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創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(1)】
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  • 2020.12.14
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創業から20年。「スマイルズのアーティスティックな事業」はなぜ生き残ってこれたのか。遠山正道インタビュー【ビジネスとアート、アートのビジネス(1)】

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※本記事は2019年11月に行ったインタビューを基に、一部修正を行っております

「ビジネスとアート」という言葉から真っ先に思い浮かぶ会社は、スマイルズだろう。食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」をはじめ、「世の中の体温をあげる」事業を数多く手がけるスマイルズは、企業とアートの結びつきという点においても、独自の道のりを切り開いてきた。よく知られているように、代表の遠山正道氏自身、三菱商事の社員時代に開いた絵の個展を一つのきっかけにして現在の地歩がある。

そんなスマイルズは、2020年に設立20周年を迎えた。注目すべきはその「継続性」だ。多くのプロジェクトを撤退させることなく継続し、さらに現在形で様々なビジネスを生み出している。しかも「The Chain Museum」プロジェクトに代表されるように、新規事業において、アートとの関わりはより密接になってきた。

スマイルズの描く「ビジネスとアート」のビジョンについて、遠山氏に話を伺った。

聞き手:神保勇揮、中島晴矢 文・構成:中島晴矢 写真:KOBA

多種多様なビジネスを展開するスマイルズが、既存事業を「止めない」理由

ーー 数多くの「アーティスティックな事業」を展開してきたスマイルズですが、まずストレートに、遠山社長は「ビジネスとアート」の関係をどのように捉えていますか?

遠山:私たちがやっているビジネスとアートは、根っこの部分で「自分ごと」が共通点にあると思います。私はビジネスでもしょっちゅう「新規事業の種は自分ごとの中にある」と言っていますが、「自分ごと」の権化がアーティストです。だから、ビジネスがアートから学べることは多い。アートは必ずしもビジネスではないが、ビジネスはアートに似ているんです。

だいたいビジネスなんて大変で、全然うまくいきません。だからこそ、「なぜやっているのか」という内的な反芻が常に生まれます。その時に、いわゆるマーケティングデータや過去の事例などに根拠を求めると、辿り着くところがなくなって空中分解してしまう。

一方でアートにおいて大切なのは、その根っこにあるコンセプトですよね。今の現代アートは、そのほとんどがコンセプチュアル・アートであると言ってもいい。もともとの根っこ=コンセプトを大事にすることが、アートにおいては当たり前のスタート地点なんです。

私たちビジネスの側も、ある種のコンセプトをすごく大事にしています。スマイルズで言えば、「誰が、どうしてこれをやりたいんだっけ?」という、スタート地点の理由や感情、想いです。逆にそれがあれば、たとえ事業がうまくいかなくても、手段を変えたり、再構築したりすることが可能ですよね。むしろ変化を繰り返しながら、ようやくブランドの顔立ちがはっきりしてきます。

ーー ユニークな新規事業を立ち上げる企業は数あれど、スマイルズの歴史を見て驚くのは、この約20年で撤退・終了させたプロジェクトが非常に少ないことです。たとえ上手くいっていても5年・10年のタイミングなどで次のプロジェクト立ち上げのため、発展的に終了させるケースも少なくありません。多くの事業が今なお継続できているのはなぜでしょうか?

遠山:事業が長く続いている理由は2つあると思っています。1つは、今言ったように戻れる根っこがあるということ。もう1つは「愛情」があるということです。愛情があれば、プライドを持てる。実際、社員は自分たちでブランドを作り上げているから、みんな自分のブランドが大好きなんですよ。

例えばスマイルズの中には、たくさんの「トライブ」があります。「Soup Stock Tokyo族」だけでなく、セレクトリサイクルショップの「PASS THE BATON族」、ネクタイの「giraffe族」と、種族が全然違うんです。もし会社が1人の人物だとすれば、スープも好きだしファッションも好きだし、旅だってすれば恋愛もする。それが当たり前ですよね。そんな会社=人が見たいと願う、様々なシーンを作っていけば、出来上がるものは自ずと違ってきます。それでいいんです。それぞれに根っこのコンセプトやカルチャーがしっかりありますから。

もちろん、利益を出すのは楽ではありません。だから私は、「子どもの眼差し×大人の都合」が大事だと思っています。「あったらいいな」だけではうまくいかないから、それをちゃんとビジネスとして自立させていくことを目指すということです。共感でつながった仲間たちが、世の中とコミュニケーションを繰り返しながら、なんとかその事業を発展させようと努力している。愛情を持って、歯を食いしばって頑張るからこそ、長く続いていくのではないでしょうか。

ーー 逆に、「こうなったら止めよう」というラインは決めていないのですか?

遠山:決めていませんね。当然、提供する商品・サービスの質や利益といった「大人の都合」は必要ですが、うちの会社の優先順位は「儲けたから嬉しい」とはちょっと違います。ビジネスとしてうまくいっていなければ、普通の会社なら進退を迫るところを、スマイルズは「この可愛い子どもがちゃんと独り立ちするには、次に何をやったらいいのか」とにかく議論するんです。そうした愛情がないと事業を取っ替え引っ替えすることになってしまって、ねばりが効かないんじゃないかな。

ーー 資本的にそれを可能にしている構造はどうなっているのでしょう? 今のスマイルズの利益はどこが下支えになっていて、新規事業ができるのでしょうか。

遠山:「Soup Stock Tokyo」が屋台骨ですね。もちろん、どの事業も担当社員はプライドを持って頑張っています。最近では、クリエイティブ部門が外部クライアントのプロデュースやコンサルティングなども行っており、とても引き合いが多いです。

「ダメな上司・クライアント」の存在はむしろチャンス

ーー 社員のみなさんが事業に取り組む際の熱量は、外部からも含め、何らかの刺激を受け続けないと維持するのが難しいと思うんです。スマイルズの社内には、何かモチベーションを維持したり、新しいアイデアを得られるような制度があったりするのでしょうか?

遠山:制度として決まっているものはほとんどありませんね。ただ、外食産業からスタートしていることもあり、「いつか自分のお店を持ちたい」「独立したい」という想いを持った人は多いかもしれません。格好良く言えば、スマイルズには制度以前に「可能性」があるんですよね。誰のせいにもできないし、会社としてもスープ、ネクタイ、ホテル、海苔弁、アートと事業を展開して、次に何が来てもおかしくないような環境です。関連会社ではバーや本屋もやっている。だから、「後はあなた次第」なんですね。

スマイルズには、仕事の責任を会社やブランド、上司や制度などに負わせるのは、格好悪いという雰囲気があります。社員はみんな、その時の自分の持ち場の中で、自分なりの力で事業に対して価値をつけていこうとする。みんな「自分の人生を自分で考える」という想いを持ってくれているから、個のエネルギーが強いし、それぞれのブランドの個性は違っても、会社としての「大きな矢印」はちゃんと前を向いています。

その意味で、会社側から制度を用意する必要はあまり感じません。私は「社内ベンチャー制度が必要なら、自分で制度ごと持ってきて」なんて言ってますね。

ーー 会社が何か与えるというよりは、制度も含めてクリエイトして欲しいということですね。

遠山:そうです。上から言われたことをただやるというのは面白くないですよね。しかし、日本のサラリーマン全体の縮図はそうなっている気がします。ある広告代理店で「成功すれば自分のおかげ、失敗すればクライアントのせい」というタイトルで講演をしたことがあります(笑)。サラリーマンで言えば、クライアントは会社や上司。いいときは自分の手柄にして、悪いときは会社や上司、商品のせいにする。でも、人や外部のせいにだけしていると先に進めないんですよね。外に吐いた不満は、必ず自分の中にも溜まっていきますから。

大事なのは、一人ひとりが「自分だったらどうするか」を考えることです。もし環境がよくなければ、むしろそれこそがチャンス。黒を白にするから価値になるんじゃないですか。初めから全部が白だったら、価値の示しようがありませんよね。だから、上司に言われようが言われまいが、自分で黒を探してそれを白に変えていく。そうすると、周囲も「あの人に頼んでみようかな」となるわけですよ。

次ページ:スマイルズが新規事業に出資する条件

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