文:岩見旦
生まれてきた赤ちゃんは幸せな家庭で育てられるべきだが、すべての赤ちゃんがそのような環境で誕生できるわけではない。
20年前に生まれてすぐ捨てられた赤ちゃんと、それを発見した男性カップルのストーリーが注目を集めている。
男性カップルが拾った赤ちゃんを養子縁組
2000年8月、ダニー・スチュワートさん(当時35歳)は、パートナーのピート・マーキュリオさん(当時32歳)とのディナーのため、ニューヨークの地下鉄の駅にいた。ダニーさんは壁に人形が置いてあると思ったが、その人形の足が動いた時、赤ちゃんだと気付き、すぐに警察に連絡した。
スチュワートさんは「この赤ちゃんは服を着ていなくて、スウェットにくるまれていました。へその緒がまだ残っていたので、まだ生まれたばかりでした」と『BCC』のインタビューに答えている。マーキュリオさんも、赤ちゃんの搬送中に急いで駆けつけた。
その後、スチュワートさんは家庭裁判所の公聴会に出席して、その赤ちゃんを発見したことを証言することに。すると、2000年12月の審理で、スチュワートさんは裁判官から突然「この子を養子に引き取ることに興味はありますか?」と尋ねられた。法廷が緊張に包まれる中、スチュワートさんは「はい。でも、そんな簡単に物事は進まないと思います」と答えた。裁判官は「大丈夫ですよ」と微笑んだ。
「私はそれまで養子縁組を考えたことはありませんでした。でも提案された時、その考えを止めることはできませんでした。縁を感じました。これは贈り物であると」とスチュワートさんは振り返る。一方で、マーキュリオさんはこの申し出を飲み込むのに時間がかかっていた。この赤ちゃんを迎え入れたいと思いつつも、現実的に考えて不安に感じていたのだ。
ところが、マーキュリオさんは初めてその赤ちゃんを抱いた時、「一瞬にして温かい波が押し寄せました」と感じ、赤ちゃんもマーキュリオさんの指を、手のひらで握ったという。2人はこの赤ちゃんをケビンと名付け、2002年12月に正式に養子に迎え入れた。2011年には、ニューヨーク州が同性婚を合法化したことを受け、2人は法的に結ばれた。結婚を認可したのは、ケビン君の養子縁組を提案した裁判官だ。
20年前に拾われた赤ちゃんの現在は
2人がケビン君を拾って20年経った現在、ケビン君は大学生になり、数学とコンピューターサイエンスを学んでいる。身長は180センチを超え、両親より大きく成長した。「ケビンのことを本当に尊敬しています」とマーキュリオさん。
マーキュリオさんは昨年、スチュワートさんとともにケビン君の両親になるまでの経緯を綴った絵本『Our Subway Baby』を出版。文学賞の最終選考に残るなど、評価を集めた。
生まれた直後に大きな不幸に直面したケビン君。しかし、それ以上に大きな幸せを掴んだに違いない。温かい家庭を築いた3人の出会いは、まさに運命だったのだろう。