CULTURE | 2022/06/30

「女性の汗の匂い」を求めて更衣室に侵入し前科5犯。でも盗んだ1万円は返したいと語る犯人の心理【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(38)

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阿曽山大噴火
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阿曽山大噴火

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月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

性依存の通院を約束していたのに…

2020年の3月11日から実施されていた傍聴席の間隔を空けるという感染症対策ですが、今年6月から全席開放となりました。仙台地裁と大阪地裁がひと足早く5月から全席開放されていたようですが。東京地裁では開放後に満席の法廷もチラチラ見かけるので、傍聴に行ったけど空いてないという空振りを食らった人がこの2年間どれだけいたのかって話ですよね。隣が空いてるのに慣れてしまっていたので、メモを取るときに右腕が隣の人にぶつかるのが新鮮。そんな時期もあったんだよと傍聴初心者に話せるようになればいいですね。

さて、本題。

罪名 建造物侵入・窃盗
G被告人 無職の男性(31)

起訴されたのは、今年の3月28日に東京都杉並区の大学の更衣室にG被告人が侵入し、ロッカーの中から財布に入っていた1万円を盗んだ件。

お金目当ての侵入盗かと、起訴状の朗読を聞いたときにはそう思っていたのですが。

検察官の冒頭陳述によると、G被告人は大学を中退後にアルバイトを転々として、犯行当時は無職で実家暮らしだったという。

前科は5犯で、そのすべてが「女性の匂いを嗅ぎたい」という理由で女子更衣室に侵入したという事件です。

取り調べに対しG被告人は「スポーツをしている女性の汗の匂いに興奮を覚える。この日は汗を嗅ぎたいと思って大学に入った。仕事をしていなかったので、財布が見えた瞬間にお金を盗ってしまった」と供述しているそうです。G被告人は匂いフェチで、お金を盗む目的で侵入したわけじゃなかったんですね。本来の目的のついでにドロボーをしてしまったという感じでしょうか。

法廷にはG被告人の母親が情状証人として証言台に立ちました。

弁護人「前回の裁判では出所後に性依存の治療を約束していましたが、息子さんは通院してました?」
母親「2回呼びかけましたが、行ってないと思います」
弁護人「何故2回しか行ってないんですか?」
母親「本人は配信が楽しそうでストレスが溜まっているとは思えず、通院が頭から消えていました」

きっとストレスが溜まったときに犯行に走っていたんでしょう。何かの配信をしているときにはいたって大丈夫そうだったようです。

弁護人「今後はどうします?」
母親「本人から病気だという言葉と治療したいという言葉を初めて聞きました。最後まで治療をやり遂げるのを信じます」

と、今度こそ通院させると約束していました。ここから被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「どうやってキャンパス内に入ったんですか?」
G被告人「正門の方はセキュリティが厳しかったので、裏のフェンスを乗り越えて体育館に向かいました」
弁護人「女子更衣室には何回入りました?」
G被告人「5~6回です」
弁護人「目的は?」
G被告人「スポーツをしている女性の汗が嗅ぎたかったからです」
弁護人「でもお金盗ってますよね。何故ですか?」
G被告人「荷物があり、下着があったら嗅ごうと思っていたのですが、財布が見えたので1万円札を1枚抜き取りました」

お金に関して突発的にやってしまったようです。しかも、

弁護人「盗んだ後、大学から出なかったのは?」
G被告人「お金を返そうと思って。それで更衣室に3~4回入りました」
弁護人「でも返してませんよね?」
G被告人「中でシャワーを浴びている人がいたのと、その人と目が合ったので…」
弁護人「のぞくために3~4回入った?」
G被告人「いえ、違います」

お金を盗ったことで罪悪感が芽生え、返さなきゃと思ってたんですね。その代わり余計に女子更衣室に入ることになるわけですが。

弁護人「逮捕当初は否認してましたよね?」
G被告人「余罪がバレたくなかったので」
弁護人「この大学には何度か入ってると?」
G被告人「今年2月に2~3回。他のキャンパスにも入っています」
弁護人「正直に認めないのは何故ですか?」
G被告人「取り調べで『更生して欲しいから全部話して欲しい。ここで恥をかいて最後にしよう』と言われて」

取り調べ官が熱い人だったのか、取り調べのテクニックなのかわかりませんが、そんなことを言われて全ての余罪を喋ったそうです。

弁護人「去年6月に刑務所を出所して、事件を起こすような衝動はありました?」
G被告人「ありませんでした。趣味の動画配信をしていて、それがストレス発散になっていました」
弁護人「犯行当時も配信してました?」
G被告人「いや、去年12月にスマホが乗っ取られて、配信ができなくなってました」
弁護人「じゃあ、どうやってストレス発散を?」
G被告人「女子更衣室に入って汗の匂いを嗅いでました」

まさかスマホの乗っ取り被害が女子更衣室侵入を再燃させることになるとは。世界はみんなつながっているとは言うけれど、こんなつながりがあるとは。

今後は性嗜好障害の治療を受けると約束して、弁護人からの質問は終了。

「再犯防止」と「欲望の充足」は両立できるか

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続いて、検察官から。

検察官「お金盗ってからのことを訊きますね。取り調べでは『人が出て来たタイミングで更衣室に入るのがいい』って答えてますけど、このときシャワーを浴びてる被害者が出てくるまで待とうとは思わなかった?」
G被告人「そういう気持ちがあったのとなかったのと両方…」
検察官「3~4回入ったのは裸が見たかったからじゃないの?」
G被告人「いや、それはないです」
検察官「だって、お金なんかすぐ返せるじゃないですか」
G被告人「目線が合ったので」
検察官「その場にお札を放りだせば?」
G被告人「ちゃんと財布に元に戻そうと思ってたので」

衝動的に盗った1万円札を見て我に返ったのは理解できるんだけど、返還するために何度も女子更衣室に入ってしまうというG被告人の中の正義感がなんともチグハグですね。今まで何回も侵入してるから、その辺の常識のバネが伸びきっちゃってるんでしょうか。

検察官「前回の裁判では治療を約束したと。出所後通わなかったのは何故ですか?」
G被告人「大丈夫だと思ったのと、仕事を見つけて自分のお金で通おうと思ってたので」

法廷での約束って絶対的なものだと思って傍聴してるんですけどね。証言台でウソを言う人もいないと思ってるし。それが「大丈夫だと思った」という理由で約束を反故にするなんて。

最後は裁判官からの質問。

裁判官「治療もタダじゃないんでね。今後どんな仕事をするんですか?」
G被告人「配信を続けていきたいと思っているので、配信者の集まるバーとかカフェをやっていきたいと思っています」

よほど配信が楽しいようですね。根本的な解決ではないけど配信を続けられればストレスも溜まらないって話だから、配信者カフェが実現すれば再犯は防げそうです。

この後、検察官が懲役3年を求刑して閉廷でした。

人の趣味嗜好に良いも悪いもないし、スポーツ後の女性の汗の匂いに性的興奮を覚えるのも言ってしまえばそれ自体がダメって話でもないんですよね。人に迷惑をかけたり、法に触れる行動をしたりしてまで自分の欲求を満たそうとするのが問題であって。

でもG被告人の場合は条件が厳しそうなんですよね。スポーツ後の汗を男性に嗅がれたいって女性はそう簡単に見つからなそうだし。配信で多くの人にその欲望を伝えれば見つかることもあるのでしょうか。


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