EVENT | 2022/06/27

「キャリアとお金の話もちゃんとする」映像業界のリアルと夢を考えた

株式会社Vook(ヴック)代表の岡本俊太郎
文:赤井大祐(FINDERS編集部)写真:Vook(photographe...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

株式会社Vook(ヴック)代表の岡本俊太郎

文:赤井大祐(FINDERS編集部)写真:Vook(photographer:梅田幸太/大竹大也/加藤雄太/山﨑悠次/山中玲)

映像制作にまつわるさまざまな知識やTipsを紹介するサービスを展開するVook社によるカンファレンス「VIDEOGRAPHERS TOKYO 2022(VGT)」が6月10日、11日の2日間にわたって開催された。初開催が2019年。2020年は新型コロナウイルスの影響によってオンライン開催。2021年は非開催だったため、3年ぶりの"リアルイベント"となった。

本稿では、代表の岡本俊太郎氏へのインタビューを行い、イベント全体に対するテーマ設定や、これから「映像業界が目指していくべき場所」について話を伺った。

また、イベントレポートとして、1日目に行われた『映像の「就業環境」を考える。海外から見た日本。』『#TikTok?#YouTubeショート? 超解剖!2022 最新映像トレンド』に焦点を当てた記事もそれぞれ公開。合わせてご覧いただきたい。

人口が増えるタイミングだからこそ「現実的なキャリアの話を」

――  VGTはどのような意図で開催されたのでしょう?

岡本:まずは自社事業として、Vookというプラットフォームは現在映像制作者向けのTips、技術情報やニュースを中心に発信しているのですが、そこにつながるコミュティを醸成するための役割を持っています。

映像クリエイター、ビデオグラファーと呼ばれる方々はコミュニティを非常に大切にします。Vookはオンラインのサービスではありますが、リアルでのイベントを通じてそういったコミュニティと連動することで、さらにサービスとしての力を発揮できるのではないかと考えています。

―― コミュニティは映像業界に限らず、クリエイターやファンの世界全般において非常に重要視されていますね。

岡本:もう一つ、映像「業界」における意味合いとしては、業界に携わる方々に自分たちのキャリアを考える機会を持ってほしかったんです。

今はYouTubeなどの影響もあって映像業界に流入する人が本当に増えているタイミング。でも映像業界に興味を持ってくれた人たちがどういうキャリアを積んでいくかはあんまり語られていないんですよ。だからそういう場が欲しかったこともあり、今回は「キャリア」をテーマに据えていました。登壇者選びの際も多様なキャリアを提示できることを意識していて、「自分の道を見つけてもらう」ということも裏テーマとして考えていました。

展示ブースでは、カメラをはじめとした撮影関連機材が多数展示された

―― 業界の規模が大きくなるタイミングだからこそ、内部の環境を整えていくのは非常に重要なことですね。

岡本:根底には私がハリウッドに1カ月ぐらい映像制作をしに行ったときの経験があります。そのときの予算は200万円ほど。完全にインディーズの規模感ですよね。だから全部自分でやらなければならなかったんですが、アメリカではこういったやり方を「ビデオグラファースタイル」と呼び、非常に一般的だったりもします。向こうでは、これがベースにあるからこそ、業界が健全に稼働している側面もあるんじゃないかと思ったんです。

―― 「ビデオグラファースタイル」とはどのようなものなのでしょう?

岡本:撮影から編集までを全部自分でやってしまうスタイルです。つまり、スタッフを揃える予算のない人の手法とも言える。機材も立派な映像用のカメラじゃなくて、一眼レフとかです。でもなぜそれができるかと言うと、アメリカで映像制作に携わる方々って基本的にみんなフィルムアカデミーを出ているからなんです。撮影はもちろん、照明や編集といった知識や技術がしっかりとベースラインにある。日本だとどの業界もそうですが、独学が多く、業界に入ってから学びますよね。

―― 加えてビジネス的な能力についてもそういった学校で養っていくものと聞きます。

岡本:なのでビデオグラファースタイルでの制作がキャリアの一歩目にあって、その上で映像ディレクターになる人もいれば、CGをやる人やプロデューサーになる人もいる。ある程度自分の特性や業界のことをわかった上だからこそ、いろいろなキャリアに派生していけると思うんです。

"アジア一"の制作環境を目指して

―― トークセッションは非常に現実的なテーマが並びましたね。

岡本:映像業界のリアルな現状だったり、お金ってちゃんと稼がないといけないよね、みたいなことを話す場が現状あまりないと思ったんです。「こんなクリエイターになりたい」というような目標を見つける、夢の部分も当然大事ですが、同時にリアルな部分をお話しいただくことで、現実的かつ、夢のあるキャリアを見つめてほしいなと思いました。

――  登壇者の皆さんもかなり赤裸々にお話をされていた印象でした。

岡本:そうですね。やっぱり今回のイベントはライブ配信をしていない、クローズドだからこそ話せる部分も多かったと思います。

―― イベントの参加対象に「業界を目指している人」「映像に興味のある人」も含めていたのが印象的でした。これから映像制作をやってみたい人はどんなことから始めたら良いのでしょう?

岡本:YouTubeやTikTok、最近であればメタバースと呼ばれるサービス群など、表現できる場は増えていると思います。映像制作もそれこそスマホがあれば撮影から編集までできますし、そこから始めた方もすでにたくさんいらっしゃるので、興味があるなら今すぐできることをやってみるのが良いと思います。そうすると次のステップも見えてくるはずです。まずはとにかく作ってみることが大切だと思います。

あとはきれいに動画を撮ってみたいということであれば、ちょっと奮発して一眼レフを買ってみるとか。あえて高い機材を買うことで、やるしかないって状況に追い込むというのも一つのきっかけになると思います。

―― 形から入るのも大切ですよね。

展示ブースでは映像制作機器やソフトウェアを開発するさまざまな企業が一同に介した

岡本:あとは本気で学びたいということであれば、VookSchoolやVookのサイトを見てみていただきたいです(笑)。VookSchoolの「ビデオグラファーコース」では、160のカリキュラムを通して映像制作を撮影からアウトプットまで体系的に学べるようになっているので、先程お話したビデオグラファースタイルの基礎をつくる、という側面でも非常に有用であると自負しております。

直近ではVookSchoolの2学科目として開講する、「モーショングラフィックコース」のティザーサイトを6月10日に公開しました。モーショングラフィックは端的に言えば「食える職種」だと思っています。業界の中でも意外と見落とされがちなんですが、現状、ちゃんと技術を持っていれば世界中どこにいようが仕事が集中するような職業なんです。

―― こういったイベントを通じて、映像業界がどういう風に変わっていったら良いとお考えでしょうか?

岡本:海外の人が日本で制作したいと思えるような、アジアで一番制作しやすい環境を目指していきたいです。そしてなによりも、若い人が入ってくる業界にしないといけない。業界に携わる人口を増やしていくことで、その中で天才と呼ばれるような人たちや優れた作品というものが生まれてくると思っています。だからなるべく入口は広げつつ、就業環境を整える。夢は見れるようでありつつ、現実的な生活もちゃんとできるような業界であるべきだと思います。

―― 夢と現実、両方見られることがポイントですね。しかしどの業界もこれを怠っているようにも思います。

岡本:そうですね。Vookではスクールの他にもキャリア事業もやっていて、業界に入ってきてくれた人のキャリアステップをちゃんと作っていきたいと考えています。そして、今回のようなイベントで夢をつくるみたいなこともやる。さまざまな方法で業界に貢献できればと思います。


Vook