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インターフェイスの原点を探る、私的「カメラ」今昔物語。【連載】デジハリ杉山学長のデジタル・ジャーニー(10)
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  • 2019.05.30
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インターフェイスの原点を探る、私的「カメラ」今昔物語。【連載】デジハリ杉山学長のデジタル・ジャーニー(10)

原点に還れ、とよく言われる。ならばテクノロジーに携わる者は、どのようにして原点に還るべきなのだろうか? 連載も10回目を迎えた本企画、デジタルハリウッド大学学長の杉山知之さんが語るのは、彼がよく首からぶらさげている「カメラ」だ。

かまやつひろしのように、インターフェイスをめぐるひとつの問いを提示して始めよう。ライカというカメラを触ったことはあるかい、ほらロバート・フランクがアメリカの路上を撮ったやつさ――。

聞き手:米田智彦 構成:宮田文久 写真:神保勇揮

杉山知之

デジタルハリウッド大学 学長/工学博士

1954年東京都生まれ。87年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務めている。2011年9月、上海音楽学院(中国)との 合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。VRコンソーシアム理事、ロケーションベースVR協会監事、超教育協会評議員を務め、また福岡県Ruby・コンテンツビジネス振興会議会長、内閣官房知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員など多くの委員を歴任。99年度デジタルメディア協会AMDアワード・功労賞受賞。著書は「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)、「クリエイター・スピリットとは何か?」※最新刊(ちくまプリマー新書)ほか。

祖父と父のカメラは、UI/UXの原体験

私は最近、よくライカの、モノクロのデジタルカメラを持ち歩いています。決してプロのように詳しいわけではないのですが、思い返してみると、カメラとの付き合いはもう60年ほどになるんです。そしてカメラは、私が「インターフェイス」というものに触れた原体験なのだと、改めて感じています。

おそらく最初に出会ったのは幼稚園児の頃、祖父が持っていたローライフレックス。上から覗き込んで撮る、モノクロの二眼カメラですね。コントラストを調整するために、真っ黄色や美しい緑色のフィルターを使うのですが、その色を見て、綺麗だなあ――とウットリした記憶があります。

Photo by Shutterstock

初めて実際に触らせてもらったのは、父親が持っていたアサヒペンタックス。小学生の頃でした。最初に触れたカメラが、一眼レフだったわけですね。ボディの中央上部にプリズムというものがついていて、これが接眼レンズに光を導いてくるんだということも、小学生なりに必死に理解したのでした。

Photo by Shutterstock

何より機械式フィルムカメラというのは、音を含めた手触りがすごく良く出来ているんです。フィルムを回す時の「カシューッ」という音、シャッターを切る時の「カシャン」という音……今でもハッキリと覚えていますね。それは、UI/UXという点において、私の現在にずっとつながっているんです。

映像でメモを撮っていた90年代

映像に関しても、その頃から段々と触れていきました。父親が8ミリフィルムで映像を撮り出したんです。ちょうど前回の東京五輪(1964年)の頃で、新しい技術は良いものだ、という雰囲気もあったのでしょう。私もそのカメラを借りるようになりました。フィルムはまだ高かったですから、運動会や修学旅行といった特別な行事の時に限って、父親から借りて撮影していましたね。

MITメディアラボの暗室にこもった日々

スチールに関しては、幼少期から少し間があくんです。高校時代はバンド活動に夢中になって、楽器やオーディオに凝っていましたから。大学生になった頃、コンパクトカメラが出始めました。小さいながらもフラッシュも内蔵されていて、建築学科に入った私はそれを持ち歩き、気になる建築物があればしょっちゅう撮るようになりました。

徐々に発見もあったんです。カラーのネガ(陰画)フィルムで撮っていたわけですが、普通に現像所に出すと、ボヤーッとしてしまって、ビシッと上手く仕上がらない。そんな折、そうか、プロはリバーサル(陽画)のフィルムで撮っているんだ、と気づく。

オレンジと赤のコダカラーフィルムのパッケージは、覚えている方もいるでしょう。赤や緑がべったりと乗ってきて、温かみのある色が出るんですよ。それからはしばらく、リバーサル、いわゆるスライドで撮るようになりました。研究室も日夜お祭り騒ぎのように人が集っていましたから、その様子も日々スライドで撮っていましたね。

カメラに詳しい人が同僚になったこともあり、コンパクトカメラは併用しつつ、ニコンEMという一眼レフカメラも買って、1987年にMITメディアラボへ入ってからも、撮り続けていました。メディアラボには暗室があって、周りはデジタルで撮影している人ばかりでしたから、使い放題でしたね(笑)。

Photo by Shutterstock

「写メ」がデジタル写真を普及させた!?

メディアラボで3年を過ごし、日本に戻ってきた95年から、だんだんとデジタルカメラが世に出回るようになりました。ちょうどその頃、インターネットの時代になってきたわけですが、当時は「ウェブサイトに大きなデータである画像を載せるとは何事か」という人も多かったんです。写真とネットの親和性は、それほど良くなかった。

そこで日本は、携帯電話を中心に独自の進化を遂げていったんです。その前夜の存在としては、ポケベルですよ。女子高生をはじめ若い人たちが、「428(し・ぶ・や=渋谷)」というように、数字をメッセージにしてしまった。やがて携帯電話が出てくるんですが、「キャリアが違ったらメッセージが送れないなんて!」とブーイングが出て、携帯電話にEメールを搭載するようになるんです。

これこそが、「写メ」というものが出てきた背景なんです。Eメールに画像を添付するようになり始めた。そして、携帯電話の画質に満足できない人がデジタルカメラを持つようになる。つまり、「写メ文化」があったからこそ、デジタル写真がここまで普及するようになったのだ、というのが、私の見立てなんです。

ビデオはメモと思って撮っていた

大人になって、1994年にデジタルハリウッドを設立してからは、CGの一大カンファレンスであるSIGGRAPH(シーグラフ)に毎年足を運ぶようになり、ソニーの小さな、パスポートサイズのビデオカメラで現地の様子を撮っていました。

ビデオを使ったメモ技術、というようなことを文章で書いたこともあります。忙しいビジネスパーソンは編集をしている暇なんてない。だから、編集無し。移動中でも会議中でも数秒くらいの映像を少しずつ撮って、1週間で2分くらいのメモにするんだ、というようなことです。ネット動画が現れるずっと前のことですが、これもまた、どこか今の時代につながっているように思います。

やがて2000年代半ば、私も50歳を迎えるような年齢に。コンパクトなデジカメの新製品を購入直後になくしてしまい、ふと考え込んで、「重い本格的なカメラを持ち歩けるのはもうこのタイミングしかないだろう」と一念発起しました。2013年にソニーから発売された世界初のフルサイズミラーレス機「α7」を手にとったんです。

Photo by Shutterstock

ミラーレスになると、さまざまなレンズを着けることができるようになります。1ドル80円時代にはeBayで、あれこれと中古のレンズを落札して、世界中から収集しまくっていました(笑)。

便利さの手前で、あえてひどい目に遭うために

ただ、カラーのデジタルでずっと撮っていく中で、カラーは大抵綺麗に撮れてしまうし、レタッチでいくらでも修正できてしまうことに、ある意味限界を感じるようにもなりました。というより、素晴らしい画像が撮れてしまうので、誰かを写してその人に写真を渡す時、肌を丁寧にレタッチして渡すような、なんか解像度を落としているような本末転倒な状況になってしまったんです(笑)。

冒頭でお話したように、今は記録以外の写真を撮る時はライカのデジタルカメラだけを使うようにしています。これはまるで俳句の世界のようなモノクロのカメラで、うまく光を捉えないと、まったく良い写真にならないんです。自分がいかに写真のことがわかっていないのかが、思い知らされる。しばらくはこれを使い続けて、あえてひどい目に遭う、ということを続けてみようと思っています。

杉山学長私物のカメラ

ちょっと露出を間違えただけで、真っ黒になったり、真っ白になったりしてしまう。でもその不便さの中で、徐々に上達していく快楽がある。カメラは、そうやって技術や世界を「理解」していくためのインターフェイスなのだ――ということを、日々実感しているところなのです。ここにはきっと、テクノロジーの楽しさの一端があるのだと思います。


次回の公開は6月28日頃です。

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