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販売開始から6年。女性による女性のためのセルフプレジャー・ブランド「iroha」はいかに進化してきたか
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  • 2019.10.07
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販売開始から6年。女性による女性のためのセルフプレジャー・ブランド「iroha」はいかに進化してきたか

2013年に発売を開始したiroha。現在のラインナップは全3タイプ・それぞれ2色ずつとなっている。価格は6800円(税抜)。また15年にはバージョン違いのiroha+シリーズも販売されており、こちらの価格は9000円(税抜)
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取材・文:6PAC

犬飼幸(イヌカイ サチ)

株式会社TENGAグループ広報宣伝部 広報担当

成城大学法学部法律学科卒業。学生時代にイベント運営・イベントMC・動画制作・ライター・被写体などさまざまな“表現”を学び、その知見を活かして卒業後、PR会社に就職。自社のニュースメディアで約3年間ライターとして企業タイアップ記事の執筆を担当。女性目線の記事を多く書く中で、女性が抱える性に対する悩みに寄り添いたいという想いが強くなり転職。株式会社TENGAに入社し、現在は広報宣伝部広報担当として、性に関する偏見をなくし適切な知識を提供するため、PR活動や情報発信を行っている。

青山マリ(アオヤマ マリ)

株式会社TENGA 広報宣伝部海外チーム

ウィーン経済大学国際経済経営学部卒業。観光業界でのPR経験を経て、2019年4月に株式会社TENGAに入社。TENGAが掲げる「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」という理念に強く共感し、現在は広報宣伝部海外チームの一員として、さまざまな国や地域でのPR活動を通じTENGAのメッセージを発信している。

「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョン

偏見というものはどこの国でも何人であっても存在するものだ。当然、日本にもさまざまな偏見は存在する。多様性を求める声が大きくなってきてはいるものの、外国及び外国人に対する偏見、在日外国人に対する偏見、女性に対する偏見、サラリーマンに対する偏見、労働者に対する偏見、高齢者に対する偏見、障害者に対する偏見、貧困に対する偏見、職業に対する偏見など枚挙にいとまがない。

「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンを掲げ、すべての人の性に対する偏見をなくそうと奮闘しているのが、アダルトグッズを製造・販売する株式会社TENGAだ。アダルトグッズと言うと、「いやらしい」、「汚らわしい」、「隠れて使うもの」、「使っていることを他人には言えない」、「どこか後ろめたいもの」といった偏見がつきまとう。

しかし、同社の商品デザイン、公式サイトのデザイン、YouTubeの動画などを見ると、ファストファッションやスポーツウェアの会社のようなイメージを持ってしまう。同社は、前述の偏見がつきまとう単語でもある“マスターベーション”や“オナニー”に加えて、女性が行うマスターベーションを“セルフプレジャー”という単語に言い換えたりする確かなイメージ戦略を持っている企業でもあるようだ。

女性による女性のためのセルフプレジャー・ブランド「iroha」

性というものをタブー視するのでもなく、臭い物に蓋をするわけでもなく、もっとオープンに誰もが楽しめるものにするため、同社では、女性スタッフが立ち上げ、すべての工程を女性スタッフのみが担当している、“女性の女性による女性のため”のセルフプレジャー・ブランド「iroha」を展開している。さらに日本だけにとどまることなく、中国、韓国、台湾、アメリカ、ドイツほか、69の国と地域でも、「TENGA」という男性向けブランドと「iroha」の両方で事業を展開中だ。同社広報宣伝部に所属する犬飼幸氏と、青山マリ氏に色々と突っ込んだ話を訊いてみた。

広報の犬飼幸氏(写真左)と青山マリ氏(写真右)
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まずは同社のイメージ戦略について伺った。「2005年、代表である松本光一がTENGAスタンダードカップ5種を制作した際、一般商品として誰もが楽しめるモノを作ることを目指していたため、その想いを製品化したところ、いわゆる従来までの“マスターベーション・グッズ”とは一線を画す、現在のようなデザインとなりました。

また、現在発売しているHOLEシリーズなど、TENGAのプロダクトデザインおよびコピーなどは、それぞれの製品開発担当者が作成しています。irohaに関しては開発から販促、プロモーションまですべて女性スタッフが担当しております。開発会議で決まった各製品のイメージやコピーを元に、イベントやキャンペーンなどのプロモーション設計は広報宣伝部が担当し、売り場作りやポップアップストアの実行は営業部がそれぞれ担当しております。どのチームにおいても一貫して、“性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく”というビジョンに則った設計・施策を行っております」という。

使い切りのTENGAカップシリーズ全5種
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同社の求めるブランドイメージに沿った形で、大手広告代理店がイメージ戦略を描いているものだと推測していたが、実際には違ったようだ。プロダクトデザインからサイトのデザインまで、すべてにおいて一貫性が感じられるのは、社員全員がビジョンをきちんと共有できている証なのだろうか。

開発・PR・販促まですべて女性だけで完結

「女性が自分で自分を慰める行為は、はしたない」といった偏見がある中、女性向けグッズの立ち上げは、会社設立当初から予定していたそうだ。およそ1年半の開発期間を経て、2013年3月3日に女性向けの新ブランドであるirohaは誕生した。「女性にとって心地よい製品は女性が中心に開発すべきだ」、という想いから“女性の女性による女性のため”のirohaが生まれた。

「ブランド立ち上げの際に行った調査では、挿入よりも女性器の外側の刺激が好きな女性が多いことがわかり、irohaも外側にあてがうタイプの充電アイテムからスタートしました。立ち上げから6年が経った現在では、用途も挿入タイプからあてがうタイプ、価格帯もリーズナブルなものから高性能高価格なものまで、幅広くお選びいただけるようになりました。売れ筋を見ると、挿入タイプの方が売れており、膣内の刺激に挑戦したい方が多いことが伺えます。また、ブランド立ち上げ当初から変わらず現在も、irohaは開発からPR、販促まで全て女性スタッフによって行われています。社内の女性スタッフなどから意見を集め、実際に女性スタッフが数多くの試作品のテストを繰り返しながら開発しています。そのため、製品には女性ならではの意見がふんだんに盛り込まれ、反映されています。見た目については、やはり生々しい形やハードな色に抵抗を感じている女性が多かったので、“和モダン”をコンセプトにやさしい色とフォルムに仕上げました。他にも、irohaは長い爪でも押しやすいボタンの形状、実家や壁の薄い賃貸住宅でも安心して使える驚きの静音性、食品用グレードのシリコンを使い安全面にも気を使い、女性が本当に使いやすいよう細かな気遣いが随所に込められています」というように、現在もirohaは進化し続けている。

いくら見た目がそれっぽくないとはいえ、セルフプレジャー・アイテムの使い勝手を露骨に女性にアピールするのは難しそうだ。女性向けにirohaの良さを伝える上で苦労した点について訊いてみると、「irohaの特徴は見た目だけではなく、もちもちプニプニとした感触にあります。これは使う女性に恐怖感を与えないという意図があります。こういった特徴は、実際に手に取っていただかないと伝わりづらいのですが、店頭ではなかなか触れていただく機会が作りにくいこともあります。そのため、手触りを表現したiroha素材のサンプルを作成して配布したり、イベントなどで実際に展示し、触れていただける機会を作ったりしました。また、過去に3回、大丸梅田店さんでirohaのポップアップストアを開催いたしました。やはりこういったお店に入ること・商品を選ぶこと・話すこと・買うことに抵抗がある方も多いので、まずは来ていただいた方の緊張をほぐしてあげることや、安心感を持っていただくことを意識しました」と語ってくれた。

2018年8~9月に大丸梅田店でオープンしたirohaのポップアップストアの模様。その後18年11~12月、19年5~6月にも開催されており、好調ぶりがうかがえる
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女性にとってセルフプレジャー・アイテムを店頭での対面販売で購入するのは、多少なりとも敷居が高いのではないかと思う。恥ずかしさなども手伝って、オンラインで購入する女性が多いのではないか。しかし、オンライン販売だと使い心地や使用感に対して今一つ訴求しきれない気もする。こういった疑問をぶつけると、「おっしゃる通り、irohaがメインで購入されているのはオンラインストアです。irohaでは各商品ごとに、ユーザーの方に実際に商品を使っていただき、感想を教えていただく“モニターキャンペーン”を実施しています。その結果はirohaの公式サイトに掲載しておりますので、使い心地はもちろん、使用方法や音の大きさ、振動の強さなど、気になる点は事前にご確認いただけるようになっています。また、定期的に女性向けのイベントも実施しており、その際に社員によるおすすめの使い方や、使用感などもお伝えするようにしています。返品に関しましては、衛生商品のため、不良品以外での返品・ご交換は受け付けておりません。不良品に関しては1年間の保証期間を設けておりますので、お問合せフォームよりご連絡を頂ければ返品・交換・修理のご対応をさせていただきます」との答えが返ってきた。

男性だけでなく女性もAVが正しいセックスだと思っている人が多い

欧米の学校と違い、日本の学校は性教育に積極的ではないと聞く。そのためか、アダルトビデオで行われている性行為が“正しい”と思いこんでいる若者が多いそうだ。女性の側からすれば、男性にアダルトビデオでお決まりの行為をされても、「そうじゃない」と感じることも多いのではないか。irohaは、「そうじゃない」と感じている女性の一人用ツールなのか、それとも「そうじゃない」ことをパートナーと一緒に解消して楽しむためのツールなのか、どちらなのだろうか。

「irohaはあくまでセルフプレジャー・アイテムですので、女性がセルフケアの一つとして、自身の体や“気持ちいい”と向き合うためのグッズを目指しています。もちろん、パートナーとの前戯の際に楽しんでいただくグッズとして使用されている方もいるので、その使い方は基本的にお客様の判断にお任せしております。

現代の日本では学生時代から積極的に性教育を受ける環境が少なく、こういった話題や情報に触れる機会も無いように思います。その中でアダルトビデオが正しいセックスだと思われている方は男女ともに多く、これらを背景とした中イキが出来ない、潮吹きが出来ないといった悩みも多く受けます。こういった悩みを抱える女性には、アダルトビデオを参考にするよりも、まずはセルフプレジャーなどで自身の体と向き合い、知ることが大切だとお伝えしています。これは男性にとっても大切なことだと思います。セックス中の“そうじゃない”も“そうじゃない”と伝えることが出来ない女性も多くいるので、そういった際に伝えられるようになるためのツールの一つとして、irohaを選んでいただけると嬉しいです」。

日本では少子化が問題視されるようになってからしばらく経つが、セルフプレジャー・アイテムが普及すればするほど、少子化に拍車がかかるような気がしないでもない。アダルトビデオ大国だということも関係しているのか、日本人の年間性交渉回数は世界でもトップレベルで低いという調査結果もあるくらいだ。勿論、少子化の原因は色々なことが複雑に絡み合っているものではある。性産業に携わる者として、少子化に関しての見解を訊ねてみた。

「まず、弊社としては、マスターベーションとセックスはまったく別のものだと捉えています。以前行った調査でも、“セックスする頻度が高い人ほどマスターベーション頻度も高い”というデータが出ており、マスターベーションはセックスの代替品という見方はしておりません。また、当社の製品はマスターベーション用のアイテムがメインではありますが、他にもコンドームやカップル向けのアイテムなど幅広く、その範囲は“一人で使用するもの”にはとどまりません。“性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく”というビジョンは、性別・年齢・国籍を問わず、すべての人が、自由に性を楽しみオープンに語り合える世界を作っていくというものです。そこにはマスターベーションで楽しむことも、パートナーとセックスをすることもすべてが含まれているため、”当社製品が売れる=少子化が推し進められる”とは考えておりません。我々はあくまで製品を売ることをメインとしているわけではなく、“性に関して誰もがオープンに楽しめる環境作り”を目指しています。そのためにまずは、マスターベーションに対して、従来のような“卑猥でわいせつ”とか”特殊なもの”というイメージをなくしていければと考えています。こういったイメージが広がることで、性に対するイメージも変わり、セックスも“楽しいもの”、“パートナーとのコミュニケーションの一つ”だと認識されていけばいいなと考えております」。

海外ではオープンな女性の性。日本ではタブー視されている部分が多い

同社は日本のみならず、グローバルに事業展開する会社だ。日本人女性ユーザーと外国人女性ユーザーの違いについて訊ねてみると、「日本の性そのものに対する価値観は、年々変わってきている気はします。特にミレニアル世代に関しては、2年前の“#metoo運動”などの影響もあり、女性の性がどんどんオープンに語られ、ポジティブなイメージに変わって来ていると感じています。また、ユーザーの違いに関しましては、そもそも今までのセルフプレジャー・アイテムとは違う新しい分野を作らなくてはならなかった日本では、“初めてのセルフプレジャー・アイテム”という位置付けでiroha商品を購入される方が多いです。一方、欧米では初めてのセルフプレジャー・アイテムは他のブランドで済ませている方が多く、irohaに求められているのは品質だったり、肌触りだったりとニーズは国によってさまざまです」と説明してくれた。

市場特性の話になると、「基本的にはアジアと欧米の違いという話になってしまいますが、欧米に関しては文化的な要素や、『Sex and the City』のような有名なテレビドラマで“女性の性”が描かれるなどポップカルチャーからの影響もあり、ある程度オープンに語られている国は多くあります。それに引き換え“男性の性”、特にマスターベーションに関しては、”マスターベーションをする男性=モテない”といったステレオタイプ的な考え方が根強く、どちらかというと男性は消極的なイメージです。面白いことに、日本とはそこが180度違って、欧米と比べると日本では男性の性やマスターベーションは比較的オープンに語られている一方、女性の性はまだまだタブー視されている部分が多く感じられます。これはirohaの売れ筋ランキングにも反映されていて、女性がセルフプレジャー・アイテムを使うイメージがあまりポジティブではない日本では、初心者向けのアイテムが売れていますが、セルフプレジャー・アイテムに抵抗が少ない欧米などの海外では比較的振動が強めな商品が人気です」と、その違いを教えてくれた。また、同社が多種多様な国や文化で事業展開して得た知見は、「それぞれの文化の中で、性の捉え方は違えど、マスターベーションはグローバルな需要であり、人間の根源的な欲求であるということ」だそうだ。

女性のセルフプレジャーはセルフケアの一つ

9月27日には、かんざしをイメージした「iroha RIN」のバージョンアップ版となる新製品「iroha RIN+」が発売開始された。全長が1cm伸びて乾電池式ではなく充電式となり、振動のバリエーションも増えたとのこと
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最後にirohaという女性向けのセルフプレジャー・アイテムが存在していることを知らない女性に対し、声を大にして言いたいことはないかと訊ねてみた。すると、「まずは製品を知っていただくと同時に、“セルフプレジャーは悪いことではない”と思ってもらいたいなと思います。まだまだ “はしたない”とか、”恥ずかしいこと”だと思われることが多いのですが、我々は“セルフプレジャーはセルフケアの一つ”だと捉えています。顔をパックしたり、トリートメントをしたり、綺麗で健康的な身体を保つために日々行っていることの一つとして、セルフプレジャーを捉えてほしいなと思います。また、irohaは女性の体と、とことん向き合った製品です。自分の体をさらに心地よくするためのツールの一つとして、ぜひirohaを選んでもらえたら嬉しいです」と話してくれた。


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