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用途は「気泡を割って遊ぶ」だけ。「気泡わり専用アラビックヤマト」を作ってしまった高橋晋平さんに、なぜそんなモノを作るのか訊いてみた
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  • 2019.09.13
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用途は「気泡を割って遊ぶ」だけ。「気泡わり専用アラビックヤマト」を作ってしまった高橋晋平さんに、なぜそんなモノを作るのか訊いてみた

発売元:株式会社ウサギ

文・取材:6PAC

高橋晋平

株式会社ウサギ代表取締役

秋田県北秋田市出身。東北大学工学部卒、東北大学大学院情報科学研究科を2004年に修了。2004年、株式会社バンダイに入社し、約10年間キャラクターを使用しないバラエティ玩具の開発に携わる。第1回日本おもちゃ大賞を受賞した「∞(むげん)プチプチ」を筆頭に、「∞エダマメ」、「瞬間決着ゲーム シンペイ」、「Human Player」、「5秒スタジアム」、「3億円」、「猫背」など、50点以上のおもちゃの企画開発、マーケティングに携わる。2014年10月1日より現職。現在は、おもちゃ・ゲーム・雑貨などの企画開発を始め、各種企業と共同での新商品・新サービスの開発に携わる。最近携わった商品に『アンガーマネジメントゲーム』(日本アンガーマネジメント協会)、『スマホ鳩時計 OQTA』(OQTA株式会社)、『お笑いノート』(コトバマグネットプロジェクト)、『気泡わり専用アラビックヤマト』(株式会社ウサギ ※ヤマト株式会社監修)など。一方で、クイズ制作、執筆、講演、セミナー講師など全国で幅広く活躍中。人間の欲求に訴える「遊び・ハマリ要素」を持った商品の開発を得意とする。2013年TED×Tokyoに登壇。アイデア発想術に関するスピーチがTED.comにピックアップされ、世界中で配信された。近著に『企画のメモ技』(あさ出版)。

世界で335万個売れた「∞(むげん)プチプチ」の作者が独立

高橋晋平氏

洋の東西を問わず、人は子供の頃から手遊びをするものだ。昭和であればペン回し、最近ではハンドスピナーなどのいわゆる“フィジェットトイ(手遊びや手いたずら系のおもちゃ)”の類は、人間の本能的な欲求を満たす道具だからか、時代が変わってもニーズはなくならないようだ。

2007年に国内外で累計335万個の大ヒットとなった、「∞(むげん)プチプチ」というおもちゃを覚えているだろうか?当時、バンダイに在籍していた高橋晋平氏が開発した“フィジェットトイ”なのだが、その高橋氏が今度は「気泡わり専用アラビックヤマト」というおもちゃの開発資金を調達するクラウドファンディングをKibidango(きびだんご)で開始し、139名のサポーターから計43万9900円を集めることに成功した。

現在はバンダイを退職し、株式会社ウサギの代表取締役およびおもちゃクリエーターとして、他企業とコラボした新商品を開発し続ける同氏に話を伺った。

気泡わり専用アラビックヤマト【クラウドファンディング | Kibidango(きびだんご)】快感ASMR

プロジェクトページに記載されている説明文によれば、アラビックヤマトは子どもにとって手遊びおもちゃでもあったという。筆者には遊んでいたという記憶はないのだが、なぜゆえに「気泡わり専用アラビックヤマト」を開発しようと思い立ったのかをまずは訊いてみた。

すると、「小学校時代、学年の男子全員が野球部だったにもかかわらず心臓が悪くて入れなかったため、遊び相手がいない時間に3年間ずっとアラビックヤマトをいじり続けていました。すると偶然、気泡の割り方を見つけ、毎日気泡を割っていました。2018年にそのことを思い出して知人に話したところ、1カ月で同じように気泡を割っていた人が3人も見つかり、これは全国に同じ思い出を持っている人が隠れているはずだ!と思い、気泡わり仲間と出会いたいという気持ちからこのプロジェクトを立ち上げました」というエピソードを語ってくれた。

「共感者と友達になりたい」という気持ちが開発の原動力 

「気泡わり専用アラビックヤマト」に限らず、同氏が手掛けるおもちゃには“フィジェットトイ”が多い。その理由については、「昔から感触フェチのケがあり、いろいろなものをずっと手でいじる癖がありました。子どもの頃からその自覚はかなりあり、“大丈夫かな”と心配になった記憶もあります。何かに触れていないと落ち着けなかったのだと自己分析しています」という。また、「∞(むげん)プチプチ」が大ヒットしたことで、触るだけのおもちゃが持つ潜在的な可能性に気付き、より追求するようになったとも話す。

“フィジェットトイ”が持つ可能性を誰よりも肌で感じてきた張本人だけあって、クラウドファンディングが成功裏に終わる確信はあったと思うが、実際にはどの程度の反響を期待していたのか訊いてみた。意外なことに、「今回、まったく予想を付けられなかったのですが、ものすごくニッチな人を集めようとするプロジェクトだったので、購入者が100人集まったらいいな、という願望はありました」という。

同氏の開発実績を眺めていると、ありそうでなかったものが多いことに気付く。新しいおもちゃを開発する際、どういったことを意識しているのか訊ねてみると、「親友や家族が喜ぶものを意識します」という答えとともに、「自分が出会いたい属性のお客さんに刺さるものを作って、共感者と友達になりたいと考えています。自分が好きな人のための商品を作りたいという気持ちで開発をすることが多いです」という答えも返ってきた。

いてもたってもいられなくなるアイデアしか、具現化する対象として選ばない

新商品などのアイデアを思いつくことは誰にでもあると思うが、それを具現化するのに苦労する人が大多数ではなかろうか。そうした人に対して何かアドバイスできることはと訊いてみると、「誰に相談しても恥ずかしくない、いてもたってもいられなくなるアイデアしか、具現化する対象として選ばない」ことと、「人に相談しまくる。そうしているうちに具現化する」の2点を挙げてくれた。

新商品のアイデアが浮かんでから商品化までの流れに関しては、「弊社の場合は、自分が出会いたい人が集まってくるかどうか、が判断基準です。“この商品を面白がってくれる人は絶対に気が合う”というモノづくりをします。たくさんの仕事仲間を集めるより、少数の“人生の友達”と出会うことが、幸せに生きるためにも、小さな会社が生き残るためにも、重要であると考えています。僕にとっては、重要な発想のヒントをくれるのは、大勢の仕事仲間よりも、話が弾む友人だからです」と語る。時間軸で言うと、「発案から発売まで基本的に9カ月くらい」だという。最初の3カ月は、アイデア考える→企画書を作る→パートナーやスタッフとすり合わせという流れ。次の3カ月で仕様の決定やデザイン開発。最後の3カ月は、デザインを入稿して生産、PR、販売準備などとなる。

アイデアをおもちゃという新商品に仕上げる上での最大の難所は、「これはほとんどいつも、値段と仕様と数量のカベです。希望の値段で作ると内容はショボクなる、内容を思い通りにしようとすると値段が高くなる。少なく作ると在庫リスクがないけど高くなる、多く作ると安くなるけど、在庫がとんでもない。このバランスをどこに弾着させるかが、非常に難しいです」と話す。

ECだけでは掴めない「お客さんの感想」に触れるべく全国行脚 

バンダイでサラリーマンとして仕事をしていた時と、ウサギの社長として仕事をしている現在で、仕事の仕方に変化があったのか気になったので訊いてみた。「バンダイでは数万個売るためのことを考えていました。ウサギでは、1000個売るためのことを考えています。自分の小さな会社では、自分が本当に面白く価値があると思うものを作れば、必ず1000個は売ることができます。一方、大企業では、ビジネス規模的に1000個で終わる商品をやることはできません。そのため、パイが大きい商売は何かを常に考えていました。しかし、その結果誰にも深く刺さらない商品を作ってしまったりするという失敗も多くありました。今、もし大企業に戻ることがあったら、まず1000人のコアターゲットに深く刺さるものを作って、それを周辺ターゲットに広げるブーストをしていくという考え方でものを作りたいと思っています」とその違いを説明してくれた。

大企業ではできなかったこととして、ビジネスアイデア発想ゲーム「かけアイ」では「逆EC」という試みに挑戦している。

ビジネスアイデア発想ゲーム「かけアイ」。50枚ずつの欲求カード(赤)、お題カード(青)が用意されており、5枚ずつを引いて場に並べ、好きなものを1枚ずつ選んで組み合わせて連想されるビジネスアイデアをふせんに書いていくという内容となっている
発売元:株式会社ウサギ

逆ECとは、ネットショップで販売していない「かけアイ」を商品代4000円と交通費などの実費のみで高橋氏自らが全国どこにでも出張し、遊び方のレクチャーをしてくれるというもの。だが、1回の逆ECで同氏が得られる利益は4000円のみ。なぜこのような非効率的にもみえる取り組みをしているのだろうか。

「起業した時、大企業の時はできなかった、お客さんと商品を通してつながれる事業をしたいと思っていました。しかし、いざモノを作ってAmazonや実店舗で売っても、結局お客さんと話す機会もなければ、ちゃんとした感想を聞くこともほとんどありませんでした。一方、お客さんと直接一緒に遊んで友達になることは、スモールビジネスの会社にとってとても重要であることもわかってきました。そのため、商品にすごく共感してくれる人と友達になっていくために、あえて対面でしか販売しない、名付けて“逆EC”の試みをしている段階です。遠方で買えないと言われることもあり申し訳ないと思うこともありますが、そういう方とは同じ日本にいればいつか出会えると思っています」。

同氏には「どんなジャンルでも、ただ一つだけを貪り続けるという癖」があるそうだ。この癖と斬新なアイデアを思いつく発想法に関連性や因果関係はあるのか訊ねてみた。「ただの癖、というのもありますが、これからの時代、例えばみんなで同じ社会課題を考えたりするよりは、一人一人が自分の“個人的欲求”を叶える仕事ができたら、世の中が良くなっていくと考えています。自分が欲しくてたまらないものを生み出せたら、それを欲する他人は必ず存在します。そうするために、自分が好きなものを分かり、なぜ、どこが好きなのかがわかっていけば、自分のアウトプットに活きてきます。もちろん、いろいろな物事に触れることもします。でも、好きなことを深く深く掘ることができる人は、物を作るときに、自分にとっていいものを生み出せます。例えば僕は、アプリゲームの“にゃんこ大戦争”だけを6年間やり続けていますが、“にゃんこ大戦争”のどこが優れているかを、いくらでも語れることは強いと思います。また、自分だからできる仕事をすることは、とても幸せなことだとも思います」と語る。

最後に今後どういったおもちゃを開発していきたいのか訊いてみると、「例えば、一点もの。この世に一つしかない物を作って一人にだけ売ってみたいと思っています。また、量産玩具のテーマとしては、筋トレできる、部屋を片付けられる、英語が学べるというようなおもちゃに関心があります」とのことだった。


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