CULTURE | 2022/08/15

「日本の大麻文化」に関する企画展がスペインで開催。海外から注目を集める理由とは?【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(4)

連載4回目です。北米を中心とした「グリーンラッシュ」と言われるほどの大麻産業の活況を背景に、日本でもすでに大麻取締法が変...

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連載4回目です。北米を中心とした「グリーンラッシュ」と言われるほどの大麻産業の活況を背景に、日本でもすでに大麻取締法が変わることが決定し、先日発表された岸田内閣の骨太の方針には「大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を進める」という一文が明記されました。にも関わらず、日本社会の「大麻」という言葉への忌避感の強さは日々感じています。

そのような中、当の日本人にはあまり知られていませんが、海外からの「日本の大麻文化」への反応がビビッドになってきている件について書きたいと思います。

大麻博物館

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日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum/
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

そもそも、ほとんどの日本人が知らない「日本の大麻文化」とは?

「日本の大麻文化」と言っても、ほとんどの方にとっては聞きなれない言葉の組み合わせかもしれません。大麻は縄文時代からほんの70年ほど前まで、日本人の衣食住をさまざまな形で支え、私たちのアイデンティティとも深く関係する農作物でした。

繊維は衣服や縄、釣糸、漁網に。種は食料に。茎は建材に。根や葉は薬用に。幅広い用途で利用し、また、日本人の精神性の根幹と言える神道や仏教とも深く結びついた存在です。厚生労働省がHPに掲載している資料「大麻栽培者数の推移」を見ても、昭和29年(1954年)の時点で約3万7000人の栽培者がいたと記されています。実はその名残は現在もさまざまなところに見つかります。

例えば、国技である相撲の横綱だけが締めることを許されるまわしは大麻の繊維できています。神社では現在もさまざまな形で大麻の繊維「精麻」を用い、伊勢神宮の神札「神宮大麻」は年間800万体以上頒布されています。七味唐辛子や各地の郷土料理には大麻の種子「麻の実」が使われ、地名や人名には「麻」の文字が数多く用いられています。日本の大麻は向精神作用をもたらす成分、THCの含有率が低い繊維型の品種であり、喫煙したという記録が全く見つかっていません。にも関わらず、大麻はかつての日本人にとって非常に象徴的な存在だったと言えます。

私たち大麻博物館は主に、そういった多くの日本人が忘れ去った歴史的な事実を伝える施設です。日本人と大麻の関わりを示す例は上げ出すとキリがありませんが、詳しくは昨年イースト・プレス社より出版した『日本人のための大麻の教科書』という書籍にまとめました。興味ある方はご覧いただけると幸いです。

この「日本の大麻文化」は世界的に見ても、非常に独特なものと言えます。そのため、これまでも海外の方がわざわざ栃木まで来て、ご来館いただくことがしばしばありましたし、海外には数多くある大麻を専門としたメディアから取材していただくこともありました。

近年はグリーンラッシュの余波なのか、明確にそういった機会が増加しています。また、大麻専門メディアだけに留まらず、『New York Times』(クーリエ・ジャポンで掲載された翻訳記事はこちら)、英『Economist』、『BBC』といった世界的な影響力を持つ巨大メディアでも、このトピックを取り上げていただきました。当の日本人の多くが忘れかけている文化について、海外の方に関心を持っていただけるのは非常にありがたいことです。

スペイン・バルセロナで企画展が開催

現在、スペイン・バルセロナではなんと「日本の大麻文化」をテーマとした企画展「Cannabis Japonica」が開催されています。場所は2012年に貴族の宮殿をまるごと改造してつくった大麻博物館(Hash Marihuana & Hemp Museum, Barcelona)。開館には大麻の育種家として世界的に著名であり、オランダにある世界最大の大麻博物館を作ったベン・ドロンカーズ氏とその友人のエド・ロセンタール氏が携わっています。バルセロナの大麻博物館には年間10万人以上の来場者があり、世界中の大麻の歴史、生活史、産業史、植物史に関する6000点以上の展示物があるそうです。羨ましい。

この企画展は、バルセロナの大麻博物館の開館10周年を記念し、2022年5月12日から2023年2月26日までの9か月間にわたって開催されています。私たちも情報提供や資料などの展示物提供といった形で協力させていただきました。ちなみに「大麻博物館」という名称を持つ施設は世界各地に多くあり、私たちがコンタクトしたことがある中でも、ウルグアイ、イタリア、クロアチア、中国といった国にも存在しています。いつか何かの形で、今回のようにコラボレーションできる日が来るといいのですが。

企画展「Cannabis Japonica」が伝えるもの

この企画展「Cannabis Japonica」は、一体どのような内容なのでしょうか。見学に行きたいのは山々なのですが、実は私たちもまだ行けていません。公式サイトを見ると、次のように紹介されています。

「春が近づくと、農村の各家庭では大麻の種を植えました。これは家族が用いる布を織るためでした。また、都市の商人たちがより上質な大麻の繊維を買い求めるため、重要な収入源でもありました。上質な大麻は、夏の着物、武士の衣装、神主の衣服など、最高級の衣服に使われました。大麻の植え付けから機織りまで、大麻に関わる仕事はすべて女性の労働でした。それは明治時代、日本が急速に工業化された時代まで続いたのです」

また、武士の甲冑(当時の武士の甲冑の素材には軽くて丈夫な大麻の紐や縄が使われている)、正岡子規の俳句「日の入りや麻刈るあとの通り雨」(大麻の収穫が終わった夕方の様子が描かれている。「麻」は夏の季語。) 、幸野楳嶺(1844-1895年。日本画家であり、後の京都市立芸術大学である京都府画学校という日本初の近代的な美術の教育機関の設立に関わった)の植物図がキービジュアルとして採用されています。

バルセロナの大麻博物館の広報を務めるフェレンツ・ヤコブス氏

館の広報を務めるフェレンツ・ヤコブス氏に話を聞くと、「Cannabis Japonica展を開催するきっかけは館長でもあるベン・ドロンカーズ氏が2019年、北海道・旭川で開催された産業用大麻の国際会議ASACONのスピーカーとして来日し、多くの日本人と出会ったことです。今回の展示では日本がかつて大麻という植物と深く結びつき、ユニークで美しい文化や衣服を創り出したという事実を明らかにしています。個人的には、日本人が描いた大麻の植物画が大好きです。幸野楳嶺の『千草の花』(1890年)や、植物学者の岩崎灌園の『本草図譜』(1828年)の素晴らしい絵は、まさに傑作だと考えています。2023年からはアムステルダムでも、この企画展を開催します」とのことでした。

Cannabis Japonica公式サイトより。画面右の絵が幸野楳嶺『千草の花』(1890年)

この企画展に合わせ、私たちも「日本の大麻文化」に関する英語版のe-book 「TAIMA - What we call cannabis~An ancient soul, textile, food, medicine and pattern of Japan」を制作しました。また、海外の企業やメディアから興味深い話をいくつかいただいています。これらの動きが「日本の大麻文化」を世界の人々に、そして何より少しでも多くの日本人に認知してもらえるきっかけとなることを願っています。


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