CULTURE | 2018/05/17

未来という名の希望を灯すストーリーの力|未来予報株式会社【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(2)



加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の...

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加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち。

これまでの常識を打ち破る一発逆転アイデアから、壮大なる社会変革の提言まで。彼らはなぜリスクを冒してまで、前例のないゲームチェンジに挑むのか。

進化の大爆発のごとく多様なヴィジョンを開花させ、時代の先端へと躍り出た“異能なる星々”にファインダーを定め、その息吹と人間像を伝える連載インタビュー。

第2回に登場するのは、「未来像<HOPE>をつくる専門会社」として、テクノロジー×ビジネスの行方をストーリーとして紡ぎ出す未来予報株式会社の曽我浩太郎氏と宮川麻衣子氏。

テクノロジーへの盲信に一石を投じ、自らの未来を問う彼らの姿勢。流れゆく潮流の中で自ら舵を取り前進するーーその不退転の決意とは。

聞き手・文:深沢慶太 写真:増永彩子

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未来予報株式会社

2016年、曽我浩太郎と宮川麻衣子によって設立。「未来像<HOPE>をつくる専門会社」として、製品のリサーチ、コンセプト設計、ブランディングなどを実施。具体的なアウトプットは書籍や映像、Web、製品やサービス、社内制度など多岐にわたる。

事業の向かうべき先を可視化する、未来の語り部

未来予報社が拠点を置くDMM.make AKIBA内、録音スタジオ機能を備えた打ち合わせスペース「ジャッジルーム」にて。

ーー お二人は2016年に未来予報株式会社を設立し、翌年夏には初の著書『10年後の働き方 「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ』(インプレス)を刊行しています。各章の冒頭には、例えば「世界の食事情を変える培養肉レストランが日本初出店」といった形でSF小編が掲載されていますが、今ある技術の予兆から未来のストーリーを紡いでいく姿勢が面白いなと思いました。

曽我:僕たち自身、この数年間でスタンスが変化してきており、現在は「未来像<HOPE>をつくる専門会社」と銘打っています。きっかけは、ハードウェア系のスタートアップ企業とともに今後の事業展開を描き出す作業をしていたこと。最近はスタートアップに限らず、大企業や研究機関などが持っている技術の展望をストーリー化していくケースも増えてきました。具体的には、今から10〜15年後の近未来を設定し、その技術によってどんな生活や文化を創っていきたいかを考えていきます。

宮川:例えば、パナソニックのデザイン部門とのプロジェクトでは、未来のプロダクトと生活や社会のあり方について、一緒に考えました。「バイオミルク」や「バイオ肉のお歳暮」など過激な案も含めて、想像を膨らませて提案していくことで、様々な発想を導くことができたという感想をいただきました。

ーー 事業の主体者自身にも見えていない未来像を描き出していくというのは、かなり特殊な技能ですね。こうした活動を始めたきっかけは、何だったのでしょう?

曽我:もともとは、企業の広告やブランディングを手がけるaoi-dc(葵デジタルクリエーション/現・AOI Pro.の一部門)で、僕と宮川が始めた社内の課外活動でした。きっかけは2010年、AppleのCEOだったスティーブ・ジョブズがiOSデバイスでFlash(Adobe Flash)をサポートしないという宣言をしたこと。当時Flash全盛だったウェブ広告の世界にとって、これは相当に大きな衝撃でした。

宮川:自分たちが培ってきたやり方や仕組みが他者の一存でガラガラと崩れてしまう状況に、底知れない怖さを感じました。そこで、周囲の広告クリエイターたちと「自分たちは今後、どうするべきか?」という話をし始めたのです。

未来予報社がこれまでに手がけた冊子類より。右上:最初に発行された『未来予報 Vol.01』(2013年)。 左上:スタートアップベンチャーexiiiの会社案内。 左下:KOKUYOワークスタイル研究所のアニュアルレポートの校正紙(2017年版)。 右下が著書『10年後の働き方 「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ』(インプレス/2017年)。

ーー その活動から生まれたのが、僕もお手伝いをさせていただいた社内向け冊子『未来予報 Vol.01』(2013年)ですね。お二人が中心になって、識者へのインタビューなどリサーチから、未来予報年表、ワークショップ用のシートまでを集約するなど充実した内容で、お二人の熱意に感心しました。

曽我:ありがとうございます。あのときは同僚たちに向けて、「未来に向けて今をどう生きるか」を考えてもらいたいという一心でした。それがきっかけになって、新たにビジネスを生み出すスタートアップの活動に接したり、自分たちもAOI Pro.内で新規事業を立ち上げて経営の勉強をしたり……東大関係のスタートアップ・コミュニティと一緒に、月1回のミートアップを実施するなど、活動を広げていきました。

宮川:私の場合、広告の仕事をする中で、「どこを向いてコンテンツを作っているんだろう?」という疑問が大きくなってきて。クライアントからお金をいただいて制作をする一方で、その先にいるはずのお客様がないがしろにされているという葛藤を、この課外活動で発散しようとしていました。

“未来の火種”を見つけ、進化を導く特務チーム

曽我:それと時を同じくして、宮川は12年、僕は13年から、アメリカ・オースティンで毎年3月に開催されている「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」を訪れるようになり、日本でその魅力を発信するお手伝いをするようになりました。ちょうどSXSWが日本でも注目され始めて、「新しい世代が新たな文化を作っていく」という予感があふれていた頃。そうした火種を見つけることが、個人的に好きだったということもあります。

SXSW期間中、箱形のコミュニケーションデバイスの開発を手がけるPLENRoboticsとともに、彼らのロボットが日常に浸透した未来の様子を壁画アーティストとのコラボレーションで描き出した時の一コマ。

ーー トレンド的に3Dプリンタをはじめとするデジタル工作機械を駆使してものづくりを行う「メイカーズ」が台頭して、新たな産業革命をもたらすというムーブメントが到来し、活況を呈していた頃ですね。

宮川:はい。私たちにとっても、3Dプリンタであらゆる人にフィットする義手の研究開発を進め、世界的な注目を集めていたスタートアップ「exiii(イクシー)」との出会いは大きな出来事でした。上肢障がいを持つ方自身が、自ら最適な義手を作れるようになるかもしれない。そのムーブメントを広げるお手伝いをできたら素敵だなあと。

曽我:実際に、彼らが考えているイメージをヴィジュアル化して海外の投資家やメディアにアピールするために『未来予報 Vol.02』を制作し、15年のSXSWで配布したりもしました。新しい技術やサービスの作り手の多くは、自分たちの発想をヴィジュアルやストーリー化することにあまり意識が向いていないケースが多々ある。自分たちの力でその部分を引き出し、現実の未来につなげていくことができるという手応えを感じました。

未来予報のプロジェクト進化年表。社内プロジェクトとして発足したのちに事業化し、未来像=<HOPE>を作り出していくヴィジョンが可視化されている。

ーー 未来予報社の設立はその翌年ですが、その拠点としてデジタル工作機械を備え、入居メンバーの大半をハードウェア系のスタートアップが占めるシェアオフィス「DMM.make AKIBA」を選んだのは、コンテンツ系の業種としては珍しいことだと思います。

宮川:確かに、広告業界にいた頃は渋谷、青山、六本木などを行き来することが多かったのは事実です。でも、あえてハードウェア・スタートアップのコミュニティに身を置くことで、次にどんな新しいものが生まれるのかを共有したいと思いました。

曽我:それに、起業家たちの苦悩を間近で見ながら、自分たちの役割を見つめたかったということもあります。また、当時入居していたスタートアップの多くが数年のうちに成長して独立拠点を構えていった一方、大企業がオープンイノヴェーションのための拠点を設けるケースが増えてきて、僕たちも新たなご縁に恵まれました。スタートアップと中小企業の間を取り持ち、新ジャンルの家庭用プロダクトの開発から発売までに携わったプロジェクトでは、クラウドファンディングで1000万円超えの資金調達を達成するなど、大きな手応えを感じましたね。

宮川:その製品がある未来のストーリーと今までとは違う新しい開発チーム像を作ってSNSで拡散したのですが、新聞などのメディアがそれをコピー&ペーストして記事を掲載してくれて。“ストーリーで訴求・拡散する”というアプローチの有効性にも目覚めました。

未来=人々の希望。その決意を胸に、世界を変える

パートナーとなるスタートアップ企業とともに、未来像<HOPE>をどう進化させていくか、フェイズ毎の課題やその進展を独自のメソッドでまとめたチャート。

曽我:これは、スタートアップの段階別の変化をまとめた図です。まず、共同創業者やコアメンバーを見つけるフェイズがある。次に支援者や社員を見つけ、さらに投資家やパートナー企業を見つけたり、クラウドファンディングでコアファン層を創出したり、メディアでの情報拡散や、カスタマーにローンチするまでの流れを表しています。

宮川:最初の2〜3年はどうしても自問自答の厳しい時期が続きます。それを乗り越えるためのパッションや原動力、彼ら特有のユニーク性などの強みは、自分自身で描き出すことのできる未来像から生まれるものです。だから、いかにそこを追求していくかを、一緒になって「問答」をしていきます。

曽我:CEOの方の個人的な原体験まで深掘りして、「未来はこうあってほしい」という願いをストーリーへと集約していくのが僕たちの問答のスタイルです。だから僕たちはこの未来像のことを<HOPE>と呼んでいます。単に未来世界を想像するのではなく、思想的背景から未来の希望そのものを作り出していくわけです。

スタートアップの創業者に向けて、事業展開のコアとなる未来像<HOPE>の重要性やプロセスを解説したシート。

ーー お二人がかつて所属していた広告制作会社は、往々にして代理店からの受注者の立場に甘んじるあまり、こうした至上命題を掘り下げることがないまま、雰囲気優先のヴィジュアルを作って終わりになりがちです。その部分に、大きな違いを感じます。

宮川:私たちも、本音で未来を作っていきたいと思っていますから。ある意味で騙すようにして虚構のイメージを作るのではなく、その人に本当に必要なものを一緒に築いていきたいという思いがあります。

曽我:僕たち自身にも、作りたい未来がある。だからこそ「等身大のクリエイティブ」をコンセプトに掲げ、相手の成長フェイズに見合った規模で、実効性のあるストーリーを描いていきたいと思っています。

未来予報社が長期的にブランディングを手がけるKOKUYOワークスタイル研究所のアニュアルレポート(2017年版)。研究所メンバーとともに問答を繰り返し、「2030年のワークスタイル」をヴィジュアル化。その実践に向けた共同研究も進行している。

ーー 「こんなにすごい技術だぞ!」と鼻息を荒げたところで、それがどう世の中をよくしていくのかを考えていない限り、「だから何?」という話になりかねない。著書でも取り上げている昆虫食やバイオレザーの話は、そうした倫理の問題にもつながる事例ですね。

曽我:はい。SXSWに毎年参加する中で、全体の空気感が「テクノロジーが世界を変える」という話から、より社会的な意識を帯びてきたように思います。近年の事例では、自動車産業が衰退したデトロイトの街を活性化するべく、DJブースを搭載した車で路上にサードプレイスを作り出す運動が注目を集めていました。テクノロジーの進歩にすべてを委ねるのではなく、そこからカルチャーや思想をどのように育てていくかという議論が必要だと思っています。

宮川:そうしなければ、先進的な意識を持った人たちと、旧態依然とした価値観に生きている人たちの間で分断がどんどん深まってしまう。その間の摩擦をいかに乗り越えながら、新しい希望、<HOPE>を作り出していけるか。その意味でも、未来予報の3人目のメンバーで、SXSWの開催地オースティン在住のAyaの存在は大きいですね。アメリカの文化背景を理解しつつ、彼女の専門である異文化コミュニケーションの視点に立つことで、単なる絵空事に終わらないアウトプットができると感じています。

ーー 未来への先見性と感応性を持った“ニュータイプ”とも呼ぶべき、お二人ならではの使命感がひしひしと伝わってきました。一方で、自分たち自身の今後のヴィジョンについては、どんな野望を抱いていますか。

曽我:今、話に出たような、将来起こりえる摩擦を今後、どう描いていくか。コンテンツに加えて、何らかの学びが得られる仕組みを作りたい。そして、それが時代を超えて語り継がれるような<HOPE>になったなら、嬉しいですね。

宮川:たとえるならSFやアニメによく登場する、“世界を導くため、ディストピアな未来から現代に遣わされたエージェント”のような感覚でしょうか(笑)。それ位の決意を持って、世の中を少しずつ変えていきたい。そう思っています。


未来予報株式会社

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