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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
謝罪会見に注目が集まるも、傍聴人はまばら
罪名 麻薬及び向精神薬取締法違反
D被告人 無職の男性(31)
起訴されたのは2つ。1つ目は、去年の12月中旬から12月30日の間、東京都内または千葉県内でコカイン若干量をD被告人が自己の身体に摂取した件。2つ目は去年12月30日に警視庁麻布署内でD被告人がコカインの粉末0.428gを所持した件。
D被告人は日本語が話せないようで、英語の法廷通訳を挟んで罪状認否で罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、D被告人はオーストラリア出身で高校卒業後に同国のプロラグビー選手として活躍。去年の10月27日に日本のリーグワンでプレイするために入国していたという。
そして、12月29日。D被告人は東京・六本木のバーで友人と飲酒していたという。その際、“外国人に殴られた”という110番通報があり、警察官がバーにやってきたらしい。そこでD被告人が所持品検査を受けたところ、パケに入ったコカインが2袋出てきた、というのが事件の流れになります。
110番通報のトラブルでD被告人が殴ったのか殴られたのか、あるいは別のお客のトラブルなのかは明かされませんでしたが、違法薬物の捜査ではないけれどそこで発見されたということになります。
本件はオーストラリアの代表にも選ばれたことのある人物で、日本での活躍前に逮捕されたということで大きく報じられた事件です。チームとしてもD被告人を解雇し、全員の薬物検査を行っての謝罪会見まで開いたほど。
とは言っても、裁判となると注目度はそれほど高いとは言えず、傍聴人は10人強でしたが。
そして、被告人質問です。まずは弁護人から。
弁護人「あなたは去年の10月27日にオーストラリアから来日。目的は何ですか?」
この質問を通訳がD被告人に伝え、D被告人が英語で返答です。
通訳「NEC Green Rockets……TOKA? TOHKATHU?」
と、チーム名を上手く翻訳できずにいると
裁判官「東葛ね、チーム名。東の…」
と、とっさに表記を書記官にアドバイスする裁判官。この裁判官ラグビー好きと見た。そしてここからは通訳は省略します。
弁護人「去年12月30日に逮捕されて、目的は果たせました?」
D被告人「いいえ」
弁護人「取り調べで『コカインは世界共通で違法なのはわかっていた』と言ってますね?」
D被告人「はい」
弁護人「さらに調べでは『12月29日にバーで黒人男性からコカインを買って、トイレで使った』と。何故、購入と使用をしたんですか?」
D被告人「妻と口論があり、とても酔ってました」
弁護人「嫌なことがあると、酒を飲むんですか?」
D被告人「はい」
弁護人「『酔ってよく覚えていない』と答えてますけど、酔うと自分をコントロールできないんですか?」
D被告人「はい」
弁護人「今後、お酒との付き合いはどうします?」
D被告人「2度と飲みません」
弁護人「それはオーストラリアに戻ってからも?」
D被告人「はい」
と、生涯アルコールを口にしないと日本で約束です。まさか六本木のバーで飲んだお酒が最後の一杯になるとはね。
弁護人「逮捕後、契約解除。チームにも迷惑掛けましたよね。謝罪会見の写真も見ましたよね。今、どう思ってますか?」
D被告人「自分の行動にがっかりしています。処分に値することをしてしまいました。チームメイトにも迷惑を掛けました」
弁護人「応援に来る子どもが多いのもわかってましたよね。ファンに対してどう思ってますか?」
D被告人「私に憧れる子どもは世界中にいます。もちろん日本にもたくさんいます。がっかりです」
弁護人「本件はオーストラリアでもニュースになったそうですね」
D被告人「とても残念に思いました。それは私には3人の小さな子どもがいるからです。今回のことでキャリアをダメにしてしまいました」
もしかすると日本よりオーストラリアの方が大きく報じられた可能性はありますね。傍聴人に海外メディアの記者がいたのかどうか。逮捕のニュースだけで法廷内の発言が報じられないのは日本と同じなのかもしれませんね。
弁護人「奥さんは事件について何て言ってます?」
D被告人「とてもがっかりすると共に怒っています」
弁護人「信頼回復のために今後どうしますか?」
D被告人「リハビリ施設に入ってキチンとしたいと思います。自分のメンタルが弱かったのが原因と思いますので」
弁護人「裁判後はどうしますか?」
D被告人「オーストラリアに戻りたいと思います。子どもと過ごしてリハビリ施設に通いたいと思っています」
と、事件のことよりも将来についての質問が厚めで弁護人からの質問終了。
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