CULTURE | 2019/09/10

美少女化したヒトラーと世界を救う!?どう考えても危ないゲーム「私の妻はフューラー」の謎めいた開発元に根掘り葉掘り訊いてみた

©DEVGRU-P, all rights reserved.
文・取材:6PAC
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文・取材:6PAC

Kickstarterで目標額の10倍、約930万円を調達

画像左がヘルマン・ゲーリング(ヒトラーの後継者に指名された人物)、画像右がルドルフ・ヘス(ナチスの副総統)を美少女化したキャラ
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Kickstarterというアメリカのクラウドファンディングサービスには、世界中から映画、ゲーム、音楽といったコンテンツ制作の資金を調達するプロジェクトが集まっている。日本語表記にも対応しているため、日本人のプロジェクトも多数掲載されている。

『悪魔城ドラキュラ』の開発者、五十嵐孝司氏のゲームプロジェクト『ブラッドステインド:リチュアル・オブ・ザ・ナイト(Bloodstained: Ritual of the Night)』や、ゲームクリエイターの鈴木裕氏によるゲームプロジェクト『シェンムーIII(ShenmueIII)』などが、Kickstarterで多額の資金を調達したことは記憶に新しい。

そのKickstarterで最近見かけたのが、DEVGRU-P Corporation(以下、DEVGRU-P)というクリエイターによる、『Mein Waifu is the Fuhrer』というビジュアルノベルゲームのプロジェクトだ。『Mein Waifu is the Fuhrer』を日本語訳したであろうサブタイトルは「私の妻はフューラー」となっている。すでにプロジェクトは終了しているが、2400人以上の支援者達から、8000ドル(約85万円)の目標額を遥かに上回る8万7659ドル(約930万円)をかき集めることに成功した。リリース日はストレッチゴールの多くを達成したため、現時点では未定とのこと。価格は10~20ドル(約1060~2120円)で、Steamにて配信される予定だ。日本語によるサポートと吹き替えも予定している。

「私の妻はフューラー」は、『ガールズ&パンツァー』のような美少女×ミリタリーというコンセプトのビジュアルノベルゲーム。プレイヤーは、戦地からドイツへと帰国したナチスドイツ陸軍の元帥、エルヴィン・ロンメルとしてゲームをプレイすることになる。プレイヤーは、なぜか美少女キャラへと変貌を遂げたアドルフ・ヒトラー、ハインリヒ・ヒムラー、ヘルマン・ゲーリング、ヨーゼフ・ゲッベルス、ルドルフ・ヘスと共に、世界の混乱を防ぐためにストーリーを進めていく。

“間違いなく許可されていないパロディ”という但し書きのついたプロモーションムービーは、“私はまだ日本語が話せません”、“すみませんが、何を書いているのかわかりません”という日本語字幕が入っているのだが、テーマソングは明らかに日本語ネイティブの人が歌っているものとなっているし、楽曲も演出も日本のギャルゲーのオープニング映像に寄せていることは一目瞭然だ。

日本人クリエイターの関与がうかがい知れるものの、開発チームの全体像や、プロジェクトを立ち上げたDEVGRU-Pという存在が謎なので、DEVGRU-Pの創業者で、「私の妻はフューラー」のディレクターでもあるWittmann氏に根掘り葉掘り訊いてみることにした。

『銀英伝』好きで『ガールズ&パンツァー』や『うぽって!!』にも影響を受ける

「一番好きなアニメは『銀河英雄伝説』ですが、当社のゲームは『ガールズ&パンツァー』や『うぽって!!』に影響を受けています」というWittmann氏が立ち上げたDEVGRU-Pという会社は、「“笑い”が好きな人たちが集まった会社」だと話す。普通のゲーム会社同様、プロジェクトが立ち上がるごとにチームが結成され、プロジェクト終了と共にチームは解散する。「フルタイムのスタッフは少数ですが、プロジェクトチームのメンバーとして、常に15~20名は在籍しています。内、数名は日本人です」という。

「私の妻はフューラー」はナチスドイツ時代が舞台だが、以前には北朝鮮を舞台とした『Stay! Stay! Democratic People's Republic of Korea!』もリリースしている。どちらも“美少女が登場する政治風刺要素の強いビジュアルノベルゲーム”とも言える。同時に、バカゲーやネタゲーというカテゴライズも可能だが、以前紹介したロバート・ヤン氏のゲームのように、どちらもなにかと物議を醸しそうなゲームだ。その辺りを直接訊いてみると、「両方ともコメディです。少数ですが、共産主義者だのファシストだのと罵られたり、Steamで最悪のレビューとも言える否定的なフィードバックも確かにありましたが、全体的には90%以上が肯定的な高評価を得ています」との答えが返ってきた。ゲームの内容について、Steamからなにかしらの警告を受けたこともないという。

「私の妻はフューラー」がターゲットとして想定している層は、ミリタリー好きとアニメ好きのクロスオーバー。「一風変わったニッチな市場ですが、ここを埋めることができるビジュアルノベルのゲーム会社は当社だけです。エロゲーが好きな人、アニメが好きな人、ビジュアルノベルが好きな人など、さまざまなユーザーが入り混じっています」と話す。

日本人クリエイターともプロジェクトベースで仕事

DEVGRU-Pには日本人スタッフが在籍していることから、メールやSNSを通じて日本人クリエイターともプロジェクトベースで仕事をする。例えば、『Stay! Stay! Democratic People's Republic of Korea!』のテーマソング「アナバシス」は、日本人ボーカリストのななひら氏によるものだ。しかし、プロジェクトに参加するクリエイターは日本人だけに限らない。「私の妻はフューラー」の背景アーティストは、『天元突破グレンラガン』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』といった作品で実績のあるタイ人のRungrat Khankaew氏と、国際色豊かだ。

「日本人クリエイターと一緒に仕事をするようになったのは割と最近です。(日本のKaminGamesが制作した)『SNuff FLag』というゲームのローカライズに、現在取り組んでいるところです。日本のビジュアルノベルゲームは欧米でも売れるはずなので、クォリティの高い日本のインディゲームをもっとローカライズして、英語圏の市場に持ち込んでいきたいと思っています」と同氏は語ってくれた。

日本で開発するより欧米で開発したほうが安くつく

画像左はヨーゼフ・ゲッベルス(ナチスの広報責任者)で、画像右はハインリヒ・ヒムラー(親衛隊や秘密警察のゲシュタポを統率)。
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Kickstarterで9万ドル近くを集めたとはいえ、10~20ドルの価格で販売して利益が出るのか不思議に思ったので訊ねてみた。すると、「Kickstarterで集めた金額で開発費は十分足りています。私も驚いたのですが、ビジュアルノベルゲームって、日本で開発するより欧米で開発したほうが安くつくんですよ。低価格で販売しても売上のほとんどが利益になってきます。多く売れれば売れるほど、次のプロジェクトの開発や、ローカライズに資金を投入できるようになります」という意外な答えが返ってきた。

最後に日本のビジュアルノベルゲームに関わっている人たちに向けてのメッセージをお願いした。

「もっと日本のビジュアルノベルゲーム業界と関わっていきたいと思っています。欧米のゲームを日本語にローカライズしたいと思っている方や、ビジュアルノベルゲームを英語にローカライズしたいと考えている日本の開発者の方をご存知でしたら、是非ご連絡ください」


DEVGRU-P公式サイト

Mein Waifu is the Fuhrer - A Parody Visual Novel