LIFE STYLE | 2018/06/04

アジアでNO.1になった底辺キャバ嬢が見た、日本人ビジネスマンの素顔|カワノアユミ(夜モノライター)

カワノアユミさんの著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』の書評はこちら。
今回話を聞いたのは、元キャバ嬢で、現...

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カワノアユミさんの著書『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』の書評はこちら

今回話を聞いたのは、元キャバ嬢で、現在はライターのカワノアユミさん。東京以外にも、沖縄、時には香港のキャバクラにも出稼ぎすることもあったカワノさんだが、それから10数年後、タイで就職することを決意する。帰国後は、タイを皮切りに、アジア中のキャバクラで9カ月間にわたって働く“外キャバ”生活を綴った『底辺キャバ嬢、アジアでナンバー1になる』(イースト・プレス)を上梓。

これまで、元キャバ嬢・元ホストなどによる水商売の裏側を書いた本や、男性ライターが書くアジアの裏紀行本などは数あれど、本書はそれらとは一線を画す。カワノさんは、悲壮感も気負いもなく、海外のキャバクラで働く“外キャバ”生活を屈託なく楽しみ、同じ店で働く女の子やアジアの新興国で暮らす日本人駐在員などを冷静に観察しているのだ。

カワノさんが体験したアジアのキャバクラについて聞いてみた。

そこから見えてきた、日本人やアジアの裏側とは——?

聞き手:米田智彦、神保勇揮、庄司真美 構成・文:庄司真美 

カワノアユミ

元キャバ嬢の裏モノ&夜モノライター

東京都生まれ。高校卒業後、遊びながら暮らすために水商売の世界に飛び込み、歌舞伎町や六本木でキャバ嬢としてすごす、水商売歴15年以上のベテラン。国内外問わず夜遊びに没頭するかたわら、2011年よりタイを中心に東南アジアの風俗や文化、旅の情報誌「G-DIARY(ジーダイアリー)」にて、女性の海外の夜遊びをテーマにしたコラムを担当。SPA!、サイゾーウーマンなどで執筆中。

魅惑的な女性が誘うタイの歓楽街。

国内を出て心機一転、タイに行ったら、思わぬ道が拓けた

―― カワノさんが本格的に“外キャバ”で働くうえで最初に選んだ国がタイだったわけですが、タイを選んだきっかけは?

カワノ:まわりでも単身タイに行く人が多かったので、影響を受けたのと、当時、よく日本でクラブやレイブに遊びに行っていて、「タイのクラブシーンがおもしろいよ」という話を聞いて、興味を持っていたんです。

カワノさんを惹きつけたタイのクラブシーン

―― キャバ嬢として働く中で、どんなきっかけでライターになったんですか?

カワノ:それまでは本を読むのが好きだった程度で、文章を書くのが好きとか、得意という意識もありませんでした。15年前に水商売を始めた頃、当時は世界一周ブログが流行っていたので、私も海外の夜遊びをテーマにしたブログを書き始めました。それを見た「G-DIARY(ジーダイアリー)」というタイの旅と夜遊びを扱う情報誌からお声がけいただき、1年ほど連載をやらせていただくことになりました。もともと私も読者だったし、並行してブログを始めたら書くことが楽しくなってきて、書くことをお仕事にできたらいいなという気持ちが芽生えました。

G-DIARYでの執筆を通じて、旅系ライターの人脈ができたのも大きかったです。そこで編集者・ライターの丸山ゴンザレスさんとも知り会い、この本の出版に到りました。

キャバクラは貴重な「日本人コミュニティ」でもある

―― 日本のキャバクラで働くよりも、アジアでの“外キャバ”生活の方が楽しかったですか?

カワノ:タイには前から住んでみたいと思っていたし、現地で思い切り夜遊びができるという意味でも、すごく楽しかったですね。実際は、せっかく“外キャバ”しに来ても、働くだけで終わりという人も多いんです。でも、それだと出稼ぎに行っただけになってしまうので、やっぱりその国で遊んだり、人間観察したりした方が、もっと楽しめると思います。

―― “外キャバ”はいつ頃から増え始めたのですか?

カワノ:15年前に初めて香港のキャバクラで働いたときは、私が働いていたところぐらいしかキャバクラは見当たりませんでした。徐々に日本のキャバクラが進出し始めて、ここ4〜5年の間に一気に増えたように思います。

―― アジアのキャバクラに遊びに来る人は、日本のキャバクラやガールズバーなどに行く人とは客層は違うものなのですか?

カワノ:日本の客層とは異なりますね。「とりあえず日本語がしゃべれる場所だから行ってみよう」ということで、日本では行かないような人も遊びに来るようです。海外では日本人のコミュニティ自体が少ないので、そういう意味でも貴重なんですよ。

アジアのキャバクラ店内はこんなイメージ

―― キャバクラにおける「日本人コミュニティ」はどんな雰囲気なんでしょうか?

カワノ:海外の日本人コミュニティは少ないので、情報交換の場として貴重です。ただ、一回嫌われたら孤立してしまいがちなので、現地で暮らすなら、日本人コミュニティでの人間関係はうまく立ち回る必要がありますね。落とし穴としては、コミュニティ自体が狭いので、誰と誰が付き合っているといったことも、あっという間に知れ渡ってしまうんですよ(笑)。キャバクラで働く私たちとしても、それで足を引っ張られることもあるんです。

丈夫な胃腸がないと“外キャバ”は続かない!

―― 文化の違いなどから驚くような出来事はありましたか?

カワノ:食生活については多々ありました。本当かどうかわかりませんが、たとえばベトナムでフォーを食べているときに、上にレバーが乗っていて、知り合いに「それを食べると肝炎になるから食べないほうがいいよ」と言われことがあります(笑)。

それから、いろんな料理に使われるレモングラスについては、「そこらへんの道端で取ってるから、汚いし食べないほうがいいよ」と言われたこともあります。でも、私は全然気にしませんでしたどね(笑)。幸い丈夫な体質で、カンボジアの水道水って赤茶色なんですけど、沸騰させて普通に飲んでましたし、アジアの国々を回る生活で一度もお腹を壊したこともありません。でも、まわりの外キャバ嬢たちは、大体1カ月くらいで体調を崩して帰国するパターンが多かったですね。

アジアでの食生活は胃腸が丈夫でないと厳しい

―― やはり“外キャバ”生活はタフさが重要なのですね(笑)。アジア各国で危ない目に遭ったことは?

カワノ:夜中に働き、外を出歩かないせいか、意外と危険な目に遭うことはなかったですね。それでも人気の無い道は怖かったので、お酒を飲んで大声で歌うなどしていたんですが、現地の人から、「あいつ、頭おかしいんじゃないの?」と思われて、誰も近寄って来なかったですよ(笑)。

求人募集の甘い言葉にご用心(特にビザ)

―― 現地の人以上に現地に溶け込むのが吉ということですね(笑)。たとえば、今からハタチ前後の女の子が“外キャバ”をやってみようと思ったときに、実際にできるものなのですか?

カワノ:今も“外キャバ”の募集はたくさんありますよ。ただ、実際に行ってみると、意外にハタチ前後の若い人は少なくて、むしろ、人生の岐路に立っていたり、海外で仕事をしてみたいと思ったりしている20代後半から30代の女性が多かったです。でも、個人的には、ダラダラと中途半端に外キャバを続けるぐらいなら、若いうちに短期間だけでも経験して、視野を広げた方がいいと思います。

外キャバ専用の求人サイトもあって、私は「外キャバどっとコム」っていうところを使ったりもしました。ただ、「就労ビザを発行します」なんて書いてあっても嘘だったりすることが多いので、上手く行かなかった時の次善策を考えておくとベターです(笑)。それから、近代化が進んで風営法が厳しい国だと、店に警察が入ってくることがあるので、規制はゆるめな国を選ぶのも重要ですね。 

給料差からみる、キャバ嬢たちのグローバル競争

―― どの国でもガンガン稼げるかというとそうでもなく、たとえば香港のキャバクラで働く日本人女性の金銭的価値、つまり給料の高低は、韓国人、中国人に次いで3位であり、10数年前から比べると、3分の1に下落しているそうですね。その理由はなんだと思いますか?

カワノ:そこはやはり見た目がものを言う世界ですから、単純に中国人や韓国人は、スタイルもよく、きれいな人が増えているということだと思います。でも日本人向けのキャバクラは、客層が「日本語で話したい人」だったりするので、性格重視の採用でした。中国人・韓国人などはプロの人が出稼ぎで働いていますが、日本人に関しては水商売経験のない留学生が多いので、そこも関係していると思います。

―― カワノさんの場合、10数年前に香港のキャバクラで働き、14年後にも同じ店で働くというレアな経験をされています。海外の同じキャバクラで、時代や国をまたいで働いたことで、感じたことはありますか?

香港の夜の歓楽街

カワノ:2015年に再び香港のキャバクラで働いたときは、かつての景気のいいころのように、派手に遊ぶ日本人はほとんどいませんでした。客層は、日本人の出張客と駐在員が半々くらい。単身者は出張で来ている人が多く、香港で家族と一緒に駐在する日本人は、金銭面で余裕がなく、そうそう遊んでもいられないといった様子でした。

逆に店側から歓迎されるのは、中国人のお客さんです。彼らは言葉がわからなくてもカラオケでひたすらはしゃいでいれば喜んでくれるし、お金を落としていってくれます。女の子側からしても、ちゃんとした接客が必要ないので楽なんですよ。

「語学力ゼロ」でもコミュ力次第でなんとかなる!

―― お客さんとはどのようにコミュニケーションを取っていたんですか?

カワノ:相手が日本人なら、グルメスポットなどの現地の情報を交換します。一応、英語はもちろん、現地の日常会話程度は覚えるようにしていました。というのも、ベトナムのようにほとんど英語が通じない国もあるんですよ。わからない言葉は、現地の女の子に「これはなんて言うの?」と聞いて覚えていました。あくまでその程度で、それでも接客が成り立つレベルです。

中には、英語すらほとんどしゃべれない子もいましたが、それはかなり強者なケースですね(笑)。それでも成り立つのは、外国人のお客さんが来ても、とくに対話を求めていないからです。やることといえば、カラオケではじけるか、セクハラするかのどちらかなんですよ(笑)。

―― なるほど(笑)。各国を回る中で、駐在員の家に居候したこともあったそうですが、お客さんと恋愛や肉体関係に発展するようなことは……?

カワノ:ベトナム以外では、お客さんはほとんど既婚者だということもあって、私の場合はなかったですね。もちろん素敵な方もいましたが、さっきも話した通りコミュニティが狭いので、あっという間に噂が広まると、仕事がやりにくくなるんです。

キャバクラは「独身アラサー男子会」の会場!?

―― 本では駐在員が現地で愛人を作り、それをSNSでタグづけされて日本にいる奥さんにバレるという、情報化社会ならではのエピソードもありましたね(笑)。各国を回ってみて、特に楽しいと思った国はどこですか?

カワノ:単身生活であれば、どの国でも楽しかったですね。とくにバンコクなどは、深夜でも利用できるグルメや夜遊びスポットが充実しています。ただし、ハノイは例外です。というのも、夜10時を過ぎると店がすべてクローズしてしまい、日本人の女の子との出会いもキャバクラに行く以外にないので、独身をこじらせたアラサー男子たちの吹き溜まりのようでした(笑)。

―― 夜遊びスポットがないのはキツいですね(笑)。“外キャバ”のおかげで接客や会話のスキルは上達したと感じますか?

カワノ:もちろん、日本での接客とは違うので、多少は成長できたのではないかと思います。日本のキャバクラの場合、接客はノリ重視みたいなところがありました。一方で、海外のキャバクラに来る日本人のほとんどは駐在員なので、日本が恋しい人や拠り所を求めてやって来ます。既婚者で色恋を求めているわけではない人も多いので、日本のキャバクラ以上に話をちゃんと聞いてあげることで、リピーターにつながる感じでした。

―― 日本人のビジネスマンが海外のキャバクラに行くときは、どんな利用法がおすすめですか?

カワノ:現地の情報を共有、共感するために利用するのがおすすめです。逆に色恋を求めても、日本以上に一線を越える壁は厚いと思いますよ。なぜなら女の子としては、現地の日本人コミュニティの狭さゆえに、変な噂が広まるのを恐れるからです。海外生活ならではの悩みを共有したり、相談したりするほうが、自然と距離が縮まる気がします。

現地で住んでいた部屋

メディアにもあまり出てこない「沈没した女性」はどこへ行くのだろう

―― 経済発展がめざましく物価が高い国と、まだまだ物価が安い国とでは、それぞれメリット、デメリットがあると思いますが、実際はいかがでしたか?

カワノ:香港やシンガポールは給料がよくても、物価が高いので、結局お金が残らなかったですね。それに比べると、なんだかんだお金が貯まったのは、ベトナムやカンボジアかもしれません。私はお給料をそんなにもらえなくても、物価が安くて細々とでも生活できる国での“外キャバ”が向いているみたいです(笑)。

―― 最後に、現在、アジアまわりでの気になるテーマや興味関心事、今後の目標について教えてください。

カワノ:気になるのは、女性の沈没者。たとえば、タイでちゃんとした仕事にも就かず、いつまでもバイトだけで食いつないでいるような人など、海外で沈没する女性が気になります。ただでさえビザの規制が厳しくなっているタイに、なぜそこまでしてこだわるのか?という理由にすごく興味があるんですよね。

もともと私は、“夜遊びライター”としてスタートしているので、今後は、夜の世界の人間の裏側や闇の部分にもフォーカスできればと思っています。昔から、表向きのキラキラしたものにはあまり興味がなくて、その裏側や闇の部分を探るのが好きなんです(笑)。

元キャバ嬢が書く本はたくさんありますが、水商売の裏側を明かしているようで、結局、お客さんでもわかるような表面的なことばかりだったりします。現役の話よりも、その後の経緯の方が、よりリアルだし、個人的には興味があります。

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