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「若者の◯◯離れ」とレッテルを貼るマスコミよ。消費低迷の元凶は本当にオレらか?【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(2)
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  • 2019.08.02
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「若者の◯◯離れ」とレッテルを貼るマスコミよ。消費低迷の元凶は本当にオレらか?【連載】中川淳一郎の令和ネット漂流記(2)

ネット時代になってから顕著になったのが「マスコミ不信」である。昨今の記者会見では、バカな質問をする記者が炎上するのが定番となっているが、「偏向報道」という言葉が今ほど言われる時代はないのでは。

戦時中の報道の方がよっぽど偏向報道だったが、こちらは「大本営発表を垂れ流し」という呼ばれ方をされる。この「偏向報道」という言葉だが、本当に偏向しているかはさておき「オレの読みたい論調ではない」場合にこの言葉が使われる。

2011年のフジテレビデモや、2012年の紅白歌合戦デモ、2013年の朝日新聞・小学館・TBS同日デモも「韓国を過度に優遇する偏向した売国マスゴミ」に対するものだった。この3つのデモについてはいずれ「炎上史」の文脈で書くことになるだろうが、今回は「若者の○○離れ」について書く。

トップ画像デザイン:大嶋二郎

中川淳一郎

ウェブ編集者、PRプランナー

1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てWeb編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)など。

2ちゃんねるやSNSで槍玉に上がる「若者の◯◯離れ」

Photo By Shutterstock

「若者の○○離れ」、この言葉は、実はロスジェネの悲鳴にも近いニュアンスが籠った言葉だったのだ。そしていつしか諦観に代わっていった。そんな歴史を振り返ってみよう。この言葉の意味については、ネット上の百科辞典「ニコニコ大百科(仮)」の「若者の○○離れ」の解説が分かりやすい。

若者の○○離れとは、マスメディアが作り出した言葉であり、○○に食品から思考までありとあらゆる言葉が当てはめられる、ある意味便利な言葉である。若者の離れといわれる原因は、近づくものがないというのが主因である。すなわち、若者のポケベル離れ、レコード離れ、オート三輪離れなどとは言われないように、最初から近づいていないことが問題なのではなく、代替とするものすらなく、すべてから遠ざかっているように見えることである。

この言葉の最大の問題は、若者自身が最初から近寄っていない(興味を持っていない)物に対して○○離れと呼称している点である。これは単なるミスリードでしかなく、若者にとってはいい迷惑である。

ここでは、「若者の○○離れ」はメディアが作った、としているが、あまりにも「若者の消費が減った」という記事が出るたびに、2ちゃんねるを含めた掲示板やSNSのユーザーが「また来たよ、若者の○○離れ」とばかりに、スレッドのタイトルやツイートにこの言葉を入れるようになった。いくつか2ちゃんねる(現5ちゃんねる)のスレッドのタイトルを見てみよう。

「“若者、お風呂離れ?” 10~30代の過半数が『入浴時に湯船に入らない』…理由は『湯船に浸かっている時間が暇』」(2009年11月27日)

「『食べにくい』『調理が面倒』…若者の『魚離れ』が指摘される」(2010年02月20日)

「【社会】男性ブラジャー製造者破産で『若者のメンズブラ離れ』の声」(2010年02月23日)

「若者のキャバクラ離れが深刻」(2018年05月27日)

こうした状況なだけに、「運転も『草食系』? 飛ばさぬ若者、事故激減」(2010年2月9日・日経QUICK)という記事については「若者の『交通事故離れ』が深刻化」とのタイトルでこの記事を紹介するブログも登場した。明らかに拡大解釈だし、「いいことじゃん!」という話題ではあるが、メディアに対して皮肉を言いたくなった気持ちは理解できる。

この言葉が頻出した2009年~2010年頃、若者はロスジェネ世代以降の人々で、給料はバブル世代と比べて圧倒的に少なかった。だからこそ、「離れるも何も、元々買えていなかったし、今も買えないんだよ!」となり、さらには「なんで景気の低迷をオレら若者に押し付けるんだ、このクソメディアめ!」ということになったのだ。

当初は「若年層の消費が下がっている」という記事が出たら面白がって2ちゃんねるのスレッドに「若者のかまぼこ離れ」や「若者の寿司にわさび離れ」などとつけていたのだが、ある時から「なにコレ? オレら若年層が消費低迷の元凶扱いされてるの……?」という絶望に変わったと見ている。

この「若者の○○離れ」記事については最近でも相変わらずよく読まれており、今年に入っても私が関わるサイトでも「若者の合コン離れ」と「若者のストッキング離れ」は非常に多数読まれた。

「若者の海外旅行離れ」観光庁の主張を検証

Photo By Shutterstock

そうした状況にあるが、若者の「勝手にオレらを消費低迷の元凶にするな!」との嘆きについて理解が促進され、前出の「ニコニコ大百科(仮)」の指摘が正しいと思わされる記事があった。日刊工業新聞2018年1月11日の電子版「若者はもっと海外旅行を!観光庁が促進策を検討」という記事にはこんな記述がある。

1996年の日本人の出国者数は1669万人で、うち20代は463万人。2016年は全体が1712万人とほぼ横ばいだが、20代は39%減の282万人だった。主な減少理由として、若者がショッピングセンターや温浴施設など近場で休日を過ごす傾向にあることや、スマートフォンのゲームなど室内での趣味が増えたことなどが考えられる。

これに対し、私はツイッターで異議を連投した。

96年の出国者数は1669万人で20代は463万人。16年は全体が1712万人だが、20代は39%減の282万←アホ、67-76年生まれが1953万人、87-96は1238万人で行く割合はほぼ同じ。何でもスマホのせいにするな

これについては、上記の記述を基に、1996年に20代になった1967年~1976年生まれの人数と、2016年に20代になった1977年~1986年生まれの人口を比較した。この比較を見ると、以下のようになる。

1996年に海外旅行に行った20代の割合:23.7%
2016年に海外旅行に行った20代の割合:22.8%

これを見ると大した差ではないのだ。「若者」の人数が減り、金持ちの中高年が積極的に海外に行っているだけなのにこうした分析をした観光庁はアホだし、彼らの主張に疑問を抱かなかった日刊工業新聞もアホである。

これを受け、私は補足のツイートをした。

主な減少理由として若者がショッピングセンターや温浴施設など近場で休日を過ごす傾向にあることやスマートフォンのゲームなど室内…←アホ、オレらが20代の時も温泉、SC、PSあったわ。適当なマイルドヤンキー論ぶちかますな

ここで言うところのSCとは「ショッピングセンター」で、PSは「プレイステーション」のことだ。観光庁の分析は、そもそもの20代人口の減少を踏まえていなかったし、さらに理由についても1996年に20代だった我々世代が当時何をやっていたかも踏まえていない分析だ。

このデータ自体への疑義は私も含めて多くの人間がツイッターで言及したが、この記事を読んだ人の多くは、「若者はお金がないから海外旅行に行けないのでは」とも書いた。その通りである。記事に登場する1996年の1年前の1995年は1ドル79円になるなど、極端な円高で海外旅行がしやすかったのは私も覚えている。

だからこそ、1ドル=108円程度の2016年に若者の海外旅行人数が少ないのは理解している。給料も減り、円が弱いにも関わらず、20年で20代の海外旅行比率が1.1%しか減らなかったのは決して「若者の海外旅行離れ」ではない。

昨今、さまざまなメディアがPV稼ぎとシェア稼ぎのために「若者の○○離れ」記事を出しているのはよく分かる。自分でやっていて言うのもなんだが、こうした記事を出すにしても、消費から離れざるを得なかった若者の置かれた状況にはキチンと理解する必要があるだろう。

何しろ、若者からすれば、自社や自業界の不振を高齢者ほどは恵まれていない自分たちのせいにされていることほど腹立たしいことはないからだ。ネットは完全に世代間の対立を生み出し、それは既得権益層や「逃げ切り層」への怨嗟をもたらす。ネットに蔓延する「若者の○○離れ」の裏にはこのような悲痛な生活の実態が存在するのである。


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