LIFE STYLE | 2026/10/21

東京駅を設計した建築家の宿に、今も泊まれる。奈良ホテル本館、重要文化財へ

辰野金吾氏設計、1909年開業の奈良ホテル本館が重要文化財指定へ

FINDERS編集部

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文化審議会の答申を受け、奈良ホテル本館が国の重要文化財に指定される見通し

1909年の開業から117年目を迎えた今、国内外の皇族や賓客を迎えてきた建物は、ただ眺めるための文化財ではない。奈良市高畑町に立つ奈良ホテル本館が、2026年10月16日(金)に文部科学省の文化審議会が行った答申を受け、重要文化財(建造物)として指定される見通しとなった。運営する奈良ホテル(総支配人:原田隆太)は、今回の答申を到達点ではなく、建物と記憶を次の時代へつなぐための出発点と位置づけ、指定後も現役のホテルとして営業を続けていく方針を示している。

本館の設計を手がけたのは、辰野金吾氏と片岡安氏が開設した辰野片岡建築事務所である。辰野金吾氏は東京駅や日本銀行本店本館なども手がけた建築家として知られる。本館は木造一部煉瓦造、二階建で一部平屋建、地下一階を備え、東西約141メートルに及ぶ長大な建物だ。中央に車寄せを構える玄関部を置き、両翼に食堂部や客室部を雁行させて配置することで、重なり合う屋根がリズミカルなスカイラインを描き、奈良公園や名勝旧大乗院庭園に接する古都の風致と響き合う景観を形づくっている。

館内には吹抜を備えた大広間と大階段、格天井、暖炉、書院造風の意匠を持つ食堂など、和と洋の要素を巧みに融合させた空間が広がる。春日大社の吊灯籠をモチーフにしたシャンデリアは大階段を上ると間近に見られ、来日時のオードリー・ヘプバーンが感嘆の声を上げたという逸話も残っている。西洋建築の構成を取り入れながら、軸部や内部意匠には伝統的な木造建築の表現を生かしている点が、設計上の特徴とされる。文化審議会の答申では、明治後期に建設された本格的なホテル建築としての価値、そして古都奈良の景観と響き合う意匠的・歴史的価値が評価されたという。

震災復旧や耐震改修を重ねながら、現役のホテルとして100年以上の時間を紡いできた

開業後の奈良ホテル本館は、歴史的な意匠を守りながら、時代ごとに求められる設備や安全性、快適性に応じた改修を重ねてきた。1914年には全館にスチーム暖房を導入し、1922年には英国エドワード皇太子の宿泊に際して排水浄化装置を新設するなど、賓客を迎えるための整備が重ねられている。戦後は進駐軍のレクリエーション施設として接収された時期を経て、各客室への専用浴室の設置や空調設備の更新が進められた。1995年には震災復旧と屋根瓦の葺き替えを行い、2017年から2020年にかけては耐震改修工事を実施し、歴史的価値を守りながら安全性を高めている。

奈良ホテルの魅力は、建物を眺めるだけでなく、実際に泊まり、館内を歩き、食事を楽しみながら時間を過ごせる点にある。大階段を上るひととき、ロビー「桜の間」で腰を下ろす時間、メインダイニングルーム「三笠」で味わう一皿。そのひとつひとつが、開業から積み重ねてきた100年を超える物語につながっている。

奈良ホテルを運営するJR西日本ホテルズは、現在5ブランド13ホテルを展開しており、1909年創業の奈良ホテルはグループの中でも最も歴史の長い拠点にあたる。2026年9月にリニューアルオープンした西館も、本館が守ってきた趣や格式とは異なる新たな滞在価値を担う存在として、本館とともに歴史を重ねていく。

2024年の創業115周年に合わせて、館内に唯一残された宿帳を修復したというエピソードも、奈良ホテルが建物だけでなく積み重ねた記憶そのものを大切にしてきたことを物語る。歴史的建築としての価値が国に認められてもなお、現役のホテルとして時間を過ごせる場所であることは変わらない。古都奈良の風景とともに、明治から続く建築の中で過ごす時間を味わいたい人にとって、次の旅先の候補として記憶しておきたい場所である。


奈良ホテル本館
所在地:奈良県奈良市高畑町1096番地14
開業:1909年10月17日
設計:辰野片岡建築事務所(辰野金吾・片岡安)
構造:木造一部煉瓦造(二階建、一部平屋建、地下一階)
規模:東西約141メートル
答申:2026年10月16日(金)、文化審議会が重要文化財(建造物)指定を答申
運営:奈良ホテル(総支配人:原田隆太)、株式会社JR西日本ホテルズ

公式サイト
https://jrwest-hotels.jp/narahotel/