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「海外で日本マンガの販路拡大」は本当に可能なのか。「アルド・エージェンシー・グローバル株式会社(AAG)」の社長に訊いてみた
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  • 2019.08.07
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「海外で日本マンガの販路拡大」は本当に可能なのか。「アルド・エージェンシー・グローバル株式会社(AAG)」の社長に訊いてみた

アムタス代表取締役社長の黒田淳氏(写真左)と、パピレス代表取締役社長の松井康子氏(写真右)
写真提供:インフォコム株式会社

文・取材:6PAC

松井康子(まつい やすこ)

慶應義塾大学大学院卒業後、1995年に株式会社パピレス入社。以降、2000年に同社取締役就任、2003年に同社経営企画室長就任、2006年に同社取締役副社長就任、2012年に同社代表取締役社長就任(現任)。

どういった方法論や戦略で海外市場という重い扉を開けようとしているのか

会社設立の記者会見で話す松井氏
写真提供:インフォコム株式会社

5月29日、電子マンガ配信サービス「めちゃコミック」を運営する株式会社アムタスと、同じく電子書籍配信サービスの「Renta!」を運営する株式会社パピレスが共同出資した「アルド・エージェンシー・グローバル株式会社(以下、AAG社)」の設立が発表された。事業内容は、電子コミックの海外向けコンテンツの配信許諾代行、翻訳サポート、海外販売先への取次と配信先の開拓となっている。

人口減少や電子化の進行などによる影響から日本国内の市場規模が縮小することを予測し、これまでにも海外でマンガを売ろうとした挑戦は何度かあったが、大成功したという話を未だに聞いた記憶はない。AAG社設立の発表自体には目新しさを感じなかったが、どういった方法論や戦略で海外市場という重い扉を開けようとしているのかを、株式会社パピレスおよびAAG社の代表取締役社長である松井康子氏に話を伺った。

国内の出版社がコンテンツの海外販売に関して抱える課題や不安として、「きちんと代金が支払われるかわからない」、「著作権が侵害されてしまうのでは?」、「配信先が少なく、コストを回収できないのでは?」、「作家からの許諾取得に時間と手間がかかってしまう」、「ローカライズのノウハウがない」という点を松井氏は挙げる。さらに、「電子コミックの海外販売許諾がいただけないので、国内(約30万冊)に比べてそもそも多言語化されているコンテンツ数(約2万冊)が圧倒的に少ない点も挙げられます。また、販売数を伸ばすためには、実績のある配信先の確保や、正確な翻訳、ローカライズのノウハウなどが必要ですが、コストや人的負担がかかるため、なかなか進まない理由のひとつになっています」を問題点として指摘する。

これらの課題を克服するため、AAG社は設立された。具体的には、配信許諾のサポート(作家との配信許諾、契約手続き)、翻訳代行(正確な翻訳、ローカライズ)、配信先の開拓(実績のある多くの配信先へのコンテンツ提供)、海賊版対策(高い品質の正規版流通)、支払管理システムの提供(配信先ごとの売上確認と代金回収)といったサービスをAAG社が提供することになる。

20年に近くにおよぶ電子コミック海外販売のノウハウ

ゲームの場合、任天堂の「ニンテンドーeショップ」やソニーの「PlayStation Store」、あるいはAppleやGoogleのアプリストアといったグローバルプラットフォームを通せば、海外市場にリーチすること自体はそれほど難しくない。

アニメも、昨今ではNetflixやAmazonプライム・ビデオなどのグローバルプラットフォームが取り扱ってくれさえすれば、一気に海外市場へと手が届く時代だ。しかし、マンガや電子コミックの海外展開に挑戦した企業は多かったものの、成功事例よりは失敗事例のほうが多い印象を受ける。

この点について訊いてみると、「パピレスは、2000年には海外の電子書籍配信サイトとの提携事業を開始し、2011年以降は英語版と繁体字版の直営販売サイトを運営しています。長期にわたる海外事業の経験から、海外における電子コミックの販売ノウハウを持っています。このたび電子コミック販売において国内最大規模の売上実績を持つアムタスと提携し、両社で協業することで、さらに海外市場規模の拡大を図ることができると考えています」との答えが返ってきた。具体的には、「まず、パピレスの子会社が運営する米国と台湾の直営販売サイトでの販売から開始し、その後ヨーロッパなどの英語圏と中国語圏、韓国への拡大を図っていく方針です」という。

海賊版には業界団体とも共同で対策を図る

同氏が、「国や地域によって“文化の壁”があると認識しています。特に米国をはじめとした欧米諸国では、漫画自体あまり知られていないのが現状です。ただ、若い世代を中心に、アニメの普及を通して、その原作となった漫画にも興味を持つ人が増えつつあります」と語るように、コンテンツビジネスに限らず、国をまたいだビジネスには常に文化の壁がまず最初に立ちはだかる。違う言い方をするならば、本国以外の国や地域では何がヒットするか非常に読みずらいということにもなる。その昔、日本国内の人気以上にフランスやイタリアで人気となったロボットアニメ『UFOロボ グレンダイザー』などがいい例であろう。

“文化の壁”を前にして、AAG社が海外でウケそうなコミックを選別していくのか、それとも現地の配信先が現地でウケそうなコミックを選別していくのか、目利きは誰が行うのかについて質問してみると、「パピレス子会社の直営販売サイトでの売上実績や海外取次会社を通した配信実績から、国や地域ごとにマーケティングを行い、ローカライズやレギュレーションのルールを考慮しながら適宜行っています」とのこと。「これまでの紙の漫画では、特に流通面でのコスト負担やマーケティングがしにくいなどの問題から、多くのコンテンツを一度に提供することは困難だったと考えられます。しかしながら、電子コミックのインターネット配信は、ロングテールのビジネスモデルにより、多種多様なコンテンツをそれぞれ必要とするユーザーに提供することが可能です。マーケティング戦略は、海外の電子書籍事業者と組むだけでなく、直営販売サイトの運営を通して得たノウハウを活かしていきます」とも話していたので、配信できるコミックは全て配信していく方針のようだ。「日本ではメジャーでない作品も、海外でメジャーになるチャンスがあると考えています」とも同氏は語っていた。

もう一つの頭の痛い問題が海賊版だ。昨年、日本国内でも「漫画村」の存在が社会問題として大きく報道されたが、“既にユーザーを抱えている海外の海賊版サイト”に対してはどういった策を講じていくのか。これについて、同氏は「高い品質の正規版流通を拡大することが最も重要だと考えています。ユーザーの中には、違法だと分からないで利用していたり、正規版サイトには翻訳コンテンツがないために、止む無く利用しているケースもあると考えられるからです。また、2018年4月に発足したJEBA(日本電子書店連合)のような業界団体により、海賊版サイトを取り締まる法的な手段やその収益源を断つ広告規制等の対策を行っていく方針です」と言うが、どこまで海賊版サイトの利用者を取り込んでいけるかはまだ未知数だ。

「2011年から電子書籍の海外直営販売サイトを運営していて、その売上規模は年度ごとに拡大しています」と同氏が言うように、潜在的な市場は確実にあるのであろう。アニメの海賊版が大手を振って流通していた中国で、許諾を受け正式に上映されたジブリアニメがヒットしたことも、正規版に対する潜在的な需要を裏付けている。AAG社には、海外の漫画ファンが気軽に正規版へとアクセスできる流通網の構築が期待される。


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