CULTURE | 2021/11/16

ハラミちゃんが目指すは「タレント化」か「プロのピアニスト」か。紅白内定でも難しさが増すピアノ系YouTuberの現状【連載】テレビの窓から(12)

イラスト:IKUMA

木村隆志
コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者
「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎...

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イラスト:IKUMA

木村隆志

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎月30本超のコラムを寄稿するほか、テレビ・ウェブ・雑誌などにメディア出演し、制作現場への情報提供もしている。人間関係コンサルタントや著名人専門のインタビュアーとしても活動中。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

ハラミちゃんの人気が落ちている?

「『第72回NHK紅白歌合戦』への出演が内定した」と報じられたとき、ネット上には好意的な声と同等以上に「なぜ?」「違う」などの反応が見られた。それも無理はない。この数か月間、「ハラミちゃんは本当に人気があるのか?」「ピアノはどれくらいうまいのか?」という声が飛んでいたからだ。

その魅力は即興演奏にあることは言うまでもないだろう。リクエストされた曲を即興でアレンジし、演奏するスタイルはエンタメ性が高いだけでなく、現場にドラマティックな一体感を生み出してきた。とりわけ「知らなかった曲を、その場で聴いて、すぐに演奏する」という絶対音感を生かしたパフォーマンスはドキュメント要素が色濃く、ネットだけでなくテレビとの相性もいい。

彼女本人に目を向けても、常に笑顔で穏やかな物腰、ピアニストになれず、会社員となるも体調を崩して休職した過去の挫折、「ハラミちゃん」という脱力感を誘う名前など、好感度の高いものばかり。「敷居の高い印象のピアノを身近なものにした」という点も含めて、「まだまだ人気は落ちないだろう」と見るのが自然かもしれない。

さらにテレビマンの目線では、即興演奏の臨場感、ストリート系らしい躍動感のある弾き方、YouTube登録者数185万人・総再生回数4億2千万回超など、評価する材料に事欠かない。実際、『世界一受けたい授業!』『今夜くらべてみました』らに出演が目立つ日本テレビを中心にハラミちゃんはまだまだ評価されている。

しかし、YouTubeではこれまで100万回を超える動画も多かったが、このところ10万回台が大半を占めるほど下がってしまった。さらにハラミちゃんの関連ニュースがアップされると、気の毒になるほど辛らつなコメントが多くを占めるようになっている。

ピアノ系YouTuberの戦いが激化

ハラミちゃんへの厳しいコメントが目立つようになった背景には、ピアノ系YouTuberの充実とハイレベルがある。ネット上にハラミちゃんの名前が出るたびに「○○のほうがうまい」「○○の方が好き」などのコメントが書き込まれてしまうのだ。その主な顔ぶれは、けいちゃん、まなまる、よみぃ、かてぃん、まらしぃ、CANACANA family……まだまだいる。

だからなのか、検索エンジンに「ハラミちゃん ピアノ」と入力すると、予測変換に表示されるのは「レベル」「下手」「苦手」などの演奏にかかわるフレーズ。ふだんのコメントにも「雑」という辛らつなフレーズが目立ち、他のピアノ系YouTuberと比べてそう感じてしまうようなのだ。それだけユーザーのピアノ系YouTuberを見る目がシビアになっているし、これは裏を返せば、テレビマンたちをしのぐものを持っているということかもしれない。

そのピアノ系YouTuberを見る目のギャップがハラミちゃんに対する評価の差に直結。番組出演が続いたことで、「なぜ彼女だけあんなに出ているのか」「他のYouTuberも出してほしい」などの不信感が芽生えてしまったようなのだ。まさに「出る杭は打たれる」という状態だが、これはテレビの作り手たちがハラミちゃんに頼りすぎて、他のピアノ系YouTuberを使いこなせていないからであり、彼女に非はない。

ただ、そんなテレビの作り手たちも、このところハラミちゃんの扱いに困りはじめている。

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