LIFE STYLE | 2021/09/27

「中国は何でも監視で息苦しい」は本当か?深センと北京の往復で考えた都市と規制の関係【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(16)

北京のバーで行われている、お酒を飲みながらテーマに沿った絵を次々に書く「Drink & Draw」イベント。こう...

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北京のバーで行われている、お酒を飲みながらテーマに沿った絵を次々に書く「Drink & Draw」イベント。こういう面白いイベントがあるのは文化人の集まる北京ならではだが、管理されすぎた街は息苦しい

中国は長い歴史からも多くの人口からも、さまざまな文化や文明を生み出してきた。現在の首都である北京は、文化に満ちた場所でありつつ、首都ならではの管理や規制が厳しい場所でもある。管理と規制は、どちらも社会に必要で、一つのゴールに落ち着くものではない。

高須正和

Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development

テクノロジー愛好家を中心に中国広東省の深圳でNico-Tech Shenzhenコミュニティを立ち上げ(2014年)。以後、経済研究者・投資家・起業家、そして中国側のインキュベータなどが参加する、複数の専門性が共同して問題を解くコミュニティとして活動している。
早稲田ビジネススクール「深圳の産業集積とマスイノベーション」担当非常勤講師。
著書に「メイカーズのエコシステム」(2016年)訳書に「ハードウェアハッカー」(2018年)
共著に「東アジアのイノベーション」(2019年)など
Twitter:@tks

実験都市の深セン、規制先行の北京

筆者が住んでいる深センは去年ようやく市政40年を迎えた、中国で最も新しい都市だ。3000年の歴史を誇る首都の北京からここ深センまでは飛行機で3時間以上かかり、東京から沖縄より遠い。

中国最初の経済特区であり、改革開放のスタート地点でもある深センは、若い移民の集まる人口都市であるという特性から、サンドボックス的にさまざまな新しい政策やビジネスが導入される。例えば筆者の新型コロナワクチン接種はいきなりスマホアプリベースの手続きが始まり、受付初日はまったく動かなかったシステムが、数日経つと問題なく動くようになっていた。こうした「走りながら考える」アプローチはいかにも深センらしい。

一方、北京に出張すると毎回深センとの違いに驚かされる。

首都である北京は深センと違い、新しい試みは他の都市で試したあと、間違いがなくなって最後に取り入れられる。お役所仕事的な手続きもほかより多く、厳格に履行される。たとえば、北京中心部では路上の屋台を見かけなくなってもうずいぶん経っている。わざとらしく何箇所か旧市街が残されているが、そこで出されるのはショッピングモール価格の食べ物だ。

北京の中心部は区画整理が進み、地価も高騰し、ショッピングモール内の飲食店以外は生き残りが難しくなってきている。筆者もアポイントで市内のスタートアップ企業に向かうたび、アポ間の時間調整ができるようなカフェや休憩場所がないことに難儀した。

ショッピングモールが密集する区画や芸術地区など、視界の中がカフェばかりになるような区画がある一方で、中規模の企業が密集する工業団地は時間が潰せる場所がまったくない。

管理されたスタートアップタウンに閑古鳥が鳴く

かつて北京大学、清華大学すぐそばの中関村は北京のパソコン街として有名だったが、北京中心部の地価高騰により電気街としてはほぼ壊滅している。その後中関村には政府が大幅なテコ入れによりスタートアップタウンが誕生したが、なかなか盛り上がらず苦戦している。

北京には清華大学、北京大学などの優秀な大学も、バイドゥなどの大企業も多く、大学発のスタートアップや大企業同士の連携によるスタートアップ誕生はうまくいっている。一方で深センに見られる、一発当てたい若者が闇雲に起業するような活動には向いていない。

北京政府肝いりのスタートアップタウン中関村。採算が合わず廃業したテナントも多い

中関村のスタートアップタウンも、一階がカフェ、上にコワーキングスペース、そしてベンチャーキャピタルと、ビルの構造は深センやアメリカ・ベイエリアのスタートアップタウンそっくりだが、街の構造が違うと、同じような成功は難しい。

もちろん北京にも深センにもそれぞれ向いたビジネスの形がある。政府との付き合いが大きくなる、教育やエネルギーの仕事なら北京でやるべきだし、外資との付き合いなら上海、製造業なら深センだ。それぞれの都市で、知人の中国人たちはそれに見合った仕事についている。

ハードウェアスタートアップを北京で起業している例外的な友人もいるが、彼は他国の大学などといつもリモートで仕事をしていて、プロダクト製造のためにしょっちゅう深センに出張しながら、上記のスタートアップタウンで開発を続けている。なぜそうしているかというと、北京で珍しいハードウェアスタートアップであることが、資金調達のしやすさに結びついているからだ。深センではハードウェアスタートアップが多いぶん埋もれるリスクもあり、急成長を求められる。

僕は好きで深センに住んでいるので肩入れしたくなるが、都市のように複雑なものは、絶対評価的な比較をするのは不可能だ。

次ページ:規制緩和で成功した中国。社会をコントロールするのは難しい

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