吉川 聡一 (よしかわ そういち)
吉川紙商事株式会社 常務取締役執行役員
1987年東京生まれ。学習院大学卒業後、飛び込み営業を含む営業職の期間を2年半経て、現在の吉川紙商事に入社。現社長・吉川正悟が掲げる 「人と紙が出合い、人と人が出会う」 を実現するため、同社にて平成25年より取締役を務める。2017年にはオリジナルブランドの 「NEUE GRAY」 を、2020年には和紙のオリジナルブランド 「#wakami」 をプロデュースし、紙、ステーショナリーの双方を発売。現在はそれらを国内外にて販売するという形で活躍を続ける。
寒かった時期もようやく終わりを迎え、そろそろ夏に向けて、気温も上がってくる・・そんな気配を感じる今日この頃です。
さて、今回は、これまで2回にわたり記載してきた「印刷」についての3回目。今回は「印刷」と切っても切り離すこともできない「加工」について記載していきます。
そもそも紙加工とは…
単に印刷するだけでなく、防水性・耐久性を高めるラミネート加工や、高級感を出す箔押し、立体感を出すエンボス加工、それに本などを作る製本など、付加価値をつける工程が含まれます。
具体的には紙を切る、折る、貼る、印刷する、表面をコーティングするなどのさまざまな技術を加え、機能性やデザイン性を高めて、冊子、パッケージ、封筒、シールなど多様な製品を作り出すことを指します。
では、これまで2回と同様に、1つずつ取り上げてご紹介していきたいと思います。
1. 断裁
最初に取り上げる加工は「断裁」。この「断裁」という言葉は「裁断」や「カット」と違い、印刷物や紙を指定されたサイズに正確に直線で切り揃える作業のことを指します。布や紙、革などを型紙に合わせて切る、曲線で切る、型抜きするなどの広範囲な切り方全般を指す「裁断」という言葉や「切ること」だけを指す「カット」という言葉とは指すものが違うと同時に、「裁断」という言葉は、やや紙や印刷業界における専門用語…とも言えると思います。
この「断裁」という工程は、印刷において様々なタイミングで行われます。ロール状で作った紙をシート状の紙に仕上げる「平版断裁加工」、そのシート状の紙をさらに印刷できるような紙のサイズに断裁する「紙の断裁加工」、そして印刷物を最終的な印刷物のサイズへと仕上げていく「仕上げ断裁加工」。大きく言えば、この3種類に分けられます。
当然ながら、以前からずっと行われてきているこれらの工程ではありますが、近年、実はこれらの工程(特に「紙の断裁加工」)の重要度が増してきています。
一体なぜなのか?
その答えは「デジタル技術」の発達にあります。
近年の印刷機には「印刷する紙」のサイズを自動認識するためのセンサーが必ずと言っても良いほど搭載されていますが、このセンサーは「紙の四隅」を読み取ることで働くようにできています。昭和時代の大量生産、大量消費の時代と違い、「小ロット多品種」の現在において、さまざまな紙を印刷するためにはこの「紙の四隅を正確に読み取ること」が非常に重要な役割です。センサーはまず、「四隅」を「紙の直角」で認識します。そして、その「四隅」のサイズの誤差が最大約2〜3mm以内に位置するかどうか?によって、「どのサイズの紙を印刷するのか?」を判断します。つまり、これらのセンサーを正しく反応させるためには「断裁加工」において、「紙の直角」をきちんと出すこと、「規格サイズ通り」に断裁することが求められる…というわけです。
また、近年ではデザインデータもIllustratorやPhotoshopなどのデジタルデータにて描かれることが大半になってきていますので、その点においても、「紙が正しいサイズに切られていること」の重要度は増しているとも言えます。どれだけ正確にデジタルデータでデザインを行っても、紙が正しいサイズに切られていなければ、デザインの比率が変わってしまいます。
デジタルテクノロジーの進化を生かすも殺すもアナログの正確性次第…というのは、なんとも皮肉な感じな気がしてなりません…。
2. 抜く・折る
次にご紹介する加工は「抜く」「折る」。これらの全く違う加工工程は、実は「刃の長さ」と「刃の種類」を使い分けることにより、同時に加工を行うことができます。「抜く」時には「1番長く紙をカットするための刃」を、「折る」ためには「紙の半分だけ切る長さの刃」を使用するか、刃の先が丸くなっている「切れない刃」を使って「折り筋」を入れます。
また、ミシン目を入れる際には、「紙をカットする刃がある部分とない部分を細かく交互に配置する刃」を使用します。これらの違いがある「刃」を組み合わせて配置し、そこに圧力をかけて「抜く」「折る」「ミシン目を入れる」といった加工工程は、行われていきます。
現在、これらの加工を行う上で使われている加工方法は大きく分けて2つに分かれます。1つは「ビク抜き(トムソン抜き)」と呼ばれる「型」を作って抜く加工方法。もう一つは「レーザー加工機」や「プロッター」と呼ばれるコンピュータ制御のもと、上記のような「型」を作成することなく、加工を行う方法です。これらの製法は主に生産する数量と仕上がりによって使い分けられます。「型」と言っているものは基本的には「木型」。当然ながら、抜くものの形に合わせてこれらは使用する度に作成されます。
そのため、数量が少ない場合はこの「木型作成代」がそのまま単価に反映してしまうので、「どれくらいの数のものを抜いて製品にするのか?」によって、これらの製法を使い分けて頂ければと思います。ただし、「木型」を作って抜くと「綺麗に」「色々な素材や厚みが」「しっかりと力を掛けて」抜けることも事実。単価だけでなく、そうした「製品の出来上がり」まで気を配りながら、こうした製法を使い分けてもらえればと思います。
3. 押す
この流れで「押す」と言われてピンと来る方は、紙や印刷に精通している、もしくは、興味関心をお持ちの方と言えると思います。しかし、紙の加工には最終製品をさらに美しく、さらに価値のあるものに仕上げるために「箔押し」「空押し」などと呼ばれるものがあります。
「箔押し」は「箔」という漢字が指し示している通り、「金箔」を特別に作った銅の版で、紙の上に装飾することを指します。「金箔」を装飾することで、印刷物や加工物がより美しく、より価値の高いものに生まれ変わるのは歴史が証明している通り。足利義満は金閣寺と言う金箔を建物中に豪華絢爛の象徴として貼ってみたり、金の屏風を作ってみたりなど、これまた豪華絢爛の象徴のような物ですね。
これらと基本的には同じ素材を紙の上に装飾するわけですが、人が「美しい」と感じるものはいつの時代も変わらないのかな?と思います。一方で「空押し」というのは、「箔押し」の箔を引かないで紙に直接、銅のハンコを押し付ける装飾方法。
紙が立体感を持ち、プックリと浮かび上がってくる姿「かわいい」とも「格好いい」とも言えるものです。現在これらの加工は、「ブランディング」という言葉とともに、パッケージやカタログなどを多くの範囲にて「高級感」や「エレガントさ」を手に取った方に与える意味でよく使われます。
皆様も「この印刷物は美しい」と思った時には、もしかするとこうした装飾方法がなされているかもしれません。これからは少し注意して見ていただければ幸いです。
4. 貼る
「貼る」という行為。一見張り合わせるだけなので簡単に思えますが、我々の身の周りには様々な「貼る」加工が用いられたアイテムが多数存在しています。
例えばパッケージや段ボール、紙袋のように「箱」として形を作るために紙を貼り合わせる場合もあれば、付箋のように「何度もつけたり貼ったりできるようにする」糊の貼り方もあります。
また、銀行や水道局からなどの「個人情報を隠すため」に「1度だけ再剥離ができるように貼る」方法もあれば、コーヒー豆や食品の袋などのように「熱によって紙とアルミが貼り合わされている」もの、もっと言えば不織布の袋のように「超音波によって貼り合わされている」などいうものも、この「貼る」という加工方法の中に含まれています。
ここではそれらの方法について詳しくは記載しませんが、「貼る」という行為にも、これだけの種類が、我々の生活の中に多く潜んでいるのが現実です。なんとなく、普段は意識をしないものではあると思いますが、これを機にふと気に留めていただければと思います。
5. 綴じる
加工の最後に記載させていただくのは「綴じる」。
これらは主に「本を作る」時に用いられる加工方法といえると思います。これまた、詳しく記載すると、とても奥深い内容になってしまうのですが、本は大きく「図鑑」「写真集」「アート本」「学術書」など「ハードカバー」の言葉通り表紙や背表紙が固くなっている「上製本」と、「週刊誌」「ノート」「会議の資料」「ZINE」など「ソフトカバー」と呼ばれるものの2つに分かれます。
上記に並べた商品の価格を思い出していただければすぐにお分かり頂けると思いますが、「ハードカバー」の方が製造コストも高く、ページ数も多いため、一般的に高価で価値のあるもの…とされています。かつてより、この「ハードカバー」のものは「高価である」という認識がされてきましたが、近年のペーパレスの社会においては、「価値のある」は「保存して残したいもの」と言い換えることができるようになってきたと思います。
こうした価値観は日本国内よりも海外の方が以前より鮮明になっており、海外においては「ハードカバー」と呼ばれる本はインテリアにもなるぐらい大切に使われています。よく海外のリビングをイメージしたショールームや写真のテーブルの真ん中に、写真集やアートにまつわる本がディスプレイされているのを見かけた方も少なくはないのでしょうか?
現在、こうした価値観は日本でも強まりつつあります。紙に関わる人間としては、こうした価値観がもっともっと、特に若い世代を中心に広がってくれることを願うばかりです。
人の心を動かすことのできる 「技術」 と 「人」
今回は、少し短めの紹介コラムとなりましたが、「知らなかった・・」「そうなんだ・・」と思っていただければ幸いです。私が実際に携わっている中で実感することは、「紙や印刷の世界は非常に奥深い世界である」ということです。
「色をつける」「切る」「折る」「貼る」といった「紙が出来ること」としてはとても基本的なものを昇華させたものが、ここまでにご紹介した印刷技術・印刷方法・加工技術になります。しかし、これらはとても長い時間をかけて、研究され、熟成され、職人たちの手から手へと受け継がれてきたものでもあります。
残念ながら、昭和の時代に「印刷物の大量生産」を行なった結果、現在では「印刷物」=「消耗品」との見方が圧倒的に多くなってしまいました。しかしながら、このような中でも、紹介させていただいたような「格好良い」「綺麗」「素敵」と人の心を動かすことのできる技術と人が、紙や印刷・加工技術の中にはまだ存在しております。
人手・技術を使うので、多少のコストがかかることもありますが、これを機に印刷や加工技術に関心を持って目を向けていただければと思います。興味を持たれた人が少しでも増えてくれることを願い、今回は結びとさせて頂ければと思います。
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“令和の紙の申し子”吉川聡一と紙について考える。
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吉川紙商事株式会社
https://www.yoshikawa.co.jp/