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沈みゆく南太平洋の小国を救う日本人|遠藤秀一(ツバル オーバービュー )
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  • 2018.05.21
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沈みゆく南太平洋の小国を救う日本人|遠藤秀一(ツバル オーバービュー )

南太平洋に浮かぶ人口約1万人、面積約26km2の小さな島国ツバル。サンゴ礁だけでできた海抜の低い9つの島で構成される国である。今、この国が海面上昇によって水没の危機に立たされている。原因は気候変動による異常気象と地球温暖化による海面上昇だ。

1992年、この事実を知った遠藤秀一氏は、ツバルを救う手段はないのかと思い立ち、ツバル政府にある提案をした。彼のアイデアは見事実現。ツバルは国連に加盟し、自国の危機を世界中に訴えることに成功した。

その後も、遠藤氏はツバルの危機を伝えることで、気候変動問題の解決を加速させる活動を精力的に続けている。また、ツバルの人々の「お金に依存しない生活」に人間本来の生き方を教えられたという同氏は、日本でもツバル流のライフスタイルを実践しようと鹿児島に「山のツバル」をつくる。

ツバルの水没が叫ばれて四半世紀が経った今日、はたしてツバルは危機を乗り越えたのか? この小さな島国に未来はあるのか? ツバルとの出会い、そしてツバルの現在と未来、ひいては人類のあるべき生き方について、遠藤氏に訊いた。

聞き手:米田智彦・神保勇揮 文・構成:成田幸久 写真:神保勇揮

遠藤秀一

ツバル オーバービュー 代表理事

1966年生まれ。写真家、ツバル国環境親善大使。1992年に海面上昇とツバルのことを知り、大手建設会社を1997年に退社。翌1998年、[.tv]プロジェクト提案のためにツバルを訪れる。その自然の美しさと、自然に抱かれて生きる人々のライフスタイルに共感し、活動をスタートした。2010年にツバルにならった自給自足の暮らしを実践するために鹿児島の山間部に体験施設「山のツバル」を設立。

環境破壊に加担する会社で保護を訴える矛盾

取材時には渋谷のセレクトショップ「吾亦紅」にて、写真・映像の展示「Talofa〜沈みゆく国?ツバル@吾亦紅」が開催されていた。映像ディレクターの大月壮氏の「アホな走り集”ツバル編”」、その制作の過程で撮影したインタビュー映像の放映に加え、ツバルオーバービューが2009年から取り組んでいる「ツバルに生きる一万人の人類」2018年フナフチ編のアウトプットや、遠藤氏が20年かけて撮りためた写真の展示が行われた。

ーー ツバルに関わることになった経緯を教えてください。

遠藤:僕はずっと建築家に憧れていて、大阪芸術大学の建築学科に進学し、環境破壊を止めるための空間表現を追求しました。卒業後は大手建設会社の設計部に就職し、そこでも環境保護を叫び続けていました(笑)。

そうした中で、1992年にブラジルのリオデジャネイロで地球サミットが開かれたんです。そこで「地球温暖化による海面上昇が続くとツバルの島々が沈む」という事実を知りました。いろいろ調べるうちに、自分がやっている建設業は、環境破壊に加担しているという思いが強くなって、30歳のときに会社を辞めることにしました。

一国の運命を変えたドメインネーム「.tv」

ーー 会社を辞めてからは何を始めたのですか?

遠藤:インターネットが普及し始めた頃だったので、ホームページをつくって環境保護を訴えようと思い、会社を立ち上げました。その時に、インターネットで何かできないかと調べたところ、ツバルのドメインネームの「.tv」を見つけたんです。この「.tv」の使用権を販売して、儲かったお金でツバルの島の保全のために何かできるのではないかと思い、96年にツバル政府に提案しました。

ただツバル政府からはずっと返事がなく、当初はあきらめていました。ですが98年になって、いきなりファックスが届いたんです。「検討した結果、最初に提案してきてくれたので話を聞きたい。交通費は出せないけど、ツバルに来てくれないか」と(笑)。

ーー 要求がむちゃくちゃですね(笑)。

遠藤:それでも僕は時間があったので、大急ぎで、現地へ行っていろいろ話をしてきました。インターネットの仕組みの説明から、事業をどうやって進めるかという話までして。

最終的には入札という形で、2000年に米国のdotTVという会社が運営することになり、ツバル政府は約50億円の売却金を手に入れました。そのお金で国連に加盟することができて、COP(気候変動枠組条約締約国会議)で、意見を言える立場にもなったのです。 

生き抜く知恵と技とは、何かを知った

ーー その後もずっとツバルに関わるわけですが、ツバルの魅力は何だったのですか?

遠藤:お金がない所で、自給自足で生きているツバルの人たちの暮らしに触れた時に「自分はこれまで何も学んでいなかった」と気づかされたんです。ツバル人は無人島に放り出されても、ヤシの実を採ってくることができるし、魚も獲ることができる。お金がなくても生き抜く知恵と技があるんです。

ツバルという南の島に、環境にほとんど影響を与えていない暮らしを続けている人たちがいて、かつ、その人々の生活の土台になっている島が消えるという危機にある。そうした状況をもっと広く人に知ってもらうことが必要だと思ったんです。それで、「ツバル オーバービュー」というNGOを立ち上げました。団体として正式にツバル政府に登録したのは2005年で、NPO法人は06年です。

遠藤氏の活動の原動力は、ツバルの人々との触れ合いを通じて「人間の本当の幸せとは?」を問い続けることにある。

写真提供:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview

この20年に見る人々の生活と環境の変化

ーー 遠藤さんがツバルに関わって20年が経ちましたが、ツバルの人々の生活はどのように変化しましたか?

遠藤:海面上昇以外で変化が大きいのは、首都のフナフチ環礁の様子です。特にお金の面でしょうね。20年前までは首都の人口がまだ2000人ぐらいでしたが、今は7000人が住んでいます。都市化が進んで、従来のような自給自足なんかとてもできない状況です。

日本でも同じことが言えますが、人は都会に憧れ集まってきます。ツバルでは2006年にナウルという島国に出稼ぎに行き、リン鉱石の採掘をやっていた人たちが、資源の枯渇を理由に数千人単位で帰国させられた影響は大きいものがあります。

昔は島で採れたバナナは貰うものでしたが、今は1本1ドルで売られています。ボランティアの作業に喜んで参加してくれていた人々が、今では賃金を用意しないと働いてくれなくなりました。

「この人口増加によって地盤沈下している」という噂もネット上でよく目にしますが、地理学の専門外の人の意見だと考えられます。環礁という地形は上下動に関してはとても安定していて、多少の重量変化では沈下しない、というのが地理学での定説です。同じ環礁の国のモルジブの首都のマレ島には13万人を越える人々が暮らしていますが、島の沈下は観測されていません。島の様子はグーグルマップで見ると良くわかります。

ーー 環境面では、人々の暮らしにどんな影響が出てきていますか?

遠藤:首都だけではなく8つある離島にも当てはまることですが、内陸部にあるタロイモ畑に海水が入ってきてイモが取れなくなる被害があります。このような海水混入による塩害は1980年ぐらいから始まっています。まず地下水が飲めなくなって、それからイモが育たなくなりました。それもあって、食べ物を輸入することが始まり、人口増加とともに加速してきています。その結果、首都の島では廃棄物の処理が大きな問題になっています。

また、温暖化によって海水温が上がってきているので、サンゴの生態が変わります。そうすると魚の生態も変わってきて、最近は特に首都の島で獲れる魚の数が極端に少なくなってきています。

加えて、2000年以降からは海岸線の侵食も目立つようになり、異常気象により増加したサイクロンが接近するたびに、小さな島が海に飲み込まれてしまうことが増加してきました。ツバルは小島が輪になっている環礁という島で構成されています。一つ一つの小島が消えてしいくと、将来、国全体が海に飲み込まれてしまうのではないか? と心配する国民が増えてきているのです。

ツバルの救済策、いよいよ始動

ーー ツバル オーバービューがその対策として現在進めている、フナファラ・エコアイランド計画の内容を教えてください。

遠藤:ツバルの首都のフナフチ環礁の南端には砂礫(珊瑚・貝殻のカケラ・星砂)が自然の流れによって移動してゆるやかに陸地の形成が進行しているエリアがあるのですが、そこを砂礫で埋め立てて人工島とし、移住できるよう開発しようという計画です。ツバル人を海面上昇から救うには、ツバル人を国ごとどこかに移すか、もしくは領土の中に海抜の高い島をつくるかのどちらかしかないのです。

ーー 開発には、どのくらいの期間を要すると想定していますか?

遠藤:まず埋め立てるのに2年です。サンドポンプという装置を使って、ラグーンの底から砂礫を打ち上げるだけですから、工事そのものは簡単です。その後、地盤が締め固まって滑走路をつくったりするのに、10年ぐらいはかかると見ています。

遠藤氏が指をさしている場所がフナフチ環礁の南端にあるフナファーラエリア。

ーー 資金調達はどうしていくのですか?

遠藤:ファンドをつくることを考えています。信託基金をつくって、国、組織、個人と、分け隔てなく支援を受け入れられる体制を作ります。

今後は資料が揃い次第、金融都市ドバイがあるアラブ首長国連邦に代表されるような、オイルマネーで潤っている国の在日本大使館を表敬訪問して、プロジェクトの説明と資金協力のお願いをするつもりです。

写真左から、遠藤氏 アイランドチーフのシリンガ氏 プロジェクトコーディネーターの清水氏。

写真提供:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview

受け入れられるまでに15年かかった

ーー 遠藤さんの活動は、ツバルの人たちからは、どのように受け止められているのでしょうか。

遠藤:完全に受け入れてもらえるまでには15年ぐらいかかっていますね。マングローブの植林や、古い壊れた雨水タンクを修理する事業もやってきました。

ツバルで行われているマングローブ植林事業。海岸侵食で失われた土地を、マングローブという自然の力を借りて取り戻すことを目的に進められている。なお同事業はコスモ石油エコカード基金の支援を受けて行われている。

写真提供:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview

ーー 受け入れられるようになった転換点はありましたか?

遠藤:わかりやすい例で言えば、ツバルの首相官邸前にマングローブを植えたときのことでしょうか。植林するには不安定な場所でしたが、首相の要望で試しに植えてみようと500本ぐらい植えたんです。その後に、植林やそれまでの功績に対して感謝するパーティを首相が開催してくれました。

もう1つは、2018年1月に開かれたフナファラ・エコアイランドの説明会です。島のクランという家族の長だけが集まる伝統的な会議でクランの長にプレゼンする機会に臨めたんですが、あれはほぼ“島の人”と認められたようなものかなと。

鹿児島の古民家を改修した「山のツバル」の存在意義

ーー 2010年に鹿児島で始めた 「山のツバル」は、ツバルで学んだことを日本でも実践しようという試みですよね。

遠藤:はい。ここでは築80年の古民家を改装し、食、暖房、発電・トイレも含めてできるだけ自給自足生活が体験できる体験施設の開設準備を進めています。今、自然農での農業を始めて8年目ですが、まだ自分自身の技術が人に教えられるまで高まっていません。なのでもう少し修行してから体験の受け入れを始めようと思っています。

鹿児島県財部町にある体験施設「山のツバル」。化石燃料に依存しない暮らしを支える、自作の薪小屋とソーラーパネル、小屋の前には自然農の畑。薪は風呂、ストーブ、調理と多岐に活用。ソーラーパネルはオフグリットを達成している。

写真提供:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview

自然農の田植えが終了し、夏を迎える準備が整った田んぼ。

写真提供:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview

ーー 日本では今後、人口が減って経済や社会保障がどうなるかもわからない中で「自分が食べていくために、多少自家菜園とかもやっておいた方がいいかも」と考える人も増えてくるかもしれませんね。

遠藤:日本でも今は都心部に人が集まりすぎているし、バイトや派遣やサラリーマンとして企業からの給与に依存している人が多い。もっと多様化していいと思うんです。

2003年より始まったツバルへのエコツアー。ツバルの大自然に触れ、自然と調和した暮らしぶりを体験することができる。

写真提供:Shuuichi Endou / Tuvalu Overview

貯金はしておけ、そして飛び込め

ーー ところで、今20歳前後ぐらいの子から「遠藤さんみたいな仕事をしたいんですが、どうすればいいですか?」と相談されたら、どんな風に答えますか?

遠藤:今まで話してきたことと矛盾するようですが、30歳になる前にガッツリ働いてある程度のお金のストックをつくることをお勧めします。僕は建設会社を辞めたあとに仲間と中小企業向けのホームページ制作・運用の会社を立ち上げ、そこでの給与がメインの収入になっています。ツバル関係は利益が出てもすべて次の活動費に充てています。

まずはある期間無収入でも大丈夫な、たとえば100万円ぐらい貯金をすること、あとはネットで世界中と簡単に連絡が取り合える時代ですから、まずは興味がある場所に飛び込んで始めてみるのがいいと思います。

ツバルの離島での自給自足の暮らしと、日本の都会の拝金主義の暮らしを比較して明確にわかることは「お金は人の幸福を破壊する」ということです。大変矛盾する話ですが「これから数年のうちに、お金を利用してお金のいらない暮らしを創っていきましょう!」ということを皆さんにお伝えしたいです。幸せも手に入るし、消費活動から排出される温室効果ガスの削減も達成できます。ぜひ飛び込んで下さい。

田舎暮らしをしてみたいという方は、お気軽に連絡して下さい。応援します!また「ツバルに行きたい!」という人もお気軽に連絡ください。現在、現地駐在員も募集中です!


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