CULTURE | 2020/09/25

住宅街の隠れた人気店で絶品チャーハンを堪能!「若奴食堂 中央店(甲府)」【連載】印南敦史の「キになる食堂」(3)


印南敦史
作家、書評家
1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て...

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印南敦史

作家、書評家

1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。一般誌を中心に活動したのち、2012年8月より書評を書き始める。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「ニュースクランチ」など複数のメディアに、月間40本以上の書評を寄稿。
著書は新刊『読書に学んだライフハック』(サンガ)。他にも『書評の仕事』(ワニブックスplus新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)など著書多数。

8年間気になっていた「あのMV」に出てくる食堂へ

山梨県の一宮町(現・笛吹市)を拠点とする、stillichimiya(スティルイチミヤ)という5人組ヒップホップ・グループがいる。ソロとしても活躍する田我流が所属していることでも有名だ。

グループとはいえ自由度は高く、同じラッパーのBig Benも2012年にソロ・アルバム『my music』をリリースしている。ここに収められている“いったりきたりBLUES”は名曲で、ゆるさが心地よいMVは、おそらく何百回も観たと思う。

前置きが長くなったが、今回訪れた食堂は、このMVがきっかけで知った店なのである。

甲府駅から約2キロ、車で数分の距離にある「若奴食堂 中央店」がそれ。“いったりきたりBLUES”のMV中Big Benがこの店でチャーハンを食べるシーンが挟まれているので、ずっと気になっていたのだ。

そこで、甲府に用事のあった夏の終わりのある日、せっかくなのでこの店を探索してみることにしたのだった。

なにしろ8年間もそのMVを観続けてきたので、若奴食堂に関するイメージもどんどん膨らんでいった。映像で観る限り昭和感の漂う渋い店なのだが、駅近くの路地あたりで、周囲の店舗とうまく共存しているのだろうと勝手に思っていたのである。

ところがカーナビに住所を入れて進むと、景色がどんどん寂しくなってくる。最寄りのJR金手駅(甲府駅の隣)からも車で数分と遠くないことは間違いないのだが、周辺は思っていた以上に店が少ないのだ。当然、人通りもほとんどない。

「え……ここ……?」

カーナビの誘導が終了し、MVでしか見たことのなかった店が目の前に現れた時、少しばかり戸惑ってしまった。周囲の店舗と共存どころか、まわりに店などなかったからだ。

どちらかといえば、住宅地の中に突如として食堂が現れたというような印象。外見的にはあまり活気がなく、はたしてここにお客さんが訪れるのだろうかという気持ちすら湧いてくる。

ちなみに到着したのは平日の午前11時半近く。お昼時にはやや早いので、なおさら閑散としていそうではあるな……などと失礼きわまりないことを考えながら、車を店舗横の駐車場に入れることにした。

ところが、そこでまた意外な光景を目にしたのだ。意外と広めの駐車場にはすでに、5台近くの車が停まっていたのである。たまたま出る車があったから入れたものの、これはちょっと予想外だった。

ともかく車を停め、改めて表に回ってみる。

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