Photo by Shutterstock
過去の連載はこちら
阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。
2021年の「わいせつ動画販売者逮捕ラッシュ」で捕まる
罪名 わいせつ電磁的記録等送信頒布
C被告人 海上自衛官の男性(32)
起訴されたのは、2021年3月20日にC被告人が女性器を露骨に撮影したわいせつ動画をFC2コンテンツマーケットにアップロードし、8月16日に男性に動画ファイルを頒布したという内容です。
去年の11月、ネット上で無修正のわいせつ動画を販売していた人たちが一斉に逮捕されたんです。ほとんどがその界隈では有名人だったようで大きな話題にもなりました。その1人がC被告人です。こうした事案の逮捕者の多くは、自身が出演・撮影もするインディーズAV監督のような人ですが、C被告人はネット上で何らかのかたちで公開されたわいせつ動画を保存し、勝手に販売するタイプだったようです。
検察官の冒頭陳述によると、C被告人は高校を卒業後に自衛隊に入り、公判時も自衛官であるとのこと。
C被告人は、2020年5月からインターネット上で、アダルトビデオの販売を開始。2021年1月からはFC2コンテンツマーケットでアカウントを3つ作成し、モザイクのかかっていない映像の販売を始めたという。
ある日C被告人は、Aさんの性器が露出している動画をネット上で発見し、保存。そして、Aさんが一部で有名な女性であるとわかり、多くの人が興味をそそるようなタイトルをつけて販売したというのが事件の流れになります。
C被告人は動画販売で約1100万円の利益を得て、バイクの購入や株の投資に使ったという。調べに対してAさんは、「自分の承諾なしに恥ずかしい動画が売られた。誰にも相談できず悩んだ」と述べているとのこと。
C被告人は調べに対し、「2021年1月からモザイクの入っていない無修正の動画を売っていた。売れた9割が無修正で、残り1割がモザイクありだった。自衛官で副業禁止とわかっていたが、家族でいい暮らしがしたくてやっていた。売り上げは車やバイク購入、旅行やパチンコ、株の投資に使った」と供述しているそうです。
罪名はわいせつ電磁的記録等送信頒布なので、無修正のわいせつ動画を売っていたことが罪に問われるんだけど、実際は公務員なのに副業やっちゃってるし、ネットで拾った動画を勝手に売っちゃってるし、と。
「世の中に無修正動画が蔓延しており、感覚が麻痺してしまいました」
そして、被告人質問です。まずは弁護人から。
弁護人「職業は?」
C被告人「海上自衛官です」
弁護人「具体的にはどんな仕事内容ですか?」
C被告人「写真部として、活動記録を撮影していました」
弁護人「どんな写真を撮ってたんですか?」
C被告人「災害現場や訓練の様子を写真に撮って、SNSに提供していました」
自衛隊の中にもいろんな仕事があるわけで、C被告人はカメラマンだったようです。知らず知らずのうちにC被告人が撮った写真を見ているのかもしれませんね。
弁護人「何故やってしまったんですか?」
C被告人「コロナ禍に妻が妊娠して実家に帰り、一人の時間ができたのが原因の1つだと思います」
弁護人「コロナの影響なんですか?」
C被告人「海外派遣や国内活動が制限されたことで収入が減り、時間ができたこともありやってしまいました…」
新型コロナウイルスの影響って、いろんなところに波及しているんですね。この裁判を傍聴してなかったら、自衛隊のカメラ担当の活動の場がなくなって、収入が減ってるなんて思いもしませんでした。
弁護人「やってることが違法というのはわかってましたよね?」
C被告人「ネット上には無修正動画が他にもたくさんあるので捕まらないんじゃないか、と…」
弁護人「もし今後、同じような動画に出くわしたらどうしますか?」
C被告人「同じことはしません」
と再犯はしないと約束です。
こうした事件を起こした場合、民間企業なら冤罪でもない限り問答無用でクビでしょうが、被告人が公務員なので弁護人としてアピールしとかなきゃいけないことがあるのです。
弁護人「判決がどうなるかわかりませんけど、もし懲役刑で執行猶予なら仕事はどうなりますか?」
C被告人「懲役ですと、国家公務員の立場を失います」
弁護人「もし、罰金刑なら?」
C被告人「失職することはないですが、懲戒処分などが考えられます」
初犯なので実刑はないのはわかるんだけど、懲役刑か罰金刑かでC被告人の今後に大きな影響を与えるんです。
弁護人「もし続けられたらどうしますか?」
C被告人「感謝の気持ちを持って、これまで以上に法令を遵守します」
弁護人「今まで受賞歴は?」
C被告人「5回ほど。東日本大震災や海外派遣の写真で」
優秀なカメラマンなんだと主張したところで弁護人からの質問は終了です。
続いて、検察官からの質問。
検察官「動画のタイトルに“パパ活”って入ってますけど、Aさんがパパ活したかは確認したんですか?」
C被告人「してません」
検察官「目を引けばそれでよかった?」
C被告人「はい」
検察官「謝罪文ですけど。Aさん以外の女性について書いていないのは何故ですか?」
C被告人「Aさんの動画について捜査を受けまして、社会全体に迷惑を掛けたことへの謝罪と思っていたので…」
Aさんのわいせつ動画以外にも販売していたのに謝罪はないのか、と意地悪な叱責です。さらに、
検察官「職を失いたくない気持ちはある?」
C被告人「はい。今まで働かせていただいて、海上自衛隊で今まで以上に恩返しをして働きたいです」
検察官「ということは、自分のしたことが罰金程度の罪だと思っていると?」
C被告人「法律は詳しくないのでいろいろ調べましたが、いろいろあってわからなかったです…」
検察官「何故、失業するんだと思います?」
C被告人「国家公務員という国民に奉仕する立場で、一般の方よりも法令を遵守しなければいけないので」
検察官「それは自衛隊に入るときに説明受けましたよね?」
C被告人「はい…」
検察官「で、この法廷で仕事辞めたくないって都合よくないですか?」
C被告人「世の中に無修正が蔓延してて、感覚が鈍ってしまいました…」
と、他にも販売している人のせいで認識がおかしくなったと述べたところで質問終了。それにしても意地悪な詰め方をする検察官だこと。
次ページ:これまで野放し状態だった「個人によるエロ動画販売」のリスク