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劇団もうひとりの『浅草キッド』【連載】藝人春秋FINDERS(4)
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  • 2022.02.15
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劇団もうひとりの『浅草キッド』【連載】藝人春秋FINDERS(4)

Illustration by Makoto Muranaka

水道橋博士

お笑い芸人

1962年岡山県生れ。ビートたけしに憧れ上京するも、進学した明治大学を4日で中退。弟子入り後、浅草フランス座での地獄の住み込み生活を経て、87年に玉袋筋太郎と漫才コンビ・浅草キッドを結成。90年のテレビ朝日『ザ・テレビ演芸』で10週連続勝ち抜き、92年、テレビ東京『浅草橋ヤング洋品店』で人気を博す。幅広い見識と行動力は芸能界にとどまらず、守備範囲はスポーツ界・政界・財界にまで及ぶ。

今回は、劇団ひとり監督作品のNetflix版『浅草キッド』に関して、若い人にももっと深堀り、「Find」して欲しいと思い立ち、ペンを採りました。

この注目作のここに至るまでの些末な知識、バックボーン、薀蓄を、物語の関係者のひとりとして忘却の川に流さぬように、書き残しておこうと思います。

この作品は、昨年の12月9日に世界191カ国に同時に配信されて話題になり、今も反響に事欠きません。

読者の多くもご覧になったことでしょう。

ちなみにボクはコンビ名から分かる通り、本家・本元・元祖・漫才師版の「浅草キッド」です。

創業36年の老舗「浅草キッド」の小さい方、とでも申し上げましょうか。

そして、20年前の2002年に、この「浅草キッド」の物語の2度目の映像化で、ビートたけし役で主演を務めています。

つまり柳楽優弥に並ぶ「たけし」俳優なのです。

その意味では、もはや……

「劇団もうひとり」

と名乗っても良いのかもしれません。

最初に言っておきますが、ボクはビートたけしの37年来の弟子であり、師匠の歴史に知悉しているウルサ型の先輩として、後輩である「劇団ひとり」に嫉妬していることは、まったくありません。

むしろ、この作品の完成を心待ちにして、配信日に2度鑑賞し、自分が憧れ、人生を賭して辿った道を走馬灯のように思い出し、感涙しました。

そして自分が20年前の映像化の際に、この物語の主役に抜擢され、不本意に演じた役を、再び映像化してくれ、世界中に大傑作と認識される形で、世に出してくれた、劇団ひとり監督に大感謝しています。

もちろん、この文章を読んで、「なんだよ!オマエは映画評論家かよ!」と謗られれば、

「芸人だよ!!馬鹿野郎ォ!!」

とは答えますが──。

劇団ひとりが魅せるビートたけしへの偏愛

さて、この『浅草キッド』配信公開の5日後、12月14日、阿佐ヶ谷ロフトでボクが主催で開催しているイベント『アサヤン』(阿佐ヶ谷ヤング洋品店)にゲストして劇団ひとり監督を迎えました。

知らない人も多くなっているので、説明しておきますと、劇団ひとりは、1977年生まれで、現在44歳のピン芸人ですが、高校2年生の時に日本テレビ『天才・たけしの元気が出るTV』の「お笑い甲子園」のコーナーで芸人デビューしているので、正式に「たけしチルドレン」のひとりだと思います。

その後、所属事務所は、たけしさんが以前に籍をおいた太田プロに在籍しており、芸能界の系譜的にも、ビートたけし派閥、たけし影響下芸人と言って過言ないでしょう。

さて、実在する日本で最も有名人であるビートたけしに、役者が、どう役柄を本人に近づけるのかは、実録映画における至難の技だと思います。

あえてまったく本物に似せていかないのもありますが、その点でこの映画は画期的です。

完全コピーという形で、名優・柳楽優弥が演じています。

弟子のボクからしても、その憑依した演技は完璧なのですが、バイク事故後の後遺症で、たけしさんの左右の目の瞬きが違うところまで、再現されていて舌を巻いてしまいます。

ここまで、たけし像のアプローチを徹底しているのも、劇団ひとりが監督だからこそです。

劇団ひとりのビートたけしへの偏愛は、フジテレビのコント番組『リチャードホール』(2004年〜2005年)に於いて、ビートたけしをオマージュ、モノマネしたキャラ「尾藤武」演じており、あの時点でも、憑依型、思想モノマネの領域に入っていました。

しかし、この作品では、柳楽優弥のビートたけし憑依の指導には、たけしモノマネの先駆者であり、80年代、90年代、2000年代以降などの特徴を全て演じきれている、松村邦洋を撮影現場に呼び、マン・ツー・マンで柳楽優弥にたけし声色を指導しています。

そこへ至る経緯は松村邦洋くんがENTAME nextというニュースサイトでインタビューに答えていますので、是非読んでみて下さい。

また、現在のビートたけしの顔の造形には、CGではなく、特殊メイクを用いています。

それも、劇団ひとりは、長年司会を務めるテレビ東京『ゴッドタン』の年末恒例企画の『マジ歌選手権』のトリで、完全コピーの特殊メイクを毎年披露してきました。

そのテレビチームが、今回の特殊メイクを担当したとのことなので、ある意味、このメイクも、劇団ひとりの芸の集大成でもあります。

さて、ボクがアサヤンで最初に、劇団ひとりに投げかけた質問はこちらです。

Netflixの配信日の12月9日は、フライデー襲撃事件のちょうど35周年という符号です。

1986年12月9日──。

人気絶頂だったビートたけしが、たけし軍団を引き連れて、講談社の写真誌『フライデー』編集部に殴り込み、現行犯逮捕されたのは、昭和芸能史上に残る大事件でした。

この日のLIVEで35周年の配信であることを、監督本人に狙ったのか、本人に当てたところ、「偶然ですよ!」とのこと。「もしかしたら、Netflix側は狙ったのかも」とも答えていました。

そして、日本映画の最大の映画化不可能事件である『フライデー襲撃事件』の監督オファーがあったこともライブで吐露しています。

長くたけしさんを演じる人がいないから、映画化不可能であったこの作品ですが、柳楽優弥なら誰も文句はでないでしょう。

ちなみに、浅草キッドの自叙伝でもあり、修行時代の浅草フランス座を描いた、『キッドのもと』(学研プラス/筑摩書房)も映画脚本は向井康介の筆で完成しておりましたが、たけし役が見つからず、頓挫していました。

いつか、ラインナップにあげて欲しいものです。

次ページ:「浅草キッド」にまつわる物語の数々

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