BUSINESS | 2025/02/17

佐渡島 自然の恵みを守り未来へ
伝統の牡蠣養殖と木材産業の新たな挑戦と
知られざる魅力

佐渡の海が育む牡蠣養殖とアテビ

文・写真:カトウワタル (FINDERS編集部)

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

日本列島全体に強烈な寒波が押し寄せた1月下旬、新潟県の佐渡島 (さどがしま) に3日間ほど滞在する機会を得た。以前FINDERSにて、空き家を改修し宿泊施設として提供するサービス 「AKIYATO」を紹介したが、この度そのAKIYATOを運営する空き家地方創生株式会社にお招きいただき、佐渡市の海沿いに佇む 「古民家 河崎浪漫館」 に宿泊させていただくことになった。佐渡島を訪れるのははじめてのことで、友人たちに話すと 「なぜ冬に?」 「冬の日本海は荒れているよ」 などと心配の声もいくつかいただいたが、冬だからこそ体験することができる魅力も感じることができたので、本記事にて紹介したい。

佐渡島は、新潟県に位置する島で、面積約855平方キロメートルの北陸地方最大の島だ。自然が豊かな島だが、「佐渡金山」 や 「尖閣湾」 などの観光地の名前を聞いたことがあるという方も多いだろう。能舞台などの伝統芸能や文化的な遺産が多く残されているなど、実は観光・自然・歴史が見事に調和した魅力的な場所だ。

関連記事
空き家を改修して宿泊施設として提供する新しいサービス 「AKIYATO」 が開始

築120年の古民家 河崎浪漫館 でととのう

今回宿泊させていただいた 「古民家 河崎浪漫館」 は、築120年の古民家をリノベーションした宿泊施設。まるで大正時代にタイムトリップしたような雰囲気のある日本家屋で、囲炉裏や火鉢、掛け軸、神棚など、当時から利用されていた品々がそのまま残されている。

囲炉裏や火鉢は現在でも使用することができ、囲炉裏での炭火焼きが提供されるプランもある。(囲炉裏や火鉢の火おこしはコンシェルジュが行う)

また、当時使われていた蔵を改装し、佐渡の特産であるヒノキに匹敵する高級木材 「アテビ」 をふんだんに使用した心地良い香りを楽しむことができる蔵サウナも楽しむことができる。

囲炉裏や火鉢、掛け軸が残された「古民家 河崎浪漫館」 (写真はAKIYATO提供)
既存の蔵を改修した本格的なサウナ (写真はAKIYATO提供)
河崎浪漫館(YouTube)

佐渡の豊かな自然や資源を守り、新たな価値を生み出す

佐渡島の豊かな自然が育む海の幸と山の恵み。今回の訪問では、その貴重な資産を生かしつつ、代々受け継がれてきた技術と新しい挑戦を融合させている2つの事業者を空き家地方創生のスタッフの紹介で訪ねることができた。

加茂湖で牡蠣養殖を営む伊藤さんと、佐渡特有の木 「アテビ」 を扱う吉井木材工業株式会社の水野社長だ。彼らの情熱と知恵は、佐渡の豊かな自然や資源を守り新たな価値を生み出し続けている。

最初に訪れたのは、佐渡島の東部に位置する加茂湖で牡蠣の養殖業を営む伊藤剛さん。今回、牡蠣小屋 「あきつ丸」 に伺い船での収穫に同行させてもらった。

加茂湖は日本の離島の中でも最大の湖沼であり、日本百景にも選ばれている。その穏やかな水面に無数の筏が浮かぶ様子からは、まさに牡蠣の養殖場であることが一目見て分かる。伊藤さんは、佐渡の牡蠣は広島や宮城といった有名な産地に引けを取らないほど身が柔らかく、豊かな風味があると胸を張る。

湖に浮かぶ筏に吊した紐から牡蠣を取り外すことのできる脱貝機を積んだ船で収穫に向かう
加茂湖に無数に浮かぶ牡蠣養殖の筏
加茂湖湖畔の牡蠣小屋、その数は現在40軒ほど。最盛期には100軒以上はあったという

加茂湖は淡水と海水が混ざり合う汽水湖。暖流と寒流がぶつかるプランクトン豊富な日本海の水によって良質な牡蠣が育てられる。さらに伊藤さんによると、「佐渡の海流は南から来ていて、その海流が夏場には上空に蒸気となって上がり湿気を生む。」 といい、独特な食感を持つ加茂湖の牡蠣が、こうしたこの地域特有の環境によって生み出されており、牡蠣の成長に大きな影響を与えているとのこと。

伊藤さんが牡蠣養殖を始めたのは2010年。それまでは東京でサラリーマンとして働いていたが、実家の家業を継ぐために佐渡に戻ってきた。

「普通にサラリーマンをやってました。戻るんだったら牡蠣の養殖をやりたいなと思っていたので。」 と話す伊藤さんのその決断から15年。今では佐渡を代表する牡蠣生産者の一人となった伊藤さんだが、その道のりは決して平坦ではなかっただろう。

牡蠣の養殖業でも課題となっている後継者問題

牡蠣養殖の大きな課題のひとつになっているのが、やはり後継者の問題。特に難しいのが、熟練の技を要する収穫した牡蠣を捌く技術の継承だ。伊藤さんはその難しさについてこう説明する。「手先が器用な人が得意そうに見えるけど、動かし過ぎちゃって手先が安定せず牡蠣を捌くナイフがぶれてしまい、身を傷つけてしまう。」  牡蠣剥きの基本は、右手に持つナイフをほとんど動かさず、左手で牡蠣を動かしながら剥いていくこと。一見単純そうに見えるこの作業だが、習得には時間がかかるという。「筋のいい人なら2週間ぐらいあれば、そこそこできるようになります。ただ、向かない人は結構1か月やってもなかなか難しい。」 と、伊藤さんはこの技術を若い世代に引き継ぐことの難しさに危機感を強く感じている。そのため、観光客向けの牡蠣剥き体験なども行っているが、本格的な技術を習得し、後継者として育成していくためには、さらに多くの時間と相当な忍耐が必要なのだろう。

慣れた手つきで牡蠣を捌いていく伊藤さん

また伊藤さんは、採れたての新鮮な牡蠣を提供する 「caMoco café 湖ASOBi」 も運営している。加茂湖を目の前に立つ漁船を格納する舩小屋をリノベーションしたカフェで、店内の奥に設けられた大きな窓からは美しい加茂湖や山々の絶景を望むことができる。ぜひ佐渡島を訪れた際には、伊藤さんの牡蠣小屋での収穫体験やカフェでの食事を楽しんでほしい。

加茂湖の目の間に佇む 「caMoco café 湖ASOBi」 の店内
加茂湖で獲れた新鮮な牡蠣を使ったフライ。その他牡蠣のパスタなども提供されている

「温故知新」 を経営理念に、佐渡特産の 「アテビ」 と取り組む吉井木材工業の挑戦

佐渡島の山々に目を向けると、そこにはもう一つの貴重な資源が眠っている。河崎浪漫館の蔵サウナでも使用されている 「アテビ」 と呼ばれる佐渡特有の木だ。アテビの和名はヒノキアスナロといい、新潟県ではそのほとんどが佐渡島に分布し、その独特の香りと耐久性、耐湿性で知られる高級木材だ。吉井木材工業の水野社長はこのアテビを活用した新しい製品開発などに取り組んでいる。

吉井木材工業では、伐採から賃挽・木材加工など木を利用したモノづくりから家づくりまで、木に係わる幅広い仕事を手がけている

伝統を守りながら新製品開発に積極的に取り組む

水野社長率いる吉井木材工業の経営理念は 「温故知新」。以前に学んだことや昔の事柄をもう一度調べたり考えたりして、新たな道理や知識を見い出し自分のものとすることである。

アテビで作った木製コースターを手にする吉井木材工業 代表取締役の水野雅晴さん

アテビには、その香りにより防虫・防腐効果や耐久性から、古くから建築材や家具、工芸品などに幅広く使用されてきたが、水野社長は伝統的な木材加工技術を守りながらも、新しい技術や製品開発に積極的に取り組んでいる。例えば、レーザー加工機を導入し、アテビを使ったQRコード付きコースターなど、現代のニーズに合わせた商品を生み出しているほか、アロマオイルと組み合わせた商品や、アテビのチップを詰めた枕など、新たな形での活用も進めている。

アテビのチップが詰められた枕。心地の良い感触だけでなく、まるで森林浴をしているかのような香りに包まれリラックス効果は抜群だ

水野社長が目指すのは、単に木材を売るだけでなく、佐渡の文化や歴史、そして未来をも包括した 「ストーリー」 を提供し、アテビを通じて佐渡の自然と伝統を守り、次世代につなげていくことだ。アテビを使った日用品や装飾品を通じ、佐渡の自然や文化をのせた 「ストーリー」 として日常生活に取り入れてもらう。そうすることで、佐渡への愛着を深め再訪のきっかけを作る。これこそが水野社長の狙いだ。

「体験」 を通じ新たな価値を創造

伊藤さんと水野社長の取り組みは、単なるビジネスの枠を超えている。二人に共通するのは、単に製品を売るだけでなく、佐渡の魅力を体験を通じて伝えたいという思いだ。

伊藤さんは牡蠣小屋だけでなく、自ら運営するカフェで牡蠣を使った料理を提供するだけでなく、牡蠣の養殖や剥き方の体験プログラムや地域を巻き込んだイベントを計画しているほか、通年で出荷可能な牡蠣のオリーブオイル漬け製品なども開発中だ。

一方、水野社長も社内敷地内に木工教室や展示販売を行うためのスペースの設置を構想しており、実際にアテビを手に取ることで分かるその魅力を伝えるとともに、作ることの喜びを体験を通じて感じてもらいたいとしている。

これらの取り組みは、単なる物販や観光にとどまらない。佐渡の自然や文化を人々との触れ合いを通じて、訪れる人々に深い印象を残し、リピーターとなってもらうことを目指す取り組みだ。

佐渡の海と山が育む恵みを守り、新たな価値を創造する。伊藤さんと水野社長のような情熱と創意工夫をもった方々の活躍に期待しつつ、今度は夏に佐渡島を訪れてみようと思う。

佐渡島の玄関口であり中心地域である両津港付近(Shutterstockより)

古民家 河崎浪漫館
https://a-to.world/hotels/kawasaki-roman-kan/

佐渡島Oyster【牡蠣漁師 あきつ丸】Instagram 公式ページhttps://www.instagram.com/sadogashima_oyster/

caMoco café 湖ASOBi
https://camoco.cafe/

吉井木材工業株式会社
https://sado-yoshimoku.com/

空き家地方創生株式会社 HP
https://re-akiya.co.jp/

A310to HP
https://a-to.world/