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  • 2023.04.13
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量子コンピュータに空飛ぶ巨大航空機…ソフトバンクの先端技術が集うイベント「ギジュツノチカラ」レポート(前編)

取材・文:石井徹 写真:KOBA

自動運転、無人航空機で空から通信、XRで推し活……一見して何の関係もないような技術だが、これらはソフトバンク 先端技術研究所が取り組む注力分野だ。

2023年3月、同研究所として初のオープンハウス「ギジュツノチカラ ADVANCED TECH SHOW 2023」が開催。“少し先の社会”を先取りするかのような研究の数々が公開された。

「ソフトバンクは営業の会社というイメージがあるかもしれない。しかし、技術の会社でもある」と話すのは、先端技術研究所の湧川隆次所長だ。

先端技術研究所はソフトバンクの研究開発部門だ。宮川潤一現社長の就任をきっかけとして、2022年4月に研究所として発足した。通信分野を中心とした先端技術の研究・開発を行っている。

ソフトバンクの研究開発の特徴は、早期の社会実装を見据えて、短い周期で行う点にある。大学などの基礎研究では10年サイクルで進められることが多いのに対し、ソフトバンクの先端技術研究所では、3年サイクルを採用している。

そして、どの研究も最終的には、何らかの形で社会実装を進めることを目標としている。

つまり、大学などの研究開発と比較すると、ソフトバンクは“より地に足のついた”、応用的な研究開発を行っていると言える。同研究所はオープンイノベーションを志向しており、大学や異業種企業とも積極的に連携して、技術開発を加速させている。

3月22日から2日間にわたって開催された本イベントでは、ソフトバンクの先端技術を6つの研究テーマに分類し、発表している。これらの技術の根底にある技術は通信、すなわち「5G」やその次の世代の「Beyond 5G/6G」だ。

【6つの研究テーマ】
(1)自動運転
(2)HAPS
(3)次世代電池
(4)次世代コンテンツ
(5)次世代ネットワーク
(6)量子技術

この記事では6つの研究テーマに沿って、先端技術研究所の“今”をレポートする。

(1)ついに“ドライバーレス”実現の自動運転。「1人で100台を管理する世界」を見据える

2023年4月、道路交通法の改正により自動運転「レベル4」が解禁された。ルートや速度などを限定した環境下において、自動運転車をドライバー無しで走行させることが可能となったのだ。

ついに普及期に入る自動運転。ソフトバンクはその先の社会を見据えて研究開発を行っている。同社が特に注力しているのは、自動運転の運行管理システムだ。

現状の自動運転車の運行管理は、遠隔管理者が自動運転車のカメラ映像を注視して、車両の周囲や乗客に異常が無いかを確認している。この方法で、1人が3台の自動運転車を監視することはできるが、規模の拡大には限界がある。自動運転が当たり前になる社会では、1人で10台から100台をモニターする必要が生じてくる。

イベント当日は、会場の周囲をソフトバンクの自動運転実証実験車両が走行

そこで先端技術研究所では、AIを用いた運行管理の高度化を進めている。車両のセンサーやカメラなどの情報をAIが解析し、人間による対応が必要な場合のみに運行管理者にポップアップで通知するという方式だ。

自動運転をより安全に行うためには、車両周辺や街の変化を捉えるための技術も欠かせない。ソフトバンクでは、「セルラーV2X」や「ダイナミックマップ」といった周辺技術の社会実装に向けた研究を行っている。

セルラーV2Xとは、モバイル通信で車両や街の構造物、歩行者などと通信する技術だ。

会場では同研究所の各担当分野のスタッフによる説明があった

例えば、自動運転中に、クルマの死角から障害物が飛んでくるというシーンを考えてみよう。車両だけではこの物体を認識するのが難しいが、他の位置にある街灯カメラなどで認識して、車両に通知できれば、スピードを落として避けたり、停止したりできるだろう。また、スマホと周囲のクルマが直接通信できれば、事故の抑制につながるかもしれない。

また、車両を複数台並べて、“親ガモと小ガモ”のように走行させる「隊列運行」にもセルラーV2Xは活用できる。例えば、高速道路を走るトラックで、先頭車両だけ運転手が操縦し、他のトラックは自動運転で追尾させるといった方式だ。効率的なBRTシステムも実現できるだろう。

自動運転では「ダイナミックマップ」も欠かせない。走行する空間を立体的に表現した地図で、標識や信号、道路工事の情報などを静的・動的な情報を盛り込めるものだ。このベースとなる地図には、誤差10センチ以下の精度が求められるため、衛星画像から製作するのは難しい。

先端技術研究所は、航空写真を高精度な地図を効率良く製作する技術を持つ韓国NAVER社と協力し、自動運転でも活用できる高精度な地図の製作を進めている。飛行機を数時間飛ばすだけで、東京都港区の約6割の面積に相当する12平方キロを3D地図化することに成功している。この地図を自動運転で活用するだけでなく、ゲームやメタバース空間の背景物として活用できるように、補正する技術の開発も進めている。

(2)無人航空機「HAPS」が6G時代の空に舞う

都市部では高速なスマホの通信が、キャンプや登山に出かけるとつながりづらい。そんな経験は誰しもあることだろう。現代のモバイル通信ネットワークは、スマホなどの人が利用する端末に合わせて設計されている。

一方で、Beyond 5G/6Gの時代には、海上を飛ぶドローンや、山岳地帯を走る自動運転車両など、人のいない場所での通信の需要も増してくる。その解決策の1つとしてソフトバンクが研究しているのが「HAPS(High Altitude Platform Station = 成層圏通信プラットフォーム)」だ。

HAPSは、成層圏から無線通信サービスを提供する通信プラットフォームだ。旅客機の飛行ルートよりも高く、空気の薄い成層圏に無人飛行機を滞空させるHAPSは、1機当たり直径200キロメートルという広い範囲を一気に携帯電話エリア化することが可能だ。

ソフトバンクはHAPSモバイルという子会社を2017年に設立し、無人航空機の開発を米国で進めてきた。2020年には高度6万2500フィート(約19キロメートル)の成層圏での初の試験飛行を行い、HAPSの通信機器と地上のスマホを通信させる試験も成功させている。

HAPSの実用化にあたっては、多くの周辺技術の開発も必要となる。機体は太陽電池とバッテリー、通信機器を搭載し、上昇時のジェット気流やマイナス70度にも達する過酷な環境への耐性が求められる。

RF回転コネクタ

さらにHAPSを用いた通信では、地上のスマホなどに向けて、電波を正確に当てるような技術も求められる。HAPSの機体は、グライダーのように上空で旋回飛行し続けるため、無線アンテナをスマホの正面に向け続けるには、回転させ続ける必要がある。ソフトバンクはHAPSに搭載する通信機器のために、360度回転させる機構を持つ「RF回転コネクタ」を日本企業と開発し、この課題に対処している。

(3)無ければ作る! 軽量&高性能なリチウム金属電池の開発

HAPS用の電池は、軽く、耐久性が高く、機体と通信機器を制御するために十分な入出力性能が要求される。そのような電池は市場に存在しなかったため、ソフトバンクは高効率の電池の開発を目指した。

ソフトバンクが目を付けたのはリチウム金属電池だ。リチウムイオン電池の10倍のエネルギー効率を有するため、同じ大きさで10分の1まで軽量化できる。一方で、リチウム金属電池には残量低下が早まる性質があることや、安全性の確保が難しいという課題もあった。

そこでソフトバンクは、電池メーカーと共同で、まずリチウム金属電池を用いたバッテリーセルを開発し、次に安全回路や性能低下を防ぐ機構を組み込んだ電池パックを共同開発した。

左の青いパックがリチウム金属電池によるサンプル

先端技術研究所では、2021年6月に「ソフトバンク次世代電池Lab.」を開設し、幅広い分野で次世代電池の研究を行っている。市場に流通するリチウムイオン電池や、次世代の電池として注目されている全固体電池などの検証も行っている。

(4)ライブの没入体験を“深化”させるために、スマホと通信ができること

エンターテイメント分野でソフトバンクは、“ライブ体験”にフォーカスした研究開発を行っている。

例えばバーチャルアイドルのライブを行うとき、観客がスマホを振ると出演者を応援する演出が表示されたり、観客のスマホで投票した結果に応じて演出が変わるといった仕掛けが用意されていれば、観客同士の一体感がより高まり、“推し活”がさらに奥深いものになるだろう。

スマホ上でオブジェクトを投げると奥のモニター上にもオブジェクトが投げ込まれる連動システムのデモ

こうした体験の実現には、通信技術が欠かせない。例えば観客が画面内のステージから目をそらさずにスマホを操作できるジェスチャー操作や、観客のステージ内での位置を推定する技術、端末ごとに異なる内部時刻の差を埋める技術が必要となる。先端技術研究所では、こうした実践的な技術を中心として研究開発を進めている。

また、次世代のライブ体験では、メタバース空間やARアバターなど、XRの活用も進むことになる。これらの実現には、立体的な映像を低遅延で表示する技術も求められる。ソフトバンクでは、効率的に映像を処理するために、モバイル網に直結したGPUクラウドの構築や、次世代の映像コーデック技術の活用も行っている。

(5)量子コンピューター時代のセキュリティ、どう確保する?

量子力学の原理を活用し、従来とは全く異なる方法で計算を行う量子コンピューター。IBMが川崎に日本発の拠点を開設するなど、実用化に向けた研究が進められている。ソフトバンクでは、通信事業者として量子コンピューターを活用する方法を検証している。

量子コンピューターには、古典的なコンピューターには解くのが難しいとされる、ある種の数学的課題を高速に処理する能力がある。この影響を受けるのが、インターネットを支える技術の一つとなっている「暗号化」だ。

現代のあらゆる通信は、暗号としてやり取りされており、通信経路の途中で第三者が内容を覗き見たり、なりすまして情報を盗み取ったりできないようになっている。

代表的な暗号化方式の1つのRSA暗号は、素因数分解を用いて解読が実質不可能な暗号を生成している。量子コンピューターは素因数分解を高速で解く能力があるため、将来的に性能が向上すれば、RSA暗号のようなアルゴリズムを高速で解読するような量子コンピューターが登場する可能性もある。

実物の量子コンピューター

そうした量子コンピューター時代に対応するため、新しい暗号方式を検討する必要がある。その技術の方向性は2つある。1つは、量子コンピューターを用いても解くのに時間がかかるほど、複雑な数学的暗号を生成する方法だ。もう1つは量子コンピューターで暗号を生成する「光通信量子暗号」という方法で、この通信方式では観測された時点で情報の内容が変わってしまうため、量子力学的に第三者の解読が困難という特性がある。

ソフトバンクではこの2つの暗号化方式を検証している。将来的には、金融機関などの高度なセキュリティを必要とする組織を対象とした通信サービスへの導入を検討しているという。

(6)モバイル通信を変革する、ソフトバンクの先端技術

5Gやその先、Beyond 5G/6Gの時代において、モバイル通信技術は社会インフラとしての重要性がますます高まっていく。先端技術研究所では、その基盤となる技術に注力している。

4G時代までのモバイル通信は、人が手に持つ端末をネットワークにつなぐことを主眼として開発されてきたが、5G以降は多くのモノがインターネットにつながるIoTの浸透により、ネットワークにつながる端末の数が飛躍的に拡大していくと予想される。また、地上だけでなく、HAPSのように上空からの通信や、海上などの幅広い場所での高速な通信が必要とされるようになる。通信自体の高速化が進み、自動運転などわずかな遅延も抑えて通信するべきユースケースも増えてくる。

モバイル通信の成り立つ仕組みをざっくり大別すると、スマホなどの端末を基地局とつなぐ「無線区間」、アンテナや基地局などで構成される「RAN」と、接続状況を管理しインターネットなどの外部空間へつなげる「コアネットワーク」に分けられる。ソフトバンクの先端技術研究所では、通信事業者の研究開発組織として、この3つの分野での研究開発を進めている。

無線区間で課題となるのは、高速・大容量な通信だ。5Gではミリ波帯を使用し、高速な通信が実用化されたが、Beyond 5G/6Gでは、より高速な周波数帯の活用が期待されている。

電波は高い周波数帯ほど光に近い性質を帯びるようになり、多くの情報量を伝達することができるが、遮蔽物に弱く、安定した通信が行うのが難しくなる。

こうした高い周波数帯で実用的な通信を行うために、先端技術研究所では複数のアプローチを検証している。

その研究の1つが「追従回転アンテナ」だ。300テラヘルツ帯という高い周波数帯での利用が想定されている。その名の通り、アンテナ内部に回転する機構を備えており、端末に対して正面を向き続けることで、電波を散逸させずに高速な通信を実現するというコンセプトだ。

また、光無線通信の活用も検証されている。光には数十キロ先まで届く直進性の高さという長所があるが、極端に障害物に弱く、例えば雨が降っただけで通信性能が下がってしまう。ソフトバンクでは、光無線通信の性質を踏まえた使い方を模索している。例えば離島などの高速エリア化が困難な場所で、晴れた日だけ高速に通信できるような“割り切った”ブロードバンドを提供できないかと検討している。さらに、天候に応じて電波の発射角度を調整するシミュレーターを開発しているという。

普段私たちが意識しない、基地局の先にあるモバイルネットワークの進化も続いている。モバイル通信の電波を制御する「RAN」では、これまで特定の用途に特化した機器が多く稼働してきたが、汎用サーバーで代替する「Open RAN」の動きが広がっている。ソフトバンクでは、米NVIDIA社と、汎用GPUをRANで活用する研究を行っている。GPUを活用することで、通信が少ない時間帯はAIの演算などに当てることができるという。

RANの更に先にある「コアネットワーク」は、モバイル通信の中枢の機能群だ。キャリアごとに数千万台の端末が接続しており、その端末の契約状態を確認したり、端末にどの基地局と通信するかを指令したり、インターネットや他社の携帯電話などとの通信を仲介したりといった機能を備えている。

コアネットワークの内部では、加入者情報を管理するサーバーや、位置登録を管理するサーバー、通話サービス(VoLTE)を提供するサーバーなど、機能ごとに別れた多数のサーバー群が稼働しており、携帯電話との通信が発生するたびに、各機能群での情報のやり取りを行う複雑な仕組みとなっている。

携帯電話のコアネットワークはさかのぼると固定電話時代の“回線交換”に淵源があり、端末の接続状況をネットワーク側が厳密に管理して、高い通信品質を担保するという設計思想の元で作られている。

しかしこの設計は、時に弱点となり得る。各機能群で複雑な多くの通信を行うコアネットワークでは、機能群のうちどれかで障害が発生すると、各機能群がそれぞれ管理するデータベースの中で齟齬が生じ、障害が雪だるま式に拡大してしまうという可能性がある。昨今、通信キャリアの通信障害がしばしば大規模に発生してしまうのは、こうしたコアネットワークの複雑さが背景にある。

そして、今後接続するIoT機器が増えると、さらに管理が難しくなる可能性がある。先端技術研究所では、こうしたコアネットワークの設計を、根本から見直す研究も行っている。ソフトバンクが発表した「プロシージャ型コアネットワーク」は、通販サイトが多数の同時接続をさばけていることに着想を得たコンセプトで、データベースを集約的に管理することで、各機能群のやり取りをシンプルにして、通信全体の負荷を軽減できるという。IoT機器などを対象としたコアネットワークとして、実用化を目指すということだ。

以上が、ソフトバンクの先端技術研究所が「 ADVANCED TECH SHOW 2023」で紹介した研究の概要だ。自動運転や電池、エンターテイメント、そしてモバイル通信など多くの分野に広がる研究だが、いずれも少し先の未来を形作るような実践的な研究となっている。

後日公開する後編では、これら6つの技術をどのように社会実装するかを議論した、8つのスペシャルトークセッションの内容を紹介する。


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