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サウンドアーティストevalaと映像作家関根光才による前代未聞の映像作品——音から想起する映画『Sea, See, She -まだ見ぬ君へ-』対談
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  • 2020.01.20
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サウンドアーティストevalaと映像作家関根光才による前代未聞の映像作品——音から想起する映画『Sea, See, She -まだ見ぬ君へ-』対談

サウンドアーティスト、evalaが新たな挑戦を行う。耳から音だけを感じ取って、感情や風景を想起させる約70分の映画を現在製作中だ。インビジブル・シネマ『Sea, See, She -まだ見ぬ君へ- 』 は、2019年1月24日から26日まで、青山スパイラルにて上映となる。

本作品はインビジブル・シネマの名の通り、暗闇の中での音響体験によって、参加者の脳内で各々の情景が立ち上がってくる「耳で視る映画」だという。昨年夏にプレ公演が開催され、今回は映像作家の関根光才を招いて、コラボレーション作品として公開される。

サウンドアーティストevalaは、Perfume、Rhizomatiksとの協業でも知られるが、ソニーの立体音響技術Sonic Surf VRを用いた576chのインスタレーション『Acoustic Vessel "Odyssey"』(SXSW/2018) などは記憶に新しい。また最近では330年余の歴史をもつ日本庭園を舞台に、サウンド・アートのパイオニアである鈴木昭男氏とともに『聴象発景』と題した音の展覧会(中津万象園/2019)を発表している。そして、映像作家の関根光才は、カンヌ国際広告祭で新人監督賞グランプリ、チタニウム部門でのグランプリを受賞するなど、さまざまな短編映画賞・クリエイティブアワードを多数受賞。世界的な活躍をする2名の共作となる。

evala曰く、「目で見ることができない映画作品ですが、サウンドによって鑑賞者それぞれの脳内では、時には鮮明に、時には鮮烈にその人の記憶と混ざり合い、目で見る作品よりもビジュアルが立ち上がってきます」という内容になるそうだ。

また今回のインタビューは、evala本人の希望があり、作品の内容に触れてはいけないという条件の元に行うことになった。この作品の周縁をなぞる対談から作品の魅力を感じとって会場で耳から体験してほしい。

聞き手・文・構成:高岡謙太郎 写真:KOBA

evela(エバラ)

音楽家、サウンドアーティスト。

立体音響システムを新たな楽器として駆使し、2016年より新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」を始動。音が生き物のように躍動的にふるまう現象を構築し、新たな音楽手法としての“空間的作曲”を提示する。代表作に『大きな耳を持ったキツネ』(Sonar+D, Barcelona 2017) 、『Our Muse』(ACC, Gwangju Korea 2018)など。

関根光才(セキネコウサイ)

映画監督、映像作家。

2005年から短編映画、CM、MV、ビデオインスタレーションなど多数の映像作品を手がけ、クロスカルチュラルで哲学的な作風を特徴とする。2018年には長編映画『生きてるだけで、愛。』『太陽の塔』を公開。また2019年には evalaが音響設計を担当したIMAX短編映画『TRANSPHERE』を発表した。

公開されたばかりのティザー動画

視覚化ではなく想像力を刺激させる音

—— 今回の作品『Sea, See, She -まだ見ぬ君へ- 』の内容に関して触れてしまうと、作品が楽しめなくなってしまうということで、内容以外の部分をお聞きできたらと思います。まず制作はどういったことから進んだのですか?

evala:もとは自分のアートプロジェクト「See by Your Ears」があります。それはコンサートを別の形に変えて、美術館や公共空間の中でインスタレーションとして今まで展開してきたプロジェクト。代表的な作品の一つとして「Anechoic Spheres」というシリーズがあります。会場には、広い空間の中に茶室のような2メートル四方の小さな箱があり、その中は音がまったく響かない無響室になっています。真っ暗な無響室の中に立体音響のシステムを導入して、体中を踊り弄られるような音そのものをアートピースとした作品を展示してきました。今回の映画はそれを拡張したシリーズです。これまでの経験をいかしながら、今一度劇場にもどって大人数で体験できるものをつくろう、劇場体験をアップデートしようと。「インビジブル・シネマ」というキャッチフレーズのもと、新たに展開していくことから始まりました。

「Anechoic Spheres」を美術館で展示している時に、体験者に様々なアンケートをおこないましたが、真っ暗闇の立体音響体験の中で、視覚的な感想がとても多いのが特徴です。またそれが、人ぞれぞれ全く違う内容なのが面白い。「See by Your Ears」とは、音を可視化して外側からビジュアルを与えるのではなく、人の内側から想起させる「耳からしか見えない世界を視よう」というものなのです。

そういった自分の活動の中で、いつか映像作家さんとコラボレーションしたいと思っていました。それは、この暗闇の立体音響の世界に映像をつけたらよりすごいことになるという単純な話ではなく、むしろその逆です。耳からでしか立ち上がらない知覚や現象を理解していただける映像作家さんと協働してみたいという思いが漠然としてありました。

—— そこから今回の作品で一緒に制作することになった関根さんとの出会いはいかがでしたか?

関根:2019年の夏に公開されたIMAXのフォーマットで作った短編映画『TRANSPHERE』を制作する際に、evalaさんに仕事としてお声がけして。音響をお願いする時にいろいろなお話をしながら進めていて、もしかしたら今回の作品のテーマと通じるものがあったのかなと思いました。

evala:僕自身、元々関根さんの映像作品やミュージックビデオ、それと映画『太陽の塔』や『生きてるだけで、愛。』を拝見していました。それとひとつ、とても印象に残る思い出がありました。以前の自分の作品のアンケートに光才さんの感想があって、それがとても理解していただいているのが伝わる内容でした。

関根:evalaさんの作品を体験して、こういうことを考える人がいるんだなと感銘を受けました。映像を作っている自分としては、視覚的に無刺激の場所で人間の聴覚が刺激されると、こんなにもビジョンが見えてしまうことがショックでした。これも映像作品だと感じたし、単純な立体音響と違いもあって視覚的に感じる経験はインパクトがあり、記憶に残りました。

—— 今回の制作に関してevalaさんはどういった実験をされましたか?

evala:普段から、世界中のあらゆる音を録りためています。まず今回試したことは、それら時間も場所も異なる膨大な音たちを、自分のスタジオにつくった仮想の劇場空間のなかで、混ぜ合わせたり、引き伸ばしたり、縮めたりしながら、新しい空間を立ち上げていきます。そうすると、そのプロセスの中で物語のようなものが生まれてくるんです。それは、一次元的な一方向のストーリーではなく、音の空間性によって立ち上がってくるパラレルワールドのようなものです。

音楽は時間で、映像は空間、とよく言われますが、僕は逆だと思っていて、音楽が空間で、映像が時間。本作においては、ある決めこんだプロットやストーリーにそって、音でなぞっていくのではなく、音の空間性から物語を立ち上げるということに着目して作業していきました。

魅力を体験するために内容を明かせない作品

—— では、今回の作品の制作はどういったことから始まりましたか?

関根:まずevalaさんが「インビジブル・シネマ」というお題を考えていて、それをそのまま作ると「真っ暗で映像的な作品」という矛盾が生まれてしまいます。最初にいろいろアイデアを交換してるうちに僕はどう参加しようか考えて、プロセスとして難解なことになるので、まずは言葉を書いたんですね。

僕がevalaさんと話していて共感したのは、「世界の始まりは言葉でなくて音だったのではないか?」という話です。宇宙を構成する根本要因について、近年の数学や物理学では「波」と言われていたりします。音も映像も、もちろん「波」という現象として把握することができます。「世界が波で満ちている空間である」ということを自分たちがテキスト化して把握したら、音と映像の関係が変わるんだろうというのが一番大きいですね。この作品に関してテキスト化した文章はサイトに掲載されています。

evala:言葉の前に音楽があり、音楽の前に音がありました。今、音楽ができる以前の世界の波に浸るとき、どんな景色がみえてくるのかというのは、とても興味深いところです。

—— 今回は先鋭的なテクノロジーは使われているのですか?

evala:まず僕はCDなどアルバムという単位のものをリリースしなくなって10年ほど経ちます。最近では立体音響の最前線として紹介されることがありますが、僕自身プログラムも書いたりするのは、テクノロジーを見せたいのではなく、今表現したい空間の作曲の実現のために必要だから使っています。

今回の会場となるスパイラルホールには、7.2.4チャンネルの音響システムを持ち込みます。美術館だと会場に合わせてオリジナルなフォーマットを組みますが、今回は、あえて映画によせたシステム構成にしています。とはいえスパイラルホールの特性を最大限に活かしたもので、シネコンでは体験できない、これまでにない音場になると思います。

また、僕が立体音響にもとめるのは、臨場感や再現性ではなく、空間の作曲のためです。例えば、右半分だけ水の音が流れていて、左半分が都市の音が流れているとか、日常では体験し得ない音像をつくることで、時空が歪んだような、不思議な体験が生まれるんですね。そこでしか体験できない新しい超現実のようなもの。そこから溢れ出た新しい感情のようなものに興味があります。なので、現実で聞いたことのある音源でも、現実では起こり得ない空間操作によって、聞いたことのないファンタジックな反応になるんです。

—— そういった音響体験が今回の作品ではできるんですね。右半分と左半分の音が違うのはなかなかない体験ですね。

evala:音は記憶と強く結びついてるから面白いですよね。懐かしい感覚が立ち上がるとき、当時の写真や映像を見るよりも、当時愛聴していた音楽のイントロが流れただけで一瞬タイムスリップしたかような感覚が起きたりします。音や匂いといったインビジブルな知覚は、後天的な情報を飛び越えて、深いところにアクセスする瞬発力を持っている。僕が音を使った表現を続けているのは、そこに魅せられているところがあります。今回のインビジブル・シネマで、そういった特性もどこまで組み込めるか。まだ製作途中なんですけどね(笑)。

鑑賞者ごとの違った情景を想起させる音

—— まだ完成していないんですね。現在はどういった段階ですか? 2人の案出しが終わって、evalaさんが音を作られている状況ですか?

evala:はい、そうです。頭の中では鳴っています。関根さんにフィードバックしていますが、ネタバレになってしまうから内容は言えませんね(笑)。関根さんが参加する謎がみなさんに引っかかっていると思うんですけれど。

関根:今回、evalaさんからもらっているお題でもうひとつ面白いと思っているのが、そのまま映画というフォーマットで製作したいということ。普通の劇場で上映するのは難しいけれど、観客ひとりひとりがそれぞれの物語のような体験をすることができる。それもまた映画のひとつの形と言えるかもな、と。

—— 実際に上映する際は、映像のようなものはあるんですか?

evala:それは言えない(笑)。

関根:だから僕もインタビューにどう参加すればいいのか悩んでしまって(笑)。

evala:今回の作品は、自分たちの描く物語をそのまま受け取ってほしいというよりは、受け手によってそれぞれが情景を取り出すような作品になってほしいですね。以前、盲目の方に作品を体験していただいた時に「情報がゼロの音がこんなに楽しいとは思わなかった」とおっしゃったんですよね。つまり、目が見えない彼にとっては、音は生きていくための情報そのものでありライフラインです。「その情報から、生まれて初めて解放された」とおしゃっていたのが印象的でした。その時言われた解放とは何かなと考えた時に、外側から与えられるものではなく、内側から立ち上がってくる何かなのかなと。それは今作をつくる上でもすごくヒントになっています。

—— お二方は76年生まれですが、共通感覚はありますか?

evala:僕たちより上の世代よりも、同じ歳以下の世代と接することが多いのは感じています。僕自身は一緒に仕事する上でそういった世代のラインを引いているということはないですが、76年がなにかボーダーラインになってたりするのかな....。わからないですが。

関根:例えば、真鍋大度君くんや澤井大樹、徳井直君とかも同じ歳ですが、見てきたものが同じで感覚が共有しやすいのかもしれません。

evala: 自分たちの世代から音響や映像を、ハードディスク上で粘土細工のように直感的にいじれるようになったのが大きかったのかもしれませんね。世界同時多発的に「音響」と呼ばれる抽象的な、楽譜に依存しない音楽が増えたんですよね。それが起こっていた時代を、10代だったか、20代に過ごしてきた世代で。

—— 最後に見どころやメッセージなどをいただけましたら。

evala:暗闇で70分の体験というと、怖い印象をもたれるかもしれませんが、実際にはあっという間の70分だと思います。よくこれまでの作品体験者に、疲れが吹っ飛んだとか瞑想的だとか言われますが、それぞれに眠っている細胞を呼び起こし、内側から解放されるような体験になればいいなと。

関根:今の話とつながっているんですけれど、内なる自分のようなものを見つけてほしいなと思います。それによって、原始的な自分の部分や感性を発見できるかもしれません。見る人によって別々のストーリーになってくれるのではないかと思っています。


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