EVENT | 2024/06/28

“かなりリアリティのある話しになってきた” 宇宙ビジネス ―当事者が語る月面での取り組みの現在地と、 世界の中で日本企業が果たす役割とは?

Interop Tokyo 2024 基調講演 「月面での通信がもたらす新たな宇宙ビジネスの創出へ」
パネルディスカッション

文:カトウワタル(FINDERS編集部)

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注目を集めた“宇宙ビジネス”に関する特別企画「Internet×Space Summit」

2024年6月12日(水)~14日(金)の3日間、幕張メッセで日本最大規模のインターネットテクノロジーイベント、「Interop Tokyo 2024」が行われた。出展者数は542、総小間数が1,664と、昨年を上回りコロナ禍以降最大規模での開催となり、3日間を通じ12万人を超える来場者が参加した。本年度のInterop Tokyoのメインテーマは「AI社会とインターネット」。会場ではAIや生成AI関連の展示や講演・セミナープログラムが目立ったが、昨年に引き続き開催された“宇宙ビジネス”に関する特別企画「Internet×Space Summit」のエリアにも注目が集まっていた。

「Internet×Space Summit」では、展示ホール内に設けられたオープンステージでの講演や、関連企業による出展ブースのほか、会議棟の講演会場ではNASAのJim Schier氏による基調講演なども行われた。

さらに基調講演では、世界8カ国が参加する月面での取り組み、「アルテミス計画」に参加するJAXAや企業の担当者が登壇、これまでの活動内容の紹介や、今後世界の中で日本が果たすべき役割などについて議論するパネルディスカッション「月面での通信がもたらす新たな宇宙ビジネスの創出へ」が行われた。

講演会場は満員で立ち見が出るほどの人気セッションとなった

登壇者は、日本の宇宙探査活動のとりまとめを行う宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山中浩二氏、月面でのプラント建設を進めている日揮グローバル(株) の宮下俊一氏、月面での通信インフラの構築を目指すKDDI(株)の市村 周一氏が登壇、Interop Tokyo 実行委員長で慶應義塾大学 教授の村井純氏も加わり、元JAXAで慶應義塾大学 教授の神武直彦氏がモデレーターを務めた。

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授 神武 直彦氏
【Internet x Space Summit 特別企画】
月面での通信がもたらす新たな宇宙ビジネスの創出へ

Panelist

(国研)宇宙航空研究開発機構
国際宇宙探査センター センター長 山中 浩二

Interop Tokyo 実行委員長
慶應義塾大学 教授 WIDE プロジェクト ファウンダー 村井 純

KDDI(株)
先端技術統括本部 先端技術企画本部シニアエキスパート
(宇宙領域ビジネス企画担当) 市村 周一

日揮グローバル(株)
Engineering DX推進室 室長 宮下 俊一

Moderator

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授 神武 直彦

アルテミス計画における日本の役割と民間企業の参加

セッションの冒頭、JAXAの山中氏からアルテミス計画の中で日本がどのような役割を担っているか説明された。それによると日本は新たに建設が予定されている月周回有人拠点「ゲートウェイ」の生命維持装置などの環境制御システム、物資補給のための宇宙船の開発を通じて貢献する。また月面探査車「有人与圧ローバー」の研究開発にも取り組んでおり、この貢献により日本人の宇宙飛行士2名が月面に行くことが可能となったという。

(国研)宇宙航空研究開発機構 国際宇宙探査センター センター長 山中 浩二氏

次に日揮グローバルの宮下氏は、海外を中心とした大型エネルギープラント事業を例に挙げ企業紹介を行い、スクリーンに映し出されたキービジュアルをもとに、2050年に目指す月面プラントの世界観について語った。

日揮グローバル(株) Engineering DX推進室 室長 宮下 俊一氏

続いてKDDIの市村氏は、月面通信の構想について触れ、月面のレゴリスと呼ばれる細かい粒子が電波に影響を与える可能性や、5Gのアンテナを立てるためのロボット活用などについて紹介した。

議論が進む中でJAXAの山中氏は、小型月着陸実証機 SLIMの「降りたいところに降りる技術」などの成功や、月の水を調査するLUPEXプロジェクトや、有人ローバー開発などを紹介、日本が培ってきた宇宙開発技術や自動車技術の信頼性を強調、慶應大 村井教授に民間企業の関与が増え宇宙開発が政府だけの事業ではなくなったことを指摘されると、今後日本の民間企業が月面開発に積極的に参加することについて歓迎する態度を示した。

月面活動における通信の重要性

議論は本セッションのタイトルにもある月面での通信技術に及び、月と地球の間の使える周波数帯の狭さや、約40万キロの距離で発生する遅延、データ圧縮技術などの課題が挙げられたが、KDDIの市村氏は、「通信の分野はアメリカが握って離さなかった分野ではあるものの、日本人の宇宙飛行士2名が月に降り立った際には、高い信頼性を誇る日本の技術が通信に使われるというポジション獲得に貢献したい。」と意欲を示した。

KDDI(株)先端技術統括本部 先端技術企画本部シニアエキスパート
(宇宙領域ビジネス企画担当) 市村 周一氏

また、慶應大の村井教授は、「ローバーなどから取得できる大量のデータが分析に役立つ。」と述べ、通信とデータ処理が月面での活動において非常に重要と説き、月面での新しい社会や挑戦の可能性や、月面データセンター構想について語った。

一方、地球のGPSと同様のシステムを月に設置し、月面での活動を支えるための通信システムの開発は、やはり一国だけでなく世界各国が共同で行うべき取り組みとの認識で一致しており、現にアメリカやヨーロッパ各国も通信に限らず議論の内容を公開するという動きが見られることも紹介された。

またJAXAの山中氏も、JAXA「宇宙探査イノベーションハブ」という、民間企業からの技術提案などを受けることができるオープンな場があることを紹介し、会場の聴講者にも参加を呼びかけた。

次世代へと伝えたい宇宙ビジネスのリアリティと可能性

セッションの最後に慶應大の村井教授は、今回の「Internet×Space Summit」の企画に際しては多くの学生が取り組んでくれたといい、「昔と比べて、宇宙に対する憧れや夢が、この月面での活動でかなりリアリティのある話しになったので、みんなが今面白い!と思っている機運を次の世代の学生や、高校生、中学生、小学生にも感じて貰わないといけない。」と教育者としての立場を述べ、モデレーターの慶應大 神武教授も「昨年からスタートした「Internet×Space Summit」で出てきたいろいろなアイデアを共有して、より大きな議論にしていきたい。そして来年2025年もより宇宙に関する議論を増やしていきたいと思います。」とパネルディスカッションを締めくくった。

Interop Tokyo 実行委員長
慶應義塾大学 教授 WIDE プロジェクト ファウンダー 村井 純氏

セッションの中でも度々紹介されたが、企業や大学の宇宙技術開発に “10年で1兆円”という大規模な支援を行う「宇宙戦略基金」がはじまる中、今後月面での取り組みや宇宙ビジネスはますます目が離せない。


開催概要

Interop Tokyo 2024

会期:2024年6月12日(水)~14日(金)
会場:幕張メッセ(国際展示場 展示ホール2~6 / 国際会議場)
主催:Interop Tokyo 実行委員会
運営:(一財)インターネット協会 / (株)ナノオプト・メディア

公式ホームページ:https://www.interop.jp/