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新型コロナ禍が米国ポートランドを襲った1カ月間、外出自粛のこの街をもっと好きになる
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  • 2020.04.07
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新型コロナ禍が米国ポートランドを襲った1カ月間、外出自粛のこの街をもっと好きになる

松原佳代

みずたまラボラトリー(株)代表取締役、カヤックLiving代表取締役

1979年生まれ。お茶の水女子大学人間社会科学科心理学専攻を卒業。コンサルティング会社、編集ライター業を経て、2005年面白法人カヤックに入社。2015年に独立し(株)ハモニア(現みずたまラボラトリー)を設立。スタートアップのPR支援などを事業として展開する。2017年に(株)カヤックLivingの代表取締役に就任。2018年に移住スカウトサービス「SMOUT」を立ち上げる。
2019年8月に家族で米国ポートランドに移住。
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古くは『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』、最近ではゲーム「Life is Strange」の舞台となり、日本でも人気の街ポートランドを有する米国のオレゴン州。そのオレゴンも今、新型コロナウイルスの感染増加のため、いわゆる「自宅退避」の知事令が出された。2020年3月23日、まだ2週間ほど前のことだ。

私は昨年8月に夫と息子2人とともにオレゴンのポートランドに移住をした。その半年後にこのような事態が訪れるとは、当然の事ながら想像もしていなかった。Apple StoreやNikeやColumbiaなどのショップが立ち並ぶ中心となる市街地まで車で15分足らず、近隣にもクラフトビールレストランやコーヒーショップ、雑貨店などが多く立ち並ぶ、日常生活では便利な場所に住まいをおいた。

普段の近所では、日本と比べると圧倒的に人は少ないものの、観光で訪れる多国籍な人々がストリートを歩き、住民同士は多様性を受け入れるあたたかいポートランダーらしく気軽に「Hi!」と声を掛け合う、そんな風景が見られた。3月になると雨続きの冬の日々から解放され、気持ちの良いポートランドが戻りつつあった。空を見れば、青空に何本もの飛行機雲がきれいに描かれ(ポートランドは市街地から空港まで車で20分のコンパクトシティだ)、周囲のカフェやレストランではテラス席でビールを飲む人たちの姿も見かけた。また自転車の街とも言われるポートランド。通勤、子どもの送迎にマウンテンバイクで街をゆく人たちの姿も増えた。

この時から約1カ月しか経っていない4月の第2週。街から人がいなくなり、レストランやカフェは2割ぐらいしか空いていない。それもテイクアウトのみの営業だ。もちろんそれ以外の店はすべて閉まっている。ポートランド空港を飛び立つ飛行機の便数も減っているからか、心なしか飛行機雲の数も少なくなったように思う。

突然の一斉休校発表から一変。1週間で9万人の失業手当申請

オレゴンで始めて陽性が報告されたのは2月28日だ。ここから様子が少しずつ変わり始めた。その週末にスーパーマーケットの棚からサニタイザーなど消毒関連の商品が品薄となる(一時的にパスタや米もやや品薄になった)。とはいえ、まだ生活や街にそんなに大きな変化は見られなかった。

3月10日にポートランドのあるマルトノマ郡で1名の陽性が確認された。そして3月13日、翌週からの一斉休校が発表された。その週末の日曜日の夜、保育園も必要不可欠な仕事(医療従事者、介護や保育など)に就く親の子ども以外は預けられないことになった。

子どもがいて、かつ夫婦ともにリモートワークで共働きの我が家には一大事だ。とはいえ、これより数週間前に日本が一斉休校に踏み切っており、ありがたいことに日本の同僚や友人たちが家庭学習のこと、日常品の調達のことなどを共有してくれていたため、日本に習うかたちで我が家は新しい生活の形をスタートできた。日常品や食品に関しても、気持ちいつもよりも多めに買うようにして、少し余ったものを冷凍したり備蓄しておく、という行動を3月頭からとれでのは、日本のみんなのおかげだ。コロナの影響はどの国にもどの都市にも遅かれ早かれ似た状況がやってくる。情報共有をしてお互いに得た知恵や知見を共有しておくことが、国境を超えて他の誰かを助けることを身をもって学んだのはこの時だ。今この原稿を書いているのも、これから日本で起こるかもしれない(起こらないに越したことはない)状況を私が先に経験したのだとしたら、次は私がみんなを少しでも助けられたら、と思うからだ。

さて、休校となった3月16日を境に、オレゴン州のブラウン知事からの知事令が続く。3月16日にレストラン・バーなど飲食店で着席の禁止、つまりテイクアウトのみの営業を命じた。そして、25人以上の集まりを禁じる。この時オレゴンの感染者数はまだ47名だ。3月17日、学校の一斉休校を4月28日まで延期した(親として、正直に話すとこれはかなりの衝撃波だった)。

この週にオレゴン州で失業手当の申請は9万を超えたそうだ。3月第1週の申請が4900件だったというからこの数字がどれだけ大きいかは明白だ。Patagoniaにつづき Apple Storeが週の頭に休業を決めた。大型の商業施設、スポーツ観戦施設(ポートランドにはNBAチーム、トレイルブレイザーズがある)も休業、そしてレストランやバー、そこで働く従業員たちの多くが職を失ったことが想像できる。

ポートランドの老舗書店「パウエル」も休業した。その数日後には85%の400人をレイオフしている。ポートランダーはもちろん、ポートランドを訪れたことのある人の多くが愛している書店だ。存続すらも危ういというニュースが飛び込んできた時、多くの人がオンラインストアで本を購入した。結果、100人の再雇用があったというちょっと嬉しいニュースがあったことも添えておく。かたやスーパーマーケットは人手が足らず、新たな求人がたくさん出た。この頃に米国は国として最大ひとり$1,000の現金配布を発表している。

そして3月23日「STAY HOME, SAVE LIVES」というフレーズで「自宅退避」(必要のない外出の禁止)の知事令が出た。そのときオレゴンの陽性患者数はまだ191名で、この決断も早かったとされている。

STAY HOME,SAVE LIVES の暮らしと街の営み

基本的には毎日家の中で暮らしている。朝は子どもたちとまずドリルをして、そのあとヨガ、最近は飽きたのでズンバというダンス系のエクササイズが楽しくなってきた。そして昼は、絵を描いたり、制作やマインクラフト、時々リングフィットアドベンチャーで身体を動かす。

我が家は集合住宅なので庭がない。子どもたちも私もストレスが溜まるため、朝と夕方に晴れているときにはエクササイズで散歩や公園を通りながら(止まってはいけない)ボールを蹴ることもある。

家の中のQOLをどうやって高めるか、がとにかく大事。我が家は移住後ずっと購入タイミングをはかっていた電子ピアノを購入した。毎日のように子どもたちと一緒に遊んでいる。先ほどは夫がギター、次男がピアニカ、長男がピアノで「かえるの合唱」を弾いていた。そしてオセロとトランプを調達した。オセロにはわりと自信があったのだが、子どもは物覚えがいい。3戦目のビギナーズラック(と私は思いたい)で長男が勝利して以来、長男はハマっている。

あとはトマトソースやミートソースを手づくりしたり、ジャムを子どもたちとつくったり。そして変化のない毎日、下界とのコミュニケーション(もちろんオンライン)を求めて、毎日の味噌汁を投稿するInstagramをはじめた(なぜ味噌汁になったのかは自分でもわからない)。音声プラットフォームstand.fmも始めた。

ポートランドの友人たちともFacebookやメッセージで頻繁にやりとりをして、情報交換をしたりディスカッションをしたり。保育園のママたちとバーチャルサークル(サークルは子どもたちがよくやる円になって歌を歌うもの)をZoomでやったり。長男が通うアフタースクールのプログラミング教室は、休校後すぐオンライン学習となり、今は夫と一緒に毎週Zoomでコーディング授業を受けている。

そして来週からはDistance Learning、つまりオンラインによる授業がスタートする。ポートランドの公立学校は休校になった1週間後から1週間の春休みだった。春休みがあけた今週は先生たちのオンライン学習のトレーニング期間、そして来週からスタートするわけで、実質何もない休校期間は2週間程度だったと言える。休校後すぐにポートランドの教育委員会からは、家庭のネット環境、パソコン環境の調査が来た。貸与のためだ。一部の先生からはオンライン学習の教材が休校初日に送られてきた。このスピード感はありがたく心強かった。

さて、街の様子を少し書いておく。このオーダーが出る前後から、スーパーマーケットは若干の品薄状態が続いた。現在は、小麦、トイレットペーパーを除いてはある程度復旧している。そして、スーパーはソーシャルディスタンス(6フィート)をキープできるよう入場制限が行われ、レジや入場待ちスペースには6フィートの感覚を示すマークがある。近くのマーケットは、レジのスタッフとの間にプラスチックのシードルのようなパネルが設置された(従業員を守るため)。そしてひとりのレジが終わるたびに周辺をすべてアルコールで拭き上げてくれる(お客様を守るため)。これだけ徹底しているスーパーには頭が上がらないし、ますますこのスーパーへの信頼はあがった。

また、ポートランドの(少なくとも私が住むエリアの)人々はとても思いやりがある。こんなみんなが辛い状況である中でも、自分の行動ひとつが、自分だけではなく、他人を守り、街を守り、医療を守ることをわかっている。もしかしたら自分が感染しているかもしれない前提で、マンションの中、散歩の途中、すれ違う人同士が、譲り合い、ルートを変更しあい、それぞれの距離を守ろうと努め行動している。息子たちも、何度か一緒に散歩に出かけてからは、前から人が歩いて来ると、ちょっと待ってあげよう、と横によけて待つようになってくれた。

この街の人の思いやり、そしてそれが人を育てる風土を感じて、ますますポートランドが好きになったのもこの1カ月だ。

別の見方をすると、このコロナは、人間のエゴ、欲求との戦いなのだと思う。ひとりひとりの自分勝手な「動きたい」「外で遊びたい」「あれが欲しい」「旅行したい」そんな欲求をどれだけ抑えられるか。ひとりのひとつのエゴが、簡単に人の死へ結びついてしまう。ウイルスという名のひとのエゴが敵だと思う。

州が発表した支援もいくつか紹介しておきたい。「Small Business Navigator」というスモールビジネス事業者向けに支援を行うプログラムが4月2日に発表された。このプログラムではオレゴン州からのポートランドはスモールビジネス向けの100万$の基金設立が発表され、そこから企業への助成が行われるようだ。また失業給付の金額も増やす施策が取られるそうだ。家賃やクレジットカード、住宅ローンの支払いの遅延を認めるように、というオーダーも出されている。

また一斉休校と同じ頃に、ホームレスの皆さんを感染から守るため閉鎖された施設(コンペクションセンター、コミュニティセンター)をホームレス専用シェルターとして臨時開設する発表もなされている。その施設には休業中のレストランのシェフがランチを非営利(週からの助成あり)で届けるという、レストランの従業員の雇用を守りつつ、シェルターで暮らす人々の生活を維持する取り組みが行われている。また多くのスーパーマーケットでは朝の1〜2時間を高齢者などためだけにオープンしたり、生活が苦しい子どもが十分な栄養をとれるよう、優先購買の仕組みを整えたりもしている。

思いやりと遊び心のポートランダーは健在だ!

暗いニュースばかりじゃない。この状況でも自分にできること、相手に喜んでもらうこと、そして自分も楽しめることを、街のみんなは模索して、挑戦しているんだ!とハッピーになるニュースも毎日のように飛び込んでくる。

たとえば外出自粛の知事令から1週間たたずして、ポートランドに本社を構えるWaiden+Kenedyがそのクリエイティブのパワーを生かしてオレゴン知事と保健局とともに「STAY HOME, SAVE LIVES」のキャンペーン展開を始めた。時間の限られた中でつくられた素敵な作品なのでぜひ。

また多くのポートランドのトップシェフたちが Instagram のLIVEで自宅のキッチンからクッキングライブをしてくれている。おそらく最初にはじめたシェフInstagramではレシピも公開されている

ポートランドの街並みを見下ろす高台に位置する大きな病院OHSUのドクターたちが、みんなにSocial Distanceやハンドではなくフットシェイクを呼びかけるための動画をSNSで投稿している。今いちばん大変であろう現場のドクターたちの笑顔に勇気をもらった。

世界は物理的には遠くなった。でも心は近くなったかもしれない

私が次に日本に帰国できるのは、一体いつだろうか。実は3月に帰国予定だったのだが、直前でキャンセルしたエアチケットがある。次のフライトに使えるクレジットが私の手元にはあるのだが、航空会社からその期限を1年から2年に伸ばしたと連絡が来たのは4月3日のこと。つまり長期戦になるよ、という通告である。

ポートランドから羽田への直行便が飛ぶ予定だったこの3月。日本との距離は10時間強だ。世界は近くなったものだなんて思っていたら、この状況だ。遥かに遠くなった。

でも、いいこともある。おそらく海外にいる日本人はいまみんな、これまでよりも日本の政治と状況に興味を持ち、日本を心配し、日本に向けて情報を発信し、届けようとしている。半年前と比べると、おそらく日本のことを思う心の占有率は倍以上になっているだろう。逆もしかり、みんなが世界の状況に耳を傾け、ニューヨークに対して、イタリアに対して、できることはないか?と思っているのではないだろうか。ニューヨークのクオモ州知事は、今は助けてくれ、絶対に借りは返すから、と呼びかけている。その州知事の毎日の州の人たちを鼓舞する会見から勇気をもらっているのはニューヨーカーだけじゃなく世界中だと思う。

これからポートランドにも、日本にもどういう状況がやってくるのか、まだわからないことが多すぎるのだけど、お互いに学び合い、助け合い、思い合うことが重要であることは間違いないと心から思う。


感染者数の推移はOregon Health Authorityのレポートを参照 

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