ITを取り入れた農法で、3K職業からのイメージ脱却
―― 農業は、3K(きつい、汚い、給料が低い)職業とも言われ、ネガティブなイメージが労働者不足を招いている面もありますが、その点についてどんな見解がありますか?
小林:現在、土を使わない農業のスタイルもたくさんあります。アクアポニックスでは土ではなくハイドロボールを使っているので、農作業中は手が濡れるくらいです。それからITのモニタリング機能を導入しているので、みんな午前中のみ農園で働き、午後は基本的には在宅勤務となります。できることはITでカバーして、ネガティブなイメージを払拭していけたらと思います。
―― あらためて農業をやる楽しさや醍醐味について教えてください。
小林:自分が手をかけたものが大きく育つのはとても楽しいものです。AGRIKO FARMでは、泳ぐ魚を見たり、水の音を聴いたりしながら、五感で食べる喜びを感じられる空間を目指しています。そうしたことを通じ、SDGsにもコミットできたらいいなと考えています。FARMで働くGiftedの方々は本当に魚が大好きで、飽きずに楽しく作業してくださっているのも嬉しいですね。
―― 日本でもまだ事例が少ないアクアポニックス農法ですが、苦労点はありますか?
小林:苦労点しかないですね(笑)。海外だとハワイのプリンスホテルでの事例がありますが、今のところ国内では屋外でアクアポニックスを取り入れている事例は知りません。魚の養殖や野菜の水耕栽培を切り分けてやる方が楽なんです。
その点、AGRIKO FARMはコミュニティファームとして食育の場やみんなが楽しく作業できる場をコンセプトに作ったので、苦労点だらけです。まず屋外だけに天気に左右されるので、陽射しが強い日は水が蒸発して水位が下がるし、雨が降れば水槽の水が増水します。私たちが予想もしないことが起きることもありました。
先日も、ロケ中にアラームが来て、なんだろうと思ったら、世田谷に大雨注意報が出ていて「大変!」と慌てたこともありましたね。
―― 忙しく俳優業をこなす一方で、農業との両立はどのようにこなしていますか?
小林:おかげさまで俳優業も忙しく、一人で両立ができているとは言えませんが、ありがたいことに、「手伝うよ」と言ってくださる優しい方々に支えられてここまでやってきました。PR業務や宣材ビジュアルはプロフェッショナルな友人達にお願いしていて、家族も強い味方になってくれています。開園早々、NHKさんにも取材していただきました。
―― 最後に、「俳優」と「農業」のパラレルキャリアの築き方をはじめ、AGRIKO FARMを通じて実現していきたいビジョンを教えてください。
小林:直近では私たちの育てた苗をご家庭で育てられる形で販売して、みなさんにAGRIKO FARMを身近に感じていただけたらと考えています。大きなビジョンとしては、一人でも多くの人に雇用の機会を作れるようにして、おいしい作物を作り続けられる会社にしていきたいです。
そのためにも、今は実験的に都市型ファームを運営していますが、来る未来に備えてもっと農地を拡大することも視野に入れています。都市型ファームは実はすごく需要があって、すでに多くの問い合わせもいただいていて、今後さまざまなコラボレーションも企画できたらと思います。
もし私がテレビに出ていなかったら、取材に来てくれる人もいなかったかもしれません。現役で女優をやっているから興味を持ってくれる方もいらっしゃいますし、農業の見地から興味を持ってくださる方もいて、両軸で広げていけたらと思っています。
社会課題の解決を根底に、雇用や農地を拡大していきたいと、目を輝かせながら語る姿が印象的だった小林さん。障がい者の雇用を検討する企業をはじめ、働きたい障がい者の方を若干名だが、現在募集中だという。新たな挑戦はまだ始まったばかりだが、あらゆる人を巻き込みながら、明るい展望が拡大していくことを期待したい。