終的には田舎でのんびりするという夢も叶えたいなと(笑)

―― 売る方じゃなくて作る方をやりたいんですね。今はどんな野菜が売れ筋なんですか?

長谷川:今注目されているのはマッシュルームです。これまでケニアでは作られていなかったんですが、数年前からテクノロジーを導入し、作れるようになりました。研究した大学がもっとマッシュルームを作りましょうと喚起しています。あとはトマトや玉ねぎといった経済レベルの上から下まで皆食べているようなものも需要が底堅いですね。

―― ケニアの飲食業界とかも含めて、食文化はどんな感じなんでしょうか?

長谷川:日本企業のビジネスという意味では、「海外でも人気の日本食を持っていく」みたいなことは厳しいと思います。というのは、わざわざ見たことも食べたこともないものにお金を投資するという、新しいものにチャレンジするというモチベーションもインセンティブも本当に低いんです。僕も500人ぐらいを市街地で調査したことがありますが、お金を沢山も稼いでいる人でさえ「なぜわざわざ外国のものを食べるのか。僕はケニア人だよ、ケニアのものがうまいに決まっているじゃない」という方が相当数いるんですね。

世界から注目が集まるケニアのスタートアップ

―― 長谷川さんの活動領域でもある、ケニアのスタートアップ事情についても教えてください。

長谷川:ナイロビにはシェアオフィスがたくさんできています。代表的なのはGoogleやサムスン電子などとパートナー契約を結んでいる「iHub(アイハブ)」ですが、他にも有名な企業・組織が設立したスペースが結構あります。

 

世界的な認知度を誇るナイロビのコワーキングスペース「iHub

―― 僕もiHubには行きました。その3日後ぐらいにマーク・ザッカーバーグが来て、「ここを買いたい」と言っててびっくりしたんですけど、その後結局買ったんですかね?

長谷川:買ってないです(笑)。だけど、それぐらい魅力的ですよね。

―― 1階にカフェがあって、2階にものづくり工房みたいなものがあって、ITのベンチャー企業が集っている場でした。まだiHubはアツいという扱いなんですか?

長谷川:はい。当時に比べて参入するビジネスマンは増えていると思いますので、これからは成功する企業がどれだけ生まれるかという段階だと思います。

―― 「スラムでプログラミングを学ぶ子どももいる」という話をされていましたが、テクノロジー分野のスタートアップはいかがですか?

長谷川:非常に勢いがあります。最近はルワンダやガーナもテクノロジー系のスタートアップが多く生まれていると言われていますが、どんどんお金を集めて、実際に大企業とコラボレーションできているのはやはりナイロビですね。

―― 有望なスタートアップ企業はありますか?

長谷川:分かりやすいところではWefarmです。これはスマートフォンではなくガラケーを使って自分たちの周りに住んでいる農家の方からアドバイスをもらえるというサービスです。ケニアで50万人、ウガンダで50万人、合計100万人ぐらいのユーザーがいるという話を最近聞きました。

Wefarmの公式サイト。農家の利用者が疑問に思ったことを携帯電話のショートメッセージ(SMS)で送ると、回答ができると思われる別の利用者へ質問が送信され、回答を得られるというサービス。利用は無料。

―― そういった情報は全然日本に伝わってこないので面白いですね。

長谷川:実際に行かないとわからないことはかなり多いですね。他には未経験でもニワトリを育てられるサービスを運営するArinifu Technologiesというものがあります。最新のガジェットやデバイスを使って温度管理や餌とお水をどれだけ与えればいいかなどをわかりやすく教えてくれます。

Arinifu Technologiesの公式サイト。専用ガジェット「Arinfu Digital Smart Brooder」は温度・湿度のリアルタイム監視とSMS送信、装置ブラックアウトの警告、ワクチン接種時期のリマインダなどの機能を有している。

―― そういった起業家たちは高学歴だったりするんですか?

長谷川:人によりますね。高校卒業後、自分でネットに上がっている解説動画を見まくって勉強したという人もいますし、最高学府のナイロビ大学を卒業した人もいて、バックグラウンドは多様です。

―― 銀行やVCなど、資金調達環境はどうでしょうか?

長谷川:外国から入ってくるお金に関しては年々増加傾向にあります。ただ、銀行から借りるというと金利が十何パーセントと非常に高いなので、選択肢としては厳しいですね。ですので外国ないし外資から調達するか、もしくは自分でお金を貯めて事業を始めることが多いですね。

―― 投資してくれるのはどこの国が多いですか? 

長谷川:アメリカ、ヨーロッパ、イスラエルなどが多いですね。日本も、最近はルワンダを拠点に新しいインキュベーターの方がいらっしゃっていますね。日本の商社も大手スタートアップに出資を始め、新たなトレンドが生まれています。

―― そういったベンチャー投資は、どんな目的ですることが多いんでしょうか?

長谷川:そこを一括りにするのは非常に難しいですが、元々アフリカの食糧なり健康なり農業なりといった問題に関心があって、そこを解決しつつもお金が得られそうな、いわゆる社会起業家のような方はかなりアフリカを注視している印象があります。また、現地のパートナー企業としてスタートアップを選び、現地市場にアクセスしようという試みも活発になっています。

―― 2000年代以降、日本でもソーシャルビジネスがある種の流行みたいなことになっていましたが、長谷川さんがやろうとしていることはソーシャルビジネスではないですね?

長谷川:はい。確か米田さんに教えてもらった言葉だと思いますが、「ジャーナリズムとライターの違いはそこに使命があるかないか」であると。今やっていることは僕がやらないで誰がやるんだという使命があってやっているので、僕はたぶんジャーナリズムになると思います。

―― なるほど。今から日本企業がケニアで進出して何かをやれる余地はあると思いますか?

長谷川:僕は巨大にあると思います。日本企業が得意とする製品や技術で勝負ができる余地は十分にあります。そこは、本当に強く強調しておきたいと思います。あとは、商品名を具体的には出せませんが、日本の伝統的な飲食物をこちらで栽培して、それを今度は日本とか別の国に輸入しようという企業もあります。

市場のいいところを見れば、お金が集まりやすく自分たちもお金を稼げるいい循環になっているのは間違いないです。そういったところのいい部分、悪い部分をメディア『THE GATEWAY』を通して冷静に伝えたいですね。

関連記事:アフリカに「新しい物語」をつくる、たったひとつのモチベーション|合田真(日本植物燃料)
https://finders.me/articles.php?id=380


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