反論②黒人の犯罪率が高いから、警察が警戒するのも仕方ないのでは?
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1950年代から1960年代にかけて公民権運動が盛んになり、アメリカでの人種差別政策は改善していった。2008年に父親がケニア人のバラク・オバマが大統領選挙に勝った時、「これで黒人差別はなくなった」と宣言する者がいたが、その中には黒人の有識者は皆無だった。なぜなら、アメリカにはまだ大きな構造的差別が存在するからだ。
弁護士で学者のミシェル・アレクサンダーの著作『New Jim Crow(新ジム・クロウ法)』によると、レーガン大統領時代に始まった「麻薬戦争(War on Drugs)」は、黒人をカースト制度の下部にとどめておくために巧妙に作られた人種隔離政策でもある。薬物を使う人の割合は、どの人種も同程度である。だが、リッチな白人はパウダー状態のコカインをよく使うが、都市部の黒人がよく使うのは廉価な固形のコカイン(クラック・コカイン)である。この法が執行された初期には、パウダーコカインとクラック・コカインの使用では、量刑の格差が1対100だったというのだ。改正後の現在も1対8だという。そして、ターゲットにされるのも黒人が圧倒的に多い。そして、白人の容疑者であれば、軽く見逃してもらえるような罪でも、重い実刑を受けることが多い。刑務所に収容されている黒人男性が圧倒的に多いことには、こういった背景がある。また、重罪を犯すと、釈放された後でも限られた職業にしか就くことができず、社会復帰も難しくなる。
Netflixで2016年に公開されたドキュメンタリー映画『13th -憲法修正第13条-』がBLM運動の高まりを受け、YouTubeで全編無料公開された(YouTubeの機能を使って日本語字幕もつけられる)。奴隷解放後も「無償の労働力」として米企業(刑務所運営ビジネスも含む)の成長を支えるべく、いかに黒人が大量投獄されてきたかをデータとともに示しており、日本人の間にも広がる「黒人=貧困=犯罪者が多い傾向にあるから捜査・逮捕対象になりがちなのだ」というイメージが、意図して作り上げられてきた部分も大きいことがよくわかる。
さらに、法で禁じられている地域が多いのにもかかわらず、いまだに警察が「レイシャル・プロファイリング(容疑者を絞り込むときに人種的な要素を入れる)」をする。「怪しいことをしている」から車を止めるのではなく、ランダムなはずの「ルーティーン」の捜査でも、実際には黒人をターゲットにしていることがわかっている。ミネアポリス市では、「ランダム」に停めている車のドライバーのなんと80%が黒人だということが判明している。
対象は運転手だけではない。アトランタ市では、ライドシェアサービス「リフト」の乗客に対して白人警官がレイシャル・プロファイリングをした事件があった。黒人男性がガールフレンドと子どもと一緒にリフトを利用していたところ、その車の後部のライトが切れているという理由で警察が車を停めた。警官が運転手に運転免許を求めたところ、運転手が免許を持っていなかった。すると、警察は乗客である黒人男性に免許の提示を求めたのだ。男性が「何も悪いことをしていないのに、なぜ私が免許を見せなければならいのか?」と反論すると、白人警官2人が子どもたちの目の前で彼が失神するまで暴力を与えて逮捕したのである。このように、何もしていないのに、「警察に逆らった」という理由で罪を着せられることもあるのだ。
私の知人の黒人男性は、高学歴のビジネスオーナーであり、裕福で平穏な郊外の街に住んでいる。それでも「外出するときには常に緊張している」と語っていた。アメリカの黒人は、他の人種には想像できないほどのストレスを感じながら生きているのだ。
BLMを理解するためには、このようなアメリカの歴史と現在にも続く構造的差別を知る必要がある。