日経トレンディが発表した「2024年ヒット予測ベスト10」の第1位に選ばれるなど、密かに注目を集める「ドローンショー」。空中に何百機というドローンが飛び交い、企業ロゴやキャンペーンサイトへのQRコードが表示され、広告効果も抜群なこの表現手法は日進月歩で進化し続けている。近年は花火大会や自治体のイベント集客など、日本の伝統行事を救うことになると期待される一方で、日本ならではの障害も浮き彫りになってきた。
ドローンショーはどのようにデザインされているのだろうか?ドローン先進国中国との違いや日本ならではの戦い方とは?
「5184台の同時飛行数」などドローンショーの世界で4つのギネス記録を持ち、中国・深センに拠点を置く世界最大のドローンショー事業者「高巨創新」(HIGH GREAT)社と事業提携を結ぶ、日本最大のドローンショー事業者・レッドクリフを起業した佐々木孔明CEOに、ドローン先進国中国との違いや日本ならではの戦い方について話を伺った。
佐々木孔明
株式会社レッドクリフ 代表取締役
1994年、秋田県秋田市生まれ。秋田商業高校を卒業後、関東学院大学 建築・環境学部へと進学。2016年に2年間の休学を使いドローンと世界一周の旅に出る。帰国後、大学を中退しドローン世界最大手DJIの日本一号店に勤務。ドローンの販売・講習・空撮を担当。2019年「株式会社レッドクリフ」を設立、テレビ番組の空撮やゴルフ場の空撮を行う。海外企業のドローンショーの空撮を担当したことからドローンショーに興味を持つ。東京オリンピックの追い風を受け2021年より日本最大規模のドローンショー運営会社を開始。株式会社レッドクリフ CEO。
荒木大地
Shenzhen Fan Founder
深セン最大級の日本人情報サイト「深セン ファン」管理人。Webエンジニア兼ライター、また講師として中国・テック関係の情報を発信中。合計 8,000を超えるメンバーを抱える中国各地の渡航・生活情報共有グループチャットの運営も行っている。
Twitter : @daichiaraki
ドローンショーが日本各地の花火大会を救う?
まず、ドローンショーとは一体どんなものか。YouTubeで多数公開されているレッドクリフの作品を見ていただくのが一番手っ取り早いだろう。
これは2023年11月に横浜赤レンガ倉庫で行われた「コカ・コーラ クリスマスドローンショー『空飛ぶクリスマストラック』」の模様で、クリスマス(12/25)にちなんで1225機のドローンによる約20分の国内最大規模のドローンショーとなった。サンタやトナカイなど、クリスマスにまつわる演出が行われたほか、最後には巨大な空中QRコードを披露している。夜空に星座のように浮かぶ無数のドローンが放つ光が、次々とかたちを変えていく姿は実際に見るとかなりの迫力がある。
レッドクリフを創業した佐々木氏は建築家を志す学生時代だった2016年、世界中を旅してまわる中で空撮のみならず輸送や農業など幅広く活用され始めていたドローンに未来を感じ、大学を中退して世界最大手のドローンメーカーであるDJIの、日本第一号となる正規販売店舗に就職。2年間ドローンに関する知見を集めたのち、ドバイで行われたドローンショーにて夜空に企業ロゴが映し出される光景を目の当たりにした。
その時「これは日本でも数千万円の価値を持つ広告媒体になる!」と確信して帰国後すぐに資金調達を開始した。当時の日本はまだドローンショーという言葉も浸透していなかったが、2021年の東京オリンピック開会式で披露されたドローンショーが話題となり、認知度が一気に高まった。
その後資金調達に成功し、2021年にレッドクリフを創業。さっそく同年12月に北海道上士幌町で300機のドローンショーを開催した。2022年6月には横浜開港祭で500機のドローンショーを、7〜10月には日本各地の花火大会とコラボして700機の「ポケモンGO」ドローンショーを成功させた。
そして2023年は機体をグレードアップさせて広島G7サミットの#HIROSHIMAミライバトンにて平和の折り鶴を1000機のドローンにて表現。直近では先述の通り1225機のドローンを用いてコカ・コーラ クリスマスドローンショーを開催し、国内最大規模のドローンショーとして話題を集めた。
これらの経験を経て、佐々木氏はドローンショーが特に日本各地で開催されている伝統的な花火大会を持続可能なものにするきっかけになるのではないかと考えている。
「昔ながらの伝統的な花火大会は、花火が上がるごとに協賛企業の名前を読み上げたり、配られるパンフレットに企業名を記載する形での宣伝手法が取られています。しかしこのスタイルだと人々の記憶に残りづらく、パンフレットも現地会場に来た観客の手元にしか届かず、暗い中でそのパンフレットを読む人も少ない。ですが花火大会とドローンショーを組み合わせれば、花火の横に協賛企業のロゴを表示させることが可能となり、離れた場所や自宅から見る人の目にも留まります。そして花火の写真や動画を取り、SNSや動画サイトでシェアされることで二次拡散も期待できます。協賛企業側の反応も上々で、より確実な宣伝効果が見込めるため広告単価も上がっているそうです」(佐々木氏)
2023年は、各地での花火大会の縮小や中止が相次いだ。主な原因は物価・人件費の高騰、つまり資金不足だ。コロナ禍の影響もあり協賛集めに苦労している自治体をドローンショーがサポートすることでスポンサーから資金を集めやすくなり、日本の伝統を持続可能なものにできるのではないかとの期待が高まっている。
加えて興味深いことに、花火大会はドローンショーを開催する上で解決しなければならない多くの課題を最初からすでにクリアしている。ドローンショーを開催するには広い飛行エリアを確保する必要があり、航空法の人口密集地のルールも存在するため、どうしてもエリアが限定されてしまう。しかし、花火大会は開催のために広い土地が確保されており、地方でも1日に何十万人もの人が集まって空を見上げて待ち構える。花火とドローンショーはとても相性が良く、お互いに相互補完の関係性を持つことがわかる。
ドローンショーの制作過程&開催費用
ドローンショーで用いられるドローンは数百機から数千機規模になるので、当然人間が操作しているわけではなくプログラミングされている(ドローンが上手く飛びたなかったなどの機体トラブルもごくわずかながらあるため、現地には必ずスタッフが待機しているが)。そのため「アニメーション」とも言われているわけだが、制作手法は3DCG映像と類似している。具体的には以下のような流れだ。
①まず出したいモチーフや予算により規模感を決定し、絵コンテを制作
②どのようなモチーフをどういった順番で出していくかを決定する
③3DCGチームにより3Dモデリングを行い、メッシュ化した頂点を結んでドット絵を作成。このドット数により必要とされるドローンの機体数が決まる
④同時に開催場所の現地調査を実施し、観客側から鑑賞可能となる地面の環境などを確認後、航空法(ドローン飛行許可)を申請
開催費用はアニメーション作成費用も含め、「1機体3万円〜、300機〜(900万円から)と考えてほしい」(佐々木氏)とのこと。制作期間は機体数によって異なるが、完全お任せであれば最短で2週間ほどで作ることが可能だと佐々木氏は語る。しかし通常は広告代理店、クライアントのチェックといった承認プロセスが存在するため、平均すると2カ月ほどを要するという。
ドローンショー運営の足かせとなる、日本特有の3つの障害
このように日本でも開催事例がどんどん増えているドローンショーだが、国内で実施する上での障害が3つ存在する。
1つ目は周波数帯の違いだ。海外の大多数でドローン飛行用に採用されている周波数帯は5GHz帯だが、日本ではこの周波数帯が気象衛星やETCなどの電波に使用されているため、ドローン飛行で許可されている周波数は主に2.4GHz帯となる。海外製のドローンをそのまま日本国内で使用すると電波法違反となる可能性が高い。これは海外のドローンメーカーにとって日本進出をためらう要因となる。海外の5GHz帯よりも弱い2.4GHz帯に対応させたドローンはどうしても性能が「劣化版」となってしまう。電波が弱いため、ドローンを操縦できる機体数や距離の面でどうしても不利になってしまうのである。
2つ目は機体の電波認証(技適取得)の手続きが複雑であること。前述の周波数帯の違いから日本向けに対応したドローンは総務省より技適の取得が必要となるが、この技適取得に至るプロセスや申請資料が多く、時間がかかる。
3つ目は航空局に申請するドローン飛行許可の手続きだ。例えば前回飛行許可が降りたのに、同じ場所で、同じ演出プランで再度申請してもスムーズに許可されず前回と異なる修正を指摘される、またイベント前日になるまで許可が降りてこないケースが度々生じているという。
ギネス記録を持つ世界最大手ドローンショー事業者「HIGH GREAT」社との提携
日本でドローンショーの運営を開始するにあたり、佐々木氏はまず世界中のドローンメーカーにコンタクトを取った。しかしそこで前述のような日本特有の大きな障害が存在することを知る。このハードルをクリアすべく、レッドクリフはギネス記録を持つ中国・深センの世界最大手ドローンショー事業者「高巨創新(HIGH GREAT)」社に「日本でもドローンショーの需要がある」と彼らを説得して事業提携を行った。
モジュールや基盤等の実験・テストなどを共同で行うことでドローンの技適取得をサポートし、日本向けに対応したドローン機体をレッドクリフが購入、そして他社への販売窓口となり、カスタマーサポートも行うことに。加えてドローンショーのアニメーション制作に至るまで包括的に協業する総代理店契約を締結したという。
佐々木氏いわく、HIGH GREAT社は自社工場を所有しているため、ハードもソフトも自社で一貫して開発できるのが強みだという。
「当初は空撮機を改造したドローンを活用していましたが、現在はHIGH GREAT社がドローンショー専用の機体を開発しており、ソフト・ハード両面において技術スピードは日進月歩。新型機はドローンの機体を順番に地面に並ばせる必要はなく、ランダムに設置してもオートナンバリングされ、トラブルなどで飛び立てなかった機体を予備機体が自動的にバックアップするといった機能も搭載されています」(佐々木氏)
HIGH GREAT社は教育にも力を入れており、子ども向けの屋内ドローンショーやプログラミング教室も多数開催している。教材の販売も好調だそうで、数年後には日本の教育現場でもこの光景が見られるかもしれない。
同社は深センにおける多くのメーカーと同様に、新機能の特許を猛烈な勢いで取得しており、当然のことながら次世代モデルの準備にも取り掛かってる。現在の機体はLEDが光るといった表現手法のみだが、次世代の機体はLEDユニット部分が付け替え可能になり、花火やレーザーなど、様々な種類のユニットを搭載できるようになるという。これにより表現力が格段に上がり、もっと新しいタイプのドローンショーが生み出されていくことが期待される。
ドローンショーに用いられる機体数も増加の一途を辿り、2021年には5000機余りの機体によって夜空に「ドローンディスプレイ」を表示させ、空間をスクリーンにして映像が流せるレベルにまで到達している。機体数が増えれば夜空で4Kディスプレイを表示させることも夢ではないかもしれない。
アニメ・ゲームの潤沢なコンテンツが武器に、日本ならではの戦い方を
日本では先述の通りいくつかの不利なバックグラウンドがあるものの、この分野において武器となるものがある。それはゲームやアニメなどから生み出された潤沢なコンテンツだ。2022年に行われた花火大会と『ポケモンGO』のコラボ、2023年8月・11月に行われた『ファイナルファンタジーXIV』の10周年を記念した花火大会において、各作品のモチーフを用いたドローンショーが演目に組み込まれており、海外からの観光客の反響も大きかったという。今後国内公演だけでなく、文化発信の効果的な方法として海外向けにも展開することができる。
HIGH GREAT社との提携を通じてドローン先進国・中国から最新の機体を手に入れ、同時にドローンショーの企画・開催に関するノウハウを吸収し、演出の開発スピードやショーのクオリティを上げることができたレッドクリフは、現在日本のドローンショーの広告案件の8割ほどを請け負うレベルにまで実績を積んできたという。
中国のドローンショーは一機あたりの単価が安いため、大量の機体数だからできる解像度などの面で他国を圧倒しているものの、ショーの「表現力」においてはアニメやゲームで培ったクリエイティブスキルを持つ日本にも勝機があるように見える。
筆者が中国・深センで行われたドローンショーを直に目にして感じたのは、1000機ほどの機体をフル活用して滑らかに動き、見せ場を次々と登場させて観客を飽きさせないようにして圧倒的なキラキラ感を演出してはいるが、シーンごとのつながりはあまり見受けられなかった。
経験豊富なCG制作スタッフを多く擁するレッドクリフは、「定められた機体数で実現できる最大の表現方法は何か」を考えるという。先日行われたコカ・コーラのドローンショーでは、トラックからプレゼントボックスが出現し、その後コカ・コーラボトルが現れるといった演出が行われていた。このようにモチーフのつなぎ方にも工夫が施されている。
近年の深センにおけるドローンショーの多くは1000機ほどの規模で落ち着き始めており、観客もその解像度で見慣れるようになってきた。しかしドローンショーの開催費用は決して安いものではない。そのため予算の限られている会社が数百機でプロモーションを行った時に見劣りしてしまうという現実がある。日本は前述の通り機体の単価や周波数帯の面で不利な状況に立たされてはいるが、そこで必要とされるのが日本ならではの表現力。ファミコン時代のマリオのドット絵のように、少ない解像度でも観客の喜ぶ術を日本は身に付けている。
「データのみ納品」だからできる、コンテンツ海外展開の可能性
レッドクリフは現在月3〜4件のペースでドローンショーの案件を請け負っている。「今後は日本各地の自治体、特にナイトコンテンツが少ない自治体をドローンショーによって盛り上げていきたい」と佐々木氏は語る。300機のドローンがあればスポンサーの企業ロゴを夜空に表示させることができ、きちんとした広告媒体としてのショーが実現する。加えて、QRコードも表示させることでプロモーションの可能性はますます広がることになる。
加えて富裕層向けサービス。佐々木氏は先日自身のプロポーズや社員の誕生日をドローンショーにより演出したが、このような記念日やお祝いを忘れられないものにする個人向けドローンショーの販売も開始した。
また、日本で作成したドローンショーのアニメーションデータを海外で二次利用することも視野に入れているという。提携先のHIGH GREATは世界中にエージェントが存在しているため、データを送信するだけで同じ演目のドローンショーを各地で開催できるようになる。日本人がハネムーン先のハワイでプライベートドローンショーを実施することができ、その逆も、つまり外国人富裕層が日本でショーを行うことも可能となる。
花火大会など日本の伝統文化の救世主となり得るドローンショーは、豊富なコンテンツやこれまでに培った表現力を今後も展開して世界の夜空を彩っていくだろう。