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SXSWもWMCも中止になってしまった今、CES2021に向けて日本企業が準備すべきこと
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  • 2020.03.13
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SXSWもWMCも中止になってしまった今、CES2021に向けて日本企業が準備すべきこと

2020年のCESは、非常に面白かった。それが正直な感想だ。「CESにはスタートアップの目新しいテクノロジーはもはやなく、大手企業のPR合戦の場になり下がってしまっている」というオワコン説も流れているのは確かだが、1歩先の未来を体感できるのは、楽しい、の一言に尽きる。本来は、CESの他、WMC(World Mobile Congress)とSXSW(South by Southwest)が毎年2月〜3月の間に行われており、「この3つの世界規模のテクノロジーイベントに行けば、今の世界の現在地がわかる」と言っても過言ではない。

しかし2020年は新型コロナウィルスの流行によって、WMCもSXSWも中止になってしまったという状況なので、本稿ではCES2020の総集編とこれからの日本企業の進むべき道について考察してみたい。

竹井慎平

1987年兵庫県生まれ。大学卒業後、総合広告代理店に入社。医療用医薬品やOTC、消費財、テーマパーク、ショッピングモール、自動車などのマーケティングを幅広く担当。その後、IT企業に入社。企業ブランディングを中心に、統合的なコミュニケーション設計を行う。また、クライアントのPR、マーケティング、PoCなども請け負う。2020年より独立し、照應堂にて、企業への統合的なコミュニケーション設計支援を行っている。

テクノロジーそのものではなく「使い方」で魅せる潮流の変化

圧倒的な美しさと壮大さで魅せる、LGのブース

CESは、そもそもが「Consumer Electronics Show」と呼ばれ、1967年から開催されている電子機器・家電の見本市だった。しかし2016年に主催組織が「CEA」(Consumer Electronics Association)から「CTA」(Consumer Technology Association)と名称変更したことからもわかるように、単なる「家電(電子機器)の見本市」ではなく、最先端のテクノロジーを発表し合う祭典のようなイベントになったのだ。

さらに今年は基調講演で、資料のタイトルに「Into the Data Age」と入れたり、IoTが単なる「モノのインターネット化である「Internet of Things」ではなく、モノが“知性”を持って社会とつながる「Intelligence of Things」になると宣言したりと、CESとしても次の10年をうらない、CES自身の存在意義を再定義した節目だったのではないだろうか。さらにイヴァンカ・トランプを登壇に呼び、彼女が先導する政府の「Pledge to American Workers (米国労働者への約束)」プログラムについて講演させるにあたって「これってテクノロジーとどう関係あるの?」「CESはなぜこの人選を?」と多くの人に思わせたのは、半分くらいはCTAの思惑通りだったのだろうと期待したい。

実際に、今年は5GやAIといった領域でも、当初期待されていたほどにはテクノロジー単体でワクワクさせるような展示や発表は少なかった。というより、目新しいテクノロジーの発表や活用はほとんどなかったと言って良いだろう(5G関連はCESではなく、WMCで発表しようとしていた企業が多かったようだと推察されるが)。一方で、社会文脈においてどういう課題をどうやって解決するかというストーリーがあり、その解決手段としてこんなテクノロジーがあるのではないか、というような見せ方をする企業が多かった。そのため展示方法も「モノを見せる」から「生活で魅せる」というブースが多く、演出もかなり派手だったように感じる。特に、デルタ航空やP&G、ロレアル、BOSCH、積水ハウスなどの非テクノロジー企業が、今まで培った経験や技術を基に、デジタル時代における自社の価値を再定義する場としていたことが印象的だった。

デルタ航空は、単なる飛行機での移動手段ではなく、飛行機に乗る前から帰宅後まで含めてサービスを提供する企業になるという発表が、CEOのEd Bastian(エド・バスティアン)氏からなされた。そのために、航空券や機内食の予約、事前のチェックインなどができるスマートフォンアプリ「Fly Delta」の紹介やライドシェアサービスを提供する「Lyft(リフト)」との提携拡大、ミスアプライド・サイエンス社と組んだ「PARALLEL REALITY」という技術の紹介(搭乗券に印刷されたQRコードをフライトインフォメーションのディスプレイにかざすと、同じディスプレイなのに各人に対応した別々のインフォメーションが肉眼で確認できるというシステム)、さらには、Sarcos Robotics(サルコス・ロボティクス)社との提携で従業員向けのパワードスーツ「Guardian XO」の設計の開始など、技術も含めた発表が盛り沢山だった。

それぞれに面白い技術だが、詳細については検索してみて欲しい。何度も言うが、テクノロジーとしては新しいものは皆無ではある。それでも顧客と従業員の双方に向けた体験価値の向上により相乗効果的に顧客価値を上げていく施策としては、非常に面白い取り組みだと言えるだろう。

また、P&Gは、CESを「Consumer Experience Show」と位置付け、P&Gが顧客体験を刷新していくことを、支援しているスタートアップをうまく巻き込みながら魅せることで、アピールできていたように思う。赤ちゃんの睡眠、食事、オムツ替えをリアルタイムで確認できる「Lumi by Pampers」、シミ消しのハンディスキャン&プリンター「Opté Precision Wand」、家の中の香りをアレンジできる「AIRIA」など10を超える展示を行った。180を超えると豪語するP&Gが進めている実験のスピード感やオープンイノベーションの幅広さ、そして懐の深さまでも示した格好だ。

電気自動車を創ったソニー、都市開発に参入するトヨタ

ソニーが開発した電気自動車(EV)のコンセプトカー「VISION-S」

また、今回のCES2020では、前年比25%増の135社が参加したデジタルヘルスのほか、スマートシティ、スマートモビリティなどの展示も盛り上がりを見せていた。トヨタは2018年に次世代のモビリティサービス用のEV「e-Pallet Concept」を発表し大きな話題を呼んだが、今回もさまざまな自動車メーカーが出展し、CESでも大きな存在感をはなっていた。各社の展示は「レベル5の完全自動運転ができます」で終わらせず、それが当たり前になった社会を想定したコネクテッドカーやモビリティサービスに重点をシフトして、その未来予想図を見事に展示していた。

自動車に関する展示で、日本でも特に話題になったのが、ソニーとトヨタだろう。

ソニーは、電気自動車(EV)のコンセプトカー「VISION-S」を発表した。ただしそれはソニーが自動車領域へ参入するということを意味するのではないようだ。実際はソニーの音響技術やセンサー技術のショーケースとしての位置付けとのことだが、そのためだけにEVまで実際に作り上げてしまうところに、ソニーの自動車への本気度を感じた。

VISON-Sには、車載向けのイメージセンサーなど33個のセンサーを搭載し、さらに立体的な音響体験が体験できるスピーカー内蔵のシートなどが紹介された。スマートフォンの次のメガトレンドをモビリティだと狙いを定めており、ソニーの持っている技術を投入していくことを世界的に宣言したのだ。

 一方、トヨタ自動車は、2020年末に閉鎖予定の東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に、「Woven City(ウーブン・シティ)」という、AIやパーソナルモビリティ、スマートホーム、自動運転、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、ロボットなどの総合的に実証実験できる都市を造ると発表した。2021年初頭に着工する予定で、まずは2000名が住める都市にする計画だ。

まだ詳細については決まっていないようだが、唯一参画が決まっており、CES2020で代表取締役の豊田章男氏と共に登壇したのが、世界最高の若手建築家とも称されるビャルケ・インゲルス氏だ。同氏はデンマーク出身で、建築事務所「ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)」の代表として、産業廃棄物工場にスキー場を作ったり、デンマークのレゴハウスを手がけるなど型破り(創造的)な建築家として知られる。今後、都市設計はビャルケ・インゲルス氏が指揮しながら、さまざまなパートナー企業や研究者と連携して取り組みを進めるとのことで、期待が寄せられている。

アメリカの「M City」や、シンガポールの南洋理工大学と政府による実験場など、世界ではすでに自動運転の実証実験地域が増えてきている。さらに2019年に、テンセントは深センの臨海地の島を購入して、自動運転などの実証実験の場所にするというニュースもある。今後、世界のトップレベルで戦うためには、一商品やサービスだけではなく、また、国の法整備や動きを待つのではなく、本当の意味での「生活」という領域で実証実験していくことは必要不可欠になるだろう。

他国と比べてただでさえ少ない日本企業の出展。今後目指すべき方向性は?

人だがりができていたGROOV Xのブース 

今回のCES2020には、パナソニックやシャープのほか、積水ハウスやオムロン、寝具メーカーの西川株式会社など昨年よりも多くの日本企業が出展していた。全部で70社〜80社程度で、各社の展示としては、他社連携を今後進めるための見せ球としてモックアップを作っている、もしくは宣言しアピールするブースが多かったように思う。

例えば積水ハウスはCES2019で発表した「プラットフォームハウス構想」に続いて、CES2020では「在宅時急性疾患早期対応ネットワークHED-Net(In-Home Early Detection Network)」の構築について、生活者を巻き込みながら実際に2020年中に検証すると宣言した。

ただ全体として、中国は1000社以上、韓国は300社、フランスは250社と日本よりも圧倒的な出展社数であり、日本企業、特に大手の存在感はそこまで大きくなかったと言えるだろう。例えばシャープも2019年に4年ぶりの出展を果たしし、今回で2年連続となったが、ブースにあまり人はおらず、なかなか厳しい状況だったという印象だった。

大企業はこれからのCESにおいて、「これからのアフターデジタル時代において、どういう自社のテクノロジーを活かし、どういう企業と組むことで、これからの生活者にとってなくてはならない企業になるか」というストーリーをきちんと描き、どう自社の価値を再定義したかを発信していかなければ、存在感は減っていく一方だろう。

一方で、ベンチャーは、「Eureka Partk(エウレカパーク)」というエリアにおいて、J-Startupパビリオンで29社(日本貿易振興機構(ジェトロ)が選出)、JAPAN TECHブースで9社(大広などが選出)展示されていた。その中でも注目したいのが、CES 2020 イノベーションアワードを獲得した「LOVOT」や、ユカイ工学の「Petie Qoobo(プチ・クーボ)」などだ。

LOVOTはGROOV X社が「役に立たない、でも愛着がある」というコンセプトで作ったもので、Qooboはクッションにしっぽをつけたもの。つまり一見、テクノロジーの無駄づかいとも思えるものだ。しかしこれを単なる無駄と切り捨てるのは早計だろう。これらのロボットがもたらす愛嬌や癒しは、多くの海外のビジネスマンを魅了し、人だかりができていた。

今後は笑いや癒し、そして萌えやカワイイなどの「エモさ」と、「テクノロジー」の掛け合わせで、新しい日本のポジションを作っていくことが可能かもしれないと感じた。例えば、韓国のメッセンジャーアプリ「Kakao Talk」を提供するKakaoの展示ブースでは、Kakao Friendsというキャラクターを活用したIoT製品が展示されていた。実はこれを手掛けたのは、日本のデザインオフィスのnendo。テクノロジーの使い方として、効率化や合理化、省人化、省力化が中心だからこそ、あえてテクノロジーの無駄づかいとも言えるエモいテクノロジーに可能性があるのではないだろうか。

CES2021では建設中のLVCCの新ホールを活用することでさらに展示スペースが広がるとも言われる。しかし、昨年と比べても来場者17万人、展示企業4400と横ばいかやや少なくなっている。CESにとっても次の展開に向けた転換期であると言えるだろう。こうしたCESの転換点に、日本企業も柔軟に対応していかなければならないのではないだろうか。

ほとんどの日本のビジネスマンは、1月末頃にはCESレポートイベントや社内への報告を済ませて、もはやCESでの体験などほぼ忘れているのではないかと思う。CESを見て回ると、日本のビジネスマンは楽しそうにいろいろなブースを体験はするものの、商談が進んで握手をするという光景はほとんど見られなかった。

来年のCES2021ではぜひ、そこかしこで握手がなされている光景が見たいものだ。


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