文:赤井大祐(FINDERS編集部)
毎週だいたい1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第14回はバーチャル空間の提供を行う「oVice(オヴィス)」について紹介する。
リモートワークの定着とZoomやTeamsといったツールを用いたオンラインでのコミュニケーションが一般化したこの2年間。利便性はぐんと向上したものの雑談や質問など、ちょっとしたコミュニケーションのハードルも上がってしまった。
そこで期待を集めるのが「バーチャルオフィス」だ。さまざまな場を模したバーチャル空間上で、アバターを介してコミュニケーションをとるためのツールであり、各社さまざまなプロダクトをリリースしている。中でも、今回取り上げるoViceは、凄まじい成長を見せている。
oVice株式会社
2020年2月創業
総調達額19億円
平面上で現実に近い「距離感」を再現
oVice社は「ビジネスメタバース」を謳った同名バーチャル空間を提供する企業だ(バーチャル空間である以外のメタバース的な要素はあまりなさそうだが)。oViceが提供するのは見下ろし型の2D空間。ユーザーは丸型のアバターの「場所」と「向き」を操作することでコミュニケーションを取ることとなる。
場所と向きはリアルなコミュニケーションを模したものだ。アバターの周りにはそれぞれパーソナルスペースのような円が設けられており、円同士が重なると自動で通話が開始となり、お互いの音声を聞き取れるようになる。
oVice YouTubeより
もしくはテーブルなど、特定のオブジェクトがユーザー同士をつなぐハブとして機能するため、複数人での会議を行う際はテーブルにつくことで、通話をスタートすることができる。他にも、アバターの向きを示す矢印を操作することで、自分の意識が向いている方向をコントロールできる。当然そっぽを向いた相手には声は届かない。
また、デフォルト状態では音声のみだが、ビデオ通話に変更したい場合も通話中にワンクリックで変更可能。ほかにもミュートや離席表示などベーシックな機能は大方揃っている印象だ。
筆者も実際にデモを通じて一連の会話などを体験したが、アバターの円同士が重なってから通話がつながるまでの動作は極めてスムーズ。実際に「近寄って声をかける」感覚となんら変わりなかった。また見かけ以上に他者と空間を共有している実感があった。この平面かつシンプルな空間とアバターで現実に近い感覚を得たのは驚きだった。用途はもちろんオフィスだけではなく、大人数が集まるセミナー会場や、バーチャルキャンパスとしての活用も進んでいるという。
意外な発見だったが、oViceは「会社の飲み会の場」としてこそ、その本領を発揮するのではないかと感じた。
oVice「バーチャル忘年会」より
大人数の飲み会にありがちなサシ飲みとグループ飲みが混在した状況の再現はお手の物。バーチャルならではの特性を活かし、画面上でちょっとしたゲームを実施することもできる。飲酒や交流のペースもある程度自分でコントロールすることができるので不要な肉体的、精神的負担も少ない。必要といえば必要な気もするが、体力も精神力もそこまで割きたくない“会社の飲み会”にはちょど良さそうだ。
サービス開発のきっかけはコロナウイルス。またたく間に急成長
CEOであるジョン・セーヒョン氏は、1991年に韓国で生まれ、中学時代にオーストラリアの学校へ転入。帰国後韓国にて貿易会社を立ち上げたのち、大阪へ留学し、日本でも起業、のち東証一部上場企業へ売却と、若くして確かな実績とグローバルでの経験を併せ持った俊英だ。
そんなジョン氏が「oVice」の開発をスタートさせたのは、コロナの影響によってアフリカで足止めを食らったことがきっかけだったという。会社の創業は2020年2月。つまり世界中が未知のウイルスに足止めを食らっていたこの2年の間にサービスを作り上げ、約20億円を調達し、DeNAやAkatuski、YAMAHA、外務省といったなだたる企業・団体での利用実績を積み上げたというわけだ。
oVice より
また今年2月初旬にはoViceの掲出する電車の中吊り広告がTwitter上で大きな話題を呼ぶなど、この短期間で企業、省庁、そしてパブリックと、全方位的な関係構築に成功したと言えるだろう。
“特定の業務をサポートするサービスは次々とリリースされていますが、テレワーク自体をサポートするサービスはまだほとんどリリースされていません”とジョン氏が語るように、リモートワークを主導するサービス戦争はまだまだ始まったばかり。その中で一歩抜きん出たoViceの動きからは目が離せない。