BUSINESS | 2023/12/11

書店に多数並ぶ「コンサル仕事術の本」は結局どう使えばいい?
「電通のコンサル」が教える、
フレームワークを自分の仕事に落とし込むテクニック

山本創(電通コンサルティング)

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

「自分が今やっている仕事って、もっと効率が良い、レベルの高いアウトプットの仕方があるんじゃないか?」

そんな漠然とした不安を抱え、参考になりそうなビジネス書を探しに書店へ行き、目に入るのがコンサルタントによる「仕事術本」。

早速購入し、読んでいる最中は「これで自分もロジカルな仕事がバリバリできるようになるはず!」と気合いが入るものの、いざ再び自分の仕事に相対すると「あれ…?これってどういう風に考えればいいんだ…?」とわからなくなってしまうこと、ありませんか?

今回は電通コンサルティングの山本創さんに、人を惹きつける、良い企画書/プレゼン資料を作るための「大元の考え方」「データの調べ方」、そして差別化を図るための「ユニークな確からしさ」を追求する方法論を解説いただきました。

山本創

電通コンサルティング プリンシパル

複数のコンサルティングファームにおいて、消費財・メディア・エンターテインメントなどの領域を中心に、企業ビジョン策定や中期経営計画の立案、新規事業開発や市場ポテンシャルの評価などに従事。
また、大手飲料メーカーおよび外資系IT企業のマーケティング部門において、商品開発やブランドマネジメント、コミュニケーション戦略の策定を経験。
戦略の立案から組織力学を加味した実行計画の策定と遂行まで、クライアントに丁寧に寄り添うことでその想いを引き出し、納得感を生み出す支援スタイルに強み。

書店の一角を占めるコンサル関連本を前にして

高松智史『コンサルが「最初の3年間」で学ぶコト 知らないと一生後悔する99のスキルと5の挑戦』
中村健太郎 『コンサル脳を鍛える』
メン獄『コンサルティング会社 完全サバイバルマニュアル』
安達裕哉『頭のいい人が話す前に考えていること』
丸健一『ロジカル資料作成トレーニング コンサルタントが必ず身につける定番スキル』
和氣忠『なるほどイシューからの使えるロジカルシンキング』

これらは2023年刊行の「コンサル」を売りにした書籍の一部です。

現役のコンサルタントに限らず他の業界のビジネスパーソンも一般的に手にするようになった「コンサルの仕事術」に関する本。面白い内容のものがたくさんある一方で、コンサルとして重要と言われる論理的思考力にフォーカスした書籍が多いからこそ、本を読んでみたものの「それだけだと目の前にある仕事には応用できないんだよな…」と感じる方もいるのではないでしょうか。

私が所属している電通コンサルティングは、その名の通り電通グループのコンサルティングファームで、広告会社らしいクリエイティビティとコンサル会社が持つべき論理的思考をどう融合させるかについて日々腐心しています。会社として「右脳×左脳×異能」というコンセプトを掲げて、時には電通のクリエイターを巻き込みながら発想のジャンプを行い、ロジカルシンキングの先にある答えを導き出すためのトライを多様なプロジェクトで実践してきました。そういった営みを通じて生み出そうとするアウトプットの特徴を、我々は「ユニークな確からしさ」と呼んでいます。

ここで言う「ユニークさ」こそ、「コンサルの仕事術」に関する本ではあまりカバーされていないポイントです。

この記事では、そんなユニークで確からしい答えを出すために電通コンサルティングがどういった思考プロセスを採用しているかについてまとめていきます。「いい企画書が作れない」「それっぽくまとめることはできるけど人を惹きつける内容をプレゼンに盛り込めない」といった悩みを抱えるビジネスパーソンの一助になれば幸いです。

「論点思考」とは結局なんなのか

コンサル関連本が広がっていく中で、「論点」という言葉が使われる機会が増えたように思います。

「論点は何?」
「まずは論点を明確にしましょう」
「重要な論点から取り組むべき」

大事なことから考えようという意思表示をする上で便利な言葉ですが、では結局この「論点」とは何なのでしょうか?

たとえば「売上拡大に向けたプロジェクト」の論点は、「いかに売上を拡大するか?」なのでしょうか?確かにこの問いかけは、プロジェクトにおいて答えなければいけないものです。ですが、この問いを投げかけられて即座にアクションをとれる人はいないはずです(それができるのならば「プロジェクト」として立ち上がることはありません)。

この状況は、「論点が大事」と学んだ人が陥りやすい最初の落とし穴です。「論点=知りたいこと(を質問の形にしたもの)」「論点思考=論点(らしきもの)を(それっぽく)並べること」という思考回路では、物事は前に進みません。

ここで定義すべきは、「論点=知りたいことに辿り着くために必ず解くべき問い」であることです。言葉を変えると「その問いを解くと検討(もしくは業務上困っていること)が少しでも前に進む問い」とも言えると思います。こう置いた時に2つの意識すべきことが浮かび上がってきます。

①論点はどんどん更新される
目的地に向かって歩いていると周りの景色が移り変わっていくように、最終的に知りたいこと・解決したいことに向かって検討を進める中で「そのタイミングで解かなければいけない問い」もタイムリーに変わります。一度打ち合わせをすれば論点が更新される、何なら打ち合わせの最中にも論点はどんどん磨かれて違う形になっていく。固定されたものではなく、動的なものとして論点を捉えることが重要です。

②「答えの出る問い」を設定する

「まず、「解決できるか、できないか」を見極める。解けない問題にチャレンジしても成果はあがらず、時間と手間がムダになるだけだ。解けないとわかったら、その論点はすぐに捨て、論点設定をやり直す。解けない問題にチャレンジするのは無意味である」
内田和成 『論点思考』

「「よいイシュー」の条件の3つめは、イシューだと考えるテーマが「本当に既存の手法、あるいは現在着手し得るアプローチで答えを出せるかどうか」を見極めることだ」
安宅和人『イシューからはじめよ』

論点が更新される状況はすなわち「もともとの論点が都度解決される」ということでもあります。この状況を違う角度から見ると、「都度解決できない問いは論点とは言えない」ということにもなります。壮大な問いと向き合っているだけでは仕事は前に進みません。ファクトの検証を通じて答えを出せる問いになっているかどうかは、論点を特定する上で必ず求められる視点です。

もっとも、先ほど述べた「いかに売上を拡大するか?」という問いを発することに、まったく意味がないわけでもありません。この問いはいずれ解かなければいけないものであり、まずは何をするべきかを考えるうえでの出発点になります。

こういった「出発点になる問い」を定型で持っていると、個別具体的な論点を組み立てるにあたって何を考えるべきか見えやすくなります。私が気をつけているのは以下の6つの問いです。

①環境:この検討を進めるにあたって捉えるべき環境要因は?
②理想:この検討を通じて目指すべきゴールは?
③要件:そのゴールが達成されていると言えるのはどんな状況か?
④現状:ゴールと比較した時の今の立ち位置は?
⑤相違:理想と現状を見比べた際に特に埋めるべきギャップは?
⑥施策:ギャップを埋めるために必要な取り組みとその優先順位は?

企画書の作成でも、何らかの業務上の課題との向き合い方でも、まずはこれらの問いを検討すべき内容に応じて具体化したうえで、それに答えていく。そしてその過程で問い自体を更新する。そんなアプローチが大事になります。

本当に「解ける問い」だけでいいのか

「論点=答えの出る問い」という前提で、それを順々に解いていくことで最終的に到達したい理想的な状況につなげていく話をここまでしてきました。ただ、そうやって「答えの出る問い」と向き合っているだけで本当に十分なのでしょうか?

検討のゴールを答えの出る問いに落とし込んで、その答えを積み上げていく問題解決の手法は、確かにロジカルでシステマティックです。ですが、ロジカルでシステマティックであるがゆえに、その答えはともすれば画一的になりがちです。もっと平たく言ってしまうと、「おもしろくない」ものになってしまうケースが多々あります。

つまり、いわゆる「論点思考」を繰り返すだけでは、「確からしさ」は担保されているものの「ユニークさ」がない答えにしかたどり着けないのです。

この状況を打破するために、電通コンサルティングは「そもそも」の問いを大事にしています。たとえば、食品メーカーに関するプロジェクトであれば「そもそも“食”とは何なのか?」。もしくは、エンターテインメントに関する業界の仕事であれば「そもそも“娯楽”とは何なのか?」。答えの出る問いと向き合うことが推奨される論点思考では素通りされそうなテーマについて、まずはああでもないこうでもないと考えます。

このプロセスは、当社の中だけで完結させることもあれば、クライアントの皆さまとのワークショップで進めるケースもあります。こういった作業を通じて思考の範囲を拡張することで、検討結果に「ユニークさ」を取り込むための土壌づくりを進めるのです。

近年トヨタが自らのことを「モビリティ・カンパニー」と再定義していることが代表例かと思いますが、企業として提供してきたものを少し俯瞰すると、社会との関係構築におけるより本質的なポイントが見えてくることがあります。「そもそも」を問い直して向き合っているテーマの抽象度を上げることで、問題解決に向けた新たな視座を獲得することができるのです。

なお、こういった「ある事象を違った視点で捉える」ことに長けているのがクリエイターと呼ばれる面々です。電通コンサルティングのプロジェクトでは、企業の長期ビジョンや中期経営計画などを考える際に電通のクリエイター(コピーライターやクリエイティブディレクターなど)と日常的に協業します。得意領域が異なる専門家とのコラボレーションを通じて、「確からしさ」と「ユニークさ」の両立をより高度にすべくチャレンジを続けています。

「業界知識を得る」とはどういうことか

ここまで「答えの出る問いを設定する」ことを原則に「あえて、そもそもの問いと向き合う」ことで、電通コンサルティングは「ユニークな確からしさ」を実現しようとしていると述べてきました。ここで考えておくべきなのは、設定した問いに答えるにあたっては何かしらの形での「知識」が必要になるということです。

どんなにきれいに整理された問いの一覧を作ったところで、検討対象となっている業界で起こっていることを知らなければその問いには答えられません。もちろん「無知の知」的に門外漢だからこそわかることもありますが、それだけで実効性のある答えに辿り着くのは難しいです。

日々新しい業界や課題について考えなければいけないコンサルタントにとって、取り扱う領域についての知識をどうやって得るかというのは非常に重要度の高いテーマです。公開されている統計データなどに当たりながら、業界の輪郭をすばやく自分なりに特定する作業が都度必要になります。

そういった流れの中で電通コンサルティングとして特に大事にしているのが「一次情報」です。実際にそのサービスを使い、その現場に行き、そしてそのビジネスに関わっている事業者や顧客の声を聞く。こういったプロセスを通じて得られた情報によって、統計としてまとまっている数字はさらに立体感を増します。

一次情報の多くはあくまでも「点」のファクトでしかなく、網羅性という意味では脆弱なものです。ですが、そんなn=1の生々しい情報にこそ、論点を深めるためのヒントがたくさん埋め込まれています。そして、実際にその産業がどうやって動いているか(つまりはお金を生んでいるか)を肌で知る作業は、我々にとってもわくわくする時間でもあります。

実は大事な「気持ち」

定量的な分析はもちろん大事です。さまざまな情報を定量化して管理するのはコンサルの腕の見せ所でもあり、数字にするからこそ検討がはかどる領域があるのは言うまでもありません。

ただ、多くの「コンサルの仕事術」に関するコンテンツに「定量化が大事である」と書いてある通り、この道はコンサルもしくはコンサルのように仕事をしたい人たちが必ず通る道でもあります。つまり、ここにこだわっている限り、そのアウトプットはコモディティ=量産型の域を出ない可能性があります。この記事の文脈に照らし合わせると、「確からしい」かもしれないが「ユニーク」ではないということになります。

電通コンサルティングは、コンサルとしてのベーシックな検討方法も踏まえたうえで、定量化できないニュアンスをどうやって掬い上げるかについてもあわせて大事にしています。定量的な情報で全体観を確認しながら、現場からしか知りえない一次情報も盛り込むことで、「ユニークで確からしい」ストーリーをいかに紡ぎ出すか常に頭をひねっています。

ユニークさをさらに担保するうえで意識すべきなのは、「戦略」や「アイデア」は未来に向けてのものであるということです。逆の話をすると、「データ」や「ファクト」はすでに起こった過去についてのものでもあります。過去の出来事に何かを願っても完了した事態を変えることはできませんが、来るべき未来について「こうあってほしい」という気持ちを込めることは十分に論理的な行為です。

戦略やアイデアは未来に向けたものだからこそ、「こんな未来を作りたい」という気持ちが重要になります。先ほど述べたクリエイターとの協業は、そういった未来への思いを形にするために行うステップでもあります(精緻なロジックと電通らしい発想力を駆使して、未来への「こうありたい」をビジョンや戦略に落とし込むのが電通コンサルティングの得意領域です)。

もしかすると、コンサル会社が「気持ちが重要」と言うことに違和感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。確かに、「ロジック」「定量化」と「気持ち」という言葉にはやや距離があります。しかし、我々が絶対に忘れてはいけないのは、どんな戦略であっても、またどんな組織であっても、それを動かすのは気持ちを持った人であるということです。

電通コンサルティングが一次情報を大事にするのも、統計データのような丸まってしまった情報からは人の本音に辿り着けないからです。結局のところ、どんな資料でも作り手の気持ちが見えないものに読み手が心を動かされることはありません。これは決してただの精神論ではなく、何でもデータ化される時代だからこそ、データに取り込まれる前の作り手の気持ちにユニークさが宿っていきます。

「ユニークな確からしさ」のために、「そもそもの問い」と未来を見据えた「気持ち」を大切にする。この考え方を採り入れることで、「コンサルの仕事術本を読んだのにパッとしない企画書」は大きくブラッシュアップされます。「論理的に」「正しく」「解ける問いから」考えることの先に、本当の答えが存在するのです。