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最初は90%捨ててもいい。コスパよく日経新聞で情報収集する方法【ブックレビュー】
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  • 2019.10.28
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最初は90%捨ててもいい。コスパよく日経新聞で情報収集する方法【ブックレビュー】

神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

http://y-jimbo.com/index.html

初心者がまずすべきは「90%捨てて残りを味わい尽くす」

「普段、新聞を読みますか?」

できればこの質問は聞かないでほしいと、私は心のどこかで思っている。もしそう聞かれたとするならば、私はギクッとしたあとに「読まない」と答えなければいけない。可能ならばそこに「できれば読みたい」という言葉を付け加えたい。山本博幸『日経新聞を「読む技術」「活用する技術」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、筆者のように「どちらかというと新聞を日常的に読みたいものの、どうも踏み切れない」という方に最適な一冊だ。

新聞だけでなく文字媒体の闘いの場はデジタルにも移行しつつあるが、本書は新聞の読み方を会得する最初のステップとして、電子版ではなく新聞紙面に直接触れることを勧めている。著者は大手証券会社で海外支店長を歴任し帝京大学経済学部で教鞭をとる、いわば「経済のプロ」で、本書に記載されている方針もまた「経済的」だ。

日経新聞を含めて、全国紙の朝刊は、1部あたり20万文字もあるそうです。
新書に置き換えると、実に2冊分。みなさんは、岩波新書を毎日2冊読むことを想像できますか?(P18-19)

読む量を減らすか、読む時間を増やすか? 著者は前者を推奨している。どのくらい減らすのかというと全体の90%で、しかもその方法はなかなか大胆だ。有名コラム「春秋」は残し、広告欄にハサミを入れてまずバッサリ75%を切り捨てる。残りの25%に関しては指定のページ(全体の約10%で、重要記事は奇数ページに集中しているという)以外を切り捨て、それをじっくりと読む。こうすることで、日々の紙面チェック時間は30分ほどに抑えられるという。一方、情報量の多い土曜版を買って、1週間同じ新聞を読み続け、気になった同じ記事を何度も繰り返し読むという方法も著者は勧めている。

気に入った記事は赤ペンで囲ってスクラップにしたり、気になる用語を赤ペンでチェックしたりするなど、基本的な情報整理術もしっかりと紹介されている。

関連性と偶然性の網目に身を委ねること

新聞を読むメリットとは何なのか? 単純なメリットとして「基礎知識が増える」が挙げられる。新聞を読む上でも「こういう情報を知っておいたほうが読みやすい」という要点がいくらかあり、それを知ること自体がかなり重要だということだ。たとえば、よく出てくる数字を覚えたり、各界のキーパーソンや各国の首脳陣の名前や関係をインプットしたりする時点で、それなりの知識量になる。

国家予算は約100兆円で、税収は約60兆円。大きな税収は、消費税と所得税、法人税などです。これらは10兆円の単位になります。
まず、日本経済の大きさは必ず押さえておくこと。日本政府の国家予算も知っておくべきでしょう。 (P55)

また、ある6つのキーワードの事柄を追うだけで世の中の流れが見えるということも伝授されている。アルファベットの頭文字がABCDEFの事柄、America、Brexit、China、Digital、EV(電気自動車)、Financeだ。

キーワードを知っているということは、その周辺の事柄に接触する確率を高くする。筆者は紙の英語辞書を好んで使っているが、たとえば「利益」を意味するprofitという単語を引くと、その傍に全く関係ないprofessorという単語があり、profitの形容詞型profitableを目にする機会が生まれる。紙辞書の面白い点は、この偶然性・関連性にある。レンタルビデオ店・レコード店・書店などにもそうした楽しさがあると思うが、「何か面白ものはないかな」と棚を見たりECサイトを利用したりするのと同様の楽しみが、新聞を読むという行為の中にあると想像してみると、親近感が湧かないだろうか。

検索エンジンのアルゴリズムやサブスクリプション音楽サービスのレコメンドなども、そういった嗜好性を軸のひとつにして機能している。遠そうで近いもの、近そうで遠いものの間で揺れ動いていく中で、縁がうまれたり、勘が研ぎ澄まされたりという効果が生じてくる。2018年から日経新聞は「見えてきた?」をキャッチコピーに電子版のウェブCMを展開しているが、物事というのは見てすぐに何かがわかるというよりも、「見えてくる」ものなのだとわかったとき、新聞の価値は至高のものになるのだろう。

スナックと新聞の言論 古臭そうでいて、実は豊かな空間

とりあえず何が何でも新聞を手に取ってもらうための工夫として、50年前の新聞を読むという方法を著者は紹介している。私は両親が自分にしてくれたのを真似て、娘が産まれた日に当日の新聞をコンビニで購入したことがある。「この新聞を娘が手に取るときには、どんな世の中になっているのだろうか」という想像をしながら紙面を眺めるのは、複数の時間軸が手元で交錯しているようで不思議な気分になったのをよく覚えている。

事実はすべて新聞に書いてあります。過去と現在を結んだ延長線上にある、ちょっと先の未来を予想する練習になります。 (P145)

未来を予想するには主体的に思考する必要がある。新聞を読んだりスクラップしたりすることは全てインプットの範疇だ。新聞で得た情報は、どのようにアウトプットすればいいのだろうか。

相手にわかるように説明できないと、それは自分もわかっていないということになります。
ですから、「人に説明する」ということは、アウトプットの王道といえます。 (P155)

できれば緊張する人、たとえば会社の先輩に説明するということが本書では勧められているが、FINDERS的な文脈でいえば、スナックに行くことがおすすめかもしれない。知らない人の話が聞ける、仕事とは関係ない話題に触れられるスナックという空間は、新聞というメディアに似た特性をいくらか持っているように思える。

「知っている状態」になっていることを願いながら、見知らぬ人に何かを説明する。説明できなかったら酔いのせいにする。こんな気軽なコミュニケーションもまたよいのではないだろうか。不完全燃焼でも、まわりの人が優しければフォローを、手厳しい人ならば説教をして(翌日には忘れて)くれるはずだ。

著者は「新聞が読まれない今だからこそ、そこに書いてあることにはチャンスが溢れている」と読者を鼓舞している。イノベーションやマインドフルネス云々もさることながら、新聞に書かれている事実に身を浸してみるのも、現代社会の曖昧さ・複雑さ・多様さを切り抜けるひとつの手段だろう。筆者も土曜版から近々初めてみようかと目論んでいるが、本書は新聞の世界に足を踏み込む「はじめの一歩」を高確率で実現させてくれる内容となっている。


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