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BEPPU PROJECTは「ソーシャルビジネス」である【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(1)
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  • 2019.06.20
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BEPPU PROJECTは「ソーシャルビジネス」である【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(1)

BEPPU PROJECTは、『混浴温泉世界』『国東半島芸術祭』『in BEPPU』などアートフェスティバルの企画・運営や地域産品のプロデュース、企業へのコンサルタント業務など、アートやクリエイティブを軸にさまざまな活動を展開しています。その発起人であり、代表理事の山出淳也が、アートと地域を接続する活動について語り、よりよい未来を考える連載。

第1回目は自己紹介を兼ねて、自身のこと、そしてBEPPU PROJECTの事業展開やビジョンをご紹介します。

構成:田島怜子(BEPPU PROJECT)

山出淳也

NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事 / アーティスト

国内外でのアーティストとしての活動を経て、2005年に地域や多様な団体との連携による国際展開催を目指しBEPPU PROJECTを立ち上げる。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」総合プロデューサー(2009、2012、2015年)、「国東半島芸術祭」総合ディレクター(2014年)、「in BEPPU」総合プロデューサー(2016年~)、文化庁 第14期~16期文化政策部会 文化審議会委員、グッドデザイン賞審査員・フォーカスイシュー部門ディレクター(2019年~)。
平成20年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞(芸術振興部門)。

はじめまして!BEPPU PROJECTです

大分県別府市でアートやクリエイティブを軸に活動しているNPO、BEPPU PROJECTの山出淳也です。これから毎月、BEPPU PROJECTの活動ついて紹介しながら地域の課題と向き合い、未来について皆さんと考えていきたいと思っています。

今回は第1回目として、自己紹介をさせていただきます。

僕は大分市出身です。元々アートに関心があったわけではなく、ごく普通の家庭に生まれ、社会に対して疑問や憤りを感じることもなく平凡に育ちました。ところが、高校2年生のある日、たまたまテレビで観たあるシーンがきっかけとなり、アーティストとして活動しようと決意することになったのです。

それは、初老の男性がなにかを一心不乱に彫る姿でした。その人が彫っていたのは、当時の僕のボキャブラリーではなんと表現したらいいのかわからない「平たいもの」でした。僕はその姿に言い知れない衝撃を受け、自分自身もそういうものを作る職業になりたいと思うようになりました。当初はそれをテーブルだと思ったので、家具職人を目指そうとしたのですが、後にある著名な芸術家の彫刻作品だったということがわかったのです。

当時の僕は、紙やキャンバスに描かれた絵画であったり、台座に乗せられた彫刻作品であったり、そういうものが芸術作品なのだと思っていました。つまり、その形式が芸術を構成しているのだと認識していたのです。そのこと自体に何ら疑問を持つことはありませんでした。

コップは真横から見ると長方形ですが、真上から見ると円形ですね。このように、芸術やアートは、見る位置によって形が異なることに気づかせ、自由にものを見ることを促しています。アートはある意味では問題提起でもあり、これまでにない価値や可能性に気づかせる媒介でもあるのです。本来、そこには形式上のルールや縛りは存在しないはずです。

それに気づいたことがきっかけとなり、高校卒業後にアーティストとして活動をはじめました。

国際展への参加やレジデンスなど海外での活動も増え、20代後半からは海外に拠点を移し、日々忙しくなっていきました。その頃の僕には、日本に帰ってくることや、自らが作品を制作しない現在のような生活はまったく想像もできませんでした。

自分で決断して踏み出したこととはいえ、ここにこれから連載させていただくような、「ローカルにおけるクリエイティブの実践」なんて、当時は思いも寄らないことでした。こうして振り返ってみると、人生ってつくづくわからないものだなぁと思います。

BEPPU PROJECTの6つの活動

あらためて、BEPPU PROJECTの活動についてご紹介します。

BEPPU PROJECTは2005年に立ち上げ、翌06年に法人化、現在活動14年目のNPOです。常勤スタッフが15名で、昨年度の年間事業費は3億円を超える程度の規模で活動を展開しています。

個人的にはNPOという考え方を重視して組織を経営しているのですが、近年は「アートNPO」という呼称を積極的には使っていません。というのも、アートやクリエイティビティを地域の課題解決や新たな可能性が生まれる場づくりに活用しようと考えているので、活動の幅が広がり、どのような活動をしている団体なのか、一言で説明することが難しくなっているからです。

これまでに我々が関わって実現したプロジェクトは軽く1000を超えています。これらを6つのカテゴリーに分けると少しわかりやすくなるので、1つずつご紹介しますね。

2018年に開催した『アニッシュ・カプーア IN 別府』の様子
Sky Mirror,2018 ©Anish Kapoor

①文化芸術振興事業
やはり中心にあるのはアートです。我々が目指しているのは、アートが社会に必要とされることです。そのために、芸術祭のプロデュースから展覧会、各種講座の企画・運営など、さまざまな規模の事業を展開し、地域におけるアーティストの活躍機会の拡大を目指しています。

また、発足以来重視しているのが、学校にアーティストを派遣し、特別な授業を行う「アウトリーチ事業」です。この10年間にのべ70校で実施しており、多い年には年間40名以上のアーティストを招聘し、学校を訪問しました。ゆくゆくは大分県で育った人はみんな、アーティストの授業を受けた経験を持つこと目標にしたいと考えています。

②移住・定住に向けた環境整備事業
こうして多くのアーティストと関わる中で、別府への移住を希望する人に出会う機会も増えてきました。そこでアーティストやクリエイターに特化した居住・制作のためのアパートを運営したり、レジデンスの受け入れをしたりしています。

大分合同新聞によると(2017年1月18日朝刊)、2009年から別府市に移住したクリエイターは120名を超えました。これはこの町の人口の0.1%にあたります。この実績を受け、別府市の基本計画にもアーティストの移住促進が掲げられることになりました。現在、この政策をどのように進めていくべきか、調査・研究しているところです。 

③福祉施設へのアウトリーチ・障害者アート
アーティストの自由な発想力と視点を活かして福祉施設でもワークショップを開催しています。アーティストとともに施設を訪問するうちに、障がいとはなにか、彼らの持つ素晴らしい可能性を活かすにはどうすればいいのかと深く考えるようになりました。そこで全国各地で障がいに向き合いながら活動している人々に会いに行き、現状の課題やビジョンを共有するための場としての展覧会も企画しました。

④新たな観光需要を掘り起こす情報発信事業
アートイベントの開催によって、全国各地からお客様を別府にお迎えすることになりました。そこで我々がアートイベントの開催とともに力を入れているのは、地域の情報発信です。かつて別府の観光客は中高年男性の団体客が中心でした。しかし、現代アートの分野においては、若年層・女性個人客が主なターゲットとなります。つまり、我々の発信によって、これまで別府に関心のなかった層に情報を届けることができるのではないかと考えています。

源泉数(2217)・湧出量(8万3058L)ともに日本一を誇る別府は、名実ともにこの国を代表する温泉地であり、戦災を免れた古い町並みに独特の文化が息づく町です。この町の魅力を、ここに暮らす人々の視点や思いを通じて発信する情報誌『旅手帖 beppu』の発行をはじめ、さまざまな手法で紹介しています。

⑤産品のブランディング・六次化事業
こうして観光に関する多くのことを別府に学ばせていただき、いまではさまざまな地域の観光振興に関わる機会も増えてきました。なかには中山間地域での観光のデザインについてご相談いただくこともありました。このようなお仕事にあたる際、我々が大切にしているのは必ず現地に足を運び、その土地の人にお話を聞くことです。

そうすると、人口が少なく行政の目も行き届かないような地域であるにもかかわらず、とても綺麗に山が整備されていて驚かされることがあります。こうした地域には、農業や林業に従事する方々が非常に強い思いを持って土地を守っていることが多いのです。「いい木を育てるには、山が豊かでなければならない」。そのような話を聞き、経済と地域とがバランスを保ちながら成長していくには、どうすればいいのかと考えるようになりました。そこから生まれた企画が『Oita Made』です。

『Oita Made』は、主原料が大分県産のもの集めたブランドです。その土地に根付く文化や植生を活かし、景観や環境を後世に残そうとする人々やその活動を応援し、そこで生み出された商品を発信していく事業です。

もののファンから人のファンへ、そしてその人が守る風景のファンへ。つまり、『Oita Made』は景観保全運動であり、ずっと変わらないそのコンセプトのもとに2013年に立ち上がりました。2017年夏には大分銀行を中心に設立された地域商社『Oita Made株式会社』に事業譲渡し、BEPPU PROJECTより職員を出向させ、これまで以上の成長を目指しています。

⑥クリエイティブ×企業による産業振興事業
こうして地域や行政だけでなく、企業と関わることも増えてきました。新商品のパッケージについてご相談を受けているうちに、企業そのもののブランディングや事業承継、入職者の獲得、人事評価など、根源的な課題の解決に関わるケースも少なくありません。このような動きを加速化させるため、2016年から大分県の委託を受け、『CREATIVE PLATFORM OITA』という事業を展開しています。これは県内の中小企業とクリエイティブな人材とをマッチングし、課題解決や高付加価値型商品・サービスの開発、市場の拡大を目指す取り組みです。この2年間で120社以上から相談を受け、約40社のマッチングが進行しています。

必ずしも資金提供元ではありませんが、BEPPU PROJECTが手がけてきた6つのカテゴリのプロジェクトを国の所轄官庁に当てはめて考えると、①は文科省、②は総務省、③は厚労省、④は観光庁、⑤は農水省、⑥は経産省となります。

我々の活動は、縦割りの組織や仕組みに横串を指すようなものだと捉えています。クリエイティブなハブとして、文化芸術の振興という1つのジャンルにとどまらず、さまざまな事柄を繋げていくことが我々の役割です。それは新たな可能性が生まれるための土壌づくりのようなもの。いわば我々の活動はソーシャルベンチャーであり、「アートNPO」という呼称では語弊すらあるように感じています。

次回はなぜBEPPU PROJECTが誕生したのかについてお話しします。


【BEPPU PROJECTからのおしらせ】
山出淳也『BEPPU PROJECT 2005-2018』販売中
BEPPU PROJECTの発起人であり代表理事の山出淳也が、組織の立ち上げから13年間にわたって展開してきたアートと社会を接続する活動を振り返り、等身大の視点と表現で綴りました。

少年期におけるアートとの出会いからアーティストとしての経験や学び、そして地域においてアートフェスティバルを作りあげていく経緯やその内情、近年のクリエイティブを活かしたソーシャルベンチャーともいえる活動までを網羅。

販売価格 1,500円(税別)/145ページ

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