LIFE STYLE | 2020/10/05

黒人以外の命は大切ではない?略奪を肯定している?BLM批判者の4つの反論に答える【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(19)

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渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者

兵庫県生まれ。多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に新潮社刊)を発表。『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)など著書多数。翻訳書には糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経ビジネス人文庫)、レベッカ・ソルニット著『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。最新刊は『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)。
連載:Cakes(ケイクス)ニューズウィーク日本版
洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者。

ブラック・ライブス・マターとはいったい何なのか?

新型コロナウィルスの患者を最も多く受け入れているボストンの病院では、医療従事者がひざまずいてBLM運動への賛同を示した(撮影:Allison Scott)

全米でブラック・ライブス・マター(BLM)の抗議デモが起こっている。日本でもそれがニュースになっているようだが、SNSを見ると間違った情報や、誤解が多い。たしかに、遠くに住んでいる人がテレビやSNSに流れてくる情報だけを見ていると、誤解しやすいムーブメントである。しかし、「極左のアンティファ(ANTIFA)が先導している暴動」、「破壊を正当化する暴力的な運動」というのは明らかな誤解である。数千文字で解説するのは不可能だが、それを承知で、なるべく簡易にBLMとその背景を説明したいと思う。

まず、BLMは「非暴力的な市民不服従(non-violent civil disobedience)」を主張する分散型ネットワークの運動である。全国レベルに広まった運動の発起人は、アリシア・ガーザ、パトリッセ・カラーズ、オーパル・トメティの3人だが、ひとつの大きな組織による上意下達の運動ではない。また、ワシントン・ポスト紙のジョナサン・ケイプハートがコラムで強調しているように「ブラック・ライブス・マターとアンティファは同じものではない」。そもそも、アンティファとは「反ファシズム」の運動であり、アメリカでは小さなグループはあるかもしれないが、組織を持たない自主性が特徴だ。アンティファを自称する者がBLMに賛同して抗議デモに参加することはあるだろうが、組織としての関係はない。

この運動がスタートしたきっかけは、2012年にフロリダ州で「自警団員」を自称するヒスパニック系白人のジョージ・ジマーマンが黒人(アフリカ系アメリカ人)の高校生トレイヴォン・マーティン(当時17歳)を射殺した事件だ。ジマーマンは、少年が「怪しく見える」というだけで追跡し、武器を持っていない相手を射殺したのだ。それなのに、2013年の判決でジマーマンは無罪になり、それに対する抗議の声が全米に広まった。SNSでは#BlackLivesMatterというハッシュタグで賛同者を集め、路上でも抗議デモが起こった。

翌年の2014年、ミズーリ州で大学入学を目前にした18歳の少年マイケル・ブラウンが白人警官に銃殺され、ニューヨーク州では路上でタバコをバラ売りしていたエリック・ガーナーが警官に絞め技をされて窒息死した。どちらの被害者も黒人男性であり、武器は持っていなかった。オハイオ州ではおもちゃの銃を持っていた12歳の少年タミール・ライスを、白人警官が射殺した。彼らを殺した警官はいずれも罪に問われなかった。

マイケルやタミールが白人だったのなら、警察官はこれほど簡単に殺さなかっただろう。そして、彼らを殺した警官は罪に問われたはずだ。これらは、「アメリカは国民を平等に扱うはずだ。そして、国民を守る神聖な誓いをしているのが警察官だ」、そう信じたいアメリカの黒人たちを絶望視させる出来事だったのだ。

今回の記事では、BLMに異を唱える人がよく挙げる、

・黒人以外の命は大切ではないのか?
・黒人の犯罪率が高いから、警察が警戒するのも仕方ないのでは?
・BLM支持者は暴動・略奪をスルーするか肯定している
・警察予算削減や解体に賛成するなんて、治安維持は一体どうするんだ

という4つの反論について答えていく。

次ページ:反論①黒人以外の命は大切ではないのか?


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