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地域再生の実例が示す「勝手に楽しくやっている人」の重要性|加藤優一(Open A)【前編】
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  • 2018.05.11
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地域再生の実例が示す「勝手に楽しくやっている人」の重要性|加藤優一(Open A)【前編】

2017年12月、『CREATIVE LOCAL:エリアリノベーション海外編』(学芸出版社)という書籍が刊行された。馬場正尊氏率いる設計事務所Open Aと、神戸大学大学院准教授の中江研氏が中心となり、世界各国の「衰退から再生した地域」の事例をまとめたものだ。

現地に精通したライター・研究者が執筆したレポートはいずれも非常に興味深かったが、特に目を引いたのが、本書の編著者である加藤優一氏が執筆した「寛容な風景を生む、組織とプロセス 日本への示唆」という、地域再生手法の理論化を試みた項目だった。

加藤氏はOpen Aに勤務する傍ら、銭湯の隣にあるアパートの暫定利用プロジェクト「銭湯ぐらし」や、山形県の新庄最上地域で築100年の空き家のリノベーションなどを行う一般社団法人「最上のくらし舎」など、個人としても遊休不動産再生プロジェクトに携わっている。

理論化と実践、いずれも経験した同氏に「上手く行かないと言われることも多い地方創生を、少しでも良くするためにはどうすればいいか」という率直な疑問をぶつけてみた。

聞き手・文・構成・写真:神保勇揮

加藤優一

一般社団法人 最上のくらし舎代表理事/銭湯ぐらし主宰/Open A/公共R不動産

1987年山形県生まれ。東北大学博士課程単位取得退学。2011年より復興事業を支援しながら、自治体組織と計画プロセスの研究に従事する。2015年より現職にて、建築の設計企画、まちづくり、公共空間の活用、編集・執筆等に携わる。

東北大学で自治体の計画プロセスを研究

ーー まず初めに、Open Aに入社した経緯を教えてください。学生時代からまちづくりに関する活動をされていたということですが、どんな研究・活動をされていたのですか?

加藤:大学で建築設計、大学院で都市計画を学んだのですが、両者の間に大きな溝があることを知り、その間を架橋できないかと考えていました。そこで、都市レベルの政策や意志が私たちが使う空間として具現化される公共空間に関心を持ち、公共発注の仕組みやプロセスを専門にする研究室がある東北大学の博士課程に進みました。

その後、東日本大震災が起きたこともあり、公共施設の再生をお手伝いしながら「自治体の組織体制や計画プロセスがどのように空間形成に影響するか」という研究をしていました。

ーー これまで宮城県内の自治体にインターンシップやアドバイザーとして参加していたこともあったそうですが、どんなプロジェクトに参加していたのですか?

加藤:震災の時は、千葉大学の大学院にいたのですが、被災された方と空き家のオーナーをマッチングする活動(家まっちProject)や、移動式の家具でコーヒーを配りながら対話の場を生み出すプロジェクト(語らいカフェ)などを立ち上げました。また、建築家による復興支援団体『Archi-Aid(アーキエイド)』にも参加していました。

東北大学の博士課程在籍時は、宮城県の七ヶ浜町という自治体でインターンシップやアドバイザーとして関わっていました。復興公営住宅の整備にあたり、前提条件の整理や設計者選定、ワークショップなどを支援していました。

アーキエイドでの活動。横浜トリエンナーレ連携プログラム「新・港村Archi-Aid展(設計・施工)」では学生団体を組織し被災地での活動を伝えるための展示ブースを作り上げた。

官民連携ワークショップの様子。住宅再建に際し、過去の記憶を継承しながら、将来のコミュニティや維持管理を見据えた計画を共に考えた。

ーー そうした活動を経て、まちづくりの主体として公務員の道に進もうとは考えなかったのですか?

加藤:おっしゃる通り、公務員も考えましたが、急激に社会が変化する中で、官民双方の意識や状況を急いで変えていかなければいけないという危機感もありました。

学生時代からOpen Aでアルバイトしていたんですが、ちょうどその頃、Open A代表の馬場正尊が『公共R不動産』を立ち上げるタイミングでした。民間ならではのスピード感で公共空間、ひいては社会をより良くする取り組みに共感し、博士課程を単位取得退学して入社しました。

公共空間の設計、公共R不動産などを担当

ーー Open Aでは何を担当されているのですか?

加藤:Open Aは、建物のリノベーションや街の再生を中心にした設計業務のほか、本の編集やメディアの運営など、空間の仕組みづくりも行っています。社内には民間案件と公共案件を担当するチームがあるのですが、僕は後者の統括的な役割を担っています。公共空間の企画・設計が中心ですが、最近では運営まで関わることもあります。

その一貫で、公共R不動産に関わっています。Open Aからも数人参画していますが、メンバーの中心はフリーランスの方です。公共空間と使いたい民間事業者のマッチングを目指すウェブメディアの運営や、公共空間の活用に関するコンサルティングやプロデュースなどの業務を受けています。

佐賀県庁の地下食堂を県民に開かれたカフェ兼ミーティングスペースにリノベーション。県と民間の事業者の調整を行いながら、2018年8月に本オープン予定。

公共R不動産のHP。公共空間の活用を促す情報発信を行う。

ーー いくら「空いてる場所があるからみんなで使い方を考えよう!」と旗を振ったところで「ここで何か面白いことが起こりそうだ」というワクワク感が醸成されていないと人は集まりませんしね。

加藤:そうですね。公共R不動産には遊休不動産の活用に詳しいメンバーが揃っているので、場所のポテンシャルを引き出したり、魅力をより多くの人に伝えたいと考えています。最近では、サウンディング調査(事業検討段階での民間企業や市民に対するヒアリング)の依頼などが増えてきましたね。

「衰退→再生」のヒントはヨーロッパ諸国にあり

ーー では次に『CREATIVE  LOCAL』の内容についてお聞きしていきたいと思います。この本は2016年に出版された『エリアリノベーション:変化の構造とローカライズ』(学芸出版社)の続編としてやりましょうということで始まったんでしょうか?

加藤:はい。『エリアリノベーション』では、日本各地のエリア単位での再生事例を調査し、成功事例に共通するポイントも発見できたのですが、国全体としては地方消滅とか限界集落とか、キャッチーなネガティブワードだけが先行していて、未来のビジョンを描けていないのではないかと思っていました。

「では世界の他の国はどうなっているのか」と考えたのですが、日本語では専門家以外の人が手に取りやすい資料があまりない。また、調べている内に海外では衰退をポジティブに転換している地方都市が数多くあることが分かってきて、海外編をやってみようということで始まりました。

ーー 失礼ながら読む前は「馬場さんたちのキュレーションなら読み物としては面白いだろうけど、果たしてこれを文化も歴史も違う日本人が読んで参考になるかどうか…」という不安もあったのですが、それは全くの杞憂で非常に参考になる一冊でした。事例はヨーロッパ諸国のものが多いですが、どのように集めていったんですか?

加藤:「衰退の先にある風景」が今回のキーワードなんですが、一度何らかの衰退を経て、小さい経済の循環や、幸せな再生の仕方を実践している国を探したところ、近代化が早くから起こったヨーロッパ諸国が多かったということです。チリだけはちょっと異色ですが。

ーー 加藤さんが今回の調査・編集を通じて、特に興味深かった事例は何ですか?

加藤:例を挙げるとイタリアの「アルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Defuzo)」とドイツの「ハウスハルテン(HausHalten)」でしょうか。

イタリアのアルベルゴ・ディフ―ゾは、空き家が増加した村で、エリア全体を宿として再生する取り組みです。訪れた人は、空き家を改修した宿に泊まり、食事や鍵の受け取りは近くのお店を利用します。機能が街に分散しているので、回遊しながら地元の人たちとの交流も楽しめますし、地域に経済効果が生まれている事例もあります。

イタリア・ピチニスコの街並み。アルベルゴ・ディフーゾはアクセスが非常に困難な立地にあることも少なくない。

ヒアリング調査の様子。宿泊先ではオーナーとの会話も楽しめる。

またドイツのハウスハルテンは、空き家の暫定利用として、所有者に期間限定で空き家を提供してもらい、利用者を募集・支援する取り組みです。所有者は、維持管理を無償で行ってもらう代わりに、利用者は家賃0円で空間を利用できることになります。また、集合住宅を協働で買い上げることで、家賃の高騰から自らの生活を守る「ハウスプロジェクト」という活動も増えています。日本で言うところのコーポラティブハウス(集合住宅の居住希望者が集まり、事前に建物の仕様や利用ルールなどを話し合ってから建設する仕組み)に近い要素もあります。

僕自身も「これは日本でもできそうだな」と思えましたし、そういった活動を少しずつ始めている人たちが現れています。

ーー これらの事例は、まちづくり、地域再生に関する話題で必ずキーポイントに挙がる「活性化の実行主体は行政でなく民間でなければならない」という、まさにドンピシャのケースですよね。

加藤:はい。先程の事例でも、行政は民間が動きやすいような制度面・金銭面での支援が行われていて、そういった役割分担は必要ですね。

「放置された自然」は付加価値たりえる

ーー 本の最終章では加藤さんが「寛容な風景を産む、組織とプロセス 日本への示唆」というまとめを執筆されています。「クリエイティブローカルを進めていくには行政主導の大きな計画ではなく民間主導の小さな実践の方が有効だ」、「硬直的なマスタープランよりもプロジェクトを段階的に進めながら方針を定めていくべきだ」など、フレームとしては非常にわかりやすいのですが、今の地方はこれらの方法論が実現できる段階にあるかどうか、加藤さんの実感的にはいかがですか?

『CREATIVE LOCAL:エリアリノベーション海外編』P248より 

同書P250より

加藤:できると思っています。前作の『エリアリノベーション』では、「尾道空き家再生プロジェクト」という広島のNPO法人の事例を取り上げました。この取り組みは今回取り上げた海外事例にも近いと思います。

尾道の坂と路地。写真は空き家を再生した小さなパン屋「ネコノテパン工場」。

尾道は「坂の町」として有名ですが、住んでいる人にとっては、歩きにくいし車は入れないし、暮らしにくい側面もあったと思います。でも、そうした状況のおかげで古い街並みがそのまま残っていた。その風景に価値を見いだした若い方が、空き家をリノベーションしたり、地域の資源を再編集して発信することで、今では「移住したい」という人のウェイティングまで起きている状況です。

本にも書きましたが、これまでは、近代化を進めるために工業地域や郊外の住宅地ができたり、都心部への一極集中が進んだり、産業が都市の風景をつくってきたけれども、今は逆に「風景から産業が生まれつつある」と思います。衰退した街というのは、既存の貨幣経済・資本主義からはネガティブに見えますが、その土地固有の文化や風景を資本と捉えると、観光などの観点では差別化できる付加価値だったりする。

話はちょっと変わりますが、南青山の『COMMUNE 2nd』という屋台村に行ったことはありますか?

ーー あります。表参道駅の近くにある、レストランやカフェとかが集まったところですよね。

加藤: 2012年に都市再生機構がまちづくり用地の暫定利用のために事業者を募集し、2年間限定で「246COMMON」がオープンしたのが始まりで、2017年からは「COMMUN 2nd」として運営されていますが、ほとんどの店舗に車輪が付いているんです。

ビジュアルとしてすごく楽しいじゃないですか。

南青山にあるCOMMUNE 2nd。個性あふれる屋台やキッチンカーが集まるお祭りのような空間となっている。

ーー 確かにそうですね。

加藤:でも、これって恐らく最初から「そういうデザインがいいね」という前提が先にあったのではなくて、暫定利用で終了日が最初から見えていたからこそ“動かせる”という要素をデザインに取り入れたと思うんです。最近は既存の条件や制約をうまくデザインとして昇華させるプロジェクトが増えていますし、逆にそこが面白さを生んでいると感じます。

結局のところ、地方自治体はどう振る舞えばいいのか

ーー 参考にできそうな事例が日本中、あるいは世界中にある一方で、木下斉さん(エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)などは「国や自治体が編纂する、“地方創生成功事例集”みたいなものを鵜呑みにして、完全コピーの二番煎じをやっても上手くいかない」といった警告をしたりもしています。プロジェクトの成功と失敗を分けるファクターはどのあたりにあるのでしょうか?

加藤:結局のところ、成功事例の結果を見るだけでは「その裏にどのような仕組みやプロセスがあるか」という構造的な問題まで理解し応用できるかというと、なかなか難しいと思います。

ーー どんな制度があり、どんな人がいて、どんな風に動いたかというか。

加藤:そうですね、プロジェクトを成功に導く要素の一つが組織体制だと思います。本で扱った事例の共通点としても、活動を推進する組織とプロセスが柔軟であり、それが風景に現れていることが印象的でした。博士課程で研究していた内容でもありますが、どんなプロジェクトでも、それをつくるのは組織なわけです。

『CREATIVE LOCAL:エリアリノベーション海外編』P242より

ーー 成功事例は「いい意味で野心を持った若者がいて、組織の上の人がそれを認めて好きにやらせてあげる」という構図が多いですよね。その状態をつくることがやっぱり一番大変なのかなと思います。

加藤:そうですね。ただ、行政の組織で言うと、すぐにでも取り組めることはたくさんあります。そもそも、行政内だけで考えるのではなく、政策の方針や事業の枠組みを考える段階から、民間の発想を取り入れるべきですし、先程ご説明したサウンディング調査などの取り組みは実際に増えています。また、民間の優秀な人材を雇用するための取り組みを進めたり、いい意味で官と民の境界が緩やかになるべきだと思います。

また、行政内部でも、組織の縦割りを改善するために、組織横断型のプロジェクトチームをつくるという対策がありますが、取り入れている自治体は少ない。組織を横断する分、各人の責任感が希薄になってしまう懸念もありますが、ある自治体ではチームに必要な権限と責任を与えた、役割分担を明確にすることでチームが機能しています。今の法制度内でできることはいっぱいあるので、それを組み合わせてやっていくしかないと思うんです。そんなにクリティカルな答えはないんですが(笑)。

ーー そうですね(笑)。どうにかしたいと思っている自治体と、何かをやりたいと思っている人をどうマッチングさせるかというところも一つの課題なんでしょうが、それも地道にやっていくしかないですね。

加藤:そうですね。行政は、良い取り組みを行っている民間を見出して素早くサポートしてあげたり、それができるように条件を整えてあげたり。

本で取り上げている事例でも自治体が、成功した民間の事業のサポートをしていることが多かったです。ドイツでは上手く行った民間の取り組みを、行政の施策としてサポートしはじめましたし、デトロイトでは行政が一方的に政策を決めるのではなく、今ある民間の活動を踏まえ、活力を促すようなフレームワークを設定しています。民間の動きをいち早くキャッチアップして、可能性を広げられる自治体が生き残るんだと思います。

ーー 結局、「枠組みだけ決めるから、あとは勝手にやれ」というのが一番いいんでしょうね。あるいは勝手にやっている人たちをフックアップして、「同じようにやっていいですよ」というお墨付きを与えるとか。

加藤:これだけ変化が早い社会においては、ある程度余白を残したり、フレキシブルな状態にせざるを得ない。むしろその未完成な状況が、多様な人が関わりを生み、可能性を広げるという意識の変化が必要だと思います。

ーー ただ一方で、自分が地方公務員だったらと考えると、「勝手にやっていいよ」と言ってはみたものの本当に手を挙げてくれる人が来るのかとか、任せてもあまりいい結果にならなかったらどうしようということを恐れてしまう気持ちは分かるんです。

加藤:その辺りの計画段階から、民間を巻き込んで、一緒に作ってしまった方がいいんです。とにかく自分たちだけでやりきらない、決めきらない勇気が欲しいですね。

地元の優秀な民間プレーヤー、探してますか?

後編で詳しく紹介する、加藤氏が代表を務める「一般社団法人 最上のくらし舎」の活動の様子。地元で空き家の活用に関心がある人を呼びかけたところ、官民を問わず多くのプレーヤーが集まった。

ーー 「やりきらない」という部分も重要ですし、有志をただ待つだけでなく自らフックアップしていく姿勢も重要ですよね。

加藤:勝手に何らかのアクションを起こしている人たちは、その多くがSNSでつながっている時代ですよね。そのネットワークの一端を見つければ、あとは自然につながっていくと思います。その最初の一歩が難しいと思われるのかもしれませんが。

行政の方も、今までは「勝手に変なことをやってる、面倒くさい市民」と捉えていた人をまちづくりのプレーヤーとしてちゃんと認識して、協働できるような体制をつくる必要があると思います。

その目利きができていない状況で「うちの地域には人材がいません…」など言いがちですが、僕らからすると「いやいや、めちゃくちゃいるじゃないですか!」と思うことって、少なくないんですよ。

ーー まちづくり系のトークイベントに行くと、結構な割合で鉄道会社や不動産デベロッパーの若手が来てますよね。彼らはちゃんと自分たちの事業エリアで面白いことをしてくれる人を探している。

加藤:その辺りは副業がもっと認められるようになれば、面白い人がたくさん出てくると思いますよ。地方都市だと優秀な人が公務員の道に進むことも多いので、アンテナを高く張っている若い方が増えている印象もあります。

ーー なるほど。

加藤:公務員兼個人プレーヤーみたいな人がいると、地元のリアルな状況を理解した上で、必要なことを政策にしっかり反映させる人が増えてくると思うんです。

もちろん、それには僕ら市民の側も、公務員が楽しそうにしている様子に対して「あいつは公務員なのに遊んでる!」という反応をしないように努めていく必要があります。

ーー いわゆる「遊ぶように働く」というやつですね。

加藤:CREATIVE LOCALで紹介したプロジェクトの人たちも、仕事なので辛くてもやる、というような人は一人もいなかったと思いますよ。

後編へ続く)



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