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「日本はなぜ冷戦時代に繁栄できたか」から考える、イデオロギー対立の無意味さ【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(10)
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  • 2020.12.30
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「日本はなぜ冷戦時代に繁栄できたか」から考える、イデオロギー対立の無意味さ【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(10)

オッド・アルネ・ウェスタッド『冷戦 ワールド・ヒストリー』

倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

1978年神戸市生まれ。兵庫県立神戸高校、京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感、その探求を単身スタートさせる。まずは「今を生きる日本人の全体像」を過不足なく体験として知るため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、時にはカルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働くフィールドワークを実行後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングプロジェクトのかたわら、「個人の人生戦略コンサルティング」の中で、当初は誰もに不可能と言われたエコ系技術新事業創成や、ニートの社会再参加、元小学校教員がはじめた塾がキャンセル待ちが続出する大盛況となるなど、幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。アマゾンKDPより「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」、星海社新書より『21世紀の薩長同盟を結べ』、晶文社より『日本がアメリカに勝つ方法』発売中。

2020年もあと2日となってしまいましたが、今年のような「あらゆることが大激変期間」の時には、毎日目まぐるしく状況が変わり次々とニュースが消費されてしまう泥沼の中で、自分のいる位置をどう理解していいのか、わからなくなってしまうこともしばしばです。

結果として、状況がまったく変わってしまっているにも関わらず昔のままのやり方で行動してしまう、例えるなら冬になっているのにも気づかずまだ夏服を着ていて風邪をひくようなトラブルに出会いやすい。

そういう時には、毎日のニュースから少し離れて、「もっと長期の、そして広い視野」に触れてみることが役立ったりします。

私は今月、オッド・アルネ・ウェスタッドという北欧出身の歴史家による『冷戦・ワールドヒストリー』というやたら分厚い歴史の本を読んでいたのですが、本当に面白くて、久しぶりにいっぱいメモを取ったり、気になった話題を色々と調べたりしているうちに半月ぐらいかかってしまいました。

「あまりに近視眼的に次々ニュースに飛びついて評論する」世界から離れてドップリと浸かってみることで、かなり新しい世界の見方を手に入れたように思っています。

結果として、

・日本のコロナ対策はなぜ良い政策までも批判され、これほど混乱せずにはいられないのか

・米中冷戦が時代の基調となる中で、日本が自分たちのコアの価値を活かしていくにはどうすればいいのか?

・日韓関係や国内の差別問題といった課題に対する新しい方向性

…といったものへの大きな示唆を得られたと思っています。

今回の記事は、この本の紹介とともに、「100年、200年単位で歴史と人類社会を見てみる」旅に読者の皆様をお連れします。

この記事とともに、『冷戦・ワールドヒストリー』もぜひ読んでみてください。私はめっちゃ時間かけて派生の調べ物もしながら読みましたが、この記事をお供に読むなら、本を読むのに慣れた人ならお正月休み中にさらりと読み終えられると思います。もちろんこの記事単体でも意味のあるものにしたいと思っています。

1:日韓関係ひとつとっても「歴史の転換点」を理解する必要がある

DHCの公式サイトより

ちょっと小ネタから入るんですが、年末に化粧品のDHC社が「直球の韓国人差別」的な文章を公式サイトで発表してSNSで炎上していたことがありました(また例によって一瞬で流れ去って誰も覚えていないみたいなことになりそうですが)。

ただ、この文章、ネットでの「悪評」を一度忘れて全文を読んでみると、前半はそれほど悪い感じはしないんですよね。

そりゃ上品か下品かで言ったら下品だと感じる人も多いでしょうが、大枠では昔気質の老経営者が自分の言葉で「ウチはちゃんと高品質なものを良心的な価格で売ろうと頑張っている会社なんだ」というアピールとして見れば、それほど変なものではない。こういうのが好きな人もいるよね、で済む話なんですよ。

しかし後半になって、

「サントリーのCMタレントはほぼ全員がコリアン系日本人で、ネットではチョントリーと揶揄されている」

「DHCは起用タレントをはじめ、すべてが純粋な日本企業である」

…みたいな話が始まって、あまりの唐突さに相当に保守派な日本人ですら理解不能なレベルになっている。古くからのネット右翼さんとサントリーとの間には色々と因縁があるそうなんですが、今のネットユーザーでその事を知っている人はむしろ少数派でしょう。

たぶん、このDHC会長の頭の中では、「前半部分」こそが言いたいことで、それを「表現する」にあたってこの人の中では「韓国人と関係ある会社とは違って俺たちは日本人は!」みたいな差別主義と結びつくことが必須になってしまっているのだと私は思います。

これを「差別主義」と呼ぶならまあまったくその通りですし、なんとかしなくちゃいけないわけですが、問題は「彼らが前半部分を大事にしたい気持ち」を無視する形で非難だけが大きくなると、「余計にこじらせてさらなる差別に走る層が出てきてしまう」ということです。

これは「批判してはいけない」とか「無理やりにでも対話が必要」という話ではなく、ダメなものはダメだと言っていくことは必要です。

DHC社の文章をネットの風評に頼らず読んでみると、相当に保守派な日本人でも「はぁ? なんで突然韓国人の話が出てくるの?」と思うシロモノなので、ちゃんと包囲していけば「こういうのはやめよう」というコンセンサスを根付かせることは十分可能だと思います。

要するに今のままなら「変な保守派の爺さんの世迷い言」で徐々に退場させていけば済む話ですが、さらに「差別問題」としてだけ押し込んでいくと、「“この文章の前半”の価値観を大切にしたい民衆の思い」を逆側に押しやって余計に逆効果になりかねない。

つまり、「前半部分」を否定されたくないという民衆の気持ちに無理解でいるとしっぺ返しを食らうということなんですね。こちらの方は多くの日本人の共感を呼ぶ内容なので、ただ「後半部分」だけをネタに否定しにかかると、もともとなかった反発心を広く根付かせてしまうことにもなる。

2:「20世紀的イデオロギー対立という病」をいかに克服できるかが大事な時代

この問題一つとっても、大事なのは

「イデオロギー対立にいかに持ち込まずにいられるか」

だということです。

DHC社の文章の前半部分、

「無駄に高い値段で売っている会社と違ってウチは有効成分の分量と値段にあくまでこだわる会社なんだ。そういう方針でやっていくことが“良いこと”なのだ」

というメッセージを表現するにあたって、人種を持ち出す必要は全然ない。

前半部分だけで言えば、こういう志向に共感する韓国人もいれば、反発する日本人もいるでしょう。「こういう言い方」じゃないもっと広告的に練られたメッセージにすれば、それこそ「職人気質の会社精神カッコいい!」ってなってもおかしくない可能性はある。

そういう「新しい広告メッセージのあり方」を考えてあげることで、DHC社が「大事にしたいこと」と「差別主義」を分離すること…が今必要なことなわけです。

しかし現状では、DHC社の会長氏の頭の中では「その良さ」は今の社会の中で風前の灯に崩壊させられようとしている!という危機感を抱いているわけなので、単に「差別問題」として撤回を強要するだけでは余計に反発が生まれます。

むしろ、彼らの美点を大事に守り育てて売っていくにあたって、韓国人差別をする必要はないのだ…という視点を広げていくことで、単なる「反差別」を押し込むだけでは得られない「相互理解」の可能性も生まれてくるでしょう。

前段としての小ネタが長くなりましたが、今回紹介したいウェスタッド氏の『冷戦 ワールド・ヒストリー』は、

こういった「日々のニュースで目にする解決不能に見える対立・罵り合い」が、「20世紀型イデオロギー同士の対立という病」によって引き起こされており、「根治」のためにはその「真因」まで遡らなくてはいけない

ということを教えてくれる名著でした。

次ページ 3:北欧人的な客観性が、「誰かをワルモノにしておしまい」ではない視点を生んだ名著

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