金属産業で知られる新潟県の燕・三条地域で、ものづくりの現場である多くの工場(こうば)が一斉に公開されるオープンファクトリーイベント「工場の祭典2024」が、10月3日~6日の4日間で開催される。12年目となる今年のテーマは「ものづくりで繋げ」。109の工場を巡ってものづくりを体感できるだけでなく、初となるオンラインコミュニティの立ち上げや、参加工場側が主催する各種企画などを通じて、工場の職人、地域住民、運営に関わるスタッフ、そして来場者らが相互に交わり、深い繋がりを持った関係人口となっていくことを狙う。
今回は、工場の祭典2024の実行委員長を務める安達拓未さん、副実行委員長の結城靖博さん(いずれも三条商工会議所青年部)にインタビューを実施。イベントの見どころや楽しみ方、そして工場の祭典を通して地域を「繋ぐ」ことの意義を聞いた。(横田伸治)
工場を回りながら、地域に深く入り込んでほしい
―― 今年は109の工場が公開されます。運営の中核を担うお二人それぞれの視点で、見どころを教えてください。
安達:普段は入ることができない工場の見学は、2〜3件も回ればかなりお腹いっぱいになるくらいの情報量があります。109の工場を全て見て回るのは現実的に不可能に近いと思いますが、だからこそ、これまで工場の祭典に来場いただいた方でもまだ見ていない工場があるはず。もちろん初参加の工場もたくさんあるので、存分に楽しんでほしいですね。
―― 初参加と言うと、燕市産業史料館でも「工場の祭典」期間中にものづくり体験が開催されますね。
安達:はい。燕三条地域のものづくりを、現場だけでなく歴史・文化の視点からも紐解いていけるスポットなので、こちらもおすすめです。これまでの工場の祭典では、「KOUBA」を「工場」「耕場(=田畑)」「購場(=商店)」と3種類に分けて実施していて、史料館はどれにも属していなかったためオープンファクトリーとしての参加はありませんでした。今年はそうした区分けを無くしたため、工場の祭典に加わっていただけることになりました。
―― 見どころについて、結城さんはいかがでしょうか。
結城:もちろん、単純にできるだけ多くの工場を見て回ってほしいというのが、おすすめの見どころになるんですが(笑)。今年度からは、Discordを使って来場者・工場・実行委員会・地元の方が交流できるオンラインコミュニティも作ったんです。工場や運営側とお客さんのやり取りはもちろんですが、来場者同士のコミュニケーションも可能となります。
これまでは運営側からの発信や記事など、一方通行でしか情報を受け取れなかったのが、Discordを使うことで来場者側から「今ここにいるんだけど、おすすめの工場はありますか?」とか「今からご飯に行きたいんだけど、どこがいいかな?」のように、ダイレクトかつリアルタイムに情報を取れるようになります。地元の人に教えてもらいながら地域を回ることで、冒険するような感覚で燕三条を楽しんでほしいと思っています。
コミュニティにはすでに300人以上の方が入っていて、工場の祭典の常連と思われる方々がディープなやり取りをしています(笑)。初の試みなのでどれくらい機能するかは分からないですが、楽しみです。
立場を超えて、地域全体が繋がる機会に
―― 改めて、今年のテーマである「ものづくりを繋げ」に込める思いをお聞かせください。
安達:先ほどKOUBAの区分けを無くした話をしましたが、今年はよりシンプルに・ありのままに、燕三条にいる人達が本音で対話して、繋がっていけるイベントにしたいと考えました。燕三条の工場と来場者を繋ぐのはもちろん、買い手であるバイヤーも、工場同士も、みんなが繋がってほしいと思っています。
結城:これまでの開催で、工場の祭典は想定以上に多くのお客様に来ていただいたり、賞もいただいたりと成功を収めてきました。全国有数のオープンファクトリーとなった中で、今まで以上に関係人口の創出を狙っています。ただ「来る」「体験する」だけではなく、多業種の方が集まって、対話することで、イノベーションを生んでいきたいです。
―― 地域全体を繋ぐという意味では、実行委員会としても、今年は燕・三条それぞれの商工会議所青年部からメンバーが集まっていますね。
安達:燕と三条は行政区としては分かれていても、産業としては全く区切りがありません。その点で、両市から実行委員会メンバーが集まり、「燕三条」のイベントであるという位置づけとなる点には価値があると思っています。燕と三条を繋げるという意味もテーマに含んでいますね。
結城:行政の主導で工場の祭典を続けていくには限界があり、昨年から民間で運営する方針に変わりました。ただ、民間だけでやるのも負担が大きく難しかったということで、今年は半官半民に近い立場である両市の商工会議所青年部が運営にあたることになったんです。史上最高に、「まち全体を挙げて工場の祭典を行う」という体制になっていると思いますよ。
安達:その思いはイベント内容にも表れていて、今年は実行委員会から参加工場・企業側に対して、独自の自主企画を行うことを積極的に奨励しています。スタンプラリーやクイズなど、エリアごとに様々なコンテンツが用意されています。
工場見学だけにとどまらない楽しみ方も
―― また今年は、燕三条の企業をキャラクター化したカードゲーム「匠の守護者」とのコラボもあるそうですね。
結城:匠の守護者は元々、工場の祭典と角度は違えど、産業観光をやろうとスタートしたプロジェクトなので、親和性が高いんですよね。今年は、キャラクター化されている企業のうち約30社が工場の祭典の参加工場になっていることもあり、「匠の守護者キャッチ」というコラボ企画を用意しました。
キャラクター化された企業・工場に置いてあるパネルを見つけて写真を撮ってもらい、4社の写真を集めてXにハッシュタグ付きでポストしたら、工場の祭典本部で限定のレアカードをプレゼントする、という内容です。匠の守護者は県外にもファンが多いので、そうした方には絶望的な企画かもしれないんですが(笑)、一日あれば4社は回れると思うので、是非頑張って集めてほしいです。
ーー「聖地巡礼」のような企画になっているのですね。
結城:まさに「聖地巡礼」という匠の守護者の別企画もありますよ。もともと一部のキャラクターカードをNFTでも展開していて、この匠の守護者NFTを入手していると、燕三条の道の駅や店舗で様々なサービスを受けられる仕組みになっています。
このNFTに付随する「聖地巡礼」という企画では、燕三条の様々な名所、施設、工場に散らばったチェックインスポットに設置されたQRコードを読み込むことで、そこでしか手に入らないカスタマイズに必要なデジタルデータを入手できます。
聖地巡礼スポット:
・三条鍛冶道場(新潟県三条市元町11-53)
・万葉の富士(新潟県三条市白山新田1)
・八木神社(新潟県三条市北五百川51番地1)
今回の工場の祭典2024に合わせて、期間限定スポットも用意されています。是非、聖地巡礼してみてください。
期間限定スポット:
・燕三条駅(JRE Local Hub 燕三条)
・燕三条地場産業振興センター(新潟県三条市須頃1丁目17番地 1F)
・いづみ商会(新潟県三条市西四日町3丁目5-8)
――いよいよ開催を迎える工場の祭典2024ですが、来場者にはどんなことを感じながら楽しんでほしいですか?
結城:燕三条は、全国でも珍しい金属産業の集積地です。是非工場に来て、みなさんが普段使っている道具が、どんな思いで、どのように作られるのかを感じてほしいです。もしよかったら、そこで道具を買ってほしいし、今までよりもちょっとだけ大事に使ってもらえれば嬉しいですね。
安達:直接来るからこそ感じられる、職人の表情や仕草にも注目してもらえたら。プレス作業ひとつとっても、実際の作業だけでなく、スイッチを入れる前に真剣に準備する姿にもぐっと来ますよ。職人さんは無口なイメージがあるかもしれませんが、好きなものについて話し始めたら止まりません。初めて来場される方にもウェルカムな雰囲気で、お待ちしています。
結城:気軽に製造現場を見てもらうことがコンセプトですし、新潟県はグルメも景色も抜群なので、楽しんでほしいですね。特におすすめなのは背脂ラーメンです。太麵で、上に背脂がたっぷり乗っているラーメンですが、実は工場にも縁があって。職人向けの出前として流行したメニューで、忙しくてすぐ食べられなくても伸びないように太麺を使い、冷めないように脂を乗せたといわれています。諸説あるんですが(笑)、非常に象徴的な発祥なので、是非食べてみてほしいです。
安達:飲み屋街も良いですよ。三条には、人口当たりの酒場の数が日本一だったこともある大きな繁華街「本寺小路 ( ほんじこうじ ) 」があります。地元の人のコミュニティになっているので、そこでも深く地域と関わってもらえればと思います。
工場の祭典2024
開催期間:令和6年10⽉3⽇(木曜日)〜6⽇(日曜日)
開催場所:新潟県燕市・三条市全域、及び周辺地域
主催・運営: 工場の祭典実行委員会
共催:燕商工会議所青年部、三条商工会議所青年部、公益財団法⼈ 燕三条地場産業振興センター、燕市、三条市
お問い合わせ:工場の祭典実行委員会事務局
電話:080-1186-0484
E-mail:kouba.0229@gmail.com